《分割版#1》ニンジャラクシー・ウォーズ【バトル・フォー・ザ・プラネット・オブ・ジ・アストロピテクス】
◆#1◆
(((どこへ行く。外出を許可した覚えはないぞ)))
(((大体テメェ、今月分のミカジメもまだジャン? ふてェガキだぜ)))
どけよ。あいつらを探しに行くんだ。
(((何言ってんのコイツ))) (((生活費ローンの減額をオヤブンにジキソしたガキ共がいただろう。多分それだ))) (((ハッハァ! そりゃダメだわ。今ごろ闇医者に臓器抜かれてるわ)))
何だよそれ! ザッケンナコ……グワーッ!
(((ふざけてンのはテメッダッテンコラー! スッゾオラー!)))
(((オヤブンが衣食住を与えてくれなければ、貴様らは野垂れ死ぬしかなかった。ローン返済はいわば命の買い戻し。それを怠るなら臓器抵当権を行使するまでだ))) (((たかだか50年かそこらの労働で自由になれるってのによォ。最近のストリートチルドレンは根性ねえなァ!)))
あいつらを返せ! 俺の仲間を! 俺のグワーッ!
(((その辺にしておけ。今すぐ工場に戻るなら不問に付す)))(((でないとテメェも換金しちまうぜェ? ヒャーッハッハァ!)))
イッ、痛ェ……クソ! クソ、クソッ! クソ畜生!
(((アー、そこの御仁たち)))
クソッ! クソ……エッ誰!?
(((随分物騒な話をしておられるが……その少年をどうなさるおつもりかな)))
(((ア? 何だテメェ。引っ込んでろやクソジジイ))) (((社員教育の一環だ。カタギが首を突っ込む筋合いは))) (((イヤーッ!))) ((((((グワーッ!))))))
(((ドーモ。ゲンニンジャ・クランの長、ゲン・シンです)))
(((アイエエエ宇宙ニンジャ!?))) (((宇宙ニンジャナンデ!?)))
宇宙ニンジャ? あのジジィ……爺さんが!?
(((ナンデと聞かれても、儂は単なる通りすがりよ。その少年にも面識はない。ただ、オヌシらの如き輩は見過ごせぬと思うたまでの事)))
(((チ、畜生! ヤッチマエ相棒! 宇宙ニンジャだろうがジジイはジジイだ!))) (((承知! イヤーッ!)))
(((やれやれ、アイサツもできぬほどの外道とは。イヤーッ!)))
(((アバーッ!))) (((アバババーッ!)))
……つ、強ェ……!
(((さあ、立ちなさい。見れば少年、なかなか良い面構えではないか)))
アッハイ、エット……ド、ドーモ、ゲン・シン=サン。俺の名前は……
(((立ちなさい……立ちなさい……)))
「……きて……起きてよ……」
身体を揺さぶる何者かの声が、夢の底から意識をサルベージする。
「起きてよリュウ=サン!」
「ア……?」微かに目を開くと、ケーブルと配管、スイッチ類に埋め尽くされた低い天井が視界に入ってきた。見慣れた眺めが。
ここは第3惑星ベルダ第25交易コロニーの路地裏ではなく、苛酷な児童労働者時代でもない。戦闘宇宙船リアベ号のコックピットだ。武骨な船体の外には、あの頃死ぬほど焦がれ、幾度となく見上げた星の海が広がっている。
「ンだよハヤト=サン……もう少し寝かせろよ」リュウは不機嫌そうに呟いた。休息時間にはまだ余裕があったし、何より寝覚めが悪い。クソのような昔の夢で起きるなどまっぴらだ。だが。
「ソフィア=サンが来てるんだよ!」
「バッカお前、それを早く言え!」リュウは瞬時に覚醒した。跳ね起きた目の前の宇宙空間に、神秘的な宇宙帆船が光子セイルを輝かせていた。狭いコックピットに清らかな光が満ちる。
「ホラ、バルー=サンも! こっち来て!」ハヤトが中央船室に首を突っ込んで叫んだ。
