《分割版#1》ニンジャラクシー・ウォーズ【リベレイテッド・ドージョー】
「君は、本当に……僕を殺すのか」
仰向けの少年が声を震わせた。マウントポジションを取り、彼の喉元に宇宙ニンジャソードを突きつけているのも、同じく半ズボン黒装束の少年だった。
ここは第3惑星ベルダ、オニガ・マウンテン。ガバナス帝国が侵略後に命名した山岳地帯である。険しい山肌の中腹、切り立った崖の上の僅かな平地が彼らの決闘の場となり……そして今、残酷な結末を迎えようとしていた。
「見事なりモモチ=サン! トドメオサセー!」
背後から何者かの声が飛んだ。モモチと呼ばれた少年はぎくりと身を強張らせ、おそるおそる振り向いた。
オリーブドラブのミリタリー装束に身を包んだ宇宙ニンジャが、無個性なニンジャトルーパーの一団を従えて背後に立っていた。鉄仮面めいた二本角フルフェイスメンポの下でギラリと光る眼に射竦められ、モモチの顔が恐怖に歪んだ。「オニビト=センセイ……」
「夢への第一歩を踏み出せ!」オニビトは決断的に人差し指を突きつけた。「恐怖は最初だけだ。その手を血で汚す勇気のある者にのみ、輝かしき未来が開ける! 今がその時ぞ!」
「アッハイ!」モモチは反射的に仰向けの少年に向き直り、喉笛を掻き斬ろうとした。センセイの命令には絶対服従。さもなくば落第刑あるのみ。
……だが、手が震えて切っ先が定まらぬ。
ジゴクめいた修行の束の間、二人であげた笑い声、寝転んで浴びた木漏れ日の暖かみ、口いっぱいに頬張った給食オニギリの味……それらの思い出がニューロンに次々とフラッシュバックした。
「僕は……嫌だ……!」
モモチは呟き、ぎゅっと目を閉じて……決断した。
「サトル。逃げよう」「エッ?」
「イヤーッ!」モモチは突如サトルの身体を掴み、組みつかれた体を装って二人でゴロゴロと転がった。その先には断崖が深い口を開けている。
「アイエッ? 何するんだモモチ!」「飛べ! イヤーッ!」「アイエエエエ!」
二人は谷底の激流へ身を躍らせた。SPLAAASH! 激しい水の流れはたちまち少年達を引き離し、下流へと連れ去ってゆく!
オニビトが崖下に駆け寄り覗き込んだ時、既に二人の姿はなかった。
「モモチ=サンめ、やりおったわ」しかしオニビトの呟きには、どこか嬉しげな響きがあった。
ゴウンゴウンゴウン……全長数宇宙キロに及ぶ漆黒のメガストラクチャーが、エテルに満ちた宇宙空間を突き進む。ガバナス帝国ニンジャアーミー旗艦「グラン・ガバナス」の巨体である。
その広大なブリッジ内で、艦長にしてニンジャアーミー団長、ニン・コーガーは静かにニンジャソードを抜き放った。「イヤーッ!」裂帛のキアイとともに振り下ろす!
