【脚本】殺っちゃえ東京!~東京暗殺計画~
《あらすじ》
傍若無人な東京(35)の振る舞いにたまりかねた埼玉(35)、千葉(35)、神奈川(35)、群馬栃木茨木(35)の四人はスナックに集まり、東京を追放することを計画する。
しかしそれに異を唱えたのがスナックのママ(35)。ママは「やるんだったら覚悟を決めて東京を殺っちゃうべきだ」と提案し、埼玉ら四人も同意。
埼玉たちは忘年会のマジックショーの練習を装って、箱に入った東京を剣で突き刺して殺してしまおうと計画する、のだが・・・
《登場人物》
・埼玉(35) 男、オタクファッション
・東京(35) 男、金色のスーツ姿
・神奈川(35) 女、セクシーなドレス姿
・千葉(35) 男、暴走族のつなぎ姿
・群馬栃木茨木(35) 男、農作業着姿
・スナックのママ(35)女、派手なドレス姿
スナック。
舞台中央、埼玉(35)、千葉(35)、神奈川(35)、群馬栃木茨木
(35)の4人が椅子に座り話し合っている。
それぞれ胸に「埼玉」、「千葉」、「神奈川」、「群馬栃木茨木」と大
きな名札を付けている。
下手、スナックのママ(35)がカウンターの中で店の片付けをしてい
る。
埼玉「今日みんなに集まってもらったのは他でもない、東京を追放する計画
について話し合うためだ」
千葉「とうとうやんのか?」
埼玉「ああ」
神奈川「ホントに出来るの? そんなこと?」
群馬栃木茨木「でも、怖いよー、あの人に逆らうと」
埼玉「みんなも分かってるだろう? あいつの傍若無人ぶりは」
神奈川「そりゃそうだけどさ」
群馬栃木茨木「やめといた方がいいと思うけどな……」
埼玉「東京……あいつだけは許せない……」
上手にスポット。
金色のスーツを着て札束を手にした東京(35)が現れる。胸に「東京」
の名札。
埼玉「自己中、わがまま、金の亡者、その絶大なる権力をいいことにセクハ
ラ・パワハラし放題……あんな奴をこのまま放っておくわけにはいかな
い……お前たちだってそう思ってるだろう!」
千葉・神奈川・群馬栃木茨木「……(頷く)」
埼玉「東京……俺があいつに出会ったのは高校時代の時だった……」
SE、チャイムの音。
舞台中央にスポット。
高校時代の教室。
東京、席に座る。
ママ、白衣を着て眼鏡をかけ試験監督役を演じる。
埼玉、東京の横の席に座る。
試験監督(ママ)「テスト終了5分前でーす」
東京「(小声で)おい、埼玉……もう出来たか?」
埼玉「(答案用紙を見直しながら)ああ」
東京「お前の答案用紙よこせよ」
埼玉「え?」
東京「俺のと交換だ、お前俺のに自分の名前書いて出せ」
埼玉「やだよ、何言ってんだよ、俺だって推薦取りたいんだからさ」
東京「おめーいいのか? この俺にそんな態度とって?」
埼玉「え……? どういうことだよ?」
東京「俺の言うことが聞けないなら、埼京線と京浜東北線の終点、赤羽にし
ちゃうぞ」
埼玉「え! そ、そんなことしたら、埼玉県民は荒川を渡れなくなっちゃう
じゃないか……それだけは勘弁してくれ!」
東京「だったら寄こせ!」
埼玉「うう……」
東京「いいのか? 埼京線と京浜東北線がなくなったらお前らの中心都市は
滅びるだろうな(笑)」
埼玉「うう……おおみやー! うらわー!」
東京「大宮と浦和を救いたくないのか?」
埼玉「うう……ちくしょー……」
東京「ホラ早くしろ!」
埼玉、渋々東京と答案用紙を交換する。
試験監督(ママ)「はい、終了でーす」
答案用紙を回収するママ。
東京、笑顔で去って行く。
明転。元のスナック。
埼玉、千葉、神奈川、群馬栃木茨木、椅子に座っている。
神奈川「それで埼玉くんいっつも赤点だったんだ……」
千葉「俺も不思議だったんだよ、こいつ頭いいのにいっつも補修授業で俺と
一緒だったからよ」
