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雷もん太、歌います。~第2作 嘘つきは優しさの始まり~
浅草ふじき劇団
2024年10月25日 浅草東洋館にて上演
《登場人物 & キャスト》
・雷もん太(51) 浅草最後の流し。 ふじきイェイ!イェイ!
・さちこ(22) もん太の娘。 稗田英里奈
・ママ(40) 「さくら」のママ。 じゅんこBAN!BAN!
・庄司正男(30) 「さくら」のボーイ。 清水たぁー
モノマネ芸人。
・庄司優美(60) 正男の母。 モコちゃん
・小林(60) 町内会会長。 ノン老いる小林
・大橋(50) TV局プロデューサ― Ko-1
・ジャスミン(25) 田原町のキャバ嬢 寛香 - HIROKA -
浅草最後の「流し」芸人・雷もん太 と、もん太を取り巻く人々の物語の第2作。
【あらすじ】
スナック「さくら」のボーイの正男(まさお)は売れないモノマネ芸人。正男は故郷の母親には芸人としては成功していないがモノマネスナックのオーナーとして大成功しているとウソをついていた。しかしある日、正男の母親・優美(ゆみ)が急に東京へ出て来るという報せが。困った正男を助けてやろうともん太たちは正男のウソに協力してやろうとするのだが・・・
スナック「さくら」。
町内会会長の小林(60)、ママ(40)、座っている。
ボーイの庄司正男(30)、中央に立ち司会進行。
正男「はい、それでは次はみなさんお待ちかねの漫才、もん太とさちこのお二人でーす」
もん太、さちこ、やって来て漫才を始める。
さちこの手にはハリセン。
もん太「はいどーも、わたくし浅草最後の流し、雷もん太と申します、そしてこちらが」
さちこ「娘のさちこでーす」
さちこ「2人合わせて」
もん太「パフュームです(ポーズ)」
さちこ「ちがうだろ!(ハリセンではたく)」
もん太「イテッ」
ママ「あ、さっちゃんそこもうちょっと強くいった方がいいかも」
ママ、立ち上がり、もん太の隣に立ち、さちこからハリセンを受け取
る。
ママ「もんちゃん、もう一回言ってみて」
もん太「ああ、どーも雷もん太です」
ママ「ママでーす、2人合わせて」
もん太「パフュームです(ポーズ)」
ママ「ちげーだろ!(ハリセンで強くはたく)」
もん太「イテッ」
小林「いい! ママ、さっきよりいい!」
ママ「でしょ、さっちゃん、これくらい強くいかないと」
さちこ「了解!」
さちこ、ハリセンで素振りを始める。
もん太「オイ、オメーそりゃ強過ぎんだろ、ちょっと会長さん、俺は流しですよ、なんで漫才やんなきゃいけないのよ」
小林「いや、うちの町内会の連中が今年は漫才見たいって言うからさ」
もん太「じゃあ、漫才師呼べばいいでしょ、ホラ、東京演芸協会とか、あそこにいっぱいいるじゃない、暇な漫才師が」
小林「いやいやダメダメ、あそこはろくなのいないから」
ママ「ホラ去年の打ち上げでもんちゃんとさっちゃんが漫才やったでしょ、あれが好評だったんだって」
さちこ「よーし、じゃあ、はりきんないとね(ハリセンで素振り)」
もん太「オメー、俺をはたきたいだけだろ!」
さちこら「(笑)」
ママ「あ、正男、打ち上げの準備は大丈夫?」
正男「はい、ドリンクも食事も注文しておきました」
小林「さすがだねー正男くんは、仕事が早い」
もん太「あ、正男、漫才の後俺の歌謡ショーやるからよ、今年も音響頼むな」
正男「はい」
さちこ「そういえば、ママ、エアコンの調子悪いって言ってたけど直ったの?」
ママ「ああ、あれ正男が直してくれたのよ」
さちこ「え、 正男さんが?」
正男「以前エアコン取り付けのバイトやってたもんで」
さちこ「すごーい! 正男さん何でも出来んじゃん」
