EDUTRIP in デンマーク 2018 Report #3
3日目からはいよいよ学校視察です!
長くなりますが、是非ご一読ください^^
・【ロスキレ市立ウスターバングススコーレ】
最初は、コペンハーゲン中央駅から電車で30分弱のところにあるロスキレ市の公立校ロスキレ市立ウスターバングススコーレを見学に行きました。
この学校は建ってから14,15年の比較的新しい小中学校で、生徒数は530人。カスパー副校長が校舎案内やお話をしてくださいました。ここロスキレ市の特徴としては、1年生の時からiPadが1人一台、中学校からはノートパソコン、が市から配られるとのことでした。
まずは小学1年生のクラスを見学させてもらいました。そこでは2人一組のペアになって週末のことを話し合い、ペアで動画を撮り合うということをしていました。なるほど、こうやってiPadの使い方を習得して行くのだなと思いました。
次は8年生(中学2年生)のクラスを見に行きました。8月中旬はデンマークは夏休み明けで新しい学年が始まったばかりでした。なので、クラスメイトのことをより知り合うために用意された質問(得意分野は何か、自分の強みはなんだと思うかなど)を元に聞き合ったりお互いの似顔絵を描いたりする授業でした。
他には、学童のエリアも見ました。学童は放課後14〜17時ですが、朝6時から開放されているそうで、朝早く出勤する保護者をもつこどもは朝の時間もそこで過ごせるとのことでした。授業時間以外の、学童での時間はペタゴーが担当しています。また、クラフトやペインティングなどこどもたちが楽しめる様々なアクティビティを用意しているとのことでした。
美術の教室も見せてもらうことができました。この学校は芸術に力を入れている学校なため、音楽専攻の生徒は一週間に8時間音楽の授業があるそうです。音楽室では休み時間に生徒たちがドラムやギター、マイクを使ってジャムセッションを楽しんでいました!
また、2013年からアート、ソーイング、デザインを1つの場所で全てできるようになったそうです。プログラミングをして材料のカッティングができる機械や3Dプリンタ等の設備が整っている教室があるのは、この学校の特徴だそうです。
カスパー副校長は学校で大切にしていることの一つに、「こどもたちがハッピーでいるか」だと教えてくれました。悲しんでいる子はいないか特に気を配っていて、ハッピーに過ごすことがこどもたちの可能性を広げ、また、それによって学びが深まっていくとのことでした。さらには教科を区切るより組み合わせることが楽しい学びにつながるとのことで、どの教科も「組み合わせ」を大切にしているとのこと。
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校内見学後はQ&Aの時間があり、様々な質疑応答がありました。例えば、
・授業形態について→いろんなやり方があって、これがいいというのはない。共通して伝えていることは、先生が喋りすぎないこと。生徒がずっと黙っているのは良い授業ではない。
・成績評価をどうしているか→テストの内容だけでなく、普段の様子も入れて総合的に評価。評価ために対話をするが、それはゴール設定のためで、どこを目指すかを子どもと一緒に話し合って考える。この対話が大事。
・指導しないといけないときに大切にしていること→同じ人間であるという意識、「なぜ」をきちんと説明すること。対話すること。
他にも、特別支援学級は特に設けてないことや縦割り活動があること、モラル教育は「道徳」として分けず各教科に入れ込んでいることなどを聞きました。
こどもたちの休み時間は、先生も一緒に遊ぶか外に行って子どもたちの様子を見るそうですが、一週間に45分間外にいることが義務でそれ以外は自由だそうです。休み時間の使い方の自由や、朝夕学童の時間は「教員」ではなく「ペタゴー」が担当しているなど、デンマークの先生たちは働きやすい環境にいるという印象を、話を聞きながら持ちました。
全体的に、生徒の精神的健康さや幸福感を、学びのベースとしてまず重要視している姿勢、「対話」を大切にしているところが印象的でした。
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・【クローロップホイスコーレ】
次に、電車で移動をし「クローロップホイスコーレ」というフォルケホイスコーレに行きました。
フォルケホイスコーレは、現在デンマーク国内に68校あるデンマーク生まれの全寮制の成人教育機関です。主に4か月から6か月のコースで、文学、語学、音楽、環境、哲学、スポーツなど、学校ごとに複数のコースが定められ、教科は多岐にわたります。教師と学生が平等な関係の中で相互に学ぶことが重要な理念のひとつであり、授業では自由な対話が重視されています。入学試験を含めたテストや成績評価はなく、17歳半以上であれば誰でも入学が可能です。
また、政府から思想的に独立した私立学校ですが、デンマーク政府の助成を受けているため、国籍にかかわらず学生は学費の一部のみの負担で通うことができます。
今回伺ったクローロップホイスコーレ(Krogerup Højskole)は、第二次世界大戦の終戦直後に作られた学校で、Danish Youth Council(DUF)という様々な若者団体を統括する組織を設立したハルコックという進学者が創設しました。今も民主主義や政治に対する学びを深めることを目的とした学生や、社会に対する問題意識が高い学生が多く在籍しています。
