アトレティコ戦・2nd.legを振り返る
【試合概要】
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【システム】
意表を突くシステム
ユベントスは実際には4-3-3ではなく、エムレジャンを右CBに置く下図のようなシステムを基本形として戦った。
この3-4-3(3-5-2)システムは直前のウディネーゼ戦でも見られたが、その時の3バックは左からルガーニ、バルザーリ、カセレスで、3枚とも本職CBの選手を置いた。
では、なぜアッレグリは中盤の選手であるジャンを右CBで起用したのか。
その理由は、主に3つある。
・試合開始まで3バック布陣を相手に悟られないようにするため。
ユベントスの先発11人を見れば、誰もが4-3-3か、ベルナルデスキを2列目で起用する4-4-2を基本とするシステム(それらの併用)だと思うことだろう。
4-3-3や4-4-2はファーストレグと同じである。
一見4-3-3っぽい名前を連ねることで、シメオネやアトレティコの選手に"また同じことをしてくる”と思わせることに成功した。
これが、後述する [アトレティコの2トップの守備を無力化する] という1つの大きな目標を達成するための要因となる。
・ルガーニは交代要員としてベンチに残しておく必要があったため。
ルガーニを右CB起用すれば、ベンチには本職DFが空中戦にそこまで強くないカセレス1人となってしまう。
ジャンを先発起用しても本職MFとしてベンチには優秀なベンタンクールや期待の新星ニコルッシ・カヴィーリャがいる。さらには、ベルナルデスキを中盤に落としてディバラを途中投入するプランも考慮すれば、DF選手に比べMF選手が多いことがわかる。
・パス技術など攻撃面でも存在感を出せることが求められたため。
ルガーニやカセレスに比べ、ジャンは中盤の選手だけあってやはり基本的な足元技術は高い。
2点以上取らないといけない状況でもあり、ユベントスは3バックシステムで、主にサイド攻撃(後述)でアトレティコを攻略しようとしたため、右CBの選手には攻撃力が求められた。
では、具体的にユベントスはこのメンバー、このシステムでどのようにアトレティコを粉砕しようとしたのだろうか?
【前半のアトレティコ対策 ~攻撃~】
(1)3バック+ピアニッチでのビルドアップ
アトレティコは2トップから始まる組織的な守備戦術をもつ、欧州屈指の守備力を誇るチームである。
彼らから複数点を奪うには、2トップの守備を無力化させなければならない。
アトレティコの2トップは、簡単に説明すれば、相手CBのパスコース(主にボランチへの)を切りつつプレッシャーをかけ、ロングボールを蹴らせたりパスミスを誘発させるべく動く。
この2トップのプレッシャーに連動するようにサイドハーフや中盤の選手がじりじりと相手を押し込む。
これに対しユベントスは、3バック+ピアニッチで菱型(2つの三角形)ブロック(下図)を形成し、常にアトレティコの2トップの守備を回避した。
この菱型システムにおいて重要なのは、ボヌッチの両脇のCBであるキエッロとジャンのポジショニングである。
3バックといいつつ、キエッロとジャンをややサイドに置くことで、WBのスピナツォーラとカンセロのポジションを押し上げる、いわゆる偽CB(SB)的な役割を両脇のCBに課した。
これにより、アトレティコの両サイドハーフ(コケとレマール)が、押し上げられたスピナツォーラとカンセロにより、アトレティコ陣内の低い位置に固定される。
それに伴い、アトレティコの中盤の選手も低い位置を取らざるを得なくなり、2トップも必然的にハイプレスをかけづらくなる。
こうして、アトレティコの選手全員をアトレティコ陣内に押し込めることに成功する。
さらに、アトレティコが押し込められることでキエッロとジャンはさらに高い位置を取ることができるようになる。
この押し込みが顕著に表れたシーンがこちら
この好循環的システムがビルドアップ時にもたらした利益は主に2つ。
・ボヌッチがほぼ常にフリーとなっていた。
ボヌッチがボールを持ったとき、ややサイドに開く両脇のCB(キエッロとジャン)とピアニッチの計3つのパスコースがあり、菱型を形成する4人の距離的にも、アトレティコの2トップがパスコースを切りつつボヌッチにプレッシャーをかけるのは不可能である。
よって、ボヌッチはほぼ常にフリーでプレーしていた。
ユベントスは、自チームのCBで最もフィード能力に優れた選手をフリーでプレーさせることに成功したのだ。
・ピアニッチに対するプレッシャーが甘くなった。
これが最大の利益である。
アトレティコは、2トップにはボール奪取までは求めておらず、彼らの最低限の仕事はピアニッチを自由にさせないことだった。
