脚本:義理チョコブラザース
《あらすじ》
ここチョコレートの世界では、バレンタイン政府の元、本命チョコと義理チョコとの間に厳しい身分差別が存在していた。
この差別に憤りを感じていた義理チョコ、明治一郎(28 )、二郎(26 )、三郎(23 )の三兄弟、義理チョコブラザースは身分差別のない平等なチョコレート社会を作ろうとバレンタイン政府を倒すことを計画。しかし「協力すれば本命チョコにしてやる」という政府高官・ゴディバ(50 )からの誘いに目がくらんだ長男、一郎の裏切りによってその計画は失敗に終わってしまう・・・
《登場人物》
明治一郎(28 )義理チョコブラザース長男。
明治二郎(26 )義理チョコブラザース次男。
明治三郎(23 )義理チョコブラザース三男。
明治松 (20 )義理チョコブラザースの妹。
ゴディバ(50 )本命チョコ。バレンタイン政府の高官。
ロイズ (35 )本命チョコ。
※ 全員擬人化したチョコレート。
《義理チョコブラザース》
舞台中央、茶色い全身タイツ姿の義理チョコ、一郎、二郎、三郎が板付
き。胸に「一郎」、「二郎」、「三郎」の名札。
三郎「兄ちゃん、俺たち今年もまた売れ残っちゃうのかな?」
一郎「大丈夫だ心配すんな。ここ中目黒は若いカップルが多い街だ、必ず買
ってくれる人間がいるはずだ」
二郎「でも一郎兄ちゃん、去年は俺たち、十四日の夜まで売れ残って30円
の値札張られて、それでも売れ残っちゃったんだぜ(おでこに《最終処分
30円》の値札をペタッと貼る)」
三郎「本命チョコの奴らは2千円とか3千円でも買ってもらえるのにさ、同
じチョコレートなのに……兄ちゃん俺悔しいよ」
一郎「しょうがねーよ、俺たちは義理チョコの家系に生まれてきちまったん
だからよ」
ロイズ(声)「ゴディバ様のおなーりー!」
派手ないでたちのゴディバとその家来、ロイズがやって来る。胸に「ゴ
ディバ」、「ロイズ」の名札(義理チョコブラザースとは違い名札も派
手)。
一郎、二郎、三郎、ゴディバのために道を開け地面に跪く。
ゴディバ「ん? ん? おい、ロイズ」
ロイズ「なんでしょうゴディバ様?」
ゴディバ「なんか臭くねーか?」
ロイズ「ええ、なんだか匂いますね」
ゴディバ「(一郎らを見て)あ、あれ? 誰かと思えば義理チョコ三兄弟じ
ゃねーか! さっきから匂ってたのは義理チョコの匂いか(笑)」
ロイズ「(笑)植物性油、植物性油(鼻をつまんで匂いを手で扇ぐ)……」
一郎「お久しぶりでございます、ゴディバ様、この度は大臣御就任おめでと
うございます」
頭を下げる一郎、二郎、三郎。
ロイズ「おいおい、お前たち、ここをどこだと思ってるんだい? 中目だ
よ、中目黒! ここはお前たちみたいな義理チョコが来ていい所じゃない
んだよ」
一郎「申し訳ございません」
ゴディバ「まあ、いいじゃないか、ロイズ、(一郎を見て)ところでお前た
ちはどこに住んでるんだっけ?」
一郎「……か……春日部です……」
ゴディバ「(笑)春日部! 春日部! おい、ロイズ、春日部ってどこにあ
るんだっけか?」
ロイズ「地の果てでございます」
ゴディバ・ロイズ「(大笑い)」
拳を握り立ち上がろうとする三郎。
それを制する二郎。
二郎「すいません。僕らみたいな義理チョコが場違いな所へ来てしまったよ
うで」
ゴディバ「分かってるんだったら、とっとと北千住に帰りな!(唾を吐
