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「それいけ! ゴールドバーグ家」の全話視聴を完遂できなかった

 2010年代のある8月13日。我が家のHDDレコーダーが、予約した覚えのない海外ドラマをリコメンドめいて自動録画していた。それが始まりだった。

 ファミリーシットコムにしてはオタク濃度が高いのが気になった。でもまあ長いことやってるドラマっぽいし、たまにはそんなエピソードがPOPすることもあるだろう……ぐらいに考えたおれは、適当に流し見しつつレコーダーの自動録画にまかせていた。

 そしたらわずか2話後にナイト2000が網にかかった。エッちょっと待って! これが通常運転なの?

 しかも「Directed by Lea Thompson」て! マーティのママが監督してるのこの話!? だったらデロリアンの話とかにすべきでは? とか思ったら、デロリアンはシーズン1でとっくに出演済みだった。

▲バック・トゥ・ザ・フューチャーの日に合わせて公式動画をアップするABC。いい仕事。

 これは全話視聴せねばなるまい。おれは動画配信サービスで過去のエピソードを探し始めた。ところが「ゴールドバーグ家」を配信しているのは2019年8月現在dTVのみで、しかも11月いっぱいで配信終了予定だったのだ。なんてこった。出会うのが遅すぎた。

 TOKYO MXでオンエア中のシーズン4以降はこのまま追っていけばいいとして、それ以前の未視聴エピソードはおよそ75話。配信終了までは3ヶ月ちょい。普通に履修できる量ではある……おれ一人だけで観るならば。

 ところがそうは問屋がおろさなかった。うちの嫁も流し見段階でこのドラマにハマっており、2人揃って観る以外の選択肢はもはや存在しなかった(おれだけこっそり履修を進めるのは良心が許さない。だいいち視聴履歴でバレる)。しかも、嫁が一日に摂取できるのは1~2話が限界だった。「内容が濃すぎて疲れるから」という納得の理由だ。

 ……そして迎えた11月30日の夜。あと2エピソードというところで残業疲れの嫁が寝落ちして、全話視聴チャレンジは失敗に終わった。TOKYO MXの放送も、シーズン5で最終回を迎えていた。もはやおれにできるのは、シーズン6以降のオンエアと配信再開を祈りつつ、その時に備えてこのドラマのおすすめポイントを書き留めておくことだけなのだ。

ポイント①:実話ベース

 ペンシルベニア州ジェンキンタウン在住の中流家庭・ゴールドバーグ家の末っ子アダム少年が大人になって、輝かしき80年代の日々を振り返る……というのが「それいけ! ゴールドバーグ家」の基本設定である。実際これはホントの話で、このドラマのクリエイター兼ショウランナーのアダム・F・ゴールドバーグ氏こそ、大人になったアダム少年その人なのだ。「ちびまる子ちゃん」におけるさくらももこポジですね。

 アダム少年は重度の映画オタクで、VHSビデオカメラで当時の映像を膨大に撮り溜めていた。兄弟や友達との悪ふざけ、お手製のビデオクリップ、家族との生活の一コマ、等々。ドラマのエピソードはそれらを元ネタに構成され、ショウの最後に「献辞」としてオリジナルのVTRを披露するのが基本フォーマット。視聴者は「エッあんなあほなこと実際やってたの君達!?」と驚かされる寸法だ。

▲実在80'sティーンネイジャーのドタバタな日常を、ドラマで完コピしていくスタイル。

▲リアルとドラマのゴールドバーグ家を比較検証したWeb記事。「こんなあほな出来事が実際あったの?」「あったよ」みたいな内容が多く、ヤバい。


ポイント②:オカンが最強

 怒りっぽく口の悪い父マレー、過干渉な母ビバリー、遊びたい盛りの長女エリカ、自信過剰なボンクラ長男バリー、高濃度オタクの末っ子アダム、そして遊び人の祖父アルバート(ジジ)。それぞれクセが強いゴールドバーグ家の面々の中で、一番ヤバいのは誰? と聞いたら、十人中十人がこう答えるだろう。「そりゃママ一択だろ」と。

 ビバリー・ゴールドバーグ。光の毒親。80年代の煮こごりめいたファッションに身を固め、シロップをぶちまけたようなクソ重甘い愛情を子供達(特にアダム)にドバドバ注ぐ一方、家族のためなら学校だろうがバイト先だろうがガンガン乗り込んで圧の強いクレームを入れまくり、タガの外れた策謀を巡らせる。

▲メイキング動画。毎日がダサいセーターの日みたいなママのファッションを支えるスタッフに感謝。

▲息子のハロウィンデートに割り込んじゃダメ! このあとひとり取り残されたママは、母親抜きのハロウィンがどれだけ危険かアダムにわからせようと、お菓子にカミソリを仕込むのだった。アイエエエ!

