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世界を変えるかもしれない!「WPT」って、なに?
突然ですが、「WPT」ってご存知ですか?
「Wireless Power Transfer」の頭文字をとった略称なんですけども、
まだまだ、一般的な単語ではないと思います。
ただ、このWPT。世界を変えるかもしれない可能性を秘めているんです。
そして、このWPTについては当社も深くかかわっているんです。
ということで、今回はWPTについて、当社の研究者=関野さんにインタビューしてきましたので、是非ご覧ください!
WPT研究者の関野さん!
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R&D統括センター ワイヤレス研究所 アンテナ開発課 関野昇
1987年当社入社
入社以来、アンテナやその周辺機器の研究・開発に従事。
まず、WPTって?
--関野さん!まず、WPTってなんですか?
WPT=Wireless Power Transfer=ワイヤレス電力伝送と訳されます。
その名の通り、電源ケーブルやコネクタなどを介さず、ワイヤレスに電力を伝送する技術です。実はすでにみなさんの身の回りにあるもので、スマホの非接触充電器などもWPTの一例ですね。
--なるほど!私も使ってます!で、世界を変えるかもしれない!と聞いてきたんですが、本当にそうなんでしょうか?
「世界を変える」はちょっと大げさかもしれませんが、この世から電柱、電源ケーブルが無くなったと想像するとどうでしょうか?そういった意味ではみなさんの身の回りの景色が変わるかもしれません。
--なるほど!電柱、電源ケーブルがない世界…面白そうですね!
研究の内容について
--そもそも、関野さんがWPTの研究を始めたきっかけとは?
WPTの制度化に向けて動いている一般社団法人YRP研究開発推進協会の分科会であるBWF(ブロードワイヤレスフォーラム)に、2019年から加盟することになったことが一つのきっかけです。
また、それと同時期にSIP(戦略的イノベーションプログラム)という内閣府の委託研究にも参加させて頂くことになり、WPTの研究開発が本格的にスタートしました。
--WPTは国家プロジェクト的な立ち位置なんですね!そんなすごい研究に、関野さんが5年間も関われていることはとても誇らしいです。現在はどのようなことをされているんでしょうか?
現在は総務省からの委託研究で、「空間伝送型ワイヤレス電力伝送の干渉抑制・高度化技術に関する研究開発」を行っております。
「空間伝送型ワイヤレス電力伝送の干渉抑制・高度化技術に関する研究開発」とは?
--ふむふむ。総務省。…で、
「空間伝送型ワイヤレス電力伝送の干渉抑制・高度化技術に関する研究開発」
とは、どういうことでしょうか?
この絵を見てもらうとわかりやすいかもしれません。
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簡単に言うと、携帯電話で使われる5Gの電波とWPTの電波が干渉しあわないで同時に使えるかどうか…の研究を行っています。
携帯電話の5Gの電波は、「Sub6」と「ミリ波」と呼ばれる周波数帯を使用しています。将来的にはこのミリ波の5G基地局とWPTシステムを共用することが検討されているのですが、
ミリ波の周波数帯28GHzで、現在WPTが使用しようとしている24GHz帯(準ミリ波)と近いため、干渉しあってしまい携帯電話もWPTもうまく使えないということが想定されます。
なので、
・WPTの電波がミリ波にどのように干渉するのか
・5G通信環境を維持し、どのように安定的な電力伝送を行うのか
という、研究を2025年度まで行う予定です。
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--おお!そういうことですね!確かに、せっかくWPTでワイヤレス充電ができたとしても、5G通信ができないんじゃ意味ないですもんね!っていうか、これがうまくいけば、スマホのシステムアップデートとかもストレスフリーにできるようになるかもしれませんね!
WPTで走るよ!鉄道模型。
--24GHz帯のWPT以外にも、5.7GHz帯での研究もされていると聞いていますが、どのようなものか見せて頂けませんでしょうか?
それでは、こちらの動画がわかりやすいかと…
--ごめんなさい。ただ、鉄道模型がレールの上を走っているようにしか見えないのですが…これはどういう動画ですか?
鉄道模型を5.7GHz帯のWPTで走らせています。
右の四角い箱がWPTの送信機で、模型の上に角のように生えているものが、WPTの受信用のアンテナです。つまり、四角い箱から出た電波を模型の角が電力として受けて、走っているということです。
もちろん、模型内部に乾電池は積んでいませんし、レールの下に電線等を這わせていません。
--そういうことか!鉄道模型の電池って、意外と消耗が激しくて交換大変なんですよ。ケーブルレス、電池レスで動く…まさにWPTの利点がわかりやすく説明できてますね。
それだけではないんです。レールの外周にある赤く発光するライト。ご覧になれますかね?
電波を受信したら赤く光るようなLEDを配置しているんです。その明滅が反時計回りに回っているのが見て取れるかと思います。つまり、電波のビームが右に左に動いているということなんです。
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この後、もう一度動画をご覧いただくと、
赤い光が動いているのがご理解いただけると思います。
これは「ビームフォーミング」と呼ばれる技術で、動く鉄道模型の受信部を追従して電波を発射しているんです。ビームフォーミングはWi-Fiなどでも使われている技術で、Wi-Fiのエリア内であればどこにいても安定的な通信ができるのはそのためです。
このビームフォーミング技術を用いて、5.7GHzでも、24GHzでも安定した送電ができるようにする。これが現状取り組んでいるテーマとなっています。
--WPTを快適な環境下で実現するために、さまざまな研究が行われているということですね!よくわかりました!
