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三部作 新説・本能寺の変③ 自由を手にした者

 
《登場人物》

   織田信長(50)  

   宣教師(40)  ポルトガルから来た宣教師。


《あらすじ》

  時は戦国、天正十年六月のある日、本能寺の変で死んだと思われた信長
 は、黒人の家来、弥助とともにこっそり本能寺を抜け出し実は生きてい
 た。そして弥助とともに信長が向かった先には信長の妾、春がいた。春は
 自らの手で殺したはずの信長が目の前に現れ驚く――


 

   本能寺の変の数日後の京都。
   真夜中の道を黒人の家来、弥助とともに歩く織田信長(50)。
   信長、上手から歩いて来て立ち止まり、

 

信長「ここか……? しかしまた贅沢な屋敷に引っ越しやがったな……弥助よ
 くみつけてくれたな、よし、行くか」

 

   信長、屋敷の中へ入る。
   信長、暗い屋敷の中をそーっと音を立てずゆっくり進む。
   信長、探している人物が寝ているのを見つけて、

 

信長「フンッ、いやがった(嘲笑)、フンッ、とぼけた顔で寝てやがる……
 弥助、お前はここで待ってろ」

 

   信長、部屋に入って行き、そっと枕元に腰を下ろす。

 

信長「オイ、起きろ、オイ、春、起きろ!オイ、春! 俺だ! 信長だ! 
 (笑)なんだよその顔は? 幽霊じゃねーぞ、ちゃんと足はついてらぁ、
 ホレ(足を見せる)、あ? 何で生きてるんだって? オイ、春、オメー
 は自分の愛する信長様の顔も分かんなくなっちまったのか……? しょう
 がねーなーまったく……フンッ…………まだ分かんねーのか、春、お前信長の
 首を秀吉のとこへ持ってったらしいな……だけどな春、オメーが殺したの
 は俺じゃなくて影武者の信長だったんだよ……バカな奴だなぁあの影武者
 も……スケベだから抜け出しちまうんだもんなー……ま、どっちにしろ殺さ
 れてたんだけどな(笑)……あ? なんで助かったのかって……? この信
 長様をナメてもらっちゃ困るぜ、あの夜な、本能寺には百人の兵しかいな
 い、そして二条御所にいた息子の信忠んとこもたった五百の兵だ、謀反を
 起こすとしたらあの夜しかない……そうよ、試してみたのよ、裏切るのは
 誰かをな、勝家、光秀、一益、そしてサル……まあ、裏切る度胸があるの
 は勝家くらいかと思っていたけどなぁ……まさか光秀とはな、俺も驚いた
 ぜ……まあしかしもっと驚いたのは、俺の首がサルのもとに渡ったこと
 だ……春、まさかお前が俺を殺すとはな……オメーもなかなかいい度胸して
 んなぁ……女にしとくのは勿体ねーぜ……で、どうするつもりかって? そ
 うだな……あ? 命だけは助けてくれって? オメーもずうずうしい女だ
 なぁ、俺を殺しといて……あ? 何でもするから? お尻ペンペンしてあ
 げる? (春が差し出した鞭を手に持ち)これ使って……? なんだあの
 影武者そんな性癖持ってたのか、バカ野郎! 俺がそんなことで喜ぶ訳ね
 ーだろ」

 

   信長、刀を抜き春に突きつける。
   しばしの間。

 

信長「怖ぇ―か……? とりあえずサルからもらった褒美を出してもらおう
 か? まぁ、ざっと小判百枚ってとこかな? どこにある? 言わねーな
 ら(刀をさらに突きつけ)……あ……? そこの畳の下……? (頷き)オ
 イ、弥助! (弥助が入って来たのを確認し)そこめくってみろ、あった
 か? 貸してみろ、(小判を確認し)少ねーな、オメーこの数日で大分使
 っただろう、嘘つけバカ野郎、しょーがねー女だなぁ……あ? うるせー
 なぁ、くだらねー言い訳なんか聞きたかねーんだよ、もういいわ、もうい
 いっつってんだろ! (しばし沈黙)いいか、春……命だけは助けてや
 る、だから俺の前から消えろ……五秒だけやる、俺がいつつ数えるうちに
 俺の前から消えなければお前を斬る……ひとーつ、ふたーつ、みっつ……
 (走り去る春を見つめ嘲笑)みっともねー走り方だなぁ、見てみろ弥助、
 着物はだけて股開―て……はぁーくだらねー、さぁ、弥助、これ持って堺
 の宣教師の家に行くぞ、この金で船の手配をしてもらうんだ、あ? 敵討
 ち? 光秀? あんな奴どーでもいいわ、サルが片付けんだろう、俺はも
 う飽きたわ、人生50年、この狭い日の元での戦いはもう十分だ、それよ
 り俺はな、異国が見てーのよ、弥助、オメーは見たことあるんだろ? 異
 国の街を? しかし弥助、お前の人生も凄いよな、黒人の奴隷としてこの
 国に連れて来られ、この信長様の家来になってどんどん出世して侍にまで
 なっちまうんだからな……弥助、俺について来てくれるな? スペイン、
 ポルトガル、エゲレス、一緒にめぐろうぜ、ここからが信長の新しい人生
 の始まりだ、行くぞ」