小林「正男くんいなかったらこの店回んないんじゃないの?」
ママ「ホントそう。もうモノマネ芸人なんてやめてさ、うち専属で働いてくれればいいんだけどね」
もん太「いや、そういう訳にはいかねーよなー、あっちが本業なんだから」
正男「(誰かのモノマネで)そうなんだよ、あっちが本業なんだよ」
さちこ「まあ、もうこっちが本業みたいなもんだけどね」
正男「そういうこと言わないでくださいよ」
SE(ドアベル)。
大橋(50)、キャバ嬢のジャスミン(25)を連れてやって来る。
ママ「ああ、大橋さんすいませーん今日はお休みなんですよ」
正男「どうもすいません!」
大橋「なんだ、そうなの?」
小林「こちらは?」
ママ「ああ、最近よく来てくれてるジャパンテレビの大橋さん、あの『モノマネ甲子園』って番組のプロデューサーさんなのよ」
さちこ「え、すごーい」
もん太「(プロデューサーって言葉に敏感に反応して)どうも雷もん太、51歳、流しをやっておりますが、モノマネも得意です、一番得意なのは田原俊彦」
もん太、田原俊彦のモノマネを始めるが、足を上げた時に肉離れに。
「イテ―」としゃがみ込む。
さちこ「ちょっと何やってんだよ、おっさん、(もん太を抱き起す)すいません無視してください」
大橋「あ、ああ(苦笑)、あ、そうだ、正男ちゃん、この間のオーディション」
正男「はい!」
大橋「ダメだったわ、悪いねー、俺もプッシュしたんだけどねー」
正男「(ガッカリしながらも)いえ、ありがとうございます」
ママ「で、大橋さん、(ジャスミンを見て)そちらは?」
大橋「ああ、この子、田原町のキャバクラのジャスミンちゃん、俺の一番のお気に入り、この子、キャバ嬢なのにモノマネも上手なのよ」
ママ「え、そうなの?」
大橋「見たい?」
ジャスミン「もー、やめてよー大橋さん」
大橋「松本伊代!」
ジャスミン「(モノマネ披露)」
もん太ら「(拍手と歓声)」
正男「……(一人だけショボンとしてる)」
大橋「早見優」
ジャスミン「(モノマネ披露)」
もん太ら「(拍手と歓声)」
正男「……(一人だけショボンとしてる)」
大橋「千秋」
ジャスミン「(モノマネ披露)」
もん太ら「(拍手と歓声)」
正男「……(一人だけショボンとしてる)」
ママ「いや、上手い! 田原町にもこんなすごい子いたんだー」
大橋「でしょー! 今度俺が強力にプッシュして『モノマネ甲子園』出してやろうと思って」
正男「!」
ジャスミン「わー嬉しい、大橋さん大好き!(抱き着く)」
大橋「ホント?」
ジャスミン「うん!」
大橋「じゃあ、飲み行こうか?」
ジャスミン「うん」
大橋「じゃあ、ママ、また来るから」
ママ「はーい」
大橋、ジャスミン、去る。
正男、隅でいじけている。
もん太「いやーあの子面白かったなぁ……(正男に気付き)どうした正男?」
正男「だって芸歴15年の俺が予選落ちなのに田原町の素人のキャバ嬢が番組出れちゃうって……」
さちこ「そりゃ傷つくよね……」
もん太「よし分かった、会長、2日目はさ、正男のモノマネショーでどうかな?」
小林「うーん、みんながどう言うか……」
もん太「そこをなんとか町内会会長の権限でさ」
小林「よし分かった、それでいこう!」
正男「ありがとうございます!」
もん太「なんだオメー立ち直り早いな」
ママ「そこが正男のいいとこよね」
正男「はい!」
もん太「よし、じゃあ歌謡ショーのリハーサルやるぞ」
正男「はい(音響の準備をする)」
もん太「(中央に立つ)それでは雷もん太、歌います!」
音楽IN。
もん太ら、音楽に合わせ踊り出す。
もん太、小林、さちこ、ママ、踊りながら去る。
音楽OUT。
正男、モノマネショーの練習をしている。
SE(電話)。
正男、電話に出る。
