【21/22 UEFAユースリーグ準決勝】ベンフィカU19×ユベントスU19
2022年4月22日、クラブ史上初となる準決勝進出を決めていたユベントスU19は、中立地となるスイスのニヨンにて強豪ベンフィカU19を相手に見応えある試合を魅せた。
試合結果は上図の通りで、残念ながら準決勝でUEFAユースリーグを敗退することとなったユベントスU19。
今季のUEFAユースリーグレポも、本稿をもって最後となる。
はじめに
ユベントスU19のUEFAユースリーグ戦歴
今大会クラブ史上初のベスト4となったユベントスU19だが、実はそもそもベスト8進出自体が初めてのこと。
ユベントスU19のUEFAユースリーグ戦歴は上記ツイートの通りで、13/14から始まったUEFAユースリーグでは、ユベントスU19はそのほとんどがグループステージ敗退だった。
と、ここで念のためプレーオフ敗退について少し解説。
UEFAユースリーグ・グループステージは、チャンピオンズリーグのグループステージをそのままユースカテゴリーに当てはめて開催される。
ただ、チャンピオンズリーグと同じなのはあくまでもこのグループステージのみ。
トップチームのチャンピオンズリーグの試合と連動する形でUEFAユースリーグのグループステージの試合がすべて行われたのち、UEFAユースリーグ・ノックアウトステージ(ベスト16)に無条件で参加できるのは、各グループ(A〜Hの8グループ)の1位通過クラブのみ。
3位、4位はグループステージ敗退となり、各グループ2位チームは、ベスト16の残り8枠をかけてプレーオフに進む。
プレーオフでは、UEFAリーグランキング上位32カ国の国内U19リーグ優勝チーム、合計32チームによるトーナメントを勝ち抜いた8チームと、先述のUEFAユースリーグ・グループステージで2位となったクラブ(8チーム)の、合計16チームが抽選で直接対決方式で勝敗が決され、8チームが選抜される。
こうしてベスト16に、グループステージ1位の8チームとプレーオフから勝ち抜いた8チームの16チームが出揃うことになる。
さて、長々と説明してしまったが、もう一度ユベントスU19のUEFAユースリーグ戦歴に戻ろう。
ユベントスU19は、18/19までの6回行われたUEFAユースリーグですべてベスト16にすら行けていなかった。
19/20はファジョーリやトンギャ、ポルタノーヴァなどを擁しベスト16に進出するが、そこで優勝候補のレアルマドリードU19に敗れた(マドリーU19はその大会優勝)。
つまりこれまでのユベントスU19は、欧州舞台では良くてベスト16止まりのレベルのクラブだったのだ。
ところが一転、今季はまずUEFAユースリーグ・グループステージで同組となった優勝候補の強豪チェルシーU19を2戦合計6-2のスコアで撃破すると、ベスト16ではAZ U19、ベスト8ではリバプールU19を破り、準決勝まで駒を進めることができた。
しかも、近年ユベントスU23を創設した影響で、今季ユベントスU19はU19最高学年にあたる2002年生まれの選手をすべてU23に登録させているので、実質的に高校3年生のいない高校サッカーチーム状態となっている。
そんなハンデ(?)を背負いながらも、準決勝まで勝ち進むことができたのだ。
これは本当に凄いことで、ユベントス下部組織が欧州レベルで成長していることが証明された大会となったことは間違いない。
メンバーリスト
MVP モレイラ(ベンフィカU19)
試合の勝敗を直接的に手繰り寄せたのはベンフィカU19のサブGK、アンドレ・ゴメスだが、この試合最も強烈なインパクトを残したのは、間違いなくベンフィカU19の11番、モレイラだろう。
2004年生まれの17歳で、これはミレッティやスーレよりも歳下。Transfermarktでは身長170cmと記録されているが、試合を見る限りではそんなわけがない。
彼の武器は圧倒的な突破力。数的不利の場面でもお構いなく複数人をはがし、こちら側の計算をいとも簡単に狂わせてくる厄介なドリブラーだった。
これは近々、ベンフィカでスーパースターの産声をあげることだろう。
ユベントスU19
欧州屈指の強豪ベンフィカU19相手に喰らいついたチーム力
下馬評では、ベンフィカU19は優勝候補としての評価を受けていた一方、ユベントスU19はそもそも準決勝に進出したこともサプライズのダークホースだった。
この試合も、おそらく多くの人がベンフィカU19の圧勝を予想していただろう。
ただ、蓋を開けてみれば2-2と接戦を繰り広げ、PK戦までもつれ込んだ。
試合スタッツを見ても、ベンフィカU19が退場者を出して以降はユベントスU19が猛攻を続け、ベンフィカU19は防戦一方だった。
試合の転換点となった34分
3分と10分に得点を許したユベントスU19。ベンフィカU19の圧倒的な強さを目の当たりにし、決勝進出は望み薄となってしまった。
