アンビル星人の「東京おもちゃショー2024」レポート②~純玩具とハイエイジトイの境界はますます曖昧に
取材・文●アンビル星人(安蒜利明)
「東京おもちゃショー2024」の一般公開日に足を運ぶ方の一助になればとレポートしたこちら(「アンビル星人の『東京おもちゃショー2024』レポート)は、自分の原稿執筆瞬発力の限界で「男の子玩具」「女の子玩具」まででタイムアップ。電ホビの皆さんが一番楽しみにしている「ハイエイジトイ」まで至らず大変失礼しました。幸いなことに編集部から「事後でも良いので書いてヨシ」のご了解を頂けたので、ハイエイジトイを含む残りの部分もレポートさせて頂きます。
純玩具とハイエイジトイの境界はますます曖昧に
異種変形ロボット玩具はタカラ時代の「ミクロマン」「ダイクロン」から始まり、現在は「トランスフォーマー」以外も各メーカーが競う一ジャンルになっています。大多数は男の子向けを前提に開発・発売されていますが、コレクション性も魅力のひとつでもあり成人コレクターが多いのもご存知の通り。子供世代の人口減少でますますパイ小さくなるなか、最初からラインナップに“大人向け”も想定したシリーズが増えています。写真の「ユニトロボーンシリーズ(バンダイ)」の一般企業ブランドとのコラボもその一例でしょう。一般企業側も異種変形ロボットで遊んだ世代が決裁権をもつお年頃になり、企画から発売までのスピードも加速。今後もさらに活発になるのは間違いありません。
今回のその流れの中で最大の話題作がこの「超合金 あずきバーロボ(バンダイ)」ですね。
おもちゃと一般企業のコラボはそれほど新しい話ではありませんが、この商品の様にバンダイさん、井村屋さんともに双方の商品を充分理解し、互いにリスペクトしていると感じられるのが近年の特徴です。特にコラボされる一般企業側の理解度は昔とは比べものにならず、今後はさらに思いがけない商品が期待できそうです。
今回の「あずきバーロボ」や「CHOGOKIN ROBO 50」はダイキャスト(合金)比率がとても高いですが、この2体ほどではないもののロゴリニューアル(ちょうごうきん→CHOGOKIN)に合わせ、その他の新製品もダイキャスト比率を上げる工夫をしているそうです。「価格に跳ね返らない?」と聞いたところ「地道な企業努力で頑張ってます!」とウレシイお返事を頂けました。
一般企業コラボのさらに高度な例がこの「新幹線変形ロボ シンカリオン E5はやぶさ」です。
バンダイ(BANDAI SPIRITS)さんとタカラトミーさんのコラボは2022年に大々的に発表されましたのでその流れだとは思います。しかしこれよく考えると(よく考えなくても…)、もう1社「安全・安心」が社是の基幹インフラ企業でコラボには大変慎重で知られるJRグループ(JR東日本)さんを加えた3社コラボ製品です。そんな企業も交えたコラボ製品の発表は、権利調整を仕事にする身には素直に驚きです。
上記2商品はBANDAI SPIRITS ブースの展示ですが、その他の商品も相変わらずの充実ぶりです。カテゴリー整理(※)で2018年に分社化されたBANDAI SPIRITSさんですが、傘下ブランドとなった「一番くじ」は20周年で貫禄も加わっています。
※分社化についてはハイエイジトイが「玩具安全(ST)基準」に準拠するのが難しいためという理由も大きいそうです
ハイエイジトイの主な購買層は、そのままモノ雑誌の誌名にもなった昭和40~50年代生まれが主でしたが、最近は昭和60年生まれも加わりつつあります。その2層(3層?)を象徴する製品が「ウルトラレプリカ ウルトラマンレオ 50th ANNIVERSARY SET」と、SNSでも話題になった『ブルースワット』の「ディクテイター 30thANNIVERSARY EDITION」なのかな、と思います。
「ウルトラマンシリーズ」はすでに『パワード』の「フラッシュプリズム」や、『グレート』の「デルタ・プラズマー」も発売済み。すでに同シリーズのハイエイジ向けなりきり商品は『メビウス』の「メビウスブレス&ナイトブレス」など、ミレニアムシリーズにも到達していますので『レオ』でループが完成?です。昨年書かせて頂いた今後の「スパイラル進化」が楽しみですが、初代ウルトラマン世代としては、ちょっと遠い目になります(笑)。
「ディクテイター」の旧製品は大変お気に入りで、こんな感じ(↓※文中に「野中氏の~傑作かも」と書いていますが、先般ご本人に「担当じゃないよ」とご指摘頂いてしまいました、お詫びして訂正します)で後生大事に保管していましたがお役御免の様です。それもこれもハイエイジ玩具の「スパイラル進化」の正しい姿なので喜んで受け入れます(泣)。
ハイエイジトイ最大のトピックス「T-SPARK」