正男「あ、母ちゃんか、どしたんだこんな時間に? え! 東京に来る! え、いつ? 明日! 何でそんな急に! 母ちゃん困るよ、こっちだって準備が、え? ちょっと待った母ちゃん! おい!」
音楽IN。
正男、困った感じでウロウロする。
正男、座って頭を抱える。
音楽OUT。
もん太、やって来る。
もん太「どうした、正男?」
正男「(驚き)わ! (ちょっと考えてから)
もん太さん、お願いします!(土下座する)」
もん太「え? 何だよどうしたんだよ」
正男「実は……(囁く)」
もん太「!」
音楽IN。
もん太、正男、音楽に合わせ口論してるジェスチャー。
ママ、さちこ、やって来て座る。
音楽OUT。
ママ「え! あんたがこの店のオーナー!?」
正男「すいません」
さちこ「ずっとウソついてたの? お母さんに?」
正男「すいません」
ママ「あんたがオーナーってことは私があんたに雇われてるってわけ? 正男、あんたいい加減にしなさいよ」
正男「すいません」
もん太「まあまあ、ママ、許してやってくれよ、正男もさ、お母さんを安心させようと思ってついウソついちゃったんだよな」
正男「(頷く)」
さちこ「で、お母さんいつ東京に来るわけ?」
正男「明日です」
さちこ・ママ「明日!」
正男「(頷く)」
さちこ「また随分急ね」
正男「(頷く)」
ママ「で、お母さんにはちゃんとホントのこと言ったんでしょうね?」
正男「……いえ(首を振る)」
ママ「何で言わないのよ」
正男「すいません」
もん太「いや、だから言えねーんだよな」
ママ「何でよ」
音楽IN。
正男、立ち上がり喋り出す。
ママたち、「なにこの音楽?」みたいな表情。
正男「小さい頃にオヤジが死んで母一人子一人の母子家庭だったもんで、うちの母はちょっと過保護って言うか、息子の僕を身近に置いておきたかったみたいで」
さちこ「じゃあ、東京出て来るのも随分反対されたんだ」
正男「(頷き)でも僕はどうしてもモノマネ芸人になりたかったから母の反対を押し切って東京に出て来て、でもご承知の通り芸人としてはさっぱりで……このままだと母も心配するし早く実家に帰って来いって言われちゃうし」
もん太「だからモノマネスナックのオーナーやってるってウソついちゃったんだよな」
正男「モノマネ芸人としては売れてないけど、モノマネスナックの経営者として大成功したんだってウソついて」
ママ「うちがモノマネスナック?」
正男「はい、すいません」
もん太「ママは美空ひばりの真似が得意な人だって言っちゃったんだよな(笑)」
正男「はい(笑)」
ママ「何が可笑しいのよ、ちょっと音楽止めて!」
音楽OUT。
さちこ「で、お母さんいつまでいるの?」
正男「日曜には帰るって言ってました」
もん太「だからよ、明日と明後日の2日間だけよ正男がここの店のオーナーってことでみんなでウソの芝居してやんねーか」
ママ「え?」
さちこ「なんか面白そう」
もん太「だろ? なあ、ママいいだろ?」
ママ「いい訳ないじゃない、なんで私がモノマネスナックのママやんなきゃいけないのよ、しかも正男の部下って」
もん太「いいじゃねーかよ、正男には随分日頃助けられてんだからよ、な」
さちこ「そうよ、エアコンだって直してもらったんだし、ね、ママ、わたしからもお願い!」
正男「お願いします!」
ママ「……仕方ないわね、2日間だけよ」
正男「ありがとうございます!」
音楽IN。
ママ、もん太、正男、さちこ、去る。
ママ、もん太、さちこ、やって来て座る。
音楽OUT。
さちこ、スマホを見て正男からのメッセージを確認。
さちこ「あ、正男さんから、あと5分で着きます。台本通りお願いします、だって」
ママ「(舌打ち)ったく、偉そうに」
