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今シーズンのノーベル化学賞「CRISPR-Cas9」はおもしろい!(できるだけ簡単に説明してみた!)

※私としてはめずらしい(今後、書くこともほとんどないであろう)学術的なトピックについて扱った記事である。内容的に読む方をかなり選ぶ記事になると思われるが、この記事は専門的な内容をできるだけ「わかりやすく」、そして「楽しく」説明することを心掛けて書いた。一部、学問的には厳密に正しくない記述も含まれるかもしれないが、その点はご容赦いただきたい。(厳密で正確な情報が欲しい方は、きちんと書籍等を購入して勉強してもらった方が良いと思う)

※また、大変申し訳ない話ではあるが、筆者は生化学におけるDNAなどを描画するソフトを所有しておらず、その使い方もわかっていない。本来であれば、描画ソフトをダウンロードして、使い方を学んだ上で図解も交えて説明できた方が圧倒的にわかりやすいのだが、今の筆者の能力とリソースではそれが叶わなかった。よって、文字情報のみでの説明になるが、できるだけわかりやすく説明できるように、段階ごとに細かく分けて各段階で何が起こっているのかがつかみやすいように書く努力はした。この記事を読んで今年のノーベル化学賞の内容に少しでも興味を持っていただけたら、私はうれしい。


今シーズン(2020)のノーベル化学賞が発表された。と言っても、すでに受賞者発表(2020/10/07)から1ヶ月以上が経過し、かなり時期を外してしまった感は否めない(「そんなことは、もうすでに調べて知っているよ。何を今さら…」という方も多いと思う)。実はこの記事、かなり前に完成させていたのだが、つまらん記事をいくつもあげているうちに発表の時期を逃してしまった。今、あえてこの記事を掲載することで、皆さんの記憶の中で薄れかかっているであろう今年のノーベル化学賞の内容・おもしろさを少しでも思い出していただきたい。そう思って今回の記事を書いた(ということにしておこう笑)。

今年のノーベル化学賞は遺伝情報を編集する”CRISPR-Cas9(クリスパー-キャスナイン)”という「ゲノム編集」技術を開発した、Emmanuelle Charpentier氏(マックス・プランク感染生物学研究所)とJennifer A. Doudna氏(カリフォルニア大学バークレー校)の両名に贈られることになった。お二人の開発された「ゲノム編集」という技術だが、つい6-7年前に開発された技術なのに、いまや世界中の研究室で使われているそうだ。それだけ非常に手軽かつ安価な技術ということなのだと思う。

CRISPR-Cas9は“ゲノム(遺伝子)編集技術”である。ただ、これまでの“遺伝子組み換え技術”や“遺伝子欠損(ノックアウト)マウス”とは違う。

ざっくりいうと、「もともともっていない性質(遺伝子)を外から追加する(遺伝子組み換え)」か、「狙った性質(遺伝子)を欠損させる(ノックアウトマウス)」か、「もともと持っている性質(遺伝子)を変更する(ゲノム(遺伝子)編集)」かの違いだ。

遺伝子組み換え技術は、導入したい遺伝子を「入れる」だけ。生き物の遺伝情報は長いヒモ状の分子であるDNAに蓄えられているが、遺伝子組み換え技術では「どこに」入れるのかをコントロールすることができない。また、「いくつ」入れるかも細胞まかせとなってしまう。このため、外から別の遺伝子がもともとその生物が持っていた遺伝子の中に入り込んでしまう恐れもあった。

また、ノックアウトマウスをつくる技術は、狙った遺伝子を欠損させる技術だが、孫マウスの世代になって初めて可能になる、どの生物でも可能になるわけではないといった欠点があった。

ゲノム編集技術は、狙ったとおりの遺伝子が働かなくなるようにしたり、少し変えることで機能を変えたり(目の色が黒から青になるなど)することができる技術である。特定の遺伝子が身体のなかでどのように働いているのか、といった基礎研究の分野で大いに使われている。
さらに、野菜や家畜の品種改良や遺伝子が原因の病気の治療にも応用しようという動きが起きている。ただし、こうした食品や医療への応用に関しては、慎重にすべきだという議論も起きているようだ。

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《ここからは少し詳しく知りたい人向け》

もう少し、詳しく説明してみよう。
(以下※部分は捕捉なので読み飛ばしてもらっても構わない)。

【CRISPR-Cas9の原理】

■CRISPR-Casとはそもそもなにか?

