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MATSUMOTO HISATAAKAA/1984

〜テープ・エディットとマスターミックスについて

サンプラーもプロ・ツールズ、ガレージ・バンドもない時代。音楽の制作現場は全てアナログだった。録音媒体は磁気テープで最終的なメディアはレコード・オンリー。そんな時代があった。

そういう時代に、録音された楽曲の細かいミスを調整するには、実際に録音された磁気テープにハサミを入れ、ミスした部分をつまみだし再度繋ぎ合わせるという作業が必要だった。つまり、これがテープ・エディット

往年のポップ・ミュージックにおける名盤といわれた作品の中にも、ひっそりとこうした地道な作業工程を経て完成したものは多い。でも、テープ・エディットは、基本的にミスを修正する作業、それをリスナーである僕らはサウンドの面から知ることはできない(知る必要もない)。

しかし、70年代から80年代にかけてディスコ文化が勃興し、このテープ・エディットを逆手にとり、いわゆるオリジナル楽曲をテープ・エディットで拡張(extended)したのがディスコ文化の主祭であるDJ達だった。

彼らはダンス至上主義者達だった。クラウドを踊らせるためにはなんだってやった。それまでオリジナル楽曲に手加えるなどどいうことはあってはならないことだったが、当時主流だった7インチのシングル盤は収録時間が短かすぎて不便(長丁場のDJプレイ中にトイレにもいけない)。人と違った楽曲をプレイしたい。それなら自前でテープに録音して楽曲を長くしてしまえとテープ・エディットした。

その頃、LPレコード・サイズの12インチ・ジャンボ・シングルも開発され長尺な楽曲をレコードにおさめることができるようになり、DJとスタジオ・エンジニアが組み、自前のテープ・エディットによるエクステンデッド・ヴァージョンを収録したプライヴェートなアセテート盤が作られるようになった(話はそれるが、これがいわゆるリミックスの起源のひとつではないかと)。70年代後半の話だ。これが80年代の12インチ・シングル・カルチャーの勃興につながっていく。

DJは楽曲をミックスした。あらゆる楽曲を数珠つなぎにすることでクラウドの足を止めることなく踊らせ続けた。このDJミックス(=ディスコ文化)を世界中に広めたのがニューヨークを中心として全米のFMラジオ局だった。ディスコで行われていたこのDJミックスをエンターテイメントとしてラジオ番組にしたのだ。このDJミックス・ショーはDJによるレコード・プレイの場合もあったが、そのほとんどがマスター・テープからコピーしたオリジナル音源を使ったテープ・エディットによるもの。つまり、オフィシャルなマスターを使ったミックス(=マスターミックス)だった。そこから音楽におけるエディターの存在が認知されていく。

ざっくりとテープ・エディットの流れをご紹介させていただいた。雑な説明なので不足してる情報がいっぱいあるのだが、そこはご容赦ください。

そんなテープ・エディットによるマスターミックスを完全に再現したのが、プロモ用に制作されたミックス・テープ『1984』。制作者は、関西のエディターでありAYBフォース・メンバーにしてヴァイナル7レコーズの店主でもあるマツモト・ヒサターカーだ。彼のブログから動画を引用させていただく。

オープンリール・デッキを使い、磁気テープ、テープを繋ぎ合わせるスプライシング・テープと、テープを固定しカミソリで切るためのスプライシング・ブロック、そして、カミソリ、編集ポイントをマーキングするペン。これがテープ・エディットに必要な道具だ。本人がブログで解説している。

これらを使って、ミスが許されない気の遠くなるような切り貼り作業の果てに完成されたマスター・ミックスは、格好つけた言い方をすれば音のコラージュといってもいい。テープ・エディットが音響芸術みたいな言い方をされる所以だ。

ちなみに、僕はこの『1984』をラジカセで聴いた。そのまま聴いても十分楽しかった。でも、「あ、ここ編集ポイントじゃないか?、エディットしてる!」なんて思いながらハサミが入った部分を聴くのもまた楽しかった。

プロ・ツールズなどを使えばすぐできるのに、機材も含めまるごと当時の手法にトライしたこのマスターミックスは、本人的には好きなことやってるだけみたいなことでしかないのかもれないけど、僕からすればテープ・エディットって職人技なんだなってことを再確認させてくれた貴重な作品だ。

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最後に本人のコメントを引用させていただく。

わざわざテープエディットで作ってるんで「テープエディット最高!」みたいなことをソーシャルメディアなんかに書きまくっても良いんですけどね。時間かけてみてわかるのはそう言うのはダサいんだなーってとこだったりするんですよ。聴いてる人にとってはそんなことはどうでも良いでしょ?もし聴いた後に「テープ・エディット最高!」って思ってくれたら嬉しいですけどね。

宣伝になるが、09年に〈P-Vine Books〉よりリリースしたテープ・エディットという手法にフォーカスした本『The edit』がリリースされている。テープ・エディットに関しては、これ一冊でほぼ網羅できると思うので、もし、興味があれば手にとっていただきたい(もう店頭にはないかも)。

サウンド面からエディットを知ることができるCD『ULTIMATE EDITORS / DELIC RECORDS MEGAMIX』こちらも是非。

また、13年に〈スモール出版〉よりリリースしたテープ・エディットによるエクステンデッド・ヴァージョンと80年代12インチ・シングルにフォーカスした本『The extended』とそのブログもあります。


1984 MH tapeのコピー-1

https://delicatessen.thebase.in/items/73004819


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