埼玉「一流大学に進学して将来政治家になって東京一極集中の世の中を変え
てやるっていう俺の夢はあいつのせいで絶たれたんだ……(頭を抱え
る)」
千葉「お前の気持ちは分かった、俺も協力するよ(埼玉の肩に手を乗せ)」
埼玉「ホントか!」
千葉「ああ(頷く)。俺もあいつにはぜってー許せないことがある」
埼玉・神奈川・群馬栃木茨木「え?」
千葉「今から20年前誰がオリンピックの開催地に立候補するかで揉めたこ
とがあったろう?」
群馬栃木茨木「ああ、みんな譲らなくて最終的に駆けっこで決めたやつ
か?」
千葉「ああ。あの時のことは一生忘れねー」
中央にスポット。
20年前、陸上競技場。
千葉、東京、埼玉、神奈川、群馬栃木茨木が並んでスタートの構え。
ママ、マイクを持って実況中継。
ママ「位置について、よーい、バーン(SE)さあ、スタートいたしました
オリンピック開催地決定レース、おっと早くも群馬栃木茨木が脱落した、
先頭を走るのは千葉、それを東京が追い、埼玉、神奈川は遅れる展開、ど
うやら優勝は千葉と東京、この2人の争いになりそうです……」
走り出す千葉ら一同。
コケる群馬栃木茨木。去る。
先頭を走る千葉と東京。
遅れる埼玉と神奈川。ゆっくり去る。
競り合って走る千葉と東京。
東京「おい、千葉、分かってるよな?」
千葉「あ? 何言ってんだこれは男と男の真剣勝負だ」
東京「千葉、実はな、羽田空港にあと3本滑走路作ろうって計画があるんだ
けどな」
千葉「え! ウソだろ! そんなことしたらただでさえ遠い遠いって不評の
成田空港が、さらに存在価値がなくなっちゃうじゃねーかよ、京成スカイ
ライナーにどれだけ投資したと思ってんだよ! オイ、東京、それだけは
勘弁してくれ」
東京「もし、このレース勝たせてくれたら計画中止してやってもいいんだけ
どな」
千葉「いや、それは……」
東京「だったら仕方ねーな……」
千葉「わ、分かった、お前を勝たせるから羽田の新滑走路の計画は止めてく
れ」
東京「オッケー(笑)」
千葉「……ちくしょー(コケる)」
ママ「おーっと! 千葉転倒、千葉が転倒! 東京が一着でゴール! 優勝
は東京、オリンピック開催地立候補は東京に決定です!」
東京、一位でゴールしガッツポーズ。
明転。元のスナック。
埼玉、千葉、神奈川、群馬栃木茨木、椅子に座っている。
埼玉「そんなことがあったのか……」
神奈川「きたない奴ね……」
千葉「俺……悔しくてさ……」
埼玉「千葉、一緒に東京を追放しよう!」
千葉「(頷く)」
群馬栃木茨木「お前らなんかまだいいよ、お前らオラの気持ち考えたことあ
っか?」
埼玉・神奈川・千葉「?」
群馬栃木茨木「オラなんて3つでひとまとめだぞ(胸の名札を指差し)……
オラなんてその他大勢に過ぎないんだ」
埼玉「(微笑)そんなこと言うなよ、群馬栃木茨木、お前も協力してくれ、
東京の持ってる財産をみんなで山分けしようぜ」
群馬栃木茨木「ホントに貰えんのか?」
埼玉「もちろんだ(微笑)」
千葉「ああ、錦糸町のキャバ嬢を全員土浦に移籍させてやってもいいぜ」
群馬栃木茨木「ホントか! だったら考えてもいいけどな」
埼玉「よし! 決まりだ!」
神奈川「じゃあ、わたしも協力しよっかな、わたしも東京には恨みがある
し」
千葉「フンッ、そんなこと言いながらお前は東京と付き合ってたじゃねー
か」
神奈川「そ、それは……」
埼玉「そうだったのか?」
神奈川「……(頷く)でも、違うの!」
千葉「何が違うんだよ、そのドレスもバッグも全部東京に買ってもらってた
くせに……こいつは金に目がない女なんだよ」
神奈川「違う! わたしが……わたしが本当に好きだったのは……千葉くんだ
ったんだから」
千葉「え……?」
埼玉「そうなのか?」
神奈川「(頷く)」
埼玉「じゃあ、どうして東京と?」