"Crossing Borders"(国や文化や人それぞれがもつ観点・視点を越えて自分自身や世界について共に学ぶ)という授業を担当するガルバ先生が、今回私たちを案内してくださいました。ガルバ先生が世界各国から集まっている自分の生徒さんたちを呼んでくれ、なぜこの学校に来たのかや来る前にしていた事なども聞かせてもらうことができました。
「様々な経験・バックグラウンドを持っている人たちがここにいる、それこそがここに世界があるということ」と仰っていたガルバ先生は、知識や技術含めこうしてお互いの持っているものを共有することで全員の学びになる、という姿勢を大切にしているそうです。
デンマークは「幸福度世界一」で知られる国であり、その理由を探しにデンマークに来たという生徒さんの話しを聞いたこともあって、質疑応答の時間には「ガルバ先生にとっての幸せとは?」という質問が出ました。
ガルバ先生はその質問に対し、「Happiness is inside you (幸せはあなた自身の中にある)」と答えてくれました。「幸せ」とはとても個人的なものであり、誰かや何かに決められるものではない。自分の心の中にすでにあり自分が決めるものだ、と。
この”Happiness is inside you”という回答を聞いた瞬間、思わず教室には「おぉ~!」という歓声が上がりました。内側にある幸せに気付くためには自分自身を知らなくてはならず、自分が実際に社会の中で他者との交流・関係をもつことを通してそれがより明確になる、と言っていたのも、とても印象的でした。
フォルケホイスコーレの「自分は自分でいい」というメッセージや、「相手を認め・尊重し合える寛容さ」を一人ひとりが大切にしているのを、この短い滞在時間だけでもとても感じることができました。
学校で学ぶ生徒さんたちとおしゃべりを楽しみながらランチを共にし、また、学校の中に広がる大自然にも感動しました。
クローロップホイスコーレ訪問は、フォルケホイスコーレの理念や考え方について色んな話を聞けただけでなく、私たちにとって「幸せとはなにか」を考えさせられた、とても濃く刺激的で心動かされる時間となったに違いありません。
今日見て感じたものを整理する振り返りワークを学校のフィールドで行なったのですが、開放的でとても気持ちよかったです^^
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・【Youth Councilとの交流】
夕方からは、若者たちで構成されている青年政治グループ(Youth Council)との交流&ワークショップを体験して来ました!
政治に強く関心のある若者が集まってのこのグループ、今年の4月に設立されたばかりの新しいグループとのこと。ですが、用意してくれていたプレゼンやワークショップの内容は大変面白いものでした!ロシアからの視察団も一緒に、まずは自己紹介ゲームをしたあといくつかのワークをしました。
内容は主に4つ。
・Youth Councilの活動紹介とデンマークの政治のレクチャー、デンマーク・日本・ロシア・アメリカの政治体制の比較
・独自の理想の国を作るワーク(国名、政治体制、首相は誰か、などグループで考える)
・上下を保守と革新、左右を社会主義と個人主義をベクトルとした図に、各国の指導者/過去の有名な指導者をグループで協力してあてはめる
・YES/NOゲーム(ディスカッション)
国ごとの政治体制の違いを知ることはもちろん、理想の国に対するアイデアを出し合ったり、図に各国の政党や様々なリーダーたちを当てはめていくと今の時代の政治傾向が視覚的にわかることなどが、とても面白かったです。また、最後のYES/NOゲームは例えば、「税金を高くして福祉を受けるのがいいか」「自分の国にもっと難民の受け入れたいか」などの質問投げかけがあり、YES側かNO側かに移動して自分の答えを示す、というものでした。そしてなぜ自分がその答えなのか意見を言い、ディスカッションするというゲーム。
実はデンマークの学校では社会科のクラスで普段から行われている授業法だそうです。「正解も不正解もないから考えてみて下さい」という指示で始まったこのゲーム、自分の考えを形成することや社会問題について考えるきっかけになるほか、他者の意見に耳を傾け違う視点を知るという意味でも、とても興味深かったです。ディスカッションが時に白熱するのも、このゲームの面白いところでした。デンマークではこどもの頃から一人ひとりが自分の意見を持っていることも、このゲームをした後では納得でしたね。
デンマークでは国民全体の投票率が高く、若い人たちの投票率も80%を超えるそうです。立候補にもお金が掛からず、議員も庶民的な生活をしていることもあって政治家が身近な存在ということも大きいでしょう。また、Youth Councilの活動でも、具体的な提案を議会に出してそれを議員がちゃんと耳を傾けてくれるとのことでした。
良い社会作りや教育作りのためには、こうした若者の政治参加(若者の声)や意識も大切な要素になってくると感じました。そして同時に、デンマークでは若者が参加しやすい仕組みと体制が整っているように感じました。
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早朝から夜遅くまで目一杯のスケジュールだったためみんなヘトヘトでしたが、刺激的で学び多い1日になりました!
(2018/8/20)