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Master Mix + Arthur Russell

以前このブログでも紹介した80'sのニューヨークを象徴する前衛かつ先鋭なインディー・レーベル〈Sleeping Bag Records〉。その創立者でチェロ奏者でもあったArthur Russell。アヴァンギャルドな現代音楽と当時ニューヨークのナイト・ライフを賑わせていたDJ Nicky Sianoらのセレクト&ミックスするサウンドに心酔し、自身の作品群にその影響を反映してきた。それは、Loose JointsDinosaur LIndian OceanThe Necessariesといったユニットはもちろん、ソロ・ワークにまで及ぶ。

結果、ジャンルレスなサウンドが生まれた。それを当時の David Mancuso、Larry Levan 、Francois Kevorkian、Walter GibbonsらDJ達がリミックスを施し、こぞってプレイするという不健全な場所で健全なプロモーションがなされ、世界中のDJ達を中心にディスコ・クラシックスとして現在もプレイされている。また、Morgan GeistRoger SanchezDFAなど彼のサウンドからの影響を公言するアーティストも数多いる。

英国の音楽サイト〈Pop Matters〉は彼の作り出す音楽をこう定義した。

dance, disco, dub, and experimental music

しかし、彼は92年4月にエイズで惜しまれながら亡くなった。まだ40歳だった。その後、彼自身の再評価が進み現在まで数多くのコンピレーションやオリジナル・アルバムの再発、映画「WILD COMBINATION〜A PORTRAIT OF ARTHUR RUSSELL」公開、自伝「 ニューヨーク、音楽、その大いなる冒険 」が発表されている。

日高健介監修のもと〈ULTIMATE ’80S NY STREET SOUNDS〉シリーズという再発企画がスタートしてる。この〈Sleeping Bag Records〉のカタログも続々と2020年最新デジタル・リマスタリング&新規解説付きでCD化されていく予定(Mantronixの2タイトルにライナーノーツを寄稿させていただいた)。2月19日にはダイナソー・L『24―>24 MUSIC︓ザ・デフィニティヴ・アーサー・ラッセル』、V.A.『ゴー・バン!:スリーピング・バグ・80s・クラブ・クラシックス』(2CD)。

もともとジャンル化できないエクスペリメンタルな音楽を追求していた彼は、人を踊らせるために音楽をジャンレスにミックスしていくDJと自分とを重ね合わせた。結果、ジャンレスなダンス・ミュージックという枠の中に自分を置くことで自由に自己表現できるようになったのではないか?と勝手に想像する。乱暴にキーワードで表せば

エクスペリメンタル×DJミックス

ということになりはしないか?その裏付けになるかわからないが、自伝のジャケット(アーティスト写真)で彼が被っているトラッカー・キャップを見て欲しい。そこには「Mastermix」の文字がのっている。このキャップは穀物生産者用のものだったらしい。

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Mastermixとは、文字通りマルチ・トラック・テープを使用したミックス。つまり、DJミックスやメガミックスのように2ミックスのメディア化された音源あるいはマスター・テープ(原盤)を素材にしミックスするのではなく、メディア化される前のまだ楽曲として成立していない、チャンネル別に音が分かれた状態のマルチ・トラック・テープを素材にし、スタジオのミックス卓やテープ・エディットを駆使しミックスしたもの。より緻密で豊富なアイデアを具現化できる手法だ。

ポップ・カルチャーを通じてエイズと闘うことに専念している非営利団体Red Hot Organizationが2014年にリリースしたコンピレーション〈Master Mix - Red Hot + Arthur Russell〉のタイトルにもなってる。資料にはこうある。

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「Mastermix」は、Arthur Russellの作品を定義したジャンルを超えた実験的な精神を体現しています。

Arthur Russellとその作品に対して「時代を先取りするという言葉は彼のためにある」と米国の音楽雑誌〈XLR8R〉は評した。


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