Steinski & Mass Media
84年に、Double DeeがFile 13名義でヒットを飛ばしていた。それはDouble Dee&Steinskiで〈Tommy Boy〉から「Lesson 1,2&3」をリリースした頃だ。それから遅れること2年、86年にSteinskiは〈Tommy Boy〉からSteinski & Mass Media名義で12インチ・シングル「 The Motorcade Sped On」をリリースした。それはとても政治的なメッセージが込められたカット・アップだった。
Steinskiは語る「私が陰謀論者というわけでなく、この曲を通じて自分の意見を伝えただけ。当時(ケネディーが暗殺された頃)の私は12か13だった。(この事件で)誰もが世界が終わるのではないか?と本気で思っていたということを非常にはっきり覚えています。人々はとても恐怖を感じていました。それは貿易センタービルが爆発したときと全く同じ感覚だった。この頃を知ってる人々とは、この楽曲を通して感情的な共鳴をすることが多かった。でも、今のリスナーは若いのでそれほどではありません。これは彼らにとって古代の歴史でしかないから」。
この曲でSteinskiは著作権問題に巻き込まれた。それは楽曲中で使っていた声の元ネタは、「ケネディ暗殺」のWalter Leland Cronkite, Jrによるニュース速報だった。ある年齢の人々には忘れられないものだった。
Steinskiは語る「法的な問題は発生しませんでした。当時、私はCBSの誰かに電話をしました。でも、どこの部署の誰に電話をしたかもう覚えていません。そして、「こういうレコードを作りたい」と話しました。彼らは私の提案に耳を傾け、こう言いました。「私たちはそのことについて明らかにはしないでしょう」。私はそれを聞いて「これで大丈夫だ」という結論に達しました。しかし、〈Tommy Boy〉サイドは「法的許可を得る事はできない」という判断でした」。
このシングルはまたしてもプロモーション用コピーだけがプレスされ正規盤としてリリースされることはなかった。余談だが、英国の音楽雑誌〈NME〉1987年2月号の付録としてリリースされた。
この一件が影響したのか?!同年に、Steinskiはレーベルを〈Island Records〉のサブ・レーベル〈4th & Broadway〉移籍した。そこでリリースした最初の12インチ・シングルが「We'll Be Right Back」だ。
彼のモチーフは全てTVや映画、ラジオなどあらゆるメディアからエディットした声ネタだ。この手法はカット・アップであり詳細についてこちらをご覧ください。
余談だが、この声ネタのカット・アップは、日本でも70年代後半あたりに流行した。それは〈MADテープ〉と呼ばれ、ダブル・ラジカセの普及により一般の人々がニュース音声を録音しラジカセのポーズ・ボタンを使いエディットし気軽にテープのダビング(伝わるかな?)が可能になったことで生まれた。また、タモリのオール・ナイト・ニッポンで〈つぎはぎニュース〉というコーナーがあり、それによって爆発的に広がったようだ。
↑よーく耳を澄まして聴いてください。おかしなことになっています(笑)これこそがカット・アップであります。
話を戻そう。Steinski & Mass Mediaは、Steinskiひとりのプロジェクトだ。なぜ、Mass Mediaという名義をプラスしたのか?それはマスメディア全てが彼のネタになるという意味ではないか?と思っている。本作もGo-Goを思わせるビートに様々な声ネタをエディットしカット・アップしている。
87年には、通算3枚目の7インチ・シングル、Steinski & Sugar Kane「The Invitation」をオーストラリアで海賊盤としてリリースした。この7インチ・シングルは今まで一度もお目にかかったことがない。今では本人達も持っていないそうだ。
88年には、通算4枚目(公式には3枚目)の12インチ・シングル「Let's Play It Cool」をリリースした。
原点回帰か?「Lesson 1,2&3」を思わせる大ネタ、印象的な声ネタの数々、スクラッチ、、、いづれも洗練されている。88年といえば、「Lesson 1,2&3」の影響で英国のDJら(M/A/A/R/SやCold Cutなど)が次々とポップ・ヒットを飛ばしはじめ、歌やラップののっていない踊れるビートが認知されはじめた頃。それらの楽曲に本家Stensikiが影響を受けたのではないか?そんな想像をしてしまうような仕上がりだ。それは、92年にCold Cutの〈Ninja Tune〉からリリースした「It's Up To You」にも同じことがいえる。いづれもエディット、カットアップ、サンプリング、ブレイクビーツという手法をサウンドで具現化した作品だ。
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