今年の「おもちゃショー」ハイエイジジャンルで目を見張ったのはタカラトミーさんです。「T-SPARK」レーベルと銘打ちブースを展開、壁面パネルがハイエイジトイ注力への決意を表しているようです。
なおそのコンセプトはこの動画(↓)が解りやすいですね。コラボ・追求・洗練が指針とお見受けしますがその意気込みはヒシヒシと伝わってきます。
「鉄鋼機神 アダママスキナ」がこの指針を良く表しています。デザイナーさんとのコラボ、可動・機構の追求、ディティールの洗練など見所満載です。
自社オリジナル玩具と外部デザイナーさんとのコラボは他社が一歩先んじていると感じている方も多いと思いますが、ダイアクロンシリーズは1980年の誕生時にスタジオぬえさんが関わられていますから、「T-SPARK」レーベルが本家筋(元祖かは?)なのかも知れません。その後2016年に新生したダイアクロンは「DA-100 クラウドアトラス」の発売でロボットベースGXが完成し一区切り着くかと思いきやますます意気軒昂。更なる緻密さに超期待の「DA-109 ダイアバトルスX-1」が展示されていました。
個人的に一番楽しみなのは「T-SPARK」レーベルの中で唯一の完全新シリーズとなる「Prject:M」です。
『メタルギア』シリーズで知られるデザイナーかつイラストレーターの新川洋司さんを迎えたシリーズで、詳細はあまり語られていませんが、展示された試作品群は「ミクロマン」のリブートを期待させます。
「ミクロマン」以降、手のひらサイズSFアクションフィギュアは玩具・ホビー問わず様々なメーカーがチャレンジしていますが、これら全てが「ミクロマン」を原点とすると言っても良いでしょう。その本家が世界に通じるクリエーターと組むのですから期待するなと言う方が無理な話。続報が待ち遠しいです。
その他、怒濤の発表ラッシュはこちら(「【東京おもちゃショー2024速報レポート】タカラトミー」)をご覧ください。
過去折に触れてハイエイジトイにチャレンジされているタカラトミーさんですが、今回の本気度にはひとつ二つ上のレイヤーなので、前回書いた「リカちゃん」シリーズもあわせ期待大です。
『推しの子』が魔女っ子ジャンル?
今回ハイエイジ関連のブースで「なるほど!」と思った展示がありました。前回のキーワード「キダルト」にも関連しますが、バンダイ/BANDAI SPIRITSブースの女性ハイエイジ向け展示です。
なんと「魔女っ子」の流れを汲む作品群と同じ線上に『推しの子』を展示! 方向性や世界観はもちろん、そもそもの発祥が成人男性主体の「週刊ヤングジャンプ」と、本来であれば違和感だらけの組み合わせですが、女の子にも人気の現在の状況や関連アイテムの中心購買層を考えると妙に納得させられてしまいます。詳しい分析はアニメ評論家の方々にお任せしたいですが、妙に納得してしまったのは前回も書いた様に“疑似大人体験”を重視する女の子の、男の子とは異なる“リアル志向”を汲み取った結果だからなのかも知れません。
(まあ“たまたま”で考えすぎかも知れませんけど…笑)
『推しの子』の展示商品は「思い出のメロディフォトスタンド」でした。
成人女性向けキャラクターグッズは布製品、平面印刷商品が中心ですが、近年はPVCフィギュアの購買比率も上がっています。もちろん圧倒的にデフォルメフィギュアが中心ですが、お話しを聞いたこちらの「るかっぷシリーズ(メガハウス)」も、成人女性比率が圧倒的で大変好調との事でした。
(Oさん、写真がピンぼけでスミマセン…)
マニアとはちょっと違う?「キダルト」向けの元祖といえば
「キダルト」は従来の様々なマニアをさす言葉を嫌う女性を対象とした印象ですが、男性向けでしっくりきそうな商品の代表と言えばタカラトミーさんの「トミカ」と「プラレール」ではないかと思います。今年「トミカ」は目立ったトピックスはありませんが、「プラレール」のキダルト向けとも言える「PLARAIL REAL CLASS(プラレール リアルクラス)」は鉄道模型マニアのマストアイテム「ブルートレインあさかぜ」が加わりいよいよ充実してきました。
鉄道模型のカジュアル化は玩具業界の命題とも言えそうで他社もチャレンジしていますが、本家「プラレール」の手軽さと「TOMIX」のリアリティの融合はやはりひと味違い、展示のディオラマもどこか風格があります。それをお伝えしようと写真を頑張りましたが、フラッシュなしの高感度任せだとこれ↓が限界、ご容赦ください。
知育ジャンルとブロック玩具にもキダルトの空気感
知育ジャンルで気になった商品をふたつ。
ひとつは実は大人にもコアなファンが多いボールコースター(マーブルランとも)の新製品「FLEX+(ローヤル)」。
