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家族スキーの変遷/沢野ひとし

 高校生の頃から、山登りとスキーに夢中になっていた。学業を怠り、山岳書を読みふけり、山に逃避していた。
 各地のスキー場に雪が積もると、安い民宿に泊まり、残雪の頃までスキーに明け暮れていた。

 そんな私がやがて結婚して二人の子どもが生まれると、冬の旅はスキーが中心となった。妻と幼い子どもたちは長いスキー板に戸惑い、雪の上で悪戦苦闘していた。
 自分勝手な旦那は「もがいているうちに曲がれるようになれるさ」と家族をほったらかして、自分だけ勝手気儘に滑っていた。

雪山転倒

 八方尾根、安比高原などの、広々としたスキー場に出かけるのが、しだいに慣例となっていた。特に安比高原のスキー場は、雪質、ホテル、食事、温泉と、全てにおいて妻がいたく気に入り、子どもたちが春休みになると訪れていた。妻はホテルの広い温泉で雪景色を見ながら湯に浸かる時に幸せを感じると、和んだ顔で言った。

 そうして幾つもの冬を越し、子どもたちは成人し、間もなく結婚すると、孫がコロコロ誕生した。そしてスキーに行く段には、総勢十名の団体旅行になってきた。
 孫たちはやはり雪の上で各自「曲がれない。止まらない」と大声で泣き叫んでいる。やがて娘の双子の男の子たちが小学五年生になると、スキーよりスノーボードに興味を持ち、叔父である息子の後を追い、長い距離を滑るようになった。

ストーブとやかん

 スキー場やホテルが整備されてくると、逆にもう一度、静まりかえった原始そのものの雪原を歩きたくなるものだ。

 雪の丘陵や森林を時には野鳥を見ながら歩くスキーを「クロスカントリー・スキー」(クロカン)といい、いわゆるリフトやゴンドラが整ったゲレンデ・スキーと、その性質を大きく二分し、この数年はクロカンの人気も高い。

 北海道や東北の山にはこのクロカンに適したフィールドが広がっている。ゲレンデ・スキーの板や靴は滑ることに重きを置くが、クロカンはあくまで雪上を歩くために用具が作られている。

ニセコアンヌプリpage-0001

 雪質が日本屈指といわれる北海道のニセコアンヌプリに行ったことがあるが、そのさらさらした雪質、パウダースノーに感激した。スキーの腕が一段と上がった感じである。

 来年は家族や孫たちを、ニセコアンヌプリにぜひとも連れて行ってあげたいが、札幌までの飛行機代、ホテル代と考えると、相当予算もかかる。パウダースノーを孫たちに体験させるには、その費用も大きい。
 本格的な冬を前にジジイは思案に暮れている。

雪の結晶

イラストレーター・沢野ひとしさんが、これまでの人生を振り返り、今、もう一度訪れたい町に思いを馳せるイラスト&エッセイです。再訪したり、妄想したり、食べたり、書いたり、恋したりしながら、ほぼ隔週水曜日に更新していきます。

文・イラスト:沢野ひとし(さわの ひとし)/名古屋市生まれ。イラストレーター。児童出版社勤務を経て独立。「本の雑誌」創刊時より表紙・本文イラストを担当する。第22回講談社出版文化賞さしえ賞受賞。著書に『山の時間』(白山書房)、『山の帰り道』『クロ日記』『北京食堂の夕暮れ』(本の雑誌社)、『人生のことはすべて山に学んだ』(海竜社)、『だんごむしのダディダンダン』(おのりえん/作・福音館書店)、『しいちゃん』(友部正人作・フェリシモ出版)、『中国銀河鉄道の旅』(本の雑誌社)、絵本「一郎君の写真 日章旗の持ち主をさがして」(木原育子/文・福音館書店)ほか多数。趣味は山とカントリー音楽と北京と部屋の片づけ。最新刊『ジジイの片づけ』(集英社)が好評発売中。電子書籍『食べたり、書いたり、恋したり。』(世界文化社)もぜひご覧ください(1月4日まで、半額セール実施中! この機会にぜひお買い求めください)。
Twitter:@sawanohitoshi