01_Interview:小幡和輝さん
今月の『月刊出目マガ』は小幡和輝氏にご登場いただきました!
小幡さんと言えば「高校生社長」として起業し、世の中を驚かせました。
2017年には和歌山県の高野山で「地方創生会議」を開催。Twitterのトレンド1位を獲得したのも記憶に新しいところです。
また、ご自身の不登校経験をつづった本『不登校から高校生社長へ』を自費出版と商業出版の2つの方法でリリースし、いずれも大ヒット。そして7月に発売された『学校は行かなくてもいい ――親子で読みたい「正しい不登校のやり方」』(健康ジャーナル社刊)は1万部を突破し、今なお売れ続けています。
そんな小幡さんがなぜ自費出版をするに至ったか。また今回発売された本の裏話だけでなく、今後のビジョンや、小幡さんならではのビジネス戦略まで語っていただきました。
「学校は行かなくてもいい」自費出版秘話。届けたい人にピンポイントで
――まずは小幡さんが2冊の本を出版されたきっかけをお聞かせください。
小幡 不登校だった自分の実体験を本にして、日本全国の学校に配りたいと思い立ち、ちょうど一年前に『不登校から高校生社長へ』を自費出版しました。
この本では不登校の先輩として、伝えたいことが明確にありました。出版社から発売すると、売れる本を作るために相手方の要望を聞く必要がありますが、自費出版では編集はまったく入っておらず、100%自分の言葉で書いています。「小幡和輝の人生をどう切り取るか」を意識しましたね。
自費出版後は学校の先生や当事者からたくさんの反響が寄せられました。
こうした反響を見て、不登校に関する情報発信を自分が先陣を切ってやっていこうと決意しました。そのうちに健康ジャーナル社からオファーをいただき、2018年7月に出版したのが『学校は行かなくてもいい 』です。
――クラウドファンディングについて詳しくお聞かせいただけますか?
小幡 自費出版は商業出版とは違って出版に関する費用を自分が全て背負わないといけないので、クラウドファンディングを選びました。
おかげさまで費用は約130万円集まり、これは他のプロジェクトよりもかなり大きな金額を集められたと思います。ただ、自費出版に関するクラウドファンディングで成功している事例は意外と少ないんです。
自費出版のクラウドファンディングのリターンはもちろん本です。しかし工夫した点があって、今回は出資者に2冊渡すことにしました。
一冊は出資者ご本人用。そしてもう一冊は母校に寄贈していただくためです。
有料版noteで自費出版に関するノウハウを全てまとめていますので、知りたい方は読んでみてください。
【特典付き】クラウドファンディングで自費出版するためのノウハウ。
――そのようなリターンにした理由をお聞かせいただけますか?
小幡 実は自費出版の本はそんなに売るつもりはありませんでした。
読んでもらいたい人――学校に行きたくないと思っている子どもたちにピンポイントで届けば良かったんです。
そして、この本を手にする「過程」が大事だと思っていました。この本の価値観に賛同して、同じように不登校で苦しむ親子を助けるために、協力をしてもらいたかったんです。
内容に共感してくれた読者が、自ら母校に寄贈してくれる。その方が説得力もあるし、学校側も受け入れやすいんじゃないかと思ったんです。
一見学校を否定していると思われかねない本ですから、そのような著者から突然本が届いても怪しい人と思われてしまいますしね(笑)。
親には「子供が不登校でも大丈夫だな」と思ってもらいたかった。
そして、子どもたちが手に取りやすい環境に本を置きたかった。
小学生といった子供たちはそもそも本を買うことができませんから、本屋よりも学校の図書室にこの本があった方が手に取りやすいですよね。
――発売後の反響はいかがでしたか。
小幡 結果的に直販で1500部くらい売れたんです。これは結構すごい実績で、そのあとの商業出版にも繋がりました。
――小幡さんのようなインフルエンサーであれば、出版社からのオファーが来ると思うのですが、どうしてあえて自費出版という形を選んだのでしょうか。
小幡 実はオファーはあったんですよ。でも出版社からは「いじめ」をテーマに書いてほしいって言われたんです。
僕の本では、いじめのことを書きたいわけではありませんでした。僕が不登校になった理由は「いじめ」ではなかったし、本にするなら経験のある人が「いじめをなくそう!」て書いた方がいいですよね。経験していないことは書けないですから。
僕自身の経験を伝えるということを大事にしたかったので、「じゃあ、自分でやります」とお伝えしました。
当時の僕は本を書いたことがなかったし、書きたい内容が売れる保証はありません。出版する上での交渉材料がなかったというのもあります。
当事者を助けるだけでなく、社会の価値観を変えることがもっと大切。
――自費出版から商業出版に至った経緯を教えていただけますか?