程なくして、身長7フィート超の宇宙猿人がのっそりとコックピットに入ってきた。「ソフィア様のお越しとありゃ、寝てるわけにゃいかんな……WRAAAAGH」吠えるような大欠伸だ。
ピボッ。コックピットの片隅に陣取る万能ドロイド・トントが、サイバーサングラスめいた顔面プレートに「ー ー」の文字を灯した。
『ネムラナイト、シヌ。タベナイト、シヌ。ニンゲントハ、フベンナ、モノダ』「大きなお世話だポンコツめ」宇宙猿人バルーが唸った。二人はいささかウマが合わない。
宇宙帆船のバウスプリットから金色のビームが迸り、真空の中にブロンド宇宙美女のホロ映像を結んだ。純白の薄絹を纏うその姿は、宇宙ボディサットヴァ像めいて神々しい。
『ドーモ、ソフィアです。起こしてしまったらゴメンナサイ』ホロ画像のアイサツが、エテルを介してコックピットに響いた。
「いやいや、お気遣いなく!」リュウは満面の笑みで答えた。「いま起きようと思ってたトコさ。なァお前ら?」
「これだもんなァ」ハヤト青年が天を仰ぎ、バルーは渋い顔で首を振った。「諦めろ。こいつの悪い癖だ。昔から変わらん」「うるせェ!」
BEEPBEEPBEEP! けたたましいビープ音で、トントが一同を黙らせた。『サッサト、アイサツ、シロ( \ / )』
「アー、ドーモ。リュウです」「バルーです」「ゲン・ハヤトです」『ドーモ、トント、デス。コイツラノ、ブレイヲ、オユルシ、クダサイ』
SLAP! リュウはソフィアに笑いかけたまま、ドロイドの後頭部を平手で張った。既にリュウの行動を演算予測し、脚部電磁石で床に貼り付いていたトントはびくともしない。
「アノ……何かあったんですか、ソフィア=サン」ハヤトが尋ねた。彼女は時間と空間を越えて、リアベ号クルーに啓示を、あるいは救済を与えてきた。おそらくは今回も。
ソフィアは目を伏せた。『私は未来を見ます。あまり遠くまでは見えませんが』ホロ映像の顔色は心持ち青ざめていた。しばしの沈黙ののち、意を決して口を開く。
『すぐ近くの未来に、恐ろしい光景を見たのです。ガバナス帝国がデーラ人を狩り集め、最後の一人に至るまで宇宙空間に放逐するさまを』
宇宙猿人デーラ人。第1惑星シータにルーツを持つ、第15太陽系最古の知的種族である。
その性質は豪胆にして繊細。肉体は強靭。長らくプレ宇宙文明の段階に留まっていた彼らは、地球連盟からの移民を快く受け入れ、数十年にわたる緩やかな融和の道を歩んでいた……邪悪なるガバナス帝国の侵攻を受けるまでは。
「GRRRR……デーラ人狩りだと?」バルーの目が血走り、爛々と輝いた。
「許さんぞガバナス! 俺の故郷! 俺の同胞を! AAAAAAGH!」野獣めいた咆哮が船内に轟いた。
BRATATA! BRATATATATA! 第1惑星シータの密林に宇宙マシンガンの銃声が響き渡り、宇宙南国鳥の群れがバサバサとけたたましく飛び立った。
円形の広場を木造小屋が囲む、ささやかなオーガニック集落。広場に集められた数十名のデーラ人が、威嚇斉射を行った宇宙ニンジャの一団を無言で睨みつけていた。邪悪なるガバナス帝国の尖兵、ニンジャトルーパー部隊。その表情はガスマスクめいたフルフェイスメンポに隠され、判然としない。
角付きヘルムを被ったガバナス下士官が、仏頂面でデーラ人の一団を睨め付けた。「これで全員です」「ウム」上級トルーパーの報告に頷き、「謹聴せよ!」威圧的に声を張り上げる。
「貴様らは本日付けで、偉大なるロクセイア13世皇帝陛下の宮殿建設事業に徴集される事となった! 光栄に思うがいい!」
「お断りだ!」「デーラ人は何者の強制も受けん!」「お前らの皇帝など知ったことか! カエレ!」「カエレ! カエレ!」血気盛んな青年が口々に叫び、たちまちシュプレヒコールが始まった。
