レストラン

紅茶のある風景②

場所は駅から近い小ビルにある軽喫茶を指定してきた。
7年前たかしと私が初めてお茶した場所だった。
その時の案件は、恋愛の相談に乗って欲しいという絶望的にバカバカしいモノだったが、それに付き合った私は結局たかしとつき合うことになった。

あれから7年、あの時と全く同じ席に座っている。
外を眺めてみると、歩道橋の先のビルが取り壊され、新しいビルを建築中だ。おかげで、さらにその先にある駅舎が丸見えになっている。
たかしによれば、この店はナポリタンがおいしいということだった。
ほかにはダンドリーチキンサンドというのを気に入っているようだった。
私たちは、ことあるごとによくこの軽喫茶を利用した。

私は紅茶を頼んだ。サンドイッチとかも一緒に頼もうと思ったのだが、ちょっと考えて止めにした。
私はコーヒー系もよく飲むのだが、カフェオレやエスプレッソはこの状況ではないような気がする。
透明感のあるストレートを注文した。

「頼む、別れてくれ!」
たかしがそう言ってきたのは一年半ほど前だった。
職場にアルバイトで二十歳になったばかりの若い子が入ってきた。
小悪魔という他ない娘だった。
背はかなり小さく、職場には、特に夏場は毎日のようにエロイかっこをしてくる。化粧もきつめで男の「やりたい気持ち」を煽る天才のような娘だったのかもしれない。
二十歳そこそこの小悪魔が、何故三十代半ばのたかしをターゲットにしたのかはよくわからなかったが、小悪魔の同年代の男たちはへんに老成しているか、行動も考えもまるっきりガキそのものかの両極端でもの足りなかったのかもしれない。
そもそも、たかしの顔に「オレっ、やりたいすっ!」ってハッキリ書いてあったのかもしれない。

たかしには、つき合いはじめて二年ぐらい経ったホワイトデーに、妙なケバイ下着をプレゼントされて着用を要求されたことがある。その程度で済んでいれば別に、もしかするとごくフツーにあることなのかもしれないが、性的に変わった趣味の持ち主なのかもしれない。よく分からない。
しかし、小悪魔ちゃんががたかしに飽きるのは時間の問題のように思えたし、たかしだって小悪魔ちゃんじゃいくらなんでもじきに物足りなくなってくるのは目に見えていた。
小悪魔ちゃんは刺激的なSEX以外何も求めてるものがないように思えた。
同棲する!みたいなところまで盛り上がった二人は、案の定、ほどなく破綻した。
一人になったたかしには、これといった当てもなく、私に復縁をもとめてきた。
ズルい…
よくヌケヌケと、また私の前に…
彼の行為は不実に思えたし、また私は、何かひどく損をしてるような、また腹立たしいといえば腹立たしいような気になったが、しかし復縁というアイデア自体は一蹴できなかった。
というより、それ以外何があるのだろう。
小悪魔ちゃんが現れるまで、私たちは、フツーにうまくいってたと思う。
少なくとも小悪魔が現れるまでは…
ひびの入った茶碗は捨てるべきだという意見もあるだろうけど、私に、そこまで思い切ったことはできない。
私はたかしより二つ年上で、今年の5月に三十八になった。

復縁を求めてきたたかしは、コトもあろうに再開の場所に遅刻している。
元々、時間にも女にもルーズな男だったから別に驚くにも値しないのだが、
LINEを見ると、「ゴメン、仕事で…」ということだそうだ。
わたしは二杯目の紅茶を飲み干した。
六時を二十分ほどまわっている。
もうすぐ太陽は完全に姿を消すだろう。
三杯目の紅茶を頼んだとき
たかしから「駅に着いた」とLINEがあった。
窓の下に目をやっていると、短く刈り込んだあいつの後ろ姿が目に入った。
じきに入ってくる。
どんな顔してやろうかしら…
腕くらいは組んでるべきよね…
ウェイターが三杯目の紅茶を運んできた。
そろそろたかしが入ってくる…

ここから先は

0字

¥ 100

サポートされたお金は主に書籍代等に使う予定です。 記事に対するお気持ちの表明等も歓迎しています。