日本で作れる美味しいロシアの「イクラ」とは?パンにも合う「ペポカボチャのイクラ」
『はじめてでも美味しく作れるロシア料理』著者ヴィタリさんに訊く、もうちょっとロシア料理のことーvol.6ー
歴史とともに多様化するロシア料理
祖母は1913年、ロシア帝国に生まれました。国を一歩も出ないまま、ソビエト・ロシア、ソビエト連邦、ロシア連邦と、歴史が移り変わった3つの国に住むことになりました。3つの国の料理方法には、それぞれ異なる特徴があり、現在のロシア料理の形成に、さまざまな影響を与えました。
莫大な国土に広がる豊かな森と水。
地域により異なる特徴を持つ気候、バラエティ豊かな植物や動物。
さらに隣接する地域のエスニックな文化や、各地域社会における習慣や文化の変遷などの影響により、多様性が生まれました。
その特性となるポイントを挙げてみます。
・多岐に渡る料理
・穀物やそばの実などを使った料理の幅広さ(パン、ブリニー、ピロシキ、カシャ(お粥)など)
・温かいスープ、冷製スープに見られる特徴
・魚料理の多様性
(魚の調理法は、蒸らす・煮る・焼く・煮込む・揚げる・詰める・天日干しにする・塩漬けにする・塩をまぶす・ 燻すなど、多岐に渡ります)
・前菜、きのこ、野菜のつけものなどバラエティ豊かな食べ方
・ハーブ、スパイスの多種多様な使い方
・甘いもの、デザートの多様性
ロシア料理は千年以上の長い歴史とともに変化してきました。特にここ100年間の社会的な激動、大衆的な都市化、革命、戦争などもまた、人々の暮らしや料理に大きな影響を与えています。
※ロシア料理のなりたちや歴史について、もっと詳しく知りたい方はぜひ本書をご覧ください。
「ペポカボチャのイクラ」のこと
ペポカボチャは、アメリカのアステカの民族が作り始めた野菜です。
大航海時代、スペインとポルトガルの航海者は、新しい野菜をヨーロッパに持ち帰りました。その中に、ペポカボチャがありました。
ペポカボチャは、ヨーロッパからインドまで、広域で流行しましたが、16世紀までは、飾り用の植物として扱われていました。
17世紀以降、特にイタリアで食材としても使われるようになり、19世紀の終わりに、ロシアで大人気になりました。
ロシア最後の皇帝、ニコライ2世もペポカボチャの料理が大好きだったそうです。
「カバチコーヴァヤ・イクラ/кабачковая икра」(ペポカボチャのペースト)は、1930年代のソ連で作られていた典型的な料理のひとつです。今やトラディショナルな冷製の前菜として、ロシア人にはお馴染みとなりました。
ロシア語で「イクラ」という単語には、いくつかの意味があり、魚卵だけでなく、細かく切った野菜やきのこなどで作る冷たい料理の意味もあります。
「ペポカボチャのイクラ」は、ローカロリーで体によく、ロシアではスーパーでも売られていますが、家でもよく作ります。
まとめて作って瓶に入れておき、そのまま前菜として食べるのもおすすめですが、パンに塗ったり、肉料理のつけ合わせにしても美味しいです。
ソ連時代の国家のお墨付きレシピ「ГОСТ(GOST規格)」をベースとしていますが、ここではペポカボチャの代わりに、日本で手に入りやすく、似た味わいのズッキーニで代用しています。
【材料】作りやすい分量
ペポカボチャ(ズッキーニで代用)………350g
にんじん………25g
玉ねぎ………20g
にんにく………5g
<調味料>
トマトペースト………17g
塩………3g
砂糖………1g
こしょう………0.5g
油………適量
【作り方】
1)ズッキーニの皮をむき、縦半分に切って種を取る。1cm角に切る。
2)玉ねぎをみじん切りにし、にんじんを粗くおろす。にんにくをすりおろす。
3)フライパンを火にかけて油をひき、1のズッキーニを15分ほど炒める。
4)別のフライパンを火にかけて油をひき、弱火で2を10分ほど炒める。
5)4に3を入れ、ズッキーニが柔らかくなるまで、5~7分炒める。
6)ブレンダーでなめらかなペースト状にし、フライパンに戻し、調味料を入れる。
7)弱火で10分ほど炒める。よく冷ましたらラップをし、冷蔵庫で2~3時間、できればひと晩休ませる。
文:Vitaly Yushmanov(ヴィタリ・ユシュマノフ)/サンクトペテルブルク生まれ。マリインスキー劇場の若い声楽家のためのアカデミーで学ぶ。ライプツィヒ音楽演劇大学を卒業。2015年春より日本に拠点を移す。びわ湖ホールオペラ、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」、「東京・春・音楽祭」、NHK-FM、NHKワールド・ラジオ日本、BSテレ東、NHKワールドTV、東京芸術劇場他の全国共同プロジェクト、新国立劇場オペラなどに出演。「日本トスティ歌曲コンクール」第1位、「日伊声楽コンコルソ」第1位、「東京音楽コンクール」など、受賞多数。これまでに4枚のCDをリリース。幼いころからの料理好きが高じ、YouTube「Café Vitaly」(カフェ・ヴィタリ)でも、その腕を披露している。
オフィシャルサイト:http://vitalyyushmanov.com/
twitter:https://twitter.com/vitaly_jpn
写真:ローラン麻奈