もん太「まあ、そう言わずにさ、えーと、じゃあ、設定確認しとくぞ、正男がこの店のオーナー、ママが雇われ店長、で、俺とさちこはこの店に出演してるモノマネ芸人」
さちこ「で、この店はモノマネスナック」
もん太・ママ「(頷く)」
正男の声「ママー、ただいまー」
SE(ドアベル)。
正男、庄司優美(60)、やって来る。
正男の手には大きな荷物。
※ 正男、ウソつく時は腰に手を当てる。
正男「ただいまー」
もん太「どーも、オーナー、お疲れ様です」
正男「(偉そうに)ああ、お疲れ、もんちゃん」
もん太「もんちゃん……(ほんのちょっとイラッとする)? あ、えーとそちらが(優美を見て)」
優美「ああ、どーも、正男がいつもお世話になっとります、正男の母の優美です」
もん太「ああ、どうも初めまして」
正男「こちらがうちの店に出演してくれてるモノマネ芸人の雷もん太さん」
優美「ああ、あなたがもん太さんですかー。正男から噂は聞いとります」
もん太「ああ、どーも」
優美「あの、あれでしょ、上手いんでしょ?」
正男「ああ、もううちのエースだから、何でも出来るよ」
もん太「いや、何でもって訳じゃないですけどね」
優美「じゃあ、ちょっとだけ見せてもらってもいいですか?」
正男「ああ、いいよ、出来るよね、もんちゃん?」
もん太「いや、ちょっと……」
正男「OK、ミュージックスタート」
音楽IN(もしくは正男が一つ一つネタフリ)。
もん太、モノマネを披露。
音楽OUT。
優美「(拍手)わー、さっすが浅草の芸人さんやわ、素晴らしい」
もん太「まあ、これぐらいは(笑)」
正男「で、こちらがこの店のママ」
ママ「初めまして」
優美「ああ、この方があの……」
正男「そう、美空ひばりの真似が得意な」
ママ「どーもありがと(モノマネで)」
優美「……ちょっとクオリティが微妙な気が」
正男「母ちゃん失礼なこと言うなよ」
優美「ああ、すいません、で、正男、もしかして、あちらが(さちこを見て)」
正男「ああ、さちこさん、俺のフィアンセ」
もん太「あー!」
さちこ「え……?」
優美「どーも、さちこさん、出来の悪い息子ですけどどーか支えてやってください」
さちこ「は、はい……」
もん太「おい、コラ、おりゃー聞いてねーぞ」
正男「すいません、お父さん」
もん太「お、お父さんだ!?」
ママ「コラ、もんちゃん、駄目じゃない、オーナーさんにそんな口の利き方しちゃ」
優美「コラ、正男、そんな大事なこと話してなかったのかい」
正男「ああ、まだ」
もん太「まだってどういうことだオイ、お前らチョメチョメしたのか!」
ママ「もんちゃん、ホラちょっと落ち着いて」
さちこ「お母さん、こちらこそよろしくお願いします」
もん太「おい、さちこ! よろしくお願いしますってどういうことだよ」
ママ「コラもんちゃん」
正男「じゃあ、とりあえず荷物置いてこようか、上の部屋空いてるから」
優美「いいのかい?」
ママ「どうぞどうぞ」
優美「あ、じゃあ、失礼しますね」
もん太「オイ、俺はよくねーぞ、やっぱりしたのかチョメチョメ、何回だ? 何回だ! オイ!」
正男、優美を連れて去る。
正男、戻って来て、もん太の前で土下座する。
正男「すいません!」
もん太「オメーどういうことだ!」
正男「いや、結婚相手もいるって言った方が安心するかと思ってつい」
もん太「この野郎(正男につかみかかる)」
ママ「(もん太を制して)コラもんちゃん、いいじゃない、そのくらい、ねー」
優美の声「まさおー、シャンプーあれ使っちゃっていいのかい?」
優美、やって来る。
正男、慌ててコンタクトを探しているふり。
優美「あれ? どしたんだい?」
正男「いや、コンタクト落としちゃって」
さちこ「あ、あっちじゃない」
優美「まったくドジな子なんだから、ごめんなさいね、さちこさん」