神奈川「あれは15年前のバレンタインデー、わたしは千葉くんに想いを伝
えようと手作りのチョコレートを持ってキャンパスで待ち伏せして
た……」
15年前、大学のキャンパス。
下手、神奈川、手作りのチョコレートを手に千葉を待っている。
千葉と埼玉、上手から現れ、立ち止まり談笑している。
神奈川、千葉に向かい一歩踏み出す。
と、下手から東京やって来る。
東京「オイ、神奈川、何してんだよ」
神奈川「うるさいわね、何だっていいでしょう、邪魔しないで」
東京「何かいいもん持ってんじゃねーかよ(神奈川の手を取る)」
神奈川「やめて、離してよ!」
東京「オイ、神奈川、千葉なんかじゃなくてよ、俺と付き合わねーか?」
神奈川「なんであんたなんかと、わたしが好きなのは千葉くんなんだから」
東京「(笑)おい、いいのかそれで?」
神奈川「え?」
東京「今、品川と名古屋を結ぶリニア中央新幹線の計画が進んでるのは知っ
てるよな」
神奈川「ええ、それが何よ?」
東京「あれが完成したら東海道新幹線は廃止しちまおうって話があんだよな
ぁ……」
神奈川「え! ウソ! そんなことしたら新横浜はどうなるの?」
東京「まあ、廃れていくんだろうな、これからは山梨の時代だな」
神奈川「そんな……」
東京「甲府が横浜よりお洒落になるかもな」
神奈川「ウソ! やめて! 横浜が甲府に田舎モン扱いされるなんて……
(よろめく)東海道新幹線だけは残して! お願い!」
東京「まあ、もしお前が俺の女になるんだったら考えてもいいけどな……」
神奈川「……」
東京「どうする? いいのか……?」
神奈川「(頷く)」
東京、神奈川を抱き寄せる。
元のスナックに戻り――
埼玉、千葉、神奈川、群馬栃木茨木、椅子に座っている。
埼玉「そんなことがあったのか……」
群馬栃木茨木「きったない奴だっぺ……」
千葉「神奈川、お前それで仕方なく東京と」
神奈川「(千葉に背を向け頷く)」
千葉「神奈川、ごめん、お前を守ってやれなくて……」
神奈川「(千葉に背を向けたまま首を振る)」
千葉「神奈川!(神奈川を後ろから抱きしめ)……一緒に東京に復讐してや
ろう」
神奈川「(頷く)」
埼玉「よし、決まりだ! 明日の議会で東京の不信任決議案を提出する」
千葉・神奈川・群馬栃木茨木「(頷く)」
埼玉「みんなで東京を追放だ」
埼玉ら「エイエイオー(言いかける)」
ママ「ちょっと待って!」
埼玉ら「!?」
ママ「あんたたちさ、そんなことでホントに東京を追放出来ると思ってん
の?」
埼玉ら「え……?」
ママ「やるんだったら覚悟を決めて、東京を殺っちゃわないと(手でピスト
ルを撃つ仕草)」
埼玉ら「え!」
群馬栃木茨木「そんな殺っちゃうだなんて(笑)」
埼玉「なあ(笑)」
千葉「いや、確かにママの言うことが正しいかもしれない……」
埼玉・群馬栃木茨木「え?」
千葉「あいつを失脚させたところであいつはまた仲間を集めて俺たちを倒し
にくるぜ」
神奈川「確かに、あいつしぶといから」
ママ「そうよ、千葉ちゃんの言う通り、こういうことはね徹底しなきゃいけ
ないの」
埼玉「でも……なぁ……」
ママ「何迷ってんのよ埼玉ちゃん、あなた翔んで埼玉って映画観て感動した
って言ってたじゃない? 埼玉がもっと自由に誇らしく生きられる世界を
俺も実現したいってここで熱く語ってじゃない?」
埼玉「でも……あれは映画の中の話だから」
ママ「あの気持ちは嘘だったの?」
埼玉「……」
千葉「埼玉、あの映画の中では千葉と埼玉が連合軍を作って東京を滅ぼし
た、俺たちだって力を合わせれば出来るんじゃねーか」
埼玉「……でもさ、失敗したら、俺たち関東から追放されちゃうぞ」
群馬栃木茨木「ああ、北方領土に島流しにされるかもしれねーぞ」