く)」
三郎の顔に唾がかかる。
高笑いしながら歩き去るゴディバとロイズ。
立ち上がり、ゴディバに殴りかかろうとする三郎。それを制する二郎。
三郎「兄ちゃん、俺悔しいよ」
一郎「三郎、悔しいのは兄ちゃんたちだって一緒だ」
二郎「ちくしょー。いつかあんな奴こうやってこうやって(いろんな蹴り技
とかを披露)蹴り殺して……」
ロイズの声「あ、すいません、ゴディバ様、あっちでした」
ゴディバとロイズが戻って来る、慌てて、跪く一郎、二郎、三郎。
ゴディバ「なんか今誰かを蹴ってなかったか……?」
二郎「いえ、とんでもございません!」
ロイズ「とっとと帰りな! 北千住へ!」
歩き去るゴディバとロイズ。
一郎、二郎、三郎、ゴディバたちが去ったのを確認して、
一郎「二郎……やっぱりあの計画を実行するしかないか」
二郎「一郎兄ちゃん、まさか! まさか本当にあれをやるつもりなのか?」
三郎「あの計画って?」
一郎「こうして俺たち義理チョコがゴディバみたいな本命チョコにぺこぺこ
と頭を下げなきゃいけないのは、バレンタインという政府が存在するから
だ。だから俺たちの手でバレンタインをぶっ壊す!」
三郎「バレンタインを……」
一郎・二郎・三郎「ぶっ壊す!」
暗転。
明転。
集会場。台の上に立ち、集まった義理チョコの志士たちに演説する一
郎。
その横で演説を聞く二郎、三郎。
一郎「みんなありがとう。よくこれだけの義理チョコの志士たちが集まって
くれた、森永さん、グリコさん、ロッテさんも本当にありがとう。今夜
我々はいよいよバレンタイン政府をぶっ壊す、まずは政府の高官、ゴディ
バの屋敷を襲撃する、みんな覚悟はいいか? では行くぞ! エイエイオ
ー」
台から降りて一息つく一郎。
二郎、三郎が一郎のもとに歩み寄り、
二郎「いよいよだな、兄ちゃん」
一郎「ああ。泣くな三郎、まだ泣くのは早い」
三郎「うん(涙を拭い頷く)」
一郎「よし、俺は先に外の様子を見に行ってくるからお前たちは合図がある
までここで待機していてくれ」
二郎・三郎「ああ(頷く)」
一郎、去って行く。
三郎「二郎兄ちゃん、いよいよ俺たちの手で世の中を変える時が来たんだ
ね」
二郎「ああ、そうだ。天はチョコレートの上にチョコレートを作らず、チョ
コレートの下にチョコレートを作らず」
三郎「何? その言葉は?」
二郎「何だお前知らないのか。福沢諭吉先生っていってな、俺たちと同じよ
うに平等な世の中を目指すお方の言葉だ」
三郎「チョコレートの上にチョコレートを作らず……チョコレートの下にチ
ョコレートを作らず……つまりみんな平等ってことか」
二郎「ああ。もうゴディバみたいなやつらにペコペコしなくていい世の中に
なるんだ」
三郎「兄ちゃん」
二郎「うん(頷く)」
と、突然警報と銃声が響き、暗転。
二郎(声)「何だ! どうした?」
三郎(声)「兄ちゃんなんかヤバいよヤバいよ! 仲間たちの悲鳴が聞こえ
る」
明転。
ゴディバとロイズが銃を二郎、三郎に向けて構えている。
二郎「ゴディバ! なんでここが?」
ゴディバ「(笑)お前らのやってることはみんなお見通しだよ」
ロイズ「こっちには頼りになるスパイがいてね」
二郎・三郎「スパイ……?」
とぼとぼと一郎がやって来る。
二郎・三郎「一郎兄さん!」
ゴディバ「こいつがお前たちの計画を全部こっちに教えてくれたんだ」
二郎「兄さん、どうして……?」
