【シャニマス】透明だった少女に、色が差す/浅倉透【ネタバレ感想】
※アイドルマスターシャイニーカラーズに2020/04/03実装の新キャラクター浅倉透の共通コミュ(W.I.N.G.関連コミュ)ネタバレ感想です。
※吐くほど長いです。
まだ読んでない人は先に見て来なさい。こうかいしますよ(断言)
--------------------------------------------------------------------------------------
浅倉透は透明だった
透明とは、決してポジティブな言葉ではない。
浅倉透という人間はどこまでも透明だった。
浅倉透をプロデュースした最初の印象は「語彙力がない」だった。
特に顕著なのはシーズン3コミュ『ていうか、思い込んでた』に登場する、彼女の日誌の内容だろう。
大崎甜花でももうちょっとマシな文章が書けるレベル。
ここから読み取れることは、単に浅倉透に語彙力がないということではない。浅倉透は根本的に物事への興味関心が薄いということだ。
浅倉透は1つの言葉、1つの事象に対して、素直に1つだけ意味を受け取る。言葉の裏の意味を読んだり、派生した感想を抱くことはない。どこまでも透明に、そのまますり抜けていく。
『ていうか、思い込んでた』はその後、日誌を書かない日があったり、「旅に出ます」と一言だけ書いていなくなってしまう展開に発展する。
「アイドルが嫌になったのか」「厳しいことを言いすぎてしまったか」と心配するPだったが、浅倉透は本当に「旅に出ていた(気分転換に外に出ていた)」だけに過ぎなかった、というものだ。
この「そんなの誰も気にしないでしょ」という台詞は浅倉透を象徴している。「旅に出ます」とだけ書いて、さっさと消えてしまうという行動を、他人がどう解釈してどういう行動に出るかをイメージできない。
このコミュは「Pなら理解してくれると思ってた」と続くので、あえてわかりにくい表現を使ったとも考えられるが、別の場面での会話も含めて考えるにそうではないと思う。素がこれなのだ。
モーニングコミュでの会話でも実感がしやすいと思う。例えばmorning5、浅倉透が窓の外を見ているというコミュだ。
「窓の外を見ている」というのは文字通り「窓の外を見ている」だけであり、それ以上の意味はない。
「雨が降るって言ってたけど」の選択肢はNORMALである。彼女は窓の外を見ているだけであり、天気の心配という裏の意味は含まれていない。
「何かあるのか?」の選択肢はGOODだが、反応としてはNORMALと大差ない。わざわざ窓の外を見るということは、何か面白いことがあったんだな、と裏の意味を考えるのは×なのだ。
ゆえにPERFECTは「鳥が飛んでるな」という、窓の外を見た素直な感想をいう選択肢となる。
これに限らず浅倉透のモーニングコミュは、基本的に最も素直な返答がPERFECTとなる傾向がある。彼女の言葉は限りなく透明だ。ゆえに他人の言葉も透明に受け取る。裏の意味など読み取れない。
この意味で彼女と対極に位置するアイドルは、芹沢あさひである。
芹沢あさひは好奇心旺盛で、興味関心の対象がコロコロ変わっていく。浅倉透はあらゆる物事への興味関心が薄く、物事や言葉を掘り下げることがない。
2019年と2020年の追加ユニットセンター枠同士で、ここまで正反対なのは面白い。
同じ窓の外のコミュでも、感じる印象は真逆だ。
芹沢あさひの話題を出した理由はもう1つある。彼女は自ら進んでワクワクを探し、人生を楽しく生きようとしている。しかし周囲に関心のない浅倉透は、自ら楽しいことを見つけることができないのだ。
シーズン1コミュ『人生』で、彼女のこれまでの人生がどんなものであったか、垣間見ることができる。
これは浅倉透がスタジオの見学に行くという話だ。Pは誰にでも積極的に挨拶をするよう指示するが、実際は新人の透の方が先に挨拶されてしまう。
その理由は「オーラがあるから有名な子だと思われた」というものだ。
こうしたやり取りを受けて、浅倉透は次のように言う。
オーラがある、なんていうふわっとした理由で称賛される。彼女にとってはそれが日常の出来事なのだろう。『顔が良いだけで食べていけそう』なんて前評判はあながち間違いではないということだ。
確かに恵まれた素養だろう。しかしそれは、はたして幸せなことだろうか。
彼女のコミュでは全編を通して「ジャングルジム」が「人生」を暗喩する言葉として登場する。
浅倉透にとっての「人生」とは「のぼってもてっぺんに着かないジャングルジム」を登り続けるような、ひたすら長いだけのつまらないもの、という認識なのだ。
深い絶望もない代わりに、激しい喜びもない、透明の人生という表現が的確だろう。
透明に色が差した日
浅倉透の透明な人生において、唯一色が差した出来事があった。