千葉「上等じゃねーか、男ってのはイチかバチか勝負に出なきゃいけねー時
があんだよ」
ママ「カッコいい千葉ちゃん、わたし男らしい人だーい好き(千葉に抱き着
く)」
埼玉「ママ……(羨ましそうに見る)」
神奈川「ちょっと、やめて! 千葉ちゃんはわたしのものなんだから!(マ
マと千葉を引き離そうとする)」
ママ「(千葉に抱き着いたまま)もし東京を倒して千葉ちゃんが日本の首都
になったらわたし千葉ちゃんの女になってもいいよ」
千葉「俺の女に……?」
ママ「なんでもしてあげる(耳元で)」
千葉「な、なんでも……(デレデレ)」
神奈川「もうちょっと! 離れてよ!(ママと千葉を引き離す)」
群馬栃木茨木「ママ、もしオラが東京を殺ったら、ママ、オラの女になって
くれっか?」
ママ「(群馬栃木茨木の耳元で)もちろんいいわよ」
群馬栃木茨木「OH……(デレデレ)」
埼玉「ちょっと待った!」
千葉ら「!?」
埼玉「俺が、俺がやる!」
千葉「埼玉……」
ママ「(微笑)」
神奈川「そんなこと言って、あんた単にママと一発やりたいだけなんじゃな
いの?」
埼玉「そ、そんなことねーよ」
神奈川「あー顔赤くなってる」
埼玉「な、なってねーよ」
ママ「でも嬉しい、わたし埼玉ちゃんだーい好き(ほっぺにチュー)」
埼玉「OH……(デレデレ)」
群馬栃木茨木「あ! 埼玉もっこりしてる!」
埼玉「してねーよ(股間をおさえ)」
千葉ら「(笑)」
千葉「まあ、しかしだ、東京を殺るって言ってもいったいどうやって殺るつ
もりだ? あいつはかなり用心深い男だぜ」
神奈川「確かに」
埼玉ら「…………(しばし考える)」
群馬栃木茨木「こういうのはどうだ?」
埼玉ら「ん?」
群馬栃木茨木「朝あいつが車で出勤してきて車から降りてきたところを、
(神奈川に)お前は東京の役やってくれ……(千葉に)お前はSPの役」
神奈川、沿道の民に手を振りながら歩いて来る東京を演じる。
千葉はSPの役を演じる。
群馬栃木茨木「そこへ埼玉が直訴状を手に近寄る、(埼玉に)やってみてく
れ」
埼玉、直訴状をもって東京に近付く演技をして見せる。
埼玉「東京さん、頼む! 埼玉にもディズニーランド作らせてくれ!」
群馬栃木茨木「それを見てSPが埼玉を取り押さえにかかる(千葉に目で合
図)」
千葉、埼玉を取り押さえに行く。
群馬栃木茨木「SPが離れた隙を狙ってオラが後ろからそっと近付き東京を
斬る」
群馬栃木茨木、東京役の神奈川を背後から斬る。
群馬栃木茨木「どうだ? 現代版、桜田門外の変だ」
ママ「ダメよそんなずさんな計画じゃ、SPは一人じゃないんだし、それに
刀なんて持って待ち伏せしてたら職質受けて終わりよ」
千葉「確かに」
群馬栃木茨木「ダメか……」
埼玉ら「…………(しばし考え込む)」
埼玉「あ!」
神奈川「わ! なによ、ビックリするな」
埼玉「マジックショーはどうかな?」
神奈川ら「マジックショー?」
埼玉「そう、いつも忘年会でみんなで出し物するだろ? で、マジックショ
ーやって、そん時にホラ? 人が入った箱に剣を差すマジックやって」
千葉「ホントに刺しちゃう!」
神奈川「東京を箱に閉じ込めて刺しちゃうってこと?」
埼玉「ああ(頷く)」
ママ「それいいかも」
群馬栃木茨木「それならこれは殺人ではなく事故でしたって言い訳もできる
っぺ」
埼玉「ああ(頷く)」
ママ「すっごーい埼玉くんますますポイントアップ!(ほっぺにチュー)」
埼玉「ありがとうママ(デレデレ)」
群馬栃木茨木「あ! またもっこりしてる!」
埼玉「いや、してねーよ(股間をおさえ)」
千葉ら「(笑)」
埼玉「とにかく、そうとなったら練習だ、練習場所はどこにする?」
ママ「ここでやればいいじゃない」
神奈川「いいの? ここ使ちゃって」
ママ「ええ」
埼玉「よし、じゃあここでやろう」