さちこ「いえ、全然」
正男「あ、シャンプーだろ、シャンプーはあれだよ棚の上にあるやつ、あ、じゃあ、もんちゃん、今日のステージも頼むね」
もん太「何がもんちゃんだよ(正男に向かっていく)」
ママ「ちょっともんちゃん(もん太を止める)」
正男、優美を連れて去る。
正男、戻って来て、再びもん太の前で土下座する。
正男「どうもすいません!」
もん太「正男、テメー一発殴らせろ」
ママ「ちょっともんちゃん」
もん太「これじゃ俺の気持ちが収まんねーんだよ」
正男「分かりました、殴ってください(立ち上がる)」
もん太「よし、歯くいしばれ!」
もん太、正男を殴ろうと拳を振り上げる。と――
優美、やって来る。手にはシャンプー。
優美「正男、シャンプーこれでええんか?」
もん太、咄嗟に五木ひろしのモノマネに切り替える(右手の拳を五木
ひろしっぽく振る)。
もん太「よこはまーたそがれー」
正男「ああ、さすが、いいねー、もんちゃん」
ママ「ねー、やっぱ五木ひろし、いいわねー」
優美「あら、私も大好き、五木ひろし!」
さちこ「え、そうなんですかお母さん?」
優美「ええ、もっと聞きたいわー」
さちこ「ホラ、お父ちゃん、歌ってあげなよ」
もん太「あ? ああ」
もん太、五木ひろしのモノマネを披露していると――
SE(ドアベル)。
小林、やって来る。
小林「どーも、お疲れちゃーん(席に座る)」
もん太ら「(マズい! という表情)」
小林「(正男に)あ、ビール頂戴」
正男「……」
小林「……? ビールは?」
優美「(もん太らに)こちらは?」
さちこ「あ、えーと……(「何とかしろ」ともん太を肘でつつく)」
もん太「あ、ああ、こいつはモノマネ芸人の小林っていうんだ」
小林「?」
優美「ああ、モノマネ芸人さん」
もん太「おい、お前また来やがったのか」
小林「何だよ、来たっていいだろ」
もん太「こいつねー、あまりにモノマネ似てねーからこの店出禁になったのに、態度だけはデケーんだよ、偉そうに」
小林「(笑)何言ってんだよもんちゃん、俺は会長なんだから偉くて当然だろ」
もん太「バカヤロー、東京演芸協会の会長なんて偉くもなんともねーんだよ!」
小林「演芸協会……?」
ママ「そうよ、あんた悔しかったら見せてみなよ、あんたの得意なモノマネを」
小林「モノマネ?」
もん太「ホラ、いつもやってんだろうマッチの真似をよ、あの下っ手くそなやつ」
小林「ああ、あれは俺の十八番じゃないか」
もん太「ああ、じゃあ、見せてみろよ」
小林「(歌う)ギンギラギンにさりげなくーそいつがおーれのやりかたー……マッチでーす(全然似てない)」
もん太「オイ、さちこ、つまみ出せ!」
さちこ「あいよ!」
小林「おい、何だよ」
さちこ、小林を無理やり連れて行く。
優美「いやー、全然似とらんかったね」
もん太「ああ、近頃の芸人は腕が落ちてねーまったく(戻って来たさちこに)おう、帰ったか?」
さちこ「うん」
SE(ドアベル)。
大橋、ジャスミン、やって来る。
大橋「ママー、こんばんは、お、正男、水割り頂戴」
もん太ら「……(マズいという表情)」
優美「(もん太らに)こちらは?」
さちこ「あ、えーと……」
もん太「なんだ、お前もまた来やがったか!」
大橋「え?」
もん太「だからお前のモノマネは似てねーからこの店じゃ使えねーって言ってんだろ! ね、オーナー」
正男「あ、ああ、そうだよ、お前なんか使えねーんだよ!」
大橋「あ? 何言ってんだ正男、お前」
もん太「何言ってんだじゃねーんだよ、お前悔しかったらモノマネやってみろ」
大橋「あ? モノマネ?」
もん太「松本伊代!」
大橋「(渋々モノマネを披露)」
もん太「早見優!」
大橋「(優美モノマネを披露)」
もん太「千秋!」
