映画を観た記録162 2024年8月31日 クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・タイム・イン・ハリウッド』
Amazon Prime Videoでクエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・イン・タイム・イン・ハリウッド』を観る。
パラレルワールドの映画である。
タランティーノお得意の複数の物語が結びつくという構造である。
レオナルド・ディカプリオ演じる架空のスター俳優リック・ダルトンの物語。彼は落ち目である。
ブラッド・ピット演じるリックのスタントマン・クリフの物語。クリフは、妻を過去に殺したという噂がハリウッド内で広まっている。
パラレルワールドの素材として、ロマン・ポランスキーとシャロン・テートがリックの家の隣に住む。
そして、クリフと遭遇したマンソンズファミリーの物語。マンソンズ・ファミリーもパラレルワールドの素材であり、映画ではリック家を殺しに行くが、現実はその隣のシャロン・テートを殺している。
それらの物語が個々に語られ、最終的にはマンソンズ・ファミリーがリック家を襲撃しにいくというドラマ構成である。
タランティーノが天才的であるのは、この種のドラマを『蒲田行進曲』だとか『グッド・モーニング・バビロン』のような大衆に阿るお涙頂戴、過去の映画産業が廃れて云々という物語ではなく、当時のヒッピー・ムーブメント、ロック音楽とともに演出してしまうことである。
タランティーノは、古典的ハリウッド映画とアメリカン・ニュー・シネマとスプラッタームービーの要素を上手くブレンドしている。ここにタランティーノの批評性と突き放すまなざしがあり、それが天才である証拠である。
在りし日のハリウッドを描くといっても、西部劇のスター俳優とはいえ、テレビでのスターである。テレビが映画を駆逐してく時代にタランティーノはドラマの軸を置いたことが、天才の証拠である。
マンソンズファミリーが、リック家を襲撃しにいく姿が『チャーリーズ・エンジェル』のようなバカバカしさがあって良い。
タランティーノもまた、客に映画に没入させるのではなく、ゴダールのようにブレヒト的異化効果を導入する現代的映画作家である。
コーエン兄弟よりタランティーノのほうが太々しい。
コーエン兄弟は、ある規格の中での戯れでしかないが、タランティーノもその戯れなのだが、タランティーノには冷ややかなまなざしがある。それは所詮、作り物でしかないという視線が彼の映画に付きまとっている。
タランティーノを観ると、映画を目指す連中は、現場に入ると、迂闊に現場染まってしまうのであり、その有害性がないことがわかる。その経験がないタランティーノはギークの映画作家のように見られるが、実は戦略性があるのだろう。現在のように映画産業が機能していない時代は、映画をひたすら見て映画術を学んだほうがいいのかもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?