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たまには地元のケーブルテレビでも出てみるもんだ。思わぬ効果で20年、30年来の知人がポツリポツリと来店してくれる。

自分の人生でも一番どーしよーもなかった16歳の時勤めてた塗装屋さんの親方のご両親まで訪ねてくれた。そして忘れもしないあの長い一日が一気にフラッシュバックする。

目の前で親方が死んだ日。


何にもない福井を飛び出して夢探そうぜ!って友達と新聞配達してた16歳。田舎もんがいきなり東京にいくのはちょっとビビったせいか、住んでた場所は何故か東京のちょっと手前の神奈川県川崎市。転職情報誌DUDAで調べたとこだ。それでも朝刊と夕刊の合間にチョイチョイ東京に行ってはみたものの、何か運命的な出会いがある訳でもなく結局夜逃げ同然に福井にカンバック。その後、フラフラしてるとこに声をかけてくれのが、東京に行く前に働いてた福井の塗装屋で一緒だった親方のノブさん。23歳で独立して一人でやってたとこを帰ってきた俺の噂を聞いたらしくて。オレはと言えば金髪で買ったばかりの直管で爆音の真っ赤なZ400GPで夜な夜な飛び回り、朝は会社に着く100mくらい手前からエンジンを切って通勤する毎日。ノブさんはそんなクソガキを正そうとする訳でもなく、ちゃんと話を聞いてくれた。プライベートでも良く遊びに誘ってくれて、ノブさんの彼女や家族、友達とも仲良くさせてもらってバーベキューや泊りで長野にスキーにも連れてってもらったり。後から思い返せば言葉ではなく色んなことを伝えようとしてくれてたんじゃないかな。塗装の仕事は楽しかったし普段は二人で黙々とペンキを塗ってた。

そしてその日は日曜日でめずらしく休日出勤だった。

3階建ての小学校の屋上のFRP防水工事。応援も一人来てくれてコンクリートの土間にひたすら透明の樹脂をローラーで塗る作業。終わったら焼肉でも行こうぜーとか言いながら。そしてそれは叶わなかった。

老朽化して錆びた手摺はすでに取り払われており、身軽なノブさんは際の方の一段高くなった部分に乗りながらローラーを転がしていて、まだ乾いていない透明の樹脂の上に足を乗せてしまい、オレの目の前で突然消えた。慌てて覗きこんだらスローモーションの様に地面に叩きつけられる瞬間だった。すぐにもう一人の人と下に降りたら何の外傷もなく寝ているだけの様に見える安らかな顔のノブさんがいた。ただ良く見ると耳から血が出てる。もう一人の人に電話をかけてもらい、救急車を待つ間にそれはあっという間に血の池になっていった。その状況を見た救急隊員は一目で分ったのか慌てる様子すらなかった。そのもたもたした態度にブチギレながら血まみれのノブさんをオレが抱えて担架に乗せて、そのまま一緒に病院まで行き1時間ほどあらゆる手段を尽くしてくれた。すぐ駆けつけたノブさんの彼女の気が狂ったような様子や、両親の泣き叫ぶ姿は今でも焼き付いている。23歳。あまりにも急すぎる。

ゴミクズのようなオレが生きて、あんなに家族思い、友達思いで一所懸命に生きてたノブさんが死んだ。あの日からなにかが劇的に変わった訳でもない。気づけばあの時のノブさんの倍くらい生きた。でもノブさんもオレの中にずっと生きてるんだよな~。死ぬってそういうことなんじゃないかな。俺にその日が来たら誰かの中に生きられるかな。



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