「「「「「カーエーレ! カーエーレ! WRAAAAAGH!」」」」」
BRATATATATA! 二度目の斉射が彼らの足元に土煙を立てた。若者たちが怒りの目で後ずさる中、長老は一歩踏み出し、トルーパーの一団に対峙した。
「宮殿建設と申されましたな。ならば何故、女子供や老人まで連行なさる」
杖で指した先には宇宙装甲トラックの行列。他の集落のデーラ人が、老若男女の区別なく鉄格子付き荷台に詰め込まれている。「徴発されるのは働き盛りの男だけ。そう聞いておりましたがのう」
「黙れ! 計画が変更されたのだ。猿どものあずかり知るところではない!」上級トルーパーは叫び、宇宙マシンガンの銃口を長老の眉間に突き付けた。「異議を唱えるなら反逆罪で即時処刑だぞ貴様ァーッ!」
「おやめなされ」長老はいささかも動じず、目を細めた。「ワシが今死ねば、若い衆の収まりがつかなくなりましょうぞ」
「「「GRRRRR……!」」」その言葉を裏付けるかのように男達が牙を剥き、野獣めいた殺気を漲らせた。成人したデーラ人男性の膂力は、時にニンジャトルーパーを上回る。「アイエッ!?」上級トルーパーは思わず後ずさり、失禁を堪えた。
「アーもういい! さっさと連行しろ!」ガバナス下士官が投げやりに命じた。「今日中にあと幾つ集落を回らねばならんか、貴様も知っているだろうが!」
「ハッ、スミマセン」上級トルーパーはマシンガンを降ろした。上官の命令に救われた形で一同に命じる。「積み込み始めーッ!」
「「「ハイヨロコンデー!」」」下級トルーパーがデーラ人を追い立て始めた。「モタモタするな!」「アイエエエ!」「ヤメロ! まだ子供だぞ」「クチゴタエスルナー!」「グワーッ!」「アイエエエ母ちゃん!」「坊や! 坊やーッ!」ナムサン! なんたる暴虐!
「「「長老!」」」「今は従うのじゃ」長老は若者達に囁いた。「我らに正義ある限り、必ずやマニヨル神のご加護があろう」
しばしの後。「撤収!」「「「ハイヨロコンデー!」」」上級トルーパーの号令で、デーラ人を満載した装甲トラックが走り出した。
残された無人の集落に、バクチク・グレネードが投擲された。KBAM! KBAM! たちまち爆発炎上!
「アイエエエ!」「私たちの家が!」「「「WRAAAGH!」」」荷台の鉄格子が揺さぶられ、最後尾車両のサスペンションが激しく軋む。下士官は助手席のシートにしがみつき、脂汗を流しながら叫んだ。「早く! 早く出せーッ!」
「「「イヤーッ!」」」ようやく走り出した最後尾車両に、後始末を終えた下級トルーパーが飛び乗った。燃える集落をあとに、コンボイめいたトラック群が走り去ってゆく。人々の怒りを満載して。
「あれがガバナスか……酷い事をしやがる」
草木の陰から一部始終を窺う、7フィート超の人影があった。その体格は、デーラ人成人男性の中でも屈強な部類だ。顔面を斜めに走る傷跡が、さらなる凄味を醸し出す。
男は音もなく後ずさり、密林に身を潜める妻子のもとへ戻った。
「みんなどこへ連れて行かれたのかしら、ガルー」「わからん」不安気な妻に、ガルーと呼ばれた男はかぶりを振った。「とにかく今は逃げる事が先決だ。走れるか、ルーレ」「もちろん。村一番の勇者の女房ですからね」
「さすが俺の惚れた女だ」ガルーは笑い、幼い息子を背負った。「怖くても泣くなよ、ジルー。真の男が涙を見せるのは、家族と友を悼む時だけだ」「泣かないよ!」「いい子だ」
遡ること数時間前。ゴウンゴウンゴウン……全長数宇宙キロに及ぶカンオケめいた宇宙戦艦が、星々に満ちた無限の大空間を突き進んでいた。
『余の宮殿建設にデーラ人を使役しておるそうだのう、コーガー団長』