ガキィン! 弟・イーガー副長のサイバネアームが、刀身をがっちりと受け止めた。キュイ、キュイイイ……前腕部から駆動音が響く。「このままだと剣を折っちまうぜ、兄者」イーガーはニヤリと笑った。
「ピガッ……」「ピガガガッ……」コーガーのキアイでニューロンを損傷したサイバネブリッジクルーが数人、煙を吐きながら倒れた。
「よかろう。ミネウチとは言え、よくぞ我が太刀を受けた」コーガー団長は頷き、ソードを収めた。「マボロシ=サンに斬り落とされた左腕の代わり、充分務まりそうだな」
「充分どころか!」キュイイイ。イーガーは憎悪を込めてサイバネ拳を握りしめた。「このアイアンクローでマボロシ=サンの心臓を掴み出し、生きたまま握り潰してやるぜ!」
「一段と逞しくなられましたわ、副長」妖艶な女ニンジャ、クノーイが如才なく追従した。パープルラメの装束に包まれたそのバストは豊満である。
「カーッカッカッカ!」「ハハハハハ!」兄と弟は哄笑し、アームレスリングめいて掌を打ち合わせた。
『コーガー団長!』
壁面に飾られた黄金宇宙ドクロレリーフが起動し、両眼のUNIXランプを点滅させた。現皇帝・ロクセイア13世からの通信だ。
「ハハァーッ!」コーガーは電撃的速度でドゲザした。その背後でイーガーとクノーイが跪く。
『第3惑星ベルダのジュニアドージョー計画、進捗は如何に』「ハハーッ! オニビト=サンの報告によれば、カリキュラムは予定通り進行中。類い稀なる素質の少年を見出しました故、近々陛下にお目通りさせまする」
『ムッハハハハ! 楽しみなことよ。その者のニンジャネームは余自ら賜ろうぞ』「ハハァーッ恐悦至極!」
ベルダ大山岳地帯の麓に広がるバスカの街は、ガバナス侵攻時の大破壊を免れた古都である。だが今や、石造りの街並みには「寝ずに働く」「強いトルーパー」「どんどん徴収されて嬉しい」等のプロパガンダポスターがべたべたと貼り出され、奥ゆかしき景観を容赦なく毀損していた。
その中をよろよろと歩く、半ズボン黒装束の少年あり。
「ハァーッ……ハァーッ……」
モモチは石造アパートメントの壁にもたれて座り込み、荒い息をついた。命からがら街に辿り着いたものの、激流の中でサトルを見失い、懐には銅貨一枚の持ち合わせもない。それに……(いまさらウチになんて帰れないよ……)
俯く視界を影が覆った。ハッと見上げた視界を、宇宙民族衣装の男達が壁めいて取り囲む。
「エット……何か用、ですか」モモチは慎重に尋ねた。男達は無言のまま、モモチの両腕を掴んで乱暴に引き起こした。「ちょッ、放してよ! 放せ!」
モモチは救いを求めて大通りを見た。通行人は誰一人足を止めず、そそくさと歩き去ってゆく。眼前のインシデントなど存在しないかの如く。ガバナス治世下の市民が身に付けた、それが精一杯の生存戦略なのだ。
「クソッ……!」ほとんど宙吊りで連行されるモモチの血中に、いまだ未熟な宇宙ニンジャアドレナリンが放出された。ドージョーで叩き込まれたイクサ・メソッドが脳裏に蘇り、マインドセットが切り替わる。
こいつらは街に巣食う宇宙ヤクザの類か。見たところ弱敵。ならば一旦は従い、人目につかぬ場所で反撃、殺すべし。相手が友達でなければ、殺せる。
「グワーッ!」モモチは乱暴に路地裏に蹴り込まれた。反射的にウケミを取って転がり、周囲を伺う。
目の前に軍用ブーツの爪先があった。モモチは殺気を込めてブーツの主を見上げ、「アイエエエ!」腰を抜かして後ずさった。その者の頭部には……ナムサン! 鉄仮面めいた二本角フルフェイスメンポ!
「アイエエエエ!」モモチの戦意はもろくも崩れ去った。逃げ道を求めて振り向くと、男達はいつの間にかミリタリー宇宙ニンジャ装束に身を包み、ガスマスクめいたフルフェイスメンポを装着していた!「アイエエエエエ!」
「やはり川下の街に辿り着いておったか。流石よな」オニビトは上機嫌で頷いた。「ア、アノ……サトル=サンは」モモチは恐る恐る問うた。「フン」オニビトは鼻を鳴らし、「イヤーッ!」手にした鎖鎌分銅を投擲!