   信長、微笑んで歩いて去って行く。
   暗転。この間に宣教師の衣装に早替え。 
   明転。
   ポルトガル人宣教師(40)の館。
   宣教師、走って来る。猫を追いかけている。
   SE、ネコの声。

 

宣教師「おい、ミケ、何やってるんだ、ニャーオじゃない、あぁあぁもー、
 国王への手紙に真っ黒な足跡つけちゃって、あぁ、全部書き直しじゃない
 か……あぁ、もーお前はお庭に行ってなさい(猫を抱きかかえ)定吉さ
 ん! ホラ、ミケを遠くに連れて行ってください、まったくもー、この間
 送った手紙にもわたしが知らない間にミケが手形をつけていて、これは国
 王を侮辱してるのか! と怒られてわたしは二度とポルトガルに帰れなく
 なるとこでした……ですからわたしの仕事中はミケはそう、こちらへ来な
 いように連れてって下さい、はい、ええ、そうです、だから定吉さん、早
 く、え? 何ですか? お客が来てる? え? 大事な用? 分かりまし
 た、通してください、あぁ、まったくもー……」

 

   宣教師、書類を片付けていると客が入って来たのに気が付き、

 

宣教師「ああ、いらっしゃい、って弥助じゃないか! お前、生きてた
 か……お前、あの夜本能寺にいましたね? え? いち早く裏口から逃げ
 て無事だった……そうか、まあいい、とりあえず、そこにお座りなさい、
 いや、そのソファは駄目です、そこは偉いお客様が来た時のものです、お
 前はそこの床に座りなさい……いやしかしお前が生きていたとは、ぽっく
 り昇天だ……え? それを言うなら、ビックリ仰天? (笑)弥助、日本
 語が上達しましたね、ちょっとお前の日本語力を試してみました……あ
 あ、で、それで今日は何の用だ? ふむ、うん、外国へ行く船に乗せて欲
 しい? (笑)弥助、お前はもともとアフリカから私が連れてきた奴隷で
 す、そんなお前が自由に外国へ行きたいなんて、金があるならまだしも、
 そんなこと認められる訳が……え? 金ならある? (笑)金ならってお
 前、ビタ銭の10枚や20枚じゃ子供の使いにもなりません、え? 小
 判? (笑)いくら信長様に気に入られて武士にしてもらったからってお
 前程度の身分の者が小判なんて……!(小判を見て驚き)本物じゃない
 か! しかも1、2、3、4、10枚も……お前こんなもんどこで……? 
 え? 本能寺で? 信長様が亡くなる直前に小判百枚をお前に……? お
 前、それで貰ったのか小判百枚を……? そうか……え? 足りないなら小
 判あと10枚やるから一番いい船を手配してくれ? あ、ああ、そうでし
 た、分かりました(小判を受け取り)、これはいただきます……弥助、何
 でそんなとこに座っているんですか? こちらのソファにお掛けなさい、
 みずくさい(笑)……で、信長様の最後は見ましたか? うん……逃げて捕
 まったりしたらみっともないからここで死ぬと仰って、見事に自害され
 た…………そうですか……惜しい人を亡くした? うん、そうですね、ああ、
 わたしも残念だ……ん? ああ、そうだ、船の手配でしたね、ちょっとお
 待ちください……」

 

   宣教師、椅子に座り、ペンを取って手紙を書く。そして、立ち上が
   り、窓の外を指さして、

 

宣教師「ホラあそこに大きな船が見えるでしょう、今日出発するポルトガル
 の船です、あそこへ行って船長にこの手紙を渡しなさい、それでお前を乗
 せてくれるはずです……ああ、気を付けて……え? そこにあるカードで自
 分の未来を占って欲しい……? (大笑い)弥助、未来は誰にも分かりま
 せん……うん、じゃあ、気を付けて」

 

   宣教師、微笑んで弥助を見送る。
   宣教師、椅子に座り筆をとり、手紙を書き始める。

 

宣教師「さて、本国に今回本能寺で起きたことを報告しなければなりませ
 ん……うん、これでよし」

 

   暗転。

 

役人の声「王様、ジパングにいる宣教師より手紙が届きました、はい、将軍
 信長が本能寺で討たれたそうで……はい、その真相が書かれているような
 んですが……ええ、それが……肝心なところが全部この状態で……判読不能で
 す」

 

   ネコの足跡だらけの手紙の映像が映し出される。
   SE、「ニャー」というネコの声。

 

                           《完》

 


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