千葉「で、何度か練習したら本番のリハーサルって言って東京を呼び出し
て」
群馬栃木茨木「ホントに刺しちまう」
埼玉ら「(頷く)」
埼玉「みんないいか? この計画は極秘に進める、よし、みんなで絶対東京
を討つぞ!」
千葉・神奈川・群馬栃木茨木「おー!」
暗転。
明転。
中央にマジック用の大きな箱。
東京、埼玉、千葉、群馬栃木茨木、神奈川がマジックの練習をしてい
る。
ママ、カウンターの中で店の準備をしながら見学している。
東京「あーやめたやめた! なんで俺がマジックなんかやんなきゃいけねー
んだよ、俺帰るわ! お疲れ(歩き出す)」
埼玉「(引き止め)あー、ちょっと、東京さん、まあまあ、そんなこと言わ
ないで」
東京「今時忘年会でマジックなんてダッさいんだよ」
ママ「そんなことないわよー、最近はマジック女子って言ってマジック好き
な女の子も増えてるっていうし」
埼玉「それに今年の忘年会はシンガポールちゃんや上海ちゃんも参加するら
しいし」
神奈川「あの子たちマジック好きらしいよ」
東京「……ホントか?」
千葉「ええ、東京さんがこの脱出マジックばっちり決めたらあの子たち『わ
ー東京さんステキー』なんて目がハートになっちまうかもしれねーな……
あ、東京さん、もしやりたくなかったら大丈夫っすよ、俺東京さんの役や
りますんで」
群馬栃木茨木「いや、だったらオラがやる」
埼玉「俺もやりたいな」
神奈川「私も!」
東京「ちょっと待て!」
埼玉ら「?」
東京「誰が帰るって言った……? 俺がやるよ(舞台中央に戻り)、オイ、
埼玉! もう一回段取り教えろ!」
埼玉「はい、じゃあ東京さんは僕の合図でこの箱の中に入ってくれればOK
です」
東京「ちゃんとやってくれよ、お前剣刺す時もっと大きなアクションでやん
ねーとさ、会場盛り上がんねーんだよ、大体お前華がないんだからさ華が
(埼玉のほっぺをぺんぺんはたきながら)」
埼玉「はい、すいません(剣をぎゅっと握りしめる)」
東京「よし、じゃあ一回通してやってみっか」
埼玉ら「はい!」
東京ら、それぞれ所定の位置にスタンバイ。
千葉、埼玉のもとに駆け寄り、
千葉「埼玉、チャンスだ、東京の気が変わらないうちに殺っちまおう」
埼玉「ああ(頷く)」
千葉、埼玉、下手にはける。
暗転。
ママの声「それではみなさま、お待たせいたしました、続きましては関東一
都六県のメンバーによるマジックショーでーす!」
音楽IN。
明転。
東京、神奈川、やって来て中央にある箱の横に立つ。
神奈川「それでは今日はみなさまにとっておきのマジックをお見せいたしま
す、では東京さんこの箱の中に入って」
群馬栃木茨木、やって来て箱を一周回してみせ、扉を開ける。
東京、箱の中に入る。
群馬栃木茨木、扉を閉める。
埼玉、千葉、剣を持って現れる。
群馬栃木茨木、去る。
神奈川「今からこの2人が剣でこの箱を刺します、果たして東京さんは無事
でいられるんでしょうか?」
音楽、ドラムロールに代わる。
埼玉、千葉、箱に刀を突き刺す。
音楽、OUT。
埼玉、箱の扉を開ける。
が、そこには誰もいない。
驚く埼玉。
と、上手から東京が現れる。
東京「あーはっはっは、どうした埼玉、その顔は?」
埼玉「東京! お前どうして!」
東京「(笑)お前の考えてることなんてすべてお見通しなんだよ、なあ(神
奈川、群馬栃木茨木の顔を見て)」
神奈川「(微笑)ごめんね、埼玉ちゃん」
群馬栃木茨木「すいません」
埼玉「お前ら裏切ったのか!」
千葉「わりーな、埼玉、強い方につけって爺っちゃまから教わってきたもん
でな」
埼玉「千葉、お前もか!」
千葉「(微笑)」
埼玉「この野郎……」
東京「しかし埼玉、お前はひどい奴だねー……この俺を暗殺しようなんて……
このような裏切り行為を二度と起こさないためにもお前には厳罰を与えな