「イヤーッ!」辛うじて分銅をブリッジ回避した瞬間、モモチは悟った。この攻撃を躱して逃げおおせるワザマエは、サトルにはない。今頃はドージョーに連れ戻され、地下ハンセイボウで落第刑の執行を待っていることだろう。
鎖分銅をヒュンヒュンと振り回しながら、オニビトは猫撫で声を出した。
「戻って来るがよい、モモチ=サン。脱走未遂の件は成績表から抹消してやろう。オヌシは特別なのだ」
「ゴメンナサイ、戻りたくありません! イヤーッ!」モモチは壁沿いに垂直跳躍した。屋上伝いに逃げる算段だ。
しかし、「イヤーッ!」オニビトの分銅が足首に絡みついた。「グワーッ!」地上に引きずり下ろされたモモチは、全身をしたたか石畳に打ち付けて悶絶した。
「痛かろう。その痛みがオヌシを成長させる」オニビトは諭すように言った。「我がドージョーの門を叩いた以上、カイデンか落第刑か、道は二つに一つ。以後肝に銘じるがよいぞ」「ア、アイエエエエエ……」
バスカの街の大通りを歩く二人……いや一人と一体は、通行人の中でいささか浮いていた。
「腐ってもバスカの市場だな。今日は久々にうまいメシが食えるぜ」
宇宙フルーツを山盛りにした大籠をほくほくと運ぶのは、身長7フィート超の宇宙猿人だ。キュラキュラキュラ……子供ほどの背丈の万能ドロイドが車輪歩行で付き従う。
『バルーハ、タベモノニ、カネヲ、カケスギル』ドロイドの顔面LEDプレートに「 \ / 」の文字が灯った。「うまいモン食わにゃモチベーションが上がらねえんだよ、人間様は」『トントニハ、サッパリ、ワカラナイ』「そりゃ気の毒なこった……ン?」
宇宙猿人バルーが立ち止まり、耳をひくつかせた。万能ドロイド・トントも球形の頭部を回転させ、聴覚センサーの感度を上げる。
「オイ、聞こえたか」『コドモノ、ヒメイダ』
その時。「タスケテ! 助けて下さい!」悲鳴の主とおぼしき少年が路地裏から飛び出し、二人に駆け寄った。
『ジジョウヲ、セツメイ、シナサイ』トントは極めて論理的に質問したが、直後『ピガーッ!』電子的絶叫をあげた。少年を追って現れた二本角フルフェイスメンポ宇宙ニンジャを視覚感知したのだ。「「「アイエエエエ!」」」通行人が蜘蛛の子を散らすように逃げ去る!
「追われてるんです! 僕はガバナスの」「皆まで言うな」バルーは大籠を放り出し、腰に提げた宇宙ストーンアックスを引き抜いた。宇宙フルーツが石畳に散乱する。
「あの宇宙ニンジャ野郎をブッ飛ばしゃいいんだろ」『ヤメロ。アイテガ、ワルイ』「うるせェ! 困ってる奴を助けねえのは腰抜けだ!」
「ドーモ、オニビトです」二本角ニンジャは鎖鎌を構えつつオジギした。「教師と生徒の問題だ。死にたくなければ首を突っ込むな、非宇宙ニンジャの屑め」「ドーモ、バルーです。知った事か! WRAAAGH!」
バルーは宇宙ストーンアックスを振り上げて突進した。だが石刃を振り下ろした瞬間、POOF! オニビトの姿はバルーの眼前で消失したではないか! フシギ!
「アイエッ!?」「ハッハハハ! どこを狙っておる」
オニビトはいつの間にかバルーの背後に姿を現し、肩を揺すって哄笑していた。『マバタキ・モード継続な』ベルトに吊られた謎めいた機械が合成音声を発した。赤く不穏に点滅するLEDランプ。怒りに駆られたバルーはそれに気付かない。
「逃げるな! WRAAAGH!」バルーは振り向きざまに再打撃を試みた。POOF! オニビトは再び消失!
「ハッハハハハ!」再び出現!「WRAAAAGH!」再打撃! POOF! 再消失!「WRAAAAGH!」再打撃! POOF!「WRAAAAGH!」POOF!
「ハァーッ……ハァーッ……どうなってやがる畜生……」息を荒げるバルーを、姿なきオニビトが嘲った。「ハッハハハハハ! 我がオプチカル・マバタキ・ジツが、オヌシ如き猿人に破られるものか!」
BEEP!『アブナ、イ( >< )』トントは警告音を発したが、時すでに遅し。バルーの背後に出現したオニビトが鎖鎌を振り下ろす!「死ね! バルー=サン! 死ねーッ!」
しかし次の瞬間、「イヤーッ!」「グワーッ!」KILLIN! どこからか飛来したヤジリ型の宇宙スリケンが鎖鎌を弾き飛ばした!
「何奴!」オニビトが見上げた屋上に、スマートな宇宙ファッションの青年が立つ。その手には宇宙スリケン。すなわち彼もまた宇宙ニンジャである事は明白!