内容を一言でいえば「幼い頃、男の人と一緒にジャングルジムで遊んだ」というもの。こんな些細な出来事が、どうして浅倉透に刺さり続けているのか、という疑問はいったん保留する。
この出来事に関する浅倉透の執着は凄まじい。何年前か具体的には開示されないが、年齢関係から考察するに7~10年くらい前の出来事だと考えられる。しかし17歳の浅倉透は、未だにその日に縛られ続けているのだ。
スカウトコミュ『あって思った』では、Pの「俺が、行くからさ!」という言葉をきっかけに、高速手の平返しの如く態度が一変する。
プロフィールを見ればわかるが、浅倉透の特技は「人の顔を覚えること」である。バス停で「俺が、行くからさ!」という台詞を言われるというシチュエーションと、その時のPの顔から、何かを察したのかもしれない。
何はともあれこの瞬間から、浅倉透は「あの時の男の人はPではないか?」と考えるようになる。後の展開を見るに、この時点ではほぼ確信を持っているレベルであったらしい。
しかしシーズン2コミュ『あれって思った』では、「P=あの時の男の人説」が揺らいでしまう。これは自己PRの薄さが原因で、浅倉透がオーディションに落ちてしまうというコミュだ。
浅倉透が疑問を持ったポイントはどこか。ストレートに考えるなら、まずPの過去語りのシーンだろう。ジャングルジムに一緒に登ったというシチュエーションは一致するが、その相手が男の子だったと話すのだ。当然だが浅倉透は女の子であり、当てはまらない。
だが本題は別ににある。最もわかりやすいのは選択肢「ダメだった」から派生する会話だ。
浅倉透はあまり自己PRが得意な子ではないのかもしれないと考えたPが、無理にアイドルを続けることはないというシーンだ。
しかし浅倉透本人は、本気であの自己PRでいいと思っているし、アイドル活動も楽しんでいるのだ。ここでいうショックはPに気持ちが伝わっていないことに対するショックだろう。
一方で「よくやった」から派生するコミュでは、オーディションに負けたショックについて尋ねられている。ショックを受けてることには受けていると思うが、こちらはあまり深刻さは感じられない。負けたことより、Pに自分の気持ちが伝わっていないショックの方が大きいのだ。
全選択肢において浅倉透が「あれって思う」最大のポイントは「自分の気持ちがPに伝わっていない」ことだ。裏を返せば「あの日ジャングルジムで遊んでくれた男の人には、自分の気持ちが伝わっていた」ということになる。
すでに何度か出てきているシーズン3コミュ『ていうか、思い込んでた』ではさらに確信が揺らいでしまう。その根拠はやはり「自分の気持ちが伝わってない」という点だ。
このコミュ冒頭のジャングルジムタイムではっきりわかる通り、浅倉透にとって例の男の人とは、言葉を交わさなくても自分を理解してくれる存在なのだ。
シーンは現在に戻り、浅倉透を理解したいPは、普段何を感じているのかを日誌に書くようにお願いする。Pからすれば趣味や好きなものを知ることで、強みやPRポイントを見つけようという真っ当なプロデューサー業をしているに過ぎない。
だが浅倉透からすれば、これは「あなたのことが理解できない」という宣言にも等しいものである。Pは懸命に理解する努力をしているが、浅倉透からすれば理解する努力をすること自体が地雷なのだ。
前述でも触れた「旅に出る」騒動を通して、浅倉透は「伝えようとしなければ、気持ちは伝わらない」ことに気づく。しかしそれは同時に「Pは(何でも通じ合える)あの男の人ではないではない」ことを認めてしまうことになる。
彼女はこの事実を受け入れざるを得なかった。「あの日差した色」は、もうどこにもいないのだ。
「アイドル」という色
浅倉透はそもそもアイドルのスカウトに否定的だった。それでも彼女がアイドルになることを決めたのは、「Pがあの時の男の人」だと確信していたからだ。
前述通りその期待は完全に打ち砕かれてしまった。しかし浅倉透は、その後もアイドルを続けている。
シーズン4コミュ『ちゃんとやるから』では、ちゃんと日誌を書いたり、DVDの感想をわざわざ口頭で伝えに来ている。
これは「言わなくても通じ合う」ことを諦めてしまった、悲しいシーンではない。「言わないと伝わらない」ことを認め、今度こそ「言って伝えよう」とする、成長のシーンである。
この時点で浅倉透は「P≠あの男の人」という認識のはずだ。にもかかわらず、「あの男の人でないなら関係ない」という態度は取らない。目の前にいる「アイドルのプロデューサー」に対して、自分の気持ちを必死に伝えようとしている。
浅倉透にとっての「アイドル」は、もはや「あの男の人」を探す手段ではなくなっている、ということだ。
Pは「あの男の人」ではなかったかもしれない。しかしPが与えた「アイドル」という色が、透明な人生に再び色を差し始めているのだ。
そしてこのタイミングでPは再びジャングルジムと男の子の話をする。しかも確信的なエピソードを添えてくるのだ。