ければならない」
埼玉「ちくしょー……」
東京「死んでもらうぞ(銃を構える)」
暗転。
SE、2発の銃声。
明転。
東京が撃たれて、よろめき倒れる。
東京「うっ……なぜ……?」
銃を構えている神奈川と千葉。
神奈川「(微笑)ごめんね……」
千葉「悪いな」
埼玉「はーっはっはっは、どうせこん中に一人くらい裏切る奴もいるんじゃ
ないかと思ってな(群馬栃木茨木を睨みつける)」
群馬栃木茨木「!(目をそらす)」
埼玉「計画を確実に成功させるために千葉と神奈川には裏切った芝居をうっ
てもらっていたんだよ」
東京「なんだと……」
神奈川「(微笑)残念でした……」
東京「お前俺の女じゃ不満なのか……?」
神奈川「だって埼玉ちゃんがね、成功したら羽田空港はわたしにくれるって
言うんだもん」
東京「分かった、羽田空港はお前にやる、だから助けてくれ」
千葉「おっさん、ケチケチしてっから愛想つかされちまうんだよ」
東京「千葉、東京ディズニーランドは千葉ディズニーランドに改名してもい
いから、な? だから助けてくれ(千葉に縋りつく)」
千葉「おせーんだよ!(振り払う)」
埼玉「今までよくもバカにしてくれたな、これが俺たちの復讐だ、死んでも
らうぞ」
東京「悪かった、お前にはスカイツリーやるから許してくれ、な(埼玉に縋
りつく)、あれは明日から埼玉スカイツリーだ」
埼玉「遅いんだよ!」
SE、銃声。
埼玉、東京を撃つ。
東京倒れて死ぬ。
千葉「死んだな」
神奈川「フンッ、死んだわね……」
埼玉「よし、じゃあ、東京の財産の分け前について話すか」
千葉「そうだな」
神奈川「そうね」
と、群馬栃木茨木、申し訳なさそうに寄って来る。
群馬栃木茨木「あ、あの……すいませんでした……オラは裏切るつもりとか全
然なかったんですけど、なんか流れでその……」
SE、銃声。
神奈川、無言で群馬栃木茨木を撃つ。
群馬栃木茨木、倒れて死ぬ。
神奈川「(群馬栃木茨木を見て)フンッ……じゃあ、分け前だけど、わたし
は羽田空港と府中競馬場、それから町田と八王子も貰うわよ」
埼玉「ああ」
神奈川「(笑)これだけ貰えれば寝てても金ががっぽがっぽ入ってきちゃう
からね(笑)老後も安泰だわ(笑)」
埼玉「そうだな、もしそれまで生きてれば……の話だけどな」
神奈川「え……?」
SE、銃声。
千葉、神奈川を背後から撃つ。
神奈川、倒れる。
神奈川「千葉……な、なんで……?」
千葉「やっぱ3人だと分け前も少なくなっちゃうだろ? ごめんな」
神奈川「わたしを愛してたんじゃないの?」
千葉「お前、金使い荒いからさー、俺今福島と付き合ってんだわ、あの子純
粋だからさ、お前と違ってすれてないし」
神奈川「ちく……しょー……」
千葉、もう一度神奈川を撃つ。
SE、銃声。
神奈川、死ぬ。
千葉「さ、ようやくこれで俺たちの天下だな」
千葉、振り返ると――
埼玉、千葉に銃を向けて立っている。
千葉「! オイ、何やってんだよ」
埼玉「(微笑)いやー、色々考えたんだけどさ、やっぱり俺一人で天下獲る
わ」
千葉「あ? お前ふざけんなよ」
千葉、持っていた銃で埼玉を撃つ。
が、弾が入ってない。
埼玉「残りの弾は抜いておいたよ(微笑)」
千葉「おい、マジかよ……? 俺たちダチじゃなかったのかよ? これまで
東京や神奈川の奴らに散々バカにされても一緒に励まし合ってやってきた
じゃねーかよ」
埼玉「うん、そのことは感謝してる。でもさ、やっぱりこういうのは徹底し
ないと……」
千葉「分かった……ディズニーランドはお前にやるからよ、それでいいだ
ろ」
埼玉「(首を振る)」
千葉「成田空港もお前にやるから! な?」
埼玉「(首を振る)」
千葉「分かった、幕張メッセも千葉ロッテマリーンズもお前のもんだ、な?