「ドーモ。ゲン・ハヤトです」若き宇宙ニンジャは爽やかにアイサツを決めた。「二人ともダイジョブ? 買い出しの帰りが遅いと思ったら」「いいタイミングだ、ハヤト=サン」バルーは親指を立てた。
「ゲン・ハヤト……バルー……貴様らの名、覚えがあるぞ」オニビトは油断なく距離を取り、鎖鎌を手繰りながら唸った。「リアベ号の反逆者どもが何用だ」
「通りすがりさ。だがその少年は僕らが預かる! イヤーッ!」ハヤト青年はケムリダマを投擲した。KBAM! 周囲に白煙が満ちる!
「こっちだ!」ハヤトはモモチの腕を掴んで駆け出した。バルーはトントのボディを片手で持ち上げた。『チョット、マテ』ドロイドのヤットコハンドが伸び、宇宙フルーツを拾い集める。『タカイ、フルーツガ、モッタイ、ナイ』「テメェの心配をしろポンコツ! WRAAAGH!」バルーはトントを抱えて煙の中に飛び込んだ。
「オノレ! 追え! 追えーッ!」オニビトが叱咤するも、「視界不良!」「方向指示オネガイシマス!」ニンジャトルーパーは狼狽えるばかり。オニビトの強権的リーダーシップは、もとより研修済のトルーパーの自我をさらに希薄化させる傾向にあった。「ヌゥーッ!」
いち早く白煙を抜け出したハヤトは、モモチの手を引いてメインストリートを走り抜けた。「そこの角を左に曲がって隠れてて。奴らは僕が何とかする」「アッハイ!」「あとで迎えに来るから!」「アッハイ……アノ!」去りかけるハヤトをモモチが呼び止めた。
「アノ……どうして助けてくれたんですか」「僕らはずっとガバナスと戦ってるんだ」「エッ、じゃあホントにリアベ号の?」
ハヤトは笑顔で片目を瞑り、「イヤーッ!」天高く跳躍して去った。空中で決めた二指敬礼めいたハンドサインが、モモチの網膜に焼き付いた。
「続けェーッ!」「オニビト=センセイ! そろそろ具体的な捜索指示を」「クチゴタエスルナー!」「グワーッ!」
上級トルーパーが地に転がった。「豊富な経験に基づく儂の勘を疑うか貴様ァーッ!」バスカの街の郊外、岩山の間を駆けながらオニビトは激昂した。「とにかく探せ! モモチ=サンの才能は、オヌシら全員を合わせたより遥かに貴重な……ムッ!?」
「イヤーッ!」
咄嗟に立ち止まったオニビトの頭上を回転ジャンプで飛び越え、ハヤトが岩山の上に着地した。
「まだ邪魔立てするかハヤト=サン! 儂の生徒をどうした!」「さあね。勝手に探すがいい!」ハヤトはカラテを構えて挑発した。
「生意気な! イヤーッ!」オニビトは鎖分銅を飛ばし、ハヤトの胴体を両腕ごと絡め取った。「グワーッ!」もがくハヤトを嬲るように、鎖をギリギリと引き絞る。
「オヌシはリアベ号の一味で最も未熟と聞く。引っ捕らえてインタビュー授業の教材にでもしてやろう」「授業? 教材だって?」「ハッハハハ! 楽しみにしておれ!」
「イヤーッ!」オニビトはフェイントめいて鎖を手放した。「グワーッ!」ハヤトはバランスを崩し、鎖鎌もろとも岩山の向こうへ落下した。老獪! 力の駆け引きはオニビトの方が上だ。
「教材を確保せよ!」「「「ハイヨロコンデー!」」」
ニンジャトルーパーは一斉に岩山を駆け登った。だがその先にハヤトの姿はなく、スマートな宇宙ジャケットがひらひらと宙を舞うのみ。
「目標ロスト!」「指示オネガイシマス!」キョロキョロと見まわすトルーパーの視界を、突如白銀の閃光が切り裂いた。「「「アイエッ!?」」」
「イイイヤアアアーッ!」
新たな宇宙ニンジャが、流麗なる回転ジャンプエントリーを果たした。
ひときわ高い岩山に降り立ったその身体は、白銀の未来的宇宙ニンジャ装束に包まれていた。クーフィーヤめいた宇宙ニンジャ頭巾。目元を隠す宇宙ニンジャゴーグル。右手の金属製グリップからスティック状の刃が伸び、ジュッテめいたカタナと化す。