ボールコースターはハイエイジ向けの高価な商品から、知育レベルのものまで、昔から多種多様な製品が地道に展開されているジャンルで、子供向けでは2021年「日本おもちゃ大賞」エデュケーション部門大賞の「ころがスイッチドラえもん(バンダイ)」、最近の成人向けでは「グラヴィトラックス(ブリオ)」、ボールではありませんが「DXトミカタワー(タカラトミー)」もある意味このジャンルかも知れません。「FLEX+」は基本的には3~5歳児をターゲットにした知育ジャンルですが、そのパーツ構成とバリエーションは拡張性も高そうでファンは注目です。
もうひとつは驚くほど練られた仕様とプロ工具を思わせる洗練されたデザインのDIY玩具「STANLEY Jr.(国際貿易)」シリーズです。
「STANLEY」と聞いてピンときた方はプロの大工さんか、かなりの工具通。世界最大の米国電動工具メーカーStanley Black & Decker社が2021年に創設した知育玩具ブランドだそうです。日本では2022年から販売されているそうですが「おもちゃショー」は初出店のご様子。木製の組立商品や園芸グッズ、実際に使える子供用工具もありますが、心惹かれたのは「Take Apart」シリーズの働く自動車。ネジや付属のドライバーがそそる上に細部も手が込んでいてマニア心をくすぐります。
今年の「おもちゃショー」全体を見渡して「もしかしたら…」と気がついたのがブロック玩具の復権です。
もちろんカワダさんの「nanoblock」(写真はnanoblockの完成済!商品「n-fig」シリーズ)は変わらず大人気ですし、「diablock(ダイヤブロック)」も健在、おもちゃショーには不参加ですが「LEGO(レゴジャパン)」は言わずもがなですが、それとは別に男の子向け、女の子向け共にブロック要素を取り入れた新製品をチラホラ見かけました。
前回に書いたスーパー戦隊シリーズの新製品「DX ROBO UNIVERSE(バンダイ)」にブロック要素があると言うのは少し無理があるかも知れませんが、キャラクター玩具かつ知育系とはいえ何年かぶりにバンダイさんがブロック玩具「しまじろう アクションブロックシリーズ」を展示(4月より販売中)しているのは少し驚きです。
またこちらも知育やボールコースタージャンルになってしまいますがGakkenさんの「ニューブロック Rolling Q」も大きく展示していました。
「マインクラフト」の影響が大きいのかな?と思いますが、会場を後にする直前に中国メーカーKEEPPLAYさんのブロック玩具を拝見して「もしかして復権?」と気がついたので検証がイマイチです。来年の課題にしたいと思います。
キダルト商品は達人ユーザーの取り込みがキモ
今に始まったことではありませんが、ここまで俯瞰すると“あわよくば大人にも買ってもらいたい”という製品がますます増えているのを感じます。「キダルト(Kids+Adult)」と言う言葉が本当に定着するかはわかりませんが、その意味するところは今後も「おもちゃショー」のキーワードであり続けるでしょう。ちなみに既に成功している「キダルト」商品は、いずれも“達人”ユーザーの取り込みに成功している様に思います。
カワダさんのnanoblockは毎年AWARDを実施、今年の受賞作(写真は「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」WEVAWEVAさん)を展示していますし、
エポック社さんの「シルバニア」シリーズも達人たちの作品を「公式アンバサダー」作品としてブースに展示、「リカちゃん」シリーズも同様にユーザーの作例を展示していました。達人ユーザーの力を借りて新期ユーザーのモチベーションを上げるのが人気を保つキモのようです。
最後に
今年は中国、香港、台湾のメーカーさんが少しおとなしく感じましたが、それは香港メーカーが一つのパビリオンまとまっていたせいかもしれません。ただ展示には電ホビでもお馴染みの日本作品メカ製品が増えており、今後ますます国内メーカとの切磋琢磨が期待できそうです。
最後に今年も個人的に欲しかったものを一つ。
インテリアとクラフトを融合した製品で存在感を増す中国のrobotimeさんが販売予定の「The Last City - ROKR's Futuristic Marble Run」(写真は4個組み合わせた状態)。香港のROKRという会社がKickstarterで目標を達成し製品化した電動ボールコースターの様ですが詳細は未確認。発売されたら財布と相談です(笑)。
あ、あと「MACHINEBUILD α・アジール(メガハウス)」はやっぱりスゴいです! 下半身の発売も期待しましょう(笑)。
●アンビル星人 プロフィール
バンダイを経て、元電撃ホビーマガジン編集長 (2009~2013)。「東京おもちゃショー」は、1985年のバンダイ入社以来、ほぼ皆勤賞。“敬語キャラ”なので少し鬱陶しい文体はご容赦を。
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