【こちらの動画にまとめてみました!ご覧ください!】
WPTのこれからについて
--関野さんが考えるWPTが普及した未来ってどんな感じですか?
先ほどお話したように、屋外では電柱や電線が無くなるのもそうですが、オフィスや工場、家庭といった屋内でも配線が不要となれば、それに伴う工事も必要なくなり、自由なレイアウトが可能となります。コンセントの位置に振り回される生活を送らなくて済むようになるかもしれません。
また、世界ではSSPSと呼ばれる宇宙太陽光発電システムの研究が盛んに行われています。
「宇宙空間で太陽光エネルギーを電気にした後、マイクロ波で地球に送電する」
というSFアニメさながらの壮大な研究です。これもWPTの一つです。
SSPSは太陽光発電ですので、再生可能エネルギーとして位置付けられ、温室効果ガス削減に寄与するものと考えられています。
いろいろと課題はありますが、実現にむけて日夜様々な研究が行われています。
--宇宙規模!それは壮大ですね!WPTが普及した未来がどのようになるのか…考えるだけでワクワクします。
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カッコいい!
今後、どのようにWPTにかかわっていくのか
--それでは最後に。関野さんは今後どのようにWPTにかかわっていく予定ですか?
まずは現在の研究をしっかりと実行していくことです。各周波数帯でのWPT活用の制度化に向けて、BWFなどで提案活動を行っていきます。
また、制度を整えるだけではなく、実際に使ってもらえるような製品を作ることも普及にあたっては重要なことです。誰もが安心して、便利に使ってもらえるような製品を開発すること。これも大きな目標の一つです。それが、当社の新規事業、そして主力事業になっていけばと思っています。
さらに、現在はこの研究をワイヤレス研究所のメンバーと進めていますが、各々のノウハウをしっかりとまとめて、新しい技術が生まれ続ける環境を維持することも一つ重要なことです。ぜひ、この分野に興味のある学生さんに来てもらって一緒に開発していきたいですね!
--WPTの普及のため、どれも大事なことですね。関野さんを含めたプロジェクトメンバーのみなさんの今後のご活躍に、編集部はますます目が離せません!そして、このプロジェクトに新たなメンバーが加わることになったら、ますます面白い展開となりそうですね。
関野さん、ありがとうございました!
今回はWPTについてのお話でした!
WPTについては、現時点でもいろいろな用途が想定されていますが、普及した後には、「こんなことも、あんなことも?」と想定もしていなかった使われ方が生まれ、それが「当たり前」になってくることが想像されます。
そんな、「未来の当たり前」を続々とご紹介していく予定ですので、今後もお楽しみに!
MWE2024でWPTを展示!
そしてこのWPTなんですが、下記の展示会で実機を展示します!
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展示会名:MWE2024(2024 Microwave Workshops and Exhibition)マイクロウェーブ展
開催日:2024年11月27日(水)~11月29日(金)10:00~17:30(29日は17:00終了)
会場:パシフィコ横浜 展示ホール D
公式サイト:MWE 2024
参加登録:MWE 2024|参加方法
当社ブース位置:I-11 ※WiPoT(一般社団法人 ワイヤレス電力伝送実用化コンソーシアム)ブース内
WPTを間近でご体感いただけるほか、下記のように当社社員による5GやB5G/6Gに関する講演も行います。
①次世代通信に向けた最新アンテナ技術(WE6B ワークショップ)
日時:2024年11月27日(水)14:00~16:00
場所:Room6 アネックスホール F206
講演者:当社 R&D統括センター ワイヤレス研究所 主任研究員 佐藤啓介
詳細URL:MWE 2024|Technical Program
講演概要:Beyond5G/6Gに向けたミリ波帯アレーアンテナの取組み
②高周波数帯を利用した無線通信での商用導入を見据えたメタサーフェス技術の研究開発動向(FR5A ワークショップ)
日時:2024年11月29日(金)9:30~11:30
場所:Room5 アネックスホール F205
講演者:当社 R&D統括センター ワイヤレス研究所 アンテナ開発課 白澤嘉樹
詳細URL:MWE 2024|Technical Program
講演概要:ミリ波帯パッシブ型メタサーフェス反射板の開発と特性評価
※聴講に事前予約は不要ですが、お席が限られているためお早めにお越しください。
みなさまのご来場、心よりお待ちしております!
文:「WPTホットプレート」で焼肉したい!編集部「YJ」
【参考資料】
ブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)について – 一般社団法人YRP研究開発推進協会
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:エスアイピー) - 科学技術・イノベーション - 内閣府
空間伝送型ワイヤレス電力伝送の干渉抑制・高度化技術に関する研究開発
総務省HPより:000790423.pdf
宇宙太陽光発電 - Wikipedia
当社リリース:5.7GHz帯を使用した空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの開発について | 新着情報 | DKK 電気興業株式会社
当社リリース:「MWE2024」 (2024 Microwave Workshops and Exhibition)出展とワークショップのご案内 | 新着情報 | DKK 電気興業株式会社