ニンジャアーミー旗艦「グラン・ガバナス」ブリッジ壁面の黄金宇宙ドクロレリーフ……すなわち、ガバナス皇帝ロクセイア13世専用超光速通信機が不気味な機械音声を発した。
『醜い猿どもが建てた宮殿に余を住まわせようとは……いやはや信じがたき愚行よ。よもや事実ではあるまいな。ン?』
「ハッ……それは」ニンジャアーミー団長、ニン・コーガーはドゲザ姿勢で俯いた。漆黒のプレートアーマーの下を冷たい汗が流れる。
スケジュール順守のため、デーラ人の投入はやむを得ぬ措置であった。建設計画の指揮を執るオーダー将軍の懇願に、現地の視察に赴いた弟、イーガー副長が折れた形だ。
皇帝の沈黙を黙認と捉えた自身のウカツを、いまコーガーは悔いていた。このままでは将軍もろともイーガーのセプクは不可避となろう。
「エーそれは……無論! 事実ではござりませぬ!」
コーガーのニューロンがフル回転した。「仰せのとおり、第1惑星シータを皮切りにデーラ人を狩り集めております。しかしそれは、陛下を宮殿にお迎えするにあたり、かの醜き宇宙猿人を地上から一掃せんがため!」
『ムッハハハハ! なるほどのう』黄金ドクロの両眼UNIXランプが愉しげに瞬いた。『あいわかった。ならば集めた猿人どもを貨物船に詰め込み、宇宙に撒き散らしてみせい』
「ハハーッ! 皇帝陛下の御前にて御覧に入れましょうぞ!」『ムッハハハハハ!』
通信終了。コーガーは立ち上がり、背後に控える女宇宙ニンジャに命じた。「クノーイ=サン、大至急シータのイーガー副長を呼び出せ! デーラ人狩りの指揮を執らせるのだ!」
「ヨロコンデー」パープルラメ装束の女宇宙ニンジャ、クノーイは無感情に微笑んだ。そのバストは豊満であった。
ナムサン! これがデーラ人徴発計画変更の真実であった。弟に累が及ぶリスクを避けるため、コーガー団長は罪なき宇宙猿人を種族ぐるみ抹殺する決断を下したのである! なんたる冷血! ニンジャアーミーの長には、これほどの非情が求められるというのか!
「ハァーッ……ハァーッ……」
ルーレは息を切らし、ジャングルの曲がりくねった樹木に手をついた。「ここまで来れば大丈夫だ。少し休もう」ガルーは息子を降ろした。「泣かなかったよ僕!」「頑張ったな」
「ハァーッ……これからどうなるの、私たち」
「わからん」ガルーは嘆息した。「バルー=サンがいてくれたらなァ……宇宙船乗りなんて妙なモンになっちまったが、奴は間違いなく真の男だ。あいつが一緒なら、俺だってガバナス相手にひと暴れ……」
ガルーはルーレの視線に気付き、口をつぐんだ。「すまん。昔の癖が出た」「バルー=サンも元気でやってるわよ、どこかで」「そうだな」
「ンッフフフフ……やはり君はバルー=サンの知己だったか」
陰に籠った正体不明の声に、猿人夫婦はぎくりと身を強張らせた。周囲の樹木がざわめき、木の葉が眩惑的に舞い散った。宇宙南国鳥がゲーゲーと不快に鳴き交わす。
「誰だ、出てこい!」ガルーが呼ばわると、「「「イヤーッ!」」」カラテシャウトとともに、ニンジャトルーパーの一団が回転ジャンプでエントリー! たちまち一家を包囲した!
「俺達は捕まらんぞ!」ガルーは宇宙マチェーテを抜き放った。「フン、猿人風情が勇ましいことだ。少々痛めつけてやれ」上級トルーパーの命令一下、「「「ハイヨロコンデー!」」」下級トルーパーが三人に殺到!
先陣を切ったトルーパーのニンジャソード斬撃を、「WRAAAAGH!」ガルーはマチェーテでがっちりと受け止めた。「ヌゥーッ!」武骨な刀身に押し返され、トルーパーはたちまち膝をついた。7フィート超の巨躯が覆い被さり、凄まじい圧をかける。ソードもろとも押し斬らんばかりに!