というか、”ピアニッチを自由にさせない”というのは、アトレティコに限らず、ユベントスと対戦するすべてのチームの共通の目標でもある。
グリーズマンとモラタは菱型システムへの対応を自分たちで前半中に発見することができず、そのうちに守備意識自体が低下してしまい、ピアニッチへのプレスも甘くなっていく。
こうして比較的自由にプレーすることを許されたピアニッチは、ビルドアップ時に限らず、あらゆる場面でボールをさばき、ユベントスの攻撃を活性化させた。
以上の二点から、ユベントスは試合開始直後からアトレティコを圧倒、前半はほとんど常に主導権を掌握していた。
【前半のアトレティコ対策 ~攻撃~】
(2)徹底的なサイド攻撃
アトレティコを圧倒していたユベントスは、高くワイドなポジションの両脇CBを起点として、徹底的にサイドから攻撃した。
自陣に全員が押し込まれたアトレティコは下図のような布陣を取った(取らされた)。
ユベントスのボールまわしは基本的に青枠内で行われる。
ピアニッチやベルナルデスキは青枠外のピッチの中央付近で受け、空いている別の青枠スペースに供給したり、中に入れたり、と、各青枠スペースをつなげる役割を担う。
アトレティコはそもそも前述のようにピアニッチに好き放題にやられているため、サイドでボールをまわすユベントスについていけず(ついていくのが限界で)、赤枠内のピッチの中央付近を固めることしかできず、ただユベントスの猛攻を必死で防ぐ時間が続く。
ただ、これによって中央突破が非常に難しくなったという面もある。
構造的、システム的に完敗しているアトレティコも、最低限中央を割らせないようには保てており、そこは敵ながら賞賛に値する。
結局、ユベントスは前半のうちに1点しかとることができなかった。
【前半のアトレティコ対策 ~守備~】
ワイド3バックがもたらす優位的ネガトラ
ユベントスの3バックは攻撃面に圧倒的な優位性を生み出すと同時に、守備面においても次の2点において、同様に優位性をもたらした。
・密集地帯を創出しているので奪われた直後に奇襲的プレスをかけられる。
ピッチを広く大きく使えているユベントスに対し、アトレティコは狭い範囲に選手が密集してしまっている。
なので、例えばユベントスが中央突破をはかって失敗しアトレティコがボール奪取したとしても、選手どうしの距離が近すぎてパスミスが起こりやすく、ユベントスの選手にすぐに囲まれて奪われてしまう。
さらにユベントスは、奪い返した後は、アトレティコと異なりワイドに選手がいるので大きく放り出せば奪われにくい。
こうして波状攻撃が成り立つ。
・カウンターを抑止できる。
前述したように、アトレティコは ”全員が” 自陣に押し込まれてしまっているため、必死にDFが大きくクリアしても前線に選手がいないので、ほとんどセカンドボールを拾えない。
さらに、ピッチを自由に走り回るピアニッチや、高い位置を取っていた対人性能に長けたキエッロやジャンが、アトレティコFWに即座にプレスをかけられるので、運よくグリーズマンやモラタに渡っても簡単にロストしてしまうことが多かった。
このように、ユベントスのワイド3バックシステムは攻守においてアトレティコを圧倒した。
【前半のアトレティコ対策 ~おまけ~】
ベルナルデスキとマテュイディ
ピアニッチと同様、ベルナルデスキもユベントスの攻撃の質を高めるのに大きな役割を担っていた。
リーグ戦でディバラがみせるようなリンクマンとしての役割や、攻撃に変化を加える選手としてピッチを駆け回った。
また、マテュイディは、チャンネルランなど(アトレティコの選手が密集していたのでチャンネルが開く機会は少なかったが)豊富な運動量でスピナツォーラやロナウドをサポートし、彼らのドリブル突破に間接的に関与したほか、チームのミスに対してもいち早く反応しカバーした。
【後半 ~試合展開の分析~】
(0)後半の大まかな流れ
さて、前半はシメオネも予想外の3バックシステムでユベントスが圧倒したわけだが、アッレグリが手の内を完全にさらした以上、シメオネはハーフタイムでの修正が求められた。
後半の45分間は、シメオネとアッレグリのやりあいで試合展開が常にあわただしく動き続けていた。
後半の主な流れは以下の通り。(動画は準備することができませんでした)
(なお、表記した時間は正確ではなく大体の時間です)
(1)45~57:モラタかグリーズマンのどちらか一枚を前線に残し攻撃の起点とする(アトレティコ)
(2)57~:コレアを投入し4-3-3可変に変形(アトレティコ)
(3)67~71:ディバラ投入で打開はかる→5分間のカオス(ユベントス)
(4)72~:ディバラ投入の意図がようやく選手に伝わる(ユベントス)
(5)77~:ビトーロ投入で左サイドからも攻めるように(アトレティコ)
