【祭りを考える】 人身御供と仏教
不定期シリーズ、祭りを考える。私の祭りの見方を紹介するものです。あくまで、私個人の祭り観を書いたものですのでご承知ください。
現代に住む私達の感覚で、最も理解に苦しむ祭の形態のひとつとして人身御供があると思います。祭りに命を捧げる、命がけではなく本当に命を差し出す、つまり生贄となって死んでしまうのですから、現代の価値観では到底受け入れられないものです。
しかし、日本にはかつて人身御供の祭りがたしかに存在しました。愛知県内でも人身御供の話が伝承として残っている場所は複数あります。有名なところでは国府宮のはだか祭でしょう。知る人ぞ知る話ですが、江戸時代中期、尾張七代藩主宗春公が禁令を出すまで国府宮のはだか祭は、今とは全く違うものだったといいます。
これは江戸時代の尾張名所図会に描かれた儺負人を捕らえに向かう図です。儺追神事は現在のはだか祭ですが、この絵の題名をよく見ると、儺追捕神事、となっています。描かれているのも刀のようなものを振りかざす群衆です。明らかにやばい祭りだというのは一目瞭然です。神男と呼ばれる儺負人はこの時代にはまさしく人身御供で、人々の厄災を背負わされて現世から無理やり別れさせられたということです。
しかし、いくら江戸時代といえども、宗春公の時代といえば命の価値観が全く異なっていたはずで、そこまで因習が続くのもおかしな話ですが、それには理由があります。それよりもはるか昔にこの因習に禁令を出された方がおりました。かの織田信長公です。信長公は、この残酷な因習に対して禁令を出しました。しかし、それまでに犠牲になった過去の命の怨念なのか、禁令を出されて数年のところで飢饉が到来してしまいました。現代ならば、エルニーニョ現象とか、ラニーニャ現象によるものだとか、学者が科学的知見からきちんと説明してくれるので、ごく一部の人たちを除いて祟りなどと言う人はいないでしょうが、信長の時代にはそんな人はおりません。しいて言うなら、占い師が学者扱いされた時代です。当然、飢饉は儺追神事の禁令が災いしているとなり、あえなく禁令は解かれてしまったそうです。(信長の話はライターのSさんからいただいた話です)
というわけで、古い時代に始まった因習は不合理とされてもちょっと飢饉が訪れただけでまた復活してしまうものですから、信長の時代よりも前であれば、多少のことでは無くならないものだということです。
ここからが考察になります。話は変わりますが、岡崎に滝山寺という天台宗の名刹があり、ここでは2月に鬼祭が行われます。詳しくは鬼祭の紹介で改めてしますが、この寺は修験道の開祖、役行者(えんのぎょうじゃ)が開いたお寺です。そして祭りの中で(詳しくは分かりませんが)お経を唱えると、鬼が召喚されて人々の前に姿を表します。この鬼とは人々に悪さをする鬼ではなく、いうなれば神様です。つまり、この祭りにおいては、仏法によって神様を召喚しているということです。
ここで祭の意味を改めて考えてみると、日本における祭りとは神様とのコミュニケーション手段です。日本における神様とは自然神であり、その存在は現世ではなく常世のものです。単純に考えれば、神様とコミュニケーションを図るには現世ではなく常世に誰かが行かなければなりません。そこで考えられた方法が、人身御供だったということでしょう。誰かにあの世に行ってもらって神様にコミュニケートする、現代では考えられないことですが、科学のなかった時代に抗うことの出来ない自然に対してどうにかしたいという思いが人身御供という祭りの形態を生み出したのだと思います。
そこで、もう一度、滝山寺に目を向けると、仏教伝来、そして修験道によって、一大イノベーションが起きていることに気がつくと思います。滝山寺では、あの世に行くのではなく、神様にこの世に来てもらって祭りが行われているのです。日本の祭りの歴史においてこの大変革は凄いものだったと思います。それが証拠に、仏教が普及していく鎌倉時代あたりから人身御供あるいは最初にこの祭りをした人は死んだだろうなと思われるような祭りは無くなっていったように見えます。仏教によって人身御供の因習は新たに生まれることはなくなったのでしょう。
ここに書いてあることは、あくまで私の「祭り観」です。私が祭りを見るとき、こういう考えをベースにして祭りを見ているのだとご理解ください。
現在、制作中の愛知の祭り写真集は2023年5月の出版を予定しています。そして10月下旬から、この写真集を全小中学校に寄付するクラウドファンディングを企画しております。こちらのFBページで進捗を随時発信します。
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