そもそもCRISPR/Casというのは何かというと、

Clustered:クラスター化した
Regularly:規則的に
Interspaced:間隔があいた
Short:短い
Palindromic:パリンドローム様
Repeat:繰り返し配列

の略称で、細菌の中に存在している遺伝子の領域のことをいう(その領域のことをCRISPR/Cas領域というらしい)。このCRISPR/Cas領域が細菌のゲノム上にあるということは結構前から知られてはいたが、最近まで何をしているのかよくわからない状態だった。

その配列の領域は、CRISPR領域とCas遺伝子群という2つの領域に分かれている。CRISPR領域というのは、とびとびに存在する同じ配列が繰り返されている領域(Repeat配列)と、異なる種類のものが配列しているスペンサー領域を含む。

パリンドロームというのは、回文構造のことをいう。つまり、「たけやぶやけた」のように表裏どちらから読んでも同じ配列のことをいう。

■このCRISPR/Cas領域は、細菌の獲得免疫システムから発見された。

■ファージによる細菌へのDNAの注入

もう少し具体的に説明すると、細菌も我々人間同様にウイルスに感染する(正確にはウイルスの一種であるファージに感染する)。細菌の一種である桿菌(かんきん)がファージに感染すると、ファージは自分の中にあるDNAを細菌の中に注入する。

■注入されたファージのDNAはどうなるか?

注入したDNAがどうなるかというと、細菌内のCRISPR-DNAのリピート配列の間に組み込まれる。
(※組み込まれたウイルス由来の遺伝子(DNA)は、子から子へと受け継がれていく。つまり、ウイルスの感染の履歴が細菌のゲノム上に記録されていくということである。)

(※細菌内のCRISPR-DNAにウイルス由来の遺伝子(DNA)が組みこまれるが、細菌のDNAを切り取って組み込むという過程は、他の種類のCas分子(Cas9以外にも色々あるらしく、Casタンパク質ファミリーとよばれ、45種類ほどが報告されている)が担当している。)

■細菌がファージにDNAを注入され、細菌内のCRISPR-DNAの配列に組み込まれた後どうなるか?

次に、ファージにDNAを組み込まれた細菌内のCRISPR-DNAは転写されて、CRISPR-RNAになる。CRISPR-RNAはリピート配列とウイルス(ファージ)由来のDNAのセットのところで切り離される。この切り離しも(他の)Casが行う。

■CRISPR-DNAの転写、転写によって生じたCRISPR-RNAの配列の切り離しの後どうなるか?

切り離されたRNAのリピート配列の部分にtranscrRNA(トランスクリスプRNA)という分子がくっつく。このtranscrRNAを認識してCas9のタンパク質がくっつく(雲のように覆ってCRISPRとCas9が複合体を形成する)。

■切り離されたCRISPR-RNAにtranscrRNAとCas9がくっついて、CRISPR-Cas9複合体を形成する

CRISPRとCas9が複合体になった状態をつくって細菌内には存在している。

CRISPR-Cas9複合体は免疫システム(ウイルスDNAの侵入の監視役)である。細菌の細胞内では常にこのCRISPR-Cas9複合体が漂っている。

■CRISPR-Cas9複合体をもつ細胞に、ファージが感染したらどうなるか?

その細菌の細胞にまた、同じ種類のファージがくっついてDNAを細胞内に注入しようとする。

そうすると、すでに組み込まれているRNA(CRISPR-Cas9複合体の中のRNA)と、ファージのDNAが結合する。

(※なんで両者がくっつくかというと、Cas9がファージDNAの二本鎖をほどいて、ファージDNAとcrRNA(クリスパーRNA)が相補的に結合するという仕組み。)

■CRISPR-Cas9複合体の中のRNAとファージのDNAが結合した後、なにが起こるか?