三郎「俺たちを裏切ったのか……?」
一郎「す、すまん、二郎、三郎……」
三郎「この野郎!(一郎に殴りかかる)」
ロイズ「(三郎に銃を向け)動くんじゃないよ! ホラ二人とも、手を上げ
な!」
二郎、三郎、手を上げる。
ゴディバ「さあ、一郎、お前俺たちと同じ本命チョコレートになりたいんだ
ろ、だったらこれが最終試験だ。こいつらを撃ちな!」
ゴディバ、一郎に銃を渡す。
一郎、銃を受け取り、戸惑いながらもゆっくり銃を構える。
三郎「兄ちゃん、嘘だろ? やめろよ……」
二郎「兄ちゃん!」
一郎「二郎、三郎、ごめんな……」
と、バーンという銃声が響き、一郎の銃が飛ばされる。
銃を持った松が現れる(忍者のような恰好)。
ロイズ「何だお前は!(松に銃を向ける)」
松、ロイズに向け銃を撃ち、手を撃たれたロイズの銃が吹き飛ぶ。
二郎「松!」
松「二郎兄ちゃん、三郎兄ちゃん、こっちだ、逃げるよ、さあ早く!」
ゴディバ「待て、この野郎!」
松、「えい」と煙玉を投げると、もくもくと煙が立つ(照明で表現)。
苦しそうに咳込むゴディバ、ロイズ、一郎。
松「ホラ今のうちに!」
逃げ去る松、二郎、三郎。
暗転。
明転。
街の外れ。ゴミ箱が二つ置いてある。
二郎、三郎がゴミ箱の中に板付き。
周囲を窺いながら松が歩いて来る。
松、ゴミ箱をコンコンとノックして、
松「私だよ」
ゴミ箱の中から二郎、三郎が顔を出す。
松が差し出したおにぎりを受け取りかぶりつく二郎、三郎。
二郎「松、いつもありがとな」
三郎「あれから半年、こうやって生き延びられたのもおめーのおかげだよ」
松「(微笑)ホラ、持ってきたよ、ゴディバがいつも宴会してる中目黒の店
の写真と間取り図(二郎にファイルを渡す)」
二郎「(受け取り)よし、でかした」
三郎「他の義理チョコたちは何て言ってた?」
松「二郎と三郎がやるなら俺たちもついていくってさ」
二郎「くうー、泣かせてくれんじゃねーか」
松「で、いつにするんだい決行は?」
二郎「来週のバレンタインデーだ」
松、ゆっくりと頷く。
と、響く警笛(もしくは警鐘)の音。
二郎「ホラ、松、急げ」
松「(二郎と三郎の手を握り)二郎兄ちゃん、三郎兄ちゃん、死なないで
ね」
二郎「ああ(手を握り返し)」
三郎「ホラ、早く行きな(手を握り返し)」
松、去って行く。
暗転。
明転。
スナック。
カラオケを歌うロイズ。
ゴディバと一郎が曲に合わせて超ノリノリではしゃいでいる。
ゴディバ「どうだ一郎、楽しいだろ?」
一郎「はい、楽しいっす、ヤバいっす、やっぱ中目、超最高っすね」
ロイズ「春日部とは大違いだろ?」
一郎「無理っす無理っす、春日部はジジイとババアしかいないっす」
ゴディバ「本命チョコレートになればこういう生活が出来るんだ」
と、突然、音楽が途切れ停電に(暗転)。
ゴディバの声「おい、どうした?」
明転。
刀を持った二郎、三郎が立っている。
ロイズ「なんだお前らは!」
一郎「二郎、三郎!」
二郎「ゴディバ、お前の命を貰いに来た」
三郎「ぶっ壊しに来たんだよ、バレンタインを!」
ゴディバ「(笑)なんだお前ら、よっぽど死にたいみたいだな、ロイズ、や
っちまいな」
一郎「いや、ゴディバ様、ここは私が」
刀を取り前に出る一郎。
二郎「兄貴……」
ゴディバ「兄弟同士の殺し合いか、面白いじゃないか」
刀を交える一郎と二郎。
しばし激しく闘い合う。
一郎「二郎腕を上げたな」