(6)80~:キーン投入で前がかりなアトレティコの裏を突く(ユベントス)
という6段階に分けられる。それぞれについてもう少し詳しく見ていこう。
(1)45~57:モラタかグリーズマンのどちらか一枚を前線に残し攻撃の起点とする(アトレティコ)
シメオネがハーフタイムで加えた修正は、2トップのうち1枚をなるべく前線に残す、というものだった。
これにより、セカンドボールを拾い比較的高い位置でカウンターの起点を作ろうとした。47:06~それが顕著に表れたシーンなので、見てほしい。
しかし、FW以外の8枚の並びは特に変更しなかったので、前半と同じようにユベントスに押し込まれる場面も見られ、2失点目に至る。
(2)57~:コレアを投入し4-3-3可変に変形(アトレティコ)
2-0となりより厳しい状況になったシメオネは、レマールに代えてコレアを投入し4-3-3可変の4-4-2システム(下図)に移行する。
いや、4-3-3可変システムに"移行した"というよりは、アトレティコの本来の4-4-2システムには4-3-3可変が標準装備されているので、ユベントスの押し込みによって機能停止していた4-3-3を"復旧させた"と言ったほうが適切かもしれない。
コレアの投入によって、1枚目の基本形(4-4-2)から、2枚目や3枚目の4-3-3に変形する選択肢を増やすことに成功したのだ。
4-3-3の3トップでユベントスの3バック+ピアニッチに効果的にプレッシャーを加えられるようになったので、今度はアッレグリがこれに対応する。
(3)67~71:ディバラ投入で打開はかる→5分間のカオス(ユベントス)
アトレティコの4-3-3へのアッレグリの回答は、スピナツォーラに代えてディバラを投入する、というものだった。
しかし、アッレグリがディバラ投入のプランを選手たちに伝えていなかったのか、スピナツォーラとの交代が本来のプランと異なっていたのか、このディバラ投入が混乱を招き、一時的に構造が大きく変化する。
具体的には、ディバラ投入からの5分間、おそらく本来の意図と異なっていたであろう下図のシステムが構築された。
ベルナルデスキの持ち前の器用さで彼が何とか左サイドバックを務めていた。マテュイディがここに入ったりもしていた。
(4)72~:ディバラ投入の意図がようやく選手に伝わる(ユベントス)
71:00~の、必死に何かを話し合うアッレグリやキエッロを見ればわかるが、大体このあたりからユベントスのシステムが整いだす。
結局落ち着いたディバラ投入後のユベントスの布陣は下図の通り。
1枚目の4-4-2と2枚目の4-3-3を使い分ける布陣だ。
ポイントはジャンの右サイドバック起用。この試合でジャンは右CB、右IH、右SB、の3つのポジションでプレーした。意外に器用な面も持っているようだ。
また、4-3-3時にピアニッチではなく、より広範囲をカバーできるマテュイディをアンカー起用することで、守備に安定感がでた。
(5)77~:ビトーロ投入で左サイドからも攻めるように(アトレティコ)
上記のユベントスの対策に対し、シメオネはビトーロを投入する。この目的は、左サイドからの攻撃を活性化させることにある。
ユベントスの左サイドにいるキエッロやカンセロ、ベルナルデスキと比べ、右サイドはジャンが慣れないSBに徹しているほか、ピアニッチやディバラも決して守備能力が高いとは言えないし、ボヌりも期待できるので、アトレティコとしてはユベントスの右サイドを崩したかった。
ビトーロ投入後のアトレティコの布陣は下図。
ビトーロを左サイドから攻める手段に用いた代償はサウールの左SB化。
攻撃的な布陣なので仕方ないが、守備の負担がかなりゴディンとヒメネスにかかる形になった。
サウール左SBの問題点は、ディバラを対処できない点にある。
ディバラとサウールの対面により、ユベントスは右サイドのディバラがサウールをかわしてゴディンやロドリゴを引きつけ、ファールを貰ったり効果的にボールを保持する場面がよく見られた。
アッレグリは、アトレティコのコレア投入による4-4-2の4-3-3可変復旧に対応するためにディバラを投入したと書いたが、もしかしたらディバラ投入は、それによるアトレティコのビトーロ投入に伴うサウールの左SB化という代償を突く目的もあったかもしれない。
そうだとすれば、アッレグリはシメオネの対応を先読みしたうえでディバラを投入したことになる。これが変態と言われる所以か…
(6)80~:キーン投入で前がかりなアトレティコの裏を突く(ユベントス)
一進一退の攻防が繰り広げられている中、マンジュキッチが徐々に機能しなくなってきた。
やや不調気味だったのだろう。削られた痕もあるし、疲れた様子も見られたので、アッレグリはキーンを投入する。