(細胞の免疫システムが機能する)
両者が結合すると、CasがファージのDNAを切断する。切断されると、注入されたファージのDNAは機能を失う。

(※もう少し詳しくいうと、crRNAがCas9を標的DNA(ファージのDNA)へ誘導し、Cas9がDNAをカットする。)

ここまでが、原理の話で、Cas9がファージDNAをカットした後、どうゲノム編集に使うように応用したかという話に続ける。

【CRISPR-Cas9の応用】

■CRISPR-Cas9複合体による細胞の免疫システムの要約

Cas9がファージのDNAを切断してファージを失活させて免疫に成功する。
(※組み込まれたファージのDNA配列が転写されたRNAを使うことで特異的に(ターゲットを絞って)ファージのDNAに結合し、特異的にそのDNAだけ切断してファージの機能を失活させるという免疫機能というのが、CRISPR-Cas9の原理。これは分子レベルで解明された細菌の免疫獲得システム)

■CRISPR-Cas9複合体による細胞の免疫システムをなぜ利用するか?

これ(細菌の免疫獲得システム)をどう利用するかというのが、次の問題。
切断したい標的配列を自分で設定できるというメリットがあるから使う。

■実際に標的の配列をどうやって切断するか?

標的の配列に相補的な(くっつく)配列のRNAを自分で合成(設計)して、transcrRNAをもっと使いやすくするためにcrRNAとくっつけてRNAの1本鎖を合成してやれば、自分の切り取ってしまいたい配列を認識してCas9の働きで切断できる。このRNAの1本鎖のことをsgRNA(スモールガイドRNA)呼ぶ。

■実際に標的の配列を切り取りたいときに行う作業

実際には、業者に依頼して切り取りたい配列に相補的な(くっつく)配列のRNAの1本鎖を合成してもらい、①合成してもらったRNAの1本鎖(sgRNA)と②Cas9を試験管でミックスして、③標的DNAと混ぜれば(この3つを混ぜれば)標的の配列を切断できる。
(※細菌内で行われている現象を哺乳類の細胞など他種の色んな細胞にも応用することができる。)

■配列を切った後、どうやって編集するか?

切断後のDNAの修復機構を利用する。
① 切断箇所をそのまま連結(非相同性末端結合(NHEJ)修復)する。
→修復時に数塩基の欠失・挿入がおこる(=ノックアウト)。
② 正常な遺伝子断片(両端が切断したDNAと相同な遺伝子断片)を一緒に入れておく。そして組み換えを介して遺伝子を変更する(相同組換え型(HDR)修復)。
→切断部位に特定の遺伝子を挿入できる(①のNHEJ修復より正確)。

■CRISPR-Cas9のここが凄い!

① 目的DNA配列と相同なsgRNAを合成するだけでいい。
→TALENとか他の手法より安いコストで済む。
(※①gRNA/Cas9発現ベクター、②相同組み換え用ドナーベクターのキットで100,000~300,000円らしい)
② 用いる酵素はCas9だけ
(※ZFN、TALENのように、標的DNA配列ごとに異なるタンパク質を合成(設計)する必要がない)

※ZFNは、「ズィーエフエヌ」、または、「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」と呼ばれる手法、TALENは、「転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ」と呼ばれる手法で、CRISPR-Cas9と同じ、思い通りに標的遺伝子を改変する「ゲノム編集技術」の一種である。概要については、日本語版Wikipedia「ゲノム編集」の項に記載されているが、詳細を知りたい方は書籍をあたった方が良いだろう。

■CRISPR-Cas9技術の利用例

HIV感染マウスにCRISPR-Cas9を利用。
CRISPR-Cas9により、HIV感染細胞のDNAから関連部位を(ターゲットに絞って)切断すると、HIV検出不可能にまで回復。
(細菌での免疫システムを動物にも応用できたという報告)