二郎「兄貴、俺たち義理チョコはな、この闘いに絶対負ける訳にはいかねー
んだ!」
同時に斬りかかる一郎と二郎。
斬られた一郎、その場に倒れる。
三郎「一郎兄ちゃん……」
一郎「二郎、三郎……」
息絶える一郎。
その場からそーっと逃げ去るロイズ。
ゴディバ「ふん、役に立たない野郎だ、これだから義理チョコはダメなん
だ、オイ、ロイズ、やっちまいな! (間)さあ、ロイズ! やってや
れ、あれ……(ロイズがいないのに気付き)?」
刀を構え少しずつゴディバに迫り寄る二郎、三郎。
笑ってごまかすゴディバ。
ゴディバ「ここは冷静に話し合おうか? そうだ、お前たちなんか欲しい物
あるか? 時計はどうだ? ホラこの時計、高いぞー、春日部には売って
ないから」
三郎「いらねーよ」
二郎「悪かったな、春日部育ちで」
ゴディバ「いやいや、春日部はいいとこだよ、あそこは素晴らしいとこだ、
私も引っ越そうかと思ってる」
三郎「地の果てって言ってなかったか?」
ゴディバ「言ってません、言ってません、あ、そうだ!(顎を抑え)イタタ
タタ、歯医者の予約してたの忘れてた、イタタタタ……」
上手に向かい逃げ出すゴディバ。が、上手から銃を構えた松がやって来
る。手を上げたまま後ずさりして戻って来るゴディバ。
二郎「往生際が悪いなゴディバさん、覚悟!」
二郎、ゴディバを斬る。
三郎「これが俺たち義理チョコの恨みだ」
三郎、ゴディバにとどめを刺す。
斬られたゴディバ、あーと苦しみながら去って行く。
刀をしまいホッと一息つく二郎。
その後ろ、死んだ一郎の手を取り泣く三郎。
二郎「オイ、いつまでやってんだよ!」
三郎「だって、だってさ(泣く)……」
二郎「(三郎に向かって)おめーじゃねーよ、オイ、兄貴いつまで寝てんだ
よ!」
三郎「え……?」
一郎「あ、ああ、もう終わったか……」
死んでいたはずの一郎が起き上がる。
三郎「ウワッ!(ひっくり返り)一郎兄ちゃん! 死んでなかったのか?」
一郎「ああ、まあな……」
三郎「え、どうゆうこと? 裏切ったのは?」
松「一郎兄ちゃんが私たちを裏切るわけないでしょ」
三郎「全部芝居……だったのか?」
一郎「わりーな三郎、ゴディバやバレンタイン政府の情報得るためには俺が
潜り込むしかなかったんだよ」
三郎「何だよ知らねーの俺だけだったのかよ」
二郎「敵を騙すにはまず味方からってな」
松「三郎兄ちゃん分かりやすいからさ、すぐ顔に出ちゃうじゃん」
三郎「何だよもー……」
笑う一郎、二郎、三郎、松。
一郎「さあ、まだ仕事は終わっちゃいねーぞ、ゴディバは倒したけどまだバ
レンタイン政府は倒しちゃいねー、この勢いでやっちまおうぜ」
二郎「そうだな」
三郎「じゃあ久しぶりにアレやろうよ」
一郎「よし、俺たちの目標はバレンタインを」
一郎・二郎・三郎・松「ぶっ壊す!」
ナレーションとともにゆっくり暗転。
N「こうして義理チョコブラザースの活躍によってバレンタイン政府は倒さ
れ、全てのチョコレートたちが平等な新しい世の中が始まった……後のチ
ョコレートたちはこれを、チョコレート界の明治維新と呼んだ」
一郎、二郎、三郎、松にスポット。
一郎「チョコレートは」
一郎・二郎・三郎・松「明治!」
明治チョコレートを掲げる一郎、二郎、三郎、松。
《完》
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