小幡 当事者に届くことも大切ですが、本当に大事なことは周りの社会の価値観を変える必要があるということです。
そのためには、たくさんの人に僕の本を読んでもらいたい。
そう考えていた中で、商業出版のオファーがきたんです。おかげさまでAmazon教育ランキング1位も取りましたし、本屋でもプッシュしてもらっています。
本が話題になって、初めて知る方もいると思います。皆さんが悩んでいる中でこの本を読んで「なるほどな。こういう考え方もあるんだな」と納得してくれると嬉しいですね。
――当事者以外で具体的にどんな方に読んでほしいとお考えですか?
小幡 不登校になっていないお子さんがいる方でもぜひ読んでいただきたいです。ちょっとしたきっかけで不登校になるし、しかも不登校になってからだと遅いんです。
子どもが「学校に行きたくない」と言ったらそれはSOSのサインで、そこで親や先生がどうやって対処するかが重要なんです。
そこで親が理由も聞かずに「行きなさい」と言ってしまってはいけません。子供ももちろん学校に行かなきゃいけないってわかってるはず。
親が事前に「いろいろな選択肢があるんだ」とインプットしていたら、いざ問題に直面したときに、一度冷静にフラットに考えられると思うんです。
――読者層を広げるためにinstagramも精力的に活用して本のプロモーションされていますね。
小幡 Instagramは今までアカウントはあったんですが、ほとんど発信してこず、ツイッターが中心でした。なのにInstagramで僕の本を買ったとアップされているユーザーを見つけたりして、これはちゃんとInstagramでも発信しないといけないなって思ったんです。
――Instagramではどういったことを発信されますか?
小幡 今Instagramでアップしているのは、写真や絵ではなく、プレゼンスライドのように文字のフォントや大きさを工夫してメッセージを載せて、文字だけれどビジュアル的なインパクトを持たせています。フォロワーの5-6%の数のイイねがついてるので結構多い方と思います。
――他にはどんなプロモーション方法をお考えでしょうか?
小幡 僕の周りはフリーランスや多様性があって寛容的な人が多いんです。
その人達が僕の本を通して発信してくれたらそれが求心力や社会への影響力になると思っています。
それから今社会で活躍しているけれど昔不登校だった人の当時の様子を届けたいです。
こういった取組がこれまで関心がなかった人も興味を持ってくれるきかっけになると思うので、今後強化していきたいと思っています。
――以前、自費出版と今回の商業出版で影響力を比べたいと発言されていましたが、実際はいかがでしょうか。
小幡 そんなに変わらないかもしれません。
ただ、本の原稿は6月末に出来上がり、あれから5か月経って、新しい価値観が結構増えたので、もしもう一度同じタイトルで書くとなったら、違う切り口で内容の2-3割を変えて書くと思います。
あと、これまで不登校は一種の病気に近いような社会認識でしたが、2016年に文科省が「不登校を問題行動の1つとして捉えてはいけない」と通知しました。これでようやく学校へ行かないのも選択肢の1つになって、無理に学校に行かなくても良いよという風潮に変わりつつあり、この本でそれを加速させたい想いもありました。それが僕の中での自費出版と商業出版の違いですね。
――自費出版は次の商業出版を見込んでのことだったんでしょうか。
小幡 いいえ。これは結果論ですね。伝えたいことがあって書くだけでしたから、出版の方法にはこだわっていませんでした。本を書くとなっても、伝えたいことが伝わらなければ意味がないですよね。
ただ、自費出版は本屋に並ばない分マーケットが狭いし、買い手は基本的にSNSのフォロワーさんです。実際に買ってくれるのはフォロワー100人のうち1人でしょうか。
ちなみに自費出版を店頭に並べてくれるサービスがありますが、費用がかかるのでおすすめしません。自費出版に関しては直販以外では費用回収はほとんどできません。しかも売れなかったら大赤字。そのリスク回避のためにもクラウドファンディングですね。
僕の場合、書きたいことを書く。それを届けたい人にちゃんと売って結果的に数字が出たので、商業出版のオファーもいただけました。
商業出版も一万部売れて、最低限の条件はクリアしたと思うので、その次も自分の主張ができるようになると思うんです。
今回の出版にあたっては、内容や印税の交渉面で僕のやりたいようにさせていただきました。自費出版で売るべきところに対してちゃんとコミットしたので、交渉もしやすかったですね。
フェアな交渉をするためのカードを準備しておく
――具体的にどのような交渉をされるのでしょうか?