「グ……グワーッ!」
「WRAAAAGH!」ガルーの強烈な前蹴りがトルーパーのみぞおちに叩き込まれた。「オゴーッ!」宇宙サッカーボールめいて蹴り飛ばされ、下級トルーパーは大木に激突した。フルフェイスメンポの呼吸口から吐瀉物が飛び散る!
「オノレ! イヤーッ!」斬りつける新手トルーパーに、カウンターめいてマチェーテが一閃!「WRAAAAGH!」「グワーッ!」右腕がソードごと宙に舞う!
ガルーは片腕ケジメトルーパーの胸倉を掴み、「WRAAAAAAGH!」攻めあぐねる一団めがけて投げ飛ばした。「「「グワーッ!」」」まとめて薙ぎ倒されたトルーパーが、宇宙ボウリングのピンめいて吹っ飛んだ! 膂力!
ルーレは息子のジルーを庇うように立ち、夫の戦いを見守っていた。
その時、彼女の頭上から何かが音もなく降りて来た。蛇のような、触手のようなそれは……ナムサン! 何らかの植物の枝が、意志あるものの如く蠢いているではないか!
「アイエエエ! 父ちゃん! 母ちゃん!」
息子の悲鳴に、猿人夫婦はハッと振り向いた。だが時すでに遅し。小さな身体が触手めいた枝に巻かれ、大木の梢へと吊り上げられる!
「ンッフフフフ」陰に籠った笑いとともに大木の幹が膨らみ、メリメリ、パキパキと音をたてて何者かが分離を始めた。
ジルーを縛る枝は、その者の右腕であった。おおむね人型と言えるその四肢は、ガバナス帝国制式宇宙ニンジャ装束に覆われていた。流木の如き頭部に人間じみた眼球が光る。「アイエエエ……!」ルーレは半ば失神して尻餅をついた。
ジルーを小脇に抱えて地上に飛び降りたのは、宇宙ニンジャの……樹木! 進化の系譜を異にする植物系人類であった!
「ドーモ。はじめましてガルー=サン。惑星トリーのニンジャオフィサー、キビトです」
この銀河宇宙に生きる知的生命体にとって、アイサツは絶対の礼儀である。ガルーはSNRS(宇宙ニンジャリアリティショック)に耐え、狭い額に脂汗を滲ませてオジギした。「ド……ドーモ、ガルーです。なぜ俺の名を知っている」
「ニンジャアーミーの諜報力を甘く見ない事だ」キビトの双眼がにんまりと細まった。「君は反逆者バルー=サンの幼馴染にして無二の親友。だろう?」「だったら何だ! 息子には関係ない! ジルーを放せ!」「条件を呑めばな」「条件?」「バルー=サンとその仲間を捕える手先になってもらう」
「ナメるな!」ガルーは牙を剥いた。「デーラ人は友を裏切らん。それが掟であり、誇りだ!」
「フン、いかにも動物系人類の言いそうなセリフだ……ならば」
ドクン、ドクン……ジルーを抱えるキビトの右腕が脈打ち始めた。「アイエエエエ!」ジルーが苦悶の叫び声をあげた。皮膚が土気色に干からび、生気が吸い取られてゆく。「アーイイ……遥かにイイ」キビトは身体を震わせて呻いた。
「何をする! ヤメローッ!」「やめろだと? 元々は我が同胞を食らって得た養分ではないか。穀物、野菜、フルーツ。取り返すのは当然の権利だ」
「アバッ! アババババーッ!」小さな身体が痙攣を始めた。
「息子の命を捨ててまで、くだらん獣の誇りを守るつもりかね」キビトはうっとりと嘲った。「私は構わんよ? こいつが死んだら、次はその女から取り返すとしよう。ンッフフフフ」「アババババーッ!」
「ガルー、お願い! あの子を!」我に返った妻が必死の形相で縋り付く。
ガルーはその場にくずおれた。力を失った手からマチェーテが滑り落ちた。
「条件を……呑む」「ンンー? すまんがよく聞こえなかった。食事中なものでねェ」
「条件を呑む! だから! 息子を助けてくれェーッ!」
血を吐くようなガルーの叫びに驚き、宇宙南国鳥の群れがゲーゲーと鳴きながら飛び立った。
【#2へ続く】
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