大橋「(渋々モノマネを披露)」
もん太「全然似てねーじゃねーか! オイさちこ、つまみ出せ!」
さちこ「あいよ!」
もん太「ママ、塩撒いて!」
ママ「あいよ!(塩を撒くそぶり)」
もん太「オーナー、今日はもう店閉めましょう!」
正男「うん」
音楽IN。
正男、優美を連れて去る。
さちこ、戻って来る。もん太とママに小林には上手く説明しておいた
からと説明するジェスチャー。
もん太、ママ、「そうか」と頷いて去る。
さちこ、店の片付けを始める。
音楽OUT。
優美、やって来る。
さちこ「あ、お母さん、まだ起きてたんですか?」
優美「うん、楽しかったからなんだか頭が興奮しちゃってね、なかなか寝られんで」
さちこ「今、お茶入れますね」
優美「ああ、ええよ、構わんで」
さちこ「私も飲みますから」
優美「ありがとう」
さちこ、優美、座ってお茶を飲む。
優美「でも、あんたのお父さん、ホント面白い人やね」
さちこ「(笑)面白いけど、だらしなくてみんなに迷惑かけてばっかなんですよー」
もん太、上手から現れ、隠れて優美とさちこの会話を聞く。
優美「なんかねー、もん太さん見てたら死んだ旦那のこと思い出してしまったわ」
さちこ「正男さんのお父さん?」
優美「芸人やったんよ、うちの旦那も」
さちこ「芸人さん?」
優美「そう漫才師、やっぱりその血があの子にも流れとるんやろねー」
さちこ「どんな方だったんですか?」
優美「面倒見のいいひとでねー、困ってる仲間見るとほっとけなくて、いろんな人にお金貸して……おかげでずいぶん苦労させられたけど、あの人の周りはいっつも笑いが絶えんで……楽しい人やったわ」
さちこ「素敵な人だったんですね、お父さん」
優美「(微笑み頷く)さちこさんは、いい人いないのかい?」
さちこ「え……?」
優美「いいんだよ、みんなウソなんだろ、あんたとの婚約も」
もん太「!(隠れながら)」
さちこ「知ってたんですか?」
音楽IN。
優美「(頷く)……バカだねーホントにあの子は、あの子昔っからね、ウソつく時は手をこうすんのさ(右手を腰に当てる)」
さちこ「あ! やってるかも(笑)」
優美「でもね、あの子のウソにおたくらみんなが付き合ってくれとる、わたしゃそれが嬉しくてね、あの子がみんなに可愛がられてる証拠だから、さちこさん、ありがとう」
さちこ・もん太「……」
優美「でもね、私がウソに気付いてんのは内緒にしてやってね、あれがあの子なりの親孝行なんやから」
さちこ「はい(頷く)」
正男の声「お母ちゃーん」
正男、やって来る。
正男「お母ちゃん、血圧の薬飲んでないやろ?」
優美「はいはい今飲みますよ、うるさいねー」
正男「(腰に手を当てて)あ、さちこ、後で新婚旅行のプラン一緒に考えような」
さちこ「うん、オッケー」
優美「(さちこを見て微笑み)そんじゃあ、おやすみなさいね」
さちこ「おやすみなさい」
正男、優美、下手に去る。
さちこ、下手を見つめる。
隠れていたもん太、出て来る。
音楽OUT。
さちこ「(もん太を見て)わ!」
もん太「気付いてたんだな」
さちこ「聞いてたの?」
もん太「(頷く)あのお母ちゃんのためにも、最後までしっかり芝居してやんなきゃな」
さちこ「(頷く)」
もん太、さちこ、去る。
音楽「Welcome to Asakusa」IN。
音楽に合わせて浅草観光する正男、優美、もん太、さちこら(ミュー
ジカル風に)。
音楽OUT。
スナック「さくら」。
荷物を持ってやって来る正男、優美。
見送に来るもん太、さちこ、ママ。
優美「それじゃあね、あんたさちこさんのこと大切にするんだよ」
正男「ああ、結婚式決まったら知らせるから(腰に手を当てて)」
優美・さちこ「(微笑)」
もん太「(腰に手を当てて)結婚式は盛大にしなきゃな」