そんな中、34分にこの試合の転換点は訪れた。
ミレッティから前線のスペースに放たれたロングボールを追いかけるムラッツィに対し、ベンフィカU19のGKソアレスが足裏を見せる頭部へのキックタックルという危険行為で一発退場を下されたのだ。
ムラッツィはこの試合、いつものような目立った突破をすることができず、ベンフィカU19のフィジカルに苦しんでおり、前を向いてボールを持つことすら苦戦していた。
この一発のプレーで、試合を左右する仕事をしたのだ。
チームの重心、ボネッティ
ベンフィカU19の退場により数的有利のアドバンテージを得たユベントスU19は、ミレッティを自由にプレーさせることで得点の機会を演出させようとする。
そんな自由なプレーを可能にしたのが、チームの重心であるカピターノ、ボネッティの存在だ。
もともとFWとしてプレーしていたボネッティが中盤で起用され始めたのは今季からで、本格的にボランチとしてプレーするようになったのは今年に入ってからだと思う。
そんなボネッティの武器は、全ての能力が平均以上でブレないこと。
ミレッティのような天才的な創造力や、スーレのような独創性、キボゾのような爆発力や突破力といった、分かりやすい長所こそないものの、ボネッティはパス出しも、仲間を活かすオフザボールも、対人守備も、キック精度も、攻撃参加も、すべて求めているレベル以上でやってくれる。
プレースタイル的に目立ちにくいものの、UEFAユースリーグといった長期的なコンペティションを戦い抜くには欠かせない選手であり、この試合に限らずベスト8のリバプールU19戦でもMVP級の活躍だった。
このレベルに通用するようになったキボゾとイリング
ユベントスを昨季以前から応援している方なら、キボゾの名前を聞いたことある方も少なくないかもしれない。
今季注目度が急上昇したスーレと異なり、キボゾはユベントスU17時代から期待の新星と注目されていたからだ。
ただ、その後は負傷もあり、U19で存在感を示せず、期待したようには伸びなかった。それはスーレが先にトップチームに呼ばれて有名になったことからもわかるだろう。
しかし、そんなキボゾも、今季(とくに中盤以降)ついにスタメンとしてチームを引っ張るアタッカーに成長した。
特に2022年に入ってからはイタリアで対戦するチームでキボゾを完封したチームはなかったはずだ。
ベンフィカU19も例に漏れず、キボゾを止めることはできなかった。
それは決して数的不利だったからではなく、退場者を出す前から、キボゾに関してはかなり仕事をされていたように見える。
フィジカルで上回る相手に対しても、スピードと切れ味で十分に勝負できることが証明された試合となった。
そして、これはイリングにも当てはまるといえる。
キボゾと同じようにドリブルが得意なアタッカーとしてユベントスU19の主力のひとりである、イリング。
獲得当初はチームに馴染めず期待にから回る感が否めなかったイリングだが、今季はもう完全に主力、中核メンバーだ。
ベンフィカU19相手でも、柔軟なドリブルで相手を翻弄するシーンが目立った。
キボゾとイリングがこの舞台で通用したことは大きなポジティブ要素であり、来季のU23を背負うことが期待される。
おわりに
本当に勝ちたかったし、決勝で戦うユベントスU19を見たかった。
普段からU19リーグを見ている自分としては、昨季ユベントスU19主力で今季U23所属のスーレとミレッティ(とこの試合はデ・ヴィンテルも)が特別に参戦するUEFAユースリーグは、群を抜いて特別感があり、重要な一戦で主人公を助けにくる強キャラ的な姿は少年漫画に出てきてもおかしくないストーリーだと思う。
グループステージで優勝候補のチェルシーU19を2戦とも3-1の圧勝で下し、準決勝まで唯一無敗で進出したユベントスU19。
最高学年2002年生まれを一度も招集せず、ここまで勝ち進めたのは、本当にすごいことだと思う(これ書くの何回目だろ)。
負けてしまったが、ベンフィカU19にここまで迫れたのすらも感動した。
ベンフィカU19は19/20のUEFAユースリーグで見て、強いことは知っていた。
そのときは「こんなに強いユースチームがあるのか」と感じたが(たしかツイートもしたはず)、その強敵と2年後に準決勝の舞台で戦うことになり、そしてここまで追い詰めることができたと、2年前の初めてベンフィカU19を見た自分に言っても信じないだろう。それくらい2年前は実力差があったと思う。
本当はここまで来たら優勝したかったし、決勝戦もレポを書きたかったし、スタメン予想したかったし、試合を観戦して盛り上がるTwitterや、このメンバーが優勝して喜んでいる姿を見たかった。
今まで「イタリアの優秀な下部組織をもつクラブ」にユベントスを挙げる人はほぼいなかったのではないだろうか。
そろそろ、その常識をアップデートするときが来たのかもしれない。