「変幻自在に悪を討つ、平和の使者」
謎めいた宇宙ニンジャはヒロイックなアイサツを放った。
「ドーモ、はじめまして。マボロシです!」
アイサツする声はハヤトのそれであった。しかしオニビトは気付かない。ハヤガワリ・プロトコルを順守した者の正体は99.99%秘匿されるのだ。
「ドーモ、はじめまして。オニビトです。ハヤト=サンをどうした貴様!」「さあね。勝手に探すがいい!」挑発!「生意気な! カカレ!」「「「ハイヨロコンデー!」」」
オニビトの命令一下、ニンジャトルーパーは一斉に軍用クナイ・ダートを投擲した。「「「イヤーッ!」」」
「イヤーッ!」跳躍したマボロシは宇宙ニンジャ伸縮刀を揮い、クナイ・ダートをことごとく空中で叩き落とした。そのまま流れるようなムーブでトビゲリを放ち、トルーパーの一人の頭部をボレーシュートめいて吹き飛ばす!「サヨナラ!」爆発四散!
宇宙ニンジャ装束が引き出す潜在能力は凄まじい。着地したマボロシは、ニンジャトルーパーの群れを迎え撃った。「イヤーッ! イヤーッ!」チュイン! チュイン! スティック状の刃が超振動を放ち、先頭トルーパー二人の胸郭を切り裂いた。「「グワーッ!」」緑色の異星血液が迸る!
「イヤーッ! イヤーッ!」トラースキック! 回し蹴り!「「グワーッ!」」「イヤーッ! イヤーッ!」超振動刺突! 水面蹴り!「「グワーッ!」」トルーパーはみるみるその数を減じてゆく!
オニビトの両目が血走った。「図に乗るなマボロシ=サンとやら! 下級トルーパーとはいえ我がドージョーの教員。これ以上やらせぬぞ!」
ニンジャソードを抜き、ベルトの機械に手を掛ける。「我が故郷、惑星オニガ・ミにて学び極めしオプチカル・ブンシン・ジツ! とくと見よ!」
スイッチON!『ブンシン・モード』合成音声と共にLEDランプ点灯。その瞬間!「アイエッ!?」ナムサン! いかなるテックの効能か? マボロシの視界は6つに分裂し、マンゲキョめいてリボルバー回転を始めたではないか!
「アイエエエエ!」視覚を掻き乱されてよろめくマボロシに、6人のオニビトが殺到する!「イヤーッ!」
「イ、イヤーッ!」マボロシは闇雲に飛び退いた。空中でバランスを崩し、五体が地に叩きつけられる。「グワーッ!」ブザマ! だがオニビトとの距離が開き、視覚攪乱効果は僅かに弱まった。退き際を誤るべからず。
「オニビト=サン、勝負は預けた! イヤーッ!」うっすらとオーバーラップする本来の視界を頼りに、マボロシは必死に後方跳躍を繰り返した。「イヤーッ! イヤーッ!」
岩山の向こうに消えんとするマボロシを、トルーパーの生き残りが追いかける。「オノレ!」「同僚のカタキ!」「絶対逃がさない!」
「静まれェーッ!」オニビトが一喝した。
「オヌシらはそれでもドージョーの教員か! いま優先すべきは生徒のモモチ=サンであろう!」
威厳に満ちたセンセイの言葉に打たれ、トルーパー達は一斉にニンジャソードを納めてオジギした。「「「「「ドーモスミマセン!」」」」」
「シツレイしました。直ちにモモチ=サンの捜索を再開します。センセイは如何なされますか」
「ウム」上級トルーパーの質問にオニビトは腕組みした。「儂は一旦ドージョーに戻る。コーガー団長が視察にいらっしゃる予定だ」歯の間から押し出すような声音であった。フルフェイスメンポの下は渋面であろう。
「だがその前に! ヌキウチ・テストを執り行う!」
【#2へ続く】
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