■CRISPR-Cas9技術の利用例(その他)

① 基礎研究への応用
遺伝子改変動物の作成→遺伝子機能解析

② 医療への応用
・疾患モデルの動物の作成と創薬への応用
・遺伝子治療(原因遺伝子が特定されている病気は該当部分を編集してしまえばOK!)
(※多数の患者がいない稀な病気は薬の開発に高コストがかかり今まで実現していないところがある→CRISPR-Cas9技術により低コストで実現→低コストで個人に合った治療が可能に!)
・安全な移植臓器の作成

③ 食糧生産への応用
・品種改良にかかる期間の短縮
(※遺伝子組み換えと違って、早くより正確にできる)
・新奇の形質をもつ品種の作出

■CRISPR-Cas9技術(ゲノム編集)と遺伝子組み換えとのちがい

・遺伝子組み換え
もともと持っていない性質(遺伝子)を外から追加する。

・CRISPR-Cas9技術(ゲノム編集)
もともと持っている性質(遺伝子)を変更する。

*外来遺伝子を対象の細胞の中に入れる作業がない。
*もとから生体内にあるCas9(酵素)やRNAなので、作業を終えればこれらは細胞の中で分解されて消える。

ゲノム(遺伝子)編集は世界の在り方を変える!
コストが下がってきたので、アメリカでは実験キットが売っているらしい!(市販(主に通販)されているようだ)


と、ここまではネットで聞きかじった情報で、私も詳しい(学術的な)ことはよくわからないというのが正直なところなのだが、狙った遺伝子の情報を書き換えることのできる非常に有用な技術であることはたしかだと思う。私はこのCRISPR-Cas9という言葉を今回のノーベル化学賞受賞をきっかけに初めて耳にしたが、またひとつ勉強になった。「ゲノム編集」については、講談社ブルーバックスなどから新書がでているみたいなので、詳しく知りたい方はそちらを参考にすると良いかもしれない。

あと、九州歯科大学の方が「マナビ研究室」という活動で、CRISPR-Cas9について解説してくれているこちらの動画も見てほしい。難しいことをめちゃくちゃ簡単に噛みくだいて説明してくれている。動画の中では、学生さんと教授がディスカッションをしている様子を視聴者に見せるという形式で、今回のCRISPR-Cas9について説明してくれている。本当に素晴らしい企画だと思う。筆者もこの記事を書くにあたって、大いに参考に(というか、この記事の内容はほとんどこの方たちの受け売りだが…笑)させていただいた。何度も言うが、非常に有益な動画だと思う。マナビを素早く(Twitter)、楽しく(YouTube)、深堀り(note)するというコンセプトで活動をしておられるようで、YouTubeのチャンネル登録者数はまだ177人(この記事を執筆した2020/10/17時点)なので、この記事を見て興味をもっていただけた方は是非チャンネル登録してみてほしい。チャンネル登録者数、もっと増えても良いと思うけどなあ…(私はチャンネル登録したよ!)

ノーベル化学賞受賞とほぼ同時に「ゲノム編集技術(CRISPR-Cas9)」に関するnote記事(以下)を発表されているので、そちらの方も紹介させていただこうと思う。非常に良い企画だと思うので、微力ながら、閲覧数に貢献できればという思いで。

今回は以上である。一時期世間を賑わせていた科学技術について、それを一過性のものとせず、少しでも興味を持ち続けることができれば、皆さんの目から見える世界の解像度も変わってくるだろう(私もこういうことを言っておきながら、全然実践できていないのでそうありたいものだという気持ちも込めた)。別に今回紹介したCRISPR-Cas9に限らず、(決してノーベル賞にならなくても)世の中にはたくさんの有用かつ興味深い科学技術で溢れている。皆さんも(もちろん私も)ノーベル賞をきっかけにして、科学リテラシーを高める機会にしてもらえればうれしいと思っている。

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Denchu
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