
派遣社員はレオパレスのお城で5時に夢中!
当時私は夜逃げしたばかりの派遣社員。レオパレスが私のお城。
けれど精神は安定しなくて常に心臓がバクついていた。隣の人が鍵を開けるガチャガチャという音で飛び上がっていた。
呼吸すら私には許されていない。
───────
緊張から白い壁に黒い虫の幻視が見え始めたころ『5時に夢中(tokyomx)』という番組を知った。
レオパレスの部屋には備え付けのテレビが付いてる。それがあったからたまたま目にした。
テレビはあまり好きじゃない。けどリラックスを心掛けたかった私にはうってつけだった。
番組は5時から始まり、お勤めする人なら見れない時間だ。でもその頃私の目標は
「仕事で爪痕(つめあと)残さないこと」。
───────
夜逃げでは、自分の痕跡をいかに消すかが勝負だ。
勝つためにそれを極めようとしてたら自分の存在まるごと消去したくて堪らなくなっていた。それが最上級の「生きる」に繋がりそうなのにそれじゃ矛盾してる。イラついた。
─────
ともかく自分を消去するなら仕事で爪痕残してる場合じゃない。
運がよい日は、定時で飛んで帰ればギリギリ番組の終わりのほうが見れる。
番組は曜日ごとにコメンテーターがかわり、祝日は月曜日が多いから、私はマツコ・デラックスと若林史江がコメンテーターの回を一番よく見た。初めて『5時に夢中』を見たのも月曜日だったと思う。
呼吸することを許されればそれだけでいい。五里霧中でさまよい、女装家のマツコをテレビで見れれば安心した。
日本にもこういう人がいるんだ。許されてるんだ。
『5時に夢中』が私の酸素だったのかもしれない。