 家庭の中でも外でもめちゃくちゃ迷惑な存在ではあるが、物語の推進力としてはV8エンジンなみに頼もしい。彼女にドン引きするか逆に笑えるかが、本作を楽しむための試金石と言えよう。ちなみに嫁にはバカ受けでした。

ポイント③:優しいオタク濃度

 大人になったアダム氏は、「レディ・プレイヤー1」のアーネスト・クラインと共にスターウォーズオタクロードムービー「ファンボーイズ」の脚本を執筆したり、80’sポップカルチャーを題材にしたドキュメンタリー映画の制作に多数参加している。ガチガチのガチだ。

▲「ファンボーイズ」で活躍したダン・フォグラーは、「ゴールドバーグ家」にもマービン叔父さん役でちょいちょい顔を出す。(さっきのBTTF動画でデロリアンぶつけてたね)

▲Garbage Pail Kids(キャベツ人形の暗黒パロディトレカ)のドキュメンタリー。題材の選定にガチの風格が漂う。予告編の1:18あたりで本物のアダム氏が出てくる。

 そんな彼がプロデュースする「ゴールドバーグ家」のオタク系ネタは、しばしばプライムタイムのファミリーシットコムらしからぬ濃度を見せる。ナイト2000はむしろ一般向けに配慮していた方だった。

▲リタイア状態のリック・モラニスが、ダーク・ヘルメット(の声)役でカメオ出演して話題になった時の記事。いや確かにこの回のネタは「スペースボール」だったけど、ダーク・ヘルメット本人が出てくる必要性はストーリー上まったくなかったよ? 趣味では?

 おれが特に好きなのはシーズン3の「ダンジョンズ&ドラゴンズ」回。バスケの授業でいいとこ見せようとしたアダムが、クラスのオタ友グループを裏切ってジョックス達とチームを組んだら、オタ友にD&Dでリベンジマッチを挑まれる話だ。

 体育の先生をゲームマスターに迎え、バスケコートでD&Dをプレイするジョックスチームvsナーズチーム。絵面がもう既に楽しいのだが、そこで流れるBGMがカーティス・ブロウ「バスケットボール」のD&Dバージョン! しかも本人が歌ってる! あほか(褒)!

 単にオタク的に濃いだけでなく、バスケの試合で散々ヘボ扱いされてきたアダムがD&Dでは逆にジョックスをヘボ扱いしてしまい、なんらかの気付きを得た双方が歩み寄る……というハートフルな展開にほっこりする。

 相手の好きなことを(その良さがわからなくても)尊重したり、絶対仲良くできなさそうな相手と思わぬ共通の趣味があったり、基本相互理解ベースで話が着地するのが心地よい。かの「ナーズの復讐」も、シリーズが進むにつれてナーズvsジョックスの単純な二項対立から脱却していったというし、2010年代のドラマにはこのぐらいの寛容さがふさわしかろう。優しい世界……

▲おっかない上級生と「ベスト・キッド」で相互理解を果たし、成し遂げるの図。美しきダブル鶴の構え。


ポイント④:ハイテンポ

 シットコムにつきもののラフ・トラック(観客の笑い声)が、このドラマにはない。演者の動きでパントマイム的に笑いを誘うカットも基本ない。それらの「間」を省いて稼がれた尺はほぼすべてダイアローグに注がれ、全キャラクターは全力でセリフの弾丸を撃ちまくる。しゃべくり漫才に迫らんとするそのテンポは、むしろ日本の視聴者こそ抵抗なく楽しめるかもしれない。

セリフとセリフの間もめちゃくちゃ細かくつまんでる。確信犯だ!



未来へ

 これだけおすすめしておいて、2019年末時点ではサンテレビ以外に視聴手段がないのです。鬼か!(おれが)

【追記】と思ったらソニー・チャンネルでもやっとったわ! でも既にシーズン4の後半で未見エピソード放送済みだったわ!→そして最終的にはソニー・チャンネルも死滅したのだった。

 実写系シットコムは、出演者の成長(もしくは加齢)と切っても切れない関係にある。登場人物の相関図は時とともに変化し、いつかは何らかの終わりを迎えるさだめ。「ビッグバン・セオリー」も「モダン・ファミリー」も終了が決定した。シンプソンズやサザエさんのようにはいかないのだ。

 本国ではシーズン7まで更新されているものの、「ゴールドバーグ家」もいつかは終了するだろう(アダムがハイスクールを卒業するあたりが潮時ではないか)。それはそれで運命として受け入れるが、できれば日本でも最後まで楽しませてほしい。贅沢を言うなら、90年代を舞台にしたスピンオフシリーズ「Schooled」も、何らかの手段で視聴できるとうれしい。

 ポケモン回とかチョー観たいんでね!

(おわり)


【追記】推しエピソードまとめ始めました


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