防御率とFIPの差の要因について探る
はじめに
昨今,Twitter(自称X)において,埼玉西武ライオンズの投手は指標がそこまで良くないので,見かけ上の防御率は良いが,投手が良いとはいえないという意見が散見される.しかしながら,野球における失点数は完全に投手のみで決まるわけではなく,守備も十二分に関係している.純粋に失点数を減らすという意味合いでは,(当たり前だが)投手本来の実力+守備によって議論を行う必要がある.
DIPS
前提知識として,セイバーメトリクスには,DIPSという概念が存在する.インプレー中に打たれた打球がヒットになることを防ぐ能力にほとんど差はないといったことを,Voros McCrackenが2001年にBaseball Prospectusに投稿した論文により明らかにした[1].
この論文では,ある年にインプレー中のヒットを防ぐのが最も得意な投手が,翌年には最も不得意になるという例が多く存在するということが主張されており,また,守備から独立した数字は奪三振,与四球,被本塁打のみで,それ以外の勝敗,自責点,被安打数等はすべて守備が関係しているといったことが主張されている.この事実より,McCrackenはDefense Independent Pitching Statistics(DIPS)と呼ばれる,守備から独立した数字のみで投手を評価する考え方を導入した.
FIP
DIPSをもとにした代表的な指標として,守備から独立した投手の評価のFIPという指標が開発された.これは奪三振,与四球,被本塁打の3つの数字から,防御率と同じスケールで投手の評価を行う指標であり、2007年にTom Tangoが提唱したものである.
Batted Ball(GB%,LD%,FB%)
投手のGB%(ゴロ率)やFB%(フライ率)はシーズンによって変動が小さく,投手は打球の割合をある程度コントロールする事ができるとされている.一般的に,ライナーはヒットになることが最も多く,ゴロはフライよりもヒットになることが多い.
FanGraphsの記事によると,GB%が高い投手(ゴロピッチャー)は長打を許すことはあまり多くないが,多くの場合で単打を許す場合が多くなる傾向にあり,FB%が高い投手(フライボールピッチャー)は,許す安打数は少ないが,ホームランを含む長打を許しやすいとされている[2].
仮説
以上の前提をもとに,投手のGB%が高く,内野手(特に二遊間)の守備が固いチームは,長打を許しにくく,単打を二遊間の守備によりアウトに変換することで,FIPとERAの差が大きくなると考えた.
検証
使用データ
FanGraphsより,2004-2023年のMLB全球団の投手のGB%とLD%およびBABIP,FIP,防御率(ERA),二塁手のRngRおよびUZR,遊撃手のRngRおよびUZRをチーム単位で取得した.
分析
FIP-ERAを目的変数,遊撃手と二塁手のRngRの合計,遊撃手と二塁手のUZRの合計,BABIP,LD%,GB%を説明変数とし,重回帰分析を行った.また,すべての変数に標準化を適用した.
結果
以下に,重回帰分析の結果を示す.
fig. 1より,補正R2乗値が0.616と,中程度の相関を持つ回帰式を得ることができた.また,有意水準を5%として,分散分析表の有意F値を見ると$${3.9 \times 10^{-122} \ll 0.05}$$と,この回帰式が有意であることがわかる.また,BABIP,UZR,GB%が有意水準5%において有意であることがわかる.
結論
以上の結果により,グラウンドボールピッチャーはFIPに対して防御率が良い傾向にあり,また,二遊間の守備が良いチームにおいても同じことがいえる.