映画を観た記録144 2024年8月10日   ジャン・リュック&ピエール・ダルデンヌ兄弟『サンドラの週末』

Amazon Prime Videoでジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟『サンドラの週末』を観る。

一言で言えば、本作品は、フランス国内のブラック企業を描いた作品である。工場労働者であり、母でもあり、妻でもあるサンドラは、精神的な体調不良で病気休職していた。体調が回復し、復職しようにも阻む経営者が存在する。阻み方はエグすぎる。サンドラを復職させるか、賞与か、投票で決めるというものだ。一度、投票で大多数の賞与を選んだことでサンドラの復職は阻まれた。しかし、サンドラも生活していかなくてはならないから、社長に直談判し、二度目の投票を行うことを決める。社長はアジア勢の太陽光に負けない為にも、とか言い捨てる。

このオープニングだけで資本主義の酷薄さ、冷淡、暴力性がまざまざと見せつけられる。

賞与か、復職かを選び取る投票などあっていいものか。

サンドラは、精神疾患であり、その者を復職させないのはいかなることか。障害者人権条約に抵触しているではないか、とさえ頭に浮かんできた。

映画を観ながら、ずっと頭の中で駆け巡っていたのは、フランスではもはや労働組合は存在しないのか、とか、フランスの連帯というのは実は嘘ではないか、と考えていた。

サンドラは、自分の復職のために、復職に投票するよう、同僚の家々を尋ね、依頼する。そのことがサンドラのストレスにもなり、オーバードーズにもなる。

本作品を観て、つくづく感じたのは、フランスが人権大国というのは真っ赤な嘘であり、庶民は生活に追われ、賞与か、他人の復職かを投票で選ばせたら、賞与を選んでしまうということである。

本作を観ることでフランスが人権大国、左翼が強いというのがいかに欺瞞であり、嘘なのかがわかってしまう。そして、フランスに憧れを抱く日本人が多いが、庶民の生活は日本と同じく、苦しく、もしかしたら、日本よりひどいとさえいえるのだ。

本作では触れられていないが、フランスでは「共同親権」まで成立しており、相当、反動政治が吹き荒れている。国民連合の影響ではなく、あきらかに、シラク、サルコジ、オランド、マクロンの反動政治によるものである。国民連合が現れようが、現れなかろうが、中道政権の行政府が「反動政治」を進めているのである。つまり国民連合さえ非難すればよいという自称左翼の見方は間違いであることが本作品で検証づけられる。

サンドラは復職できたのだろうか。

本作を観てもらうしかないが、一言、述べれば、サンドラは、社長の提案で復職は可能であったが、その提案を断る。

その提案を断ることでサンドラは労働者の尊厳、誇りを守り抜いたのである。

明らかにプロレタリア映画である。

そして、ダルデンヌ兄弟は、ロベルト・ロッセリーニの系譜に位置する。

ダルデンヌ兄弟こそ、現代のネオレアリズモである。

ちなみにジャン・リュック・ゴダールは投票するなら、ジャン・マリー・ルペンの「国民戦線」であると皮肉まじりに語っていたこともある。フランスの行政府の反動政治をあてこすったのだろう。

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