これはマンジュキッチの代わりとして最前線でゴディンやヒメネス相手にポストプレーをする以上に、より前がかりになったアトレティコの裏を突く狙いがあった。
キーン投入後のユベントスの布陣は以下の通り。配置上はそこまで変化はない。
しかし、不調だったマンジュキッチに代えてキーンを投入し、彼がCFとして最前線でゴディンやヒメネスと対峙しつつ、左サイドに流れてファンフランの裏のスペースを突くことで、左サイドにおいては特に良い影響をもたらした。
この布陣で重要なのがベルナルデスキ。
彼が左サイドを支配できるかどうかが最も結果を左右する。
キーンやカンセロとともに、ベルナルデスキが主導して左サイドの覇権を握る。
キーン、ベルナルデスキ、カンセロの主なプレーエリアをそれぞれ赤枠、緑枠、青枠で表した。
結果的に3点目も、彼の左サイドからの突破が功を奏したかたちだ。
これらが、この試合の主な流れである。
【要約】
〈準備段階〉
・アトレティコ
ユベントスの作戦が不明なこと、自分たちには4-3-3可変の4-4-2という確立したシステムがあること、などからアトレティコは特に変更はせず、普段通りのシステムで挑んだ。
・ユベントス
アトレティコ対策、具体的には、グリーズマンとモラタの2トップから始まる連動的プレス対策として、3バック+ピアニッチの菱型ビルドアップを用意。
これをウディネーゼ戦などで試したが、試運転の段階では本番のジャンの右CB起用を悟られないように、カセレスを起用したりして隠し通し、試合開始まで手の内を明かさなかった。
〈前半〉
ユベントスのアトレティコ対策(ワイド3バック)は、攻撃面においては、菱型ビルドアップでボヌッチとピアニッチがフリーでプレーできるようになり、アトレティコの選手全員を自陣深くまで押し込め、波状的なサイド攻撃で圧倒した。
守備面においては、アトレティコの選手全員を押し込めたことで、密集地帯を創出し、ユベントスがボールを奪われた直後、すぐに奇襲的プレスをかけられるようになった。
また、アトレティコはFWまで低い位置にいるので、必死にクリアしても前線に選手がおらず、大半のセカンドボールはユベントスが拾うことができた。
〈後半〉
システム的に圧倒されたアトレティコは修正が求められた。
シメオネが修正し、アッレグリがそれを見て追撃する、名将どうしの戦いが始まった。大まかな流れは以下の通りである。
(1)45~57:モラタかグリーズマンのどちらか一枚を前線に残し攻撃の起点とする(アトレティコ)
(2)57~:コレアを投入し4-3-3可変に変形(アトレティコ)
(3)67~71:ディバラ投入で打開はかる→5分間のカオス(ユベントス)
(4)72~:ディバラ投入の意図がようやく選手に伝わる(ユベントス)
(5)77~:ビトーロ投入で左サイドからも攻めるように(アトレティコ)
(6)80~:キーン投入で前がかりなアトレティコの裏を突く(ユベントス)
【この試合の収穫】
この試合の収穫としては、主に4つのことがあげられる。
・事前準備の質の高さ
この試合の勝因の一つに、ユベントスの事前準備の質の高さがあげられる。
アトレティコ戦セカンドレグでのワイド3バックシステムは、リーグ戦で複数回試せたことが、その完成度を大きく高めた。
リーグで試運転できたのは、リーグ前半戦で勝点を多く積み上げられたためでもある。
また、直前の試合ではCLに向けて主力温存で挑んだが、分厚い選手層のおかげで圧勝し、チームの雰囲気も非常に良かった。
つまり、ユベントスのリーグでの独走状態は、CLで少なからず優位に働くことが証明されたのである。
・エムレジャンとベルナルデスキの可能性
この試合、おそらく初めてジャンが右CBで起用された。カセレスやルガーニではなくジャンの起用は、特に攻撃面においてユベントスを新たな段階に引き上げた。
また、フルタイムで攻守にわたり奔走するベルナルデスキも輝いていた。
世界レベルの相手に対し、ディバラと異なるアプローチで自分の価値を証明できたのは非常に大きい。
・世界に通用する3バックシステムの確立
今季のユベントスは4-3-3(4-4-2)をメインウェポンとしていた。
このアトレティコとの2試合を経て、ユベントスは世界に通用する3バックシステムを確立することに成功した。
これは単にユベントスの攻撃/守備パターンの増加を意味するだけでなく、これからの対戦相手がユベントス対策をしづらくなることにもなる。
・自信
ファーストレグを0-2で終えてのセカンドレグの3-0の逆転突破は、単純にユベントスの自信につながる。
比較的敗戦の少ない今季に、このような経験ができたことは非常に大きいし、これは勝てたから言えることだが、ベスト16からアトレティコという欧州屈指の守備力を誇るチームと対戦でき、突破できたことは、間違いなくとても良い経験である。