この瞬間に「あの男の人=P」が確定する。ここから立ち上がるのは、言葉を交わさずとも理解してくれると思っていた張本人に対してさえ、伝えようとしなければ気持ちは伝わらなかった、という事実だ。
この事実を、浅倉透は真っ直ぐに受け止めるのである。
「言葉を交わさずとも気持ちが伝わる」というのは、所詮は美しい幻想に過ぎない。相手が誰であろうと、伝えようとしなければ伝わらないのが現実だ。
浅倉透は物事への関心が薄い人間だ。偉い人や審査員が相手でも、喋ることがなければ喋らない。それで相手にどう思われても、別に気にならない。今まではそうだった。しかし「アイドル」は、それではいけない。
『ていうか、思い込んでた』では悲しみを含む形であったが、「伝えようとしなければ伝わらない」ことに気づくことができた。そこから成長し、『ちゃんとやるから』では過去の執着に縛られることなく、「アイドル」に対して真剣に取り組んでいた。そのタイミングでかつて追いかけ続けていた過去が、ずっと目の前にあったことが明らかになるのである。
だが、折角出会えた「あの男の人」に、浅倉透は「会えて嬉しい」は言わなかった。その代わり「プロデューサー」に向かって、「一緒にアイドルのてっぺんを登れる」ことが嬉しいと伝えるのである。
「あの日の男の人」はPだった。気づかないうちに、同じ人間に、再び色を差してもらっていた。そこに注目すれば、運命的な少女漫画のような物語に解釈できるだろう。
しかし浅倉透の本質はそこではない。仮に「あの男の人」がPでなかったとしても、この物語はハッピーエンドなのだ。
少女は「言葉を交わさずとも通じ合う」という幻想を否定されたが、美しい過去に逃げ出さなかった。「伝えようとしなければ伝わらない」現実と向き合うことを、「アイドル」を続けることを、自分で選んだのだ。その事実は、Pが誰であろうと変わることはない。
透明な人生に色を差したのは、ずっと追い求めていた美しい過去の色ではなく、「アイドル」という色の方だったのだ。
さよなら、透明だった"僕"
エンディングコミュ『人生、長いから』では、満を持して「あの日」の全貌が明らかになる。
当時は僕っ子だった模様。そりゃPも勘違いもするよ。
ジャングルジムで遊びたいという気持ちを察してくれた学生。ずっとジャングルジムの方を見ていれば誰でも察するとは思うが、少女本人は「言葉を交わさずとも気持ちが伝わった」と解釈しているようだ。
ここら辺は思い出の美化とも受け取れるだろう。あるいはずっと執着してきた過去が、実際にはこんなものだったと開示することで、過去への執着から逃れたことを強調しているのかもしれない。
それでも躊躇していた少女の背中を押したこの言葉。奇しくも同じ言葉をきっかけに、彼女はもう一度背中を押されることになる。「アイドル」という名のジャングルジムへと。
昔Pと会ったことのあることを、自分から伝える浅倉透。今までは言わなくても伝わると思っていたのかもしれない。けれど今の彼女なら、ちゃんと言葉で伝えることができる。
だが、あえて浅倉透はすべてを伝えようとはしない。気づけなくても仕方ないと言いつつも、自力で気づいてくれるまで待つことを選んだ。
ここはまだてっぺんではない。
これからも2人で、ジャングルジムをのぼっていく。
おそらくその気持ちは、ジャングルジムをのぼりながらでは伝えることのできないものなのだろう。
Pが思い出すまで、あるいはジャングルジムのてっぺんに付くまで、彼女が気持ちを伝えられる時がくるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。
でもそれでいい。人生、長いから。
そしてこれからも続く
浅倉透は長い長いジャングルジムをのぼりはじめました。
今後、同じnoctchillの幼馴染たちとの絡みや、ユニットを越えたイベントストーリー等で、彼女の出番は増えていくと思います。
これから彼女は透明ではない、美しい色を次々と見せてくれるはずです。ここに書いてあることが嘘っぱちになるような、素晴らしい色をね。
その時が来ても、この駄文が怒られないことを祈っています。
シャニマスの絵と文章は信頼できる、と枕草子に記載があるのは有名ですが、浅倉透は2年連続の新人追加というプレッシャーを裏切っていないと思います。
名前の通り、透明という言葉そのものを丁寧に編み込んだキャラクターデザインには舌を巻くばかりです。
次はSSRのイラスト力で攻撃を仕掛けてきて欲しいですね。
最後に、
もしこんな伸びたラーメンの如き記事を読んで、浅倉透と一緒にジャングルジムをのぼっていくことを決めた方がいらっしゃったら、それが一番光栄なことです。
アイドルマスターシャイニーカラーズを、この記事を書いている時点ではまだ登場していないnoctchillの残り3人を、そして浅倉透を、何卒よろしくお願いいたします。
終