それでいいだろ?」
埼玉「銚子漁港は?」
千葉「やるやる! お魚食べ放題だ」
埼玉「それはいいかもね……」
千葉「な! じゃあ、役所にラインしとくから、これで明日っからお前のも
んだ、千葉はいいとこだぞー、最高だよ(スマホを出していじり出す)」
埼玉「そうだね、じゃあやっぱり僕が全部貰うよ」
千葉「え?」
埼玉「(微笑)」
SE、銃声。
埼玉、千葉を撃つ。
千葉、倒れて死ぬ。
埼玉「よっしゃー! これで俺の天下だ!(両手をクロスさせ埼玉ポーズ)
ママ! やったよ!」
ママ「すごい! 埼玉ちゃん!」
埼玉「横浜中華街も羽田空港もディズニーランドも俺のもんだ、もうダサい
玉なんて言わせねーぜ、ママ、俺の女になってくれるね?」
ママ「もちろん」
埼玉「ママ!」
埼玉、ママへ向かって走り出す。
暗転。SE、銃声。
明転。
埼玉、倒れる。
倒れていたはずの群馬栃木茨木が銃を構えて立っている。
群馬栃木茨木、農作業着を脱ぐとその下には防弾チョッキが。
ママ「群馬栃木茨木さん!」
群馬栃木茨木「ああ、良かったぁー防弾チョッキ着といて(笑)……ママ、
今日からオラの天下だ、羽田空港もスカイツリーも全部オラのもんだ……
ママ、オラの女になってくれるな?」
ママ「え、ええ……いいわ、わたし強い人が好きだから」
群馬栃木茨木「ホントか?」
ママ「ええ(頷く)」
群馬栃木茨木「よし、じゃあ、早速……(ズボンのベルトを緩め)オラのス
カイツリーをママにプレゼントして……」
ママ「やだ、ちょっと待って、慌てないの!」
群馬栃木茨木「え、でも、オラのスカイツリーが……」
ママ「まだ、まずは乾杯してから」
群馬栃木茨木「(笑)そうだな、こりゃまた失礼いたしました(敬礼のポー
ズ)夜は長いもんな」
ママ、2つのグラスに酒を注ぎ、一つを群馬栃木茨木に渡す。
ママ「じゃあ、群馬栃木茨木さんの天下獲りを祝って」
群馬栃木茨木「オラとママとの結婚を祝って」
ママ・群馬栃木茨木「かんぱーい!」
群馬栃木茨木、勢いよく酒を飲み干す。
と、群馬栃木茨木、突然苦しみ出す。
群馬栃木茨木「う、う……ママ……オラ……オラのスカイツリー……」
群馬栃木茨木、倒れて今度こそ本当に死ぬ。
ママ、カウンターの中から出て来て群馬栃木茨木が死んだのを確認。
ママ「(笑)まさか、全員死んでくれるとは思わんかったわ(笑)……これ
で今日からうちの時代や」
ママ、羽織っていたカーディガンをはだけると背中に「大阪」の文字が
現れる。
《完》