小幡 他の仕事もそうですが、こちらが下から出なければいけない仕事はしない。交渉カードを切れる状態で臨まないと、嫌なことをやらないといけなくなります。
自分のやりたいことを通すためにこれまでもそうやってきました。
でもこれは決してケンカしたり上から言いたいわけじゃありません。
自分のやりたいことを通すために自分のカードをちゃんと出してその上で交渉するんです。
――そのスタンスは最初から変えずに貫かれているのでしょうか。
小幡 最初は無理でしたね。でも意識はしてきました。さっきも言ったのですが、僕は出版社にそんなにこだわりがないです。多分次の本も今の出版社に言えば、広告費もたくさん使えるし多分出してくれるでしょう。今でこそ他の出版社と比較することができています。
しかしヒットした経験がないのであれば、僕が他の出版社に営業してお願いしないといけない。それって不利な交渉だしやりたくないんです。つまり自分のやりたいことに対して、と武器を持って挑むことが大切です。
――最初のカードさえない時の決断やリスクはどう考えてらっしゃいましたか?
小幡 最初からそんな自分勝手なことが言えるわけではありません。そのためにもちゃんと結果出していくことが大事ですね。出版経験がない場合、相当条件を叩かれると思うんです。しかも「本を書かせてください」とこちらからお願いする形になってしまうし、こっちも中々強く言えない。そうなると、印税や初版部数も出版社の方に有利になりがちじゃないですか。
――インタビュアーの福富も今年単著を出したのですが、印税は言われるがままでした。
小幡 そうなんですね。僕はめっちゃ交渉しましたよ(笑)。当初の予定から2倍になってます。
――それはすごいですね!!!
小幡 交渉面では、例えば「マンガ入れてください」とお願いしました。コストがかかるのを承知のうえで「いや、読みやすくなるから、マンガ入れてくれ」って(笑)。印税だけでなく初版部数も7000部まで増やせました。もちろん僕も売るために、自分で買い取ってめちゃくちゃ手売りしたり、一緒に販促してくれる仲間も募っています。出版社がリスクを取ってくれたわけなので、僕もちゃんと売ることにコミットしてますね。
――やろうと思ってできることではないですが、とても参考になります。
小幡 出版社も相当リスク背負ってるので無理もないです。印刷代も全額負担だし、ライターや編集者の人件費もかかる。それに、売れない本をつくったら、出版社のブランドにも関わってきます。
なので1回も本を出したことがない人が本を出すって、本来は中々大変ですよね。こういう背景があると、「しょうがないかな」と思います。ウェブだとそんな原価かからないけれど、本は印刷して、配送して、それを本屋で売らないといけません。
ただでさえ本は売れない時代ですからね。
――今後出版を続けるにあたり、本やnoteといった媒体をどう使い分けますか?
