【ライダーファイト・アット・ザ・エキスポ・サイト】
鴉たちがゲーゲーと鳴き交わす声だけが微かに聞こえてくる。陽光降り注ぐ林の中、木製の白い十字架がマーカーめいて立っていた。エキスポ記念公園に程近いロケーションでありながら、あたかも二十年以上もの間にわたり足を踏み入れる者がなかったかのような、結界めいたアトモスフィアが周囲に漂う。
それを破ったのはデスカメレオンとハインリッヒ博士であった。荒々しく枯草を踏み散らしながら十字架に駆け寄る彼らに、ルリコとトウベエ・タチバナを引っ立てる戦闘員の一団が続く。ライダーが追って来た時の人質にと、デスカメレオンはルリコ達を拘束するに留め、処刑を先延ばしにしていたのだ。
十字架は経年劣化を微塵も感じさせず、何らかのオカルティックな加護を思わせた。「コレダ、コノ下ダ!」ハインリッヒがその根元を指し、デスカメレオンは狂喜して叫んだ。「とうとう見つけたぞ! この下に埋もれる何十兆という宝がショッカーのものになる! ショッカーの力はますます強くなる!」
「イヤーッ!」デスカメレオンは改造人間腕力で十字架を引き抜き、そのまま素手で地面を掘り始めた。ハインリッヒも興奮のあまり、もどかしげに地図をポケットにねじ込みながら、スーツが汚れるのも構わず四つん這いで土を掻いた。囚われのルリコとトウベエは、それをただ見ていることしかできない。
「あった!」デスカメレオンが叫んだ。おお、見よ! 土中から僅かに露出するエンブレムは、まごう事なきナチス鉤十字!「総統の宝!」「コレニ違イナイ!」狂ったように掘り続ける二人を前に、ルリコとトウベエは絶望的に顔を見合わせた。彼らの命がけの奮闘が、いままさに水泡に帰そうとしていた。
やがて、カンオケ大の金属ケースが地中から姿を現した。特殊合金とおぼしき蓋は26年の歳月を経てなお錆ひとつなく、ペイントされたナチス旗の周囲には豪奢なエングレービングが刻まれている。ナチスの財宝に相違なし! デスカメレオンは震える手で蓋を掴み、一気に持ち上げた。「イヤーッ!」
だが次の瞬間、「「アイエッ⁉」」デスカメレオンは驚愕し、ハインリッヒが顔を引きつらせて飛び退いた。
「カメン・ライダーナンデ⁉」
デスカメレオンは絶叫した。然り! ビロード張りのケース内に腕組み姿勢で仰臥していたのは、財宝ではなくカメン・ライダーであったのだ!「アイエエエ!」パニックに陥った戦闘員の一人が、手にした十字架をライダーの胸に突き立てんとする。吸血鬼ハンターめいて!
だが一瞬早く「トォーッ!」カメン・ライダーは高々と垂直跳躍し、頭上の枯れ枝に鉄棒選手めいて掴まった。間髪入れず「トォーッ!」再跳躍! ルリコとトウベエの背後にキリモミ回転で着地すると同時に、改造人間腕力で拘束ロープを引きちぎる! 人質救出完了だ!
(「仮面ライダー」第7話「死神カメレオン 決斗! 万博跡」より)
【追記】どうしてこんなことを?
第1期昭和ライダーのメインライターを務めた偉大なる脚本家・伊上勝=センセイの作風を、ご長男の井上敏樹=センセイは「紙芝居的」と評しました。なるほど確かに、見せ場を羅列して展開を圧縮するスタイルは、限られた枚数にストーリーを詰め込む街頭紙芝居(言うなればこどもパルプですね)を連想させます。
では、前述のシーンの山場を紙芝居的に解釈するとどうなるでしょうか。描写すべき事柄は以下のとおりです。
何も考えず紙芝居フォーマットに落とし込むと、以下のようになります。
必要枚数3枚。ちょっと多いですね。しかも2枚目の段階で「中身を持ち出したのは仮面ライダーでは?」との予測が立ち、3枚目の盛り上がりをスポイルしかねません。そこで2枚目と3枚目を圧縮すると……
オンエアバージョンの展開になります。財宝消失とライダー出現を強引にまとめた結果、ライダーのエントリー方法に狂気的とも言える歪みが生まれました。でも、こっちの方が予測不能で圧倒的に面白い。圧縮による異形化が別次元の魅力を生み出したこの瞬間に、おれは極めて濃厚なニンジャアトモスフィアを感じずにはいられなかったのです。そういうわけです。
余談ですが
伊上勝=センセイの作風としてもうひとつ、「説明セリフを厭わない」というのがあります。ヒーローがヴィランの裏をかいて「バカな! 貴様は〇〇で✕✕していたはず!」的に詰められたら「残念だったな! 俺はあらかじめ△△を◇◇していたのだ!」とぜんぶ口頭で語っちゃうやつですね。逆転した瞬間のカタルシスこそが重要で、理由付けは適当でかまわない……というシナリオ哲学です。
その哲学が極まったあげく、「仮面ライダーストロンガー」では「そんな事おれが知るか!」という伝説の名セリフがPOPしました。これをブラッシュアップして汎用性を付加し、「それを言われちゃおしまいよ」的な問答無用の説得力を持たせたフレーズが、ニンジャスレイヤーには存在します。
ね?
(おわりです。ニンジャスレイヤーに興味を持った貴方は何かしらの手段でエントリーしよう!)
【さらに追記】
この話のプロット自体、伊上センセイが脚本を手掛けたTVショウ「名探偵明智小五郎シリーズ 怪人四十面相」からのリユースだったと知りました。やべえ……。
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