さちこ「(腰に手を当てて)ありがと、お父ちゃん」
正男「え! いいんですか? お父さん?」
もん太「おう!(腰に両手を当てる)」
優美「(微笑み腰に手を当て)ありがとう」
正男「ホラ、母ちゃん時間だ、そろそろ行かんと」
優美「はい、それじゃ」
優美と正男、下手に去る。
優美、途中、一度振り返って深々とお辞儀して去る。
さちこ「ホントに結婚しちゃおうかなー(微笑)」
もん太「! オイ、さちこ、おいどういうことだ! チョメチョメしたのか、オイ!」
音楽IN。
もん太ら、全員去る。
お祭り会場。
正男、やってきて下手にしゃがむ。手には台本(ADみたいな感
じ)。
もん太、さちこやって来て漫才を始める。さちこの手にはハリセン。
音楽OUT。
もん太「やっぱり父親ってのはね、そう簡単に娘を嫁にあげたくないもんなんだよ」
さちこ「やっぱそうなの?」
もん太「ああ、金ない、仕事ない、信用ない、こういう奴には絶対やれねー
な、うちの娘は」
さちこ「え? 金ない、仕事ない、信用ない……全部お父ちゃんのことじゃん?」
もん太「? な訳ねーだろ(手ではたく)」
さちこ「な訳あるだろ!(ハリセンではたく)」
もん太・さちこ「どうもありがとうございましたー」
さちこ去る(ハリセンを置いて行く)。
もん太、正男の前に立ち、台本をチェック。
もん太「けっこうウケてたよな」
正男「はい、バッチリです。じゃあ、次すぐ歌謡ショーいきますんで」
もん太「おう」
正男「あの……もん太さん?」
もん太「あ?」
正男「ホントにさちこさん貰っちゃっていいんですか?」
もん太「バカヤロー! いい訳ねーだろ!(ハリセンではたく)」
正男「だってこの間」
もん太「あん時はあん時なんだよバカヤロー!(ハリセンではたく)」
さちこ、やって来て、
さちこ「どうしたの?」
もん太「何でもねーよ、な」
正男「はい」
SE(電話)。
正男、スマホを出す。
もん太「なんだよ、お前切っとけよ」
正男「あ、すいません切ります」
もん太「いいから出ろよ」
正男「すいません、(電話に出て)あ、大橋さん! すいませんでしたこの間は、はい、はい、え! 合格ですか!」
もん太・さちこ「……?」
正男「(泣きながら)はい、ありがとうございます。はい、ありがとうございます」
正男、電話を切り、泣き出す。
もん太「どうした?」
正男「もん太さん、『モノマネ甲子園』、欠員が出て繰り上げで出演決まりました!」
さちこ「え! ウソ! すごい!」
もん太「お前じゃあ、早く、お袋さんに電話してやれよ」
正男「え? でももん太さんのショーが」
もん太「バカ野郎そんなこと心配すんな」
さちこ「大丈夫、代わりに私がやるから」
正男「ありがとうございます」
もん太「早く知らせてやんな」
正男「はい!」
正男、スマホを取り出し電話する。
もん太「よし、さちこ、曲変更だ」
さちこ「え、お嫁サンバじゃないの?」
もん太「(台本を指差し)あいつの祝福の曲だ」
さちこ「(ニッコリ笑って)あいよ!」
もん太、マイクを持って中央に進み。
もん太「正男、お袋さん、聴いとけよ、雷もん太、歌います!」
音楽IN「あの鐘を鳴らすのはあなた」。
もん太、歌う。
優美、現れ正男からの電話を受け、喜ぶ。
ママ、小林、大橋、ジャスミン、やって来て、正男を祝う。
優美、一旦下手に去り荷物を持って戻って来る(再び上京して来
た)。
優美を出迎える正男、さちこら。
最後はみんなで歌う。
《完》
ミュージカルシーンで使用した曲『Weicome to 浅草!』です☝
歌:ふじきイェイ!イェイ! & 寛香 -HIROKA-
作詞作曲:ダイ☆キチ
『雷もん太、歌います。』のテーマソング
歌:ふじきイェイ!イェイ!
作詞作曲:ダイ☆キチ