小幡:noteは全く悪いわけではないですけれど、財産を削って自分を切り売りしている感じがします。しかもファンにしか届かないし、先に限界が見える売り方ですね。中にはnoteでもバズることはあると思うんですが。
一方で本は財産を増やしていくイメージですね。色々なネットワークが広がって、自分のことを知らなかった人も知ってくれるきっかけになる。広告にもなる上に、お金もらいながら広告ができるってすごいですよね。
――当サロンは文章を書く人が好きで、ほとんどがブロガーなのですが、小幡さんのブログで仕事つながったことはありますか?
小幡 ブログとnoteを合わせてのアクセスは50000PV/月くらいです。そんなに多くないですが、ブログは直接的ではないもの、ツイッターのフォロー数はかなりあります。
出版社はSNSにフォロワーが1万人以上いたら、売れる見込みがあるので出版のオファーをするかなと考えていますね。
僕の場合、ブログに自分の考えを書きまくっていたので、この本を書くにあたって7-8割は反応の良かったブログ記事やツイッターのつぶやき、切り口の良かったものを中心に編集したので、ゼロから書いた章はほとんどありません。
体験談もブログで寄稿を集めたのがほとんどだし、そういう意味ではブログから文章で発信することが大事ということですね。
そういった蓄積があったからこそ、本を書くのに使った時間はこれまでの再編集と1万字ほど加筆して全部で2週間くらいでした。
あと、インタビューも盛り込んだので、どこまで僕の文章で書くか相談しながら進めました。
次に書きたい本は、不登校を経験を活かしてまったく違う切り口で見据えた未来の働き方
――次回作も不登校関連の本での出版をお考えですか?
小幡 次はゲームの本を考えています。
今の自分の仕事や価値観は、ゲームの影響がめちゃくちゃ大きいんです。でもゲームって社会的にイメージが悪い。「学校に行かないでずっとゲームばっかりしてる」って良いイメージ全然ないじゃないですか。
最近はeスポーツの普及によってゲームが「競技」として認められ始めています。囲碁や将棋の社会的地位がとても上がったのと似たような流れを感じます。ようやくゲームも同じように社会的地位があがって、ゲームが仕事になる人も増えてくるんじゃないかな。
囲碁や将棋はプロ棋士もいるけれど、インストラクターの方が圧倒的に多い。
ゲームでもトッププレイヤーが仕事として成立していたら、その下に波及する仕事がいっぱいできると思うんです。
――確かにeスポーツは盛り上がってきていますね。
小幡 部活でeスポーツ部がある学校もあります。部活としてやることは、とても重要なポイントですね。来年から毎日新聞が全国eスポーツ選手権も開催するし、ようやくゲームが「競技」として社会に認められる良い流れができつつあります。
――小幡さんはeスポーツにはどのように関わっていかれるのですか?
小幡 プレイヤーになるかはわかりませんが、ゲーム開発に関わっていきたいです。
ゲームには「競技」だけじゃなくて「コミュニケーションツール」という大切な要素があるんです。僕は「娯楽」としてのゲームはあまりオススメしません。電車に乗ってるときにするスマホゲームや家で1人で遊んでいるゲームは「娯楽」「暇つぶし」で価値がない。ただ、友達と一緒に遊ぶのは「コミュニケーションツール」なんです。
例えばモンスターハンターは友達と集まってゲームをしますが、これが非常に重要で、その場でゲームと同時に会話もして、コミュニケーションが成り立つんです。それが僕がゲームをしていた当時と全然違いますね。
そういったことを絡めつつ、これまでのゲームの語り方とは違う切り口で新しい本を書きたいと考えています。
<あとがき>
小幡さんの自費出版・商業出版それぞれとても戦略的なのが印象的でした。商業出版は結果論と仰っていましたが、ひとつひとつ確実に結果を出す努力を怠らなかったからこそ、必然的だったんですね。でもその根底には「困っている人にこの本を届けたい」という想いがあるからこそですね。出版を目指す私たちですが、核となる部分のお話を聞かせていただくことができました。
ありがとうございました!!
小幡さんおススメの一冊
『新世界』/西野亮廣著
コメント:考えや仕事のやり方はかなり参考にさせてもらってます。僕の活動もいろいろ応援してもらってるので、恩返しのつもりで早く追いつけるように頑張ってます。