祖母への恩返しの気持ちを込めて立った舞台 イベント企画・上井雄太さん
祖母への恩返しを胸に、deleteCで活動するファシリテーターのストーリー。高校時代に経験した大好きだった祖母の死。気がつけば、そこから「がん」に対して目を背けていた。しかし、deleteCと出会い、がんと向き合い、気が付いた自分の役割。あの時、何もできなかった悔しさを今、自分にできる形で晴らしたい。祖母への想いを背負い上井さんは舞台に立つ。
共創をテーマに掲げて
みんなで共に創り上げる、「共創」をテーマに掲げファシリテーターとして活躍する上井雄太さん。deleteCでも「共創」の2文字を軸に活動に取り組んでいる。普段はファシリテーションと呼ばれる、新たなアクションを起こすためのグループ・団体・組織での話し合いの場で、司会者のような役割をしている。ファシリテーターと司会者は、新たな意見が出るように参加者へ促すことや全体の雰囲気作りなどを行うところに少し違いがあると言える。そして、上井さんは、deleteCのイベントでも、ファシリテーションを使った場作りを行う。
「deleteCを応援してくれているファンの人とメンバーとが、お互いの思いや強みを掛け合わせて、ポジティブなアクションを起こしにいくというのが僕の役割かなと思っている。」
2019年5月11日の「やってみようミーティング」では「活動を広げるためにやりたいこと」、2020年の2月1日の「deleteC 2020-HOPE-」では、「応援の形を広げる」「未来への一歩を踏み出す」というテーマで、参加者がグループに分かれて意見を出し合った。
上井さんはその会の進行を任されていた。
deleteCには、明確な目標と代表理事の中島ナオさん、小国士朗さんの想いのこもった分かりやすく強い言葉がある。そのため、参加者も意見を出しやすく活発な議論になる。だからこそファシリテーションはdeleteCとファンの人々をつなぐ貴重な役割を担っている。
行動指針の「あかるく、かるく、やわらかく」は革命
deleteC創設前、上井さんは、仕事で知り合っていた小国さんから、deleteCのアイデアを聞いていたという。「がんを治せる病気にする」という大きな目標に対して”C”を消すことで取り組む、という切り口。
「ちゃんと芯があって、本質を突きながら、みんなが関われるようにリデザインしているモデルだ」と共感した。そして、実際にdeleteCに関わるうちに、人の素晴らしさ、大きな可能性も肌で感じられた。
「色んな分野の人がいて、小国さんとナオさんという中核の2人を中心としたdeleteCファミリーというか、絶妙だなと思いますね。すごいのはみんなの熱量と没入感。毎週の会議がてっぺん(深夜12時)を越えるみたいな。衝撃を受けたのは最初に行った2019年12月8日のミーティング。僕の出番がないまま時間が過ぎ、でも内容は面白い。やることも濃いので、終わった後はてっぺん越えていたけど爽快感があって。みんながタクシーで帰っていく姿に大人の青春だなと。それが記憶に残っています。」
そして、ナオさんの考えたdeleteCの「あかるく、かるく、やわらかく」の行動指針。これこそがdeleteCの本質であり、この考え方が今後、あらゆる社会的課題を動かす力になると確信している。
「『deleteCのような社会的アプローチってありだよね』という事例の1つになれればと思う。これまでにチャレンジしたトライ&エラーすべてがモデルになって、今度は違う社会課題、例えばシングルマザーを支援するという領域でもdeleteC的なアプローチができるかもしれない。そういう意味で、『あかるく、かるく、やわらかく』、ナオさんの考えたあれは、やばいと思っています。マジで僕はこれは革命だと思いました。」
今の日本では社会的な課題は重く、堅く、時には暗いものとして捉えられがち。だからこそ、「あかるく、かるく、やわらかく」考えることで解決の糸口が見えてくるかもしれない。
未熟さを痛感したミーティング
上井さんは、未来について話し合うファシリテーション、「フューチャーセッション」を行う時に、作りたい未来から逆算して今なにをすべきかを考えていく”バックキャスティング”という手法を取る。背景の違う多種多様な人が集まる場合、この方法が、共創が起こりやすくなるためだ。
2020年2月1日のイベントも「5年後の未来」を軸に、この手法で運ぶようミーティングで話をしていた。
「5年後の未来は、私はちょっと。」
代表理事の中島ナオさんの言葉だった。
「僕はファシリテーターとして未熟だった。自分は本当に、その場に参加する人たちのことを考えているのかなって。ナオさんにとっての未来、ナオさんにとっての”今”ってなんだろうと。全体が良くなればいいという考えでデザインをしていたので、ナオさんの言葉を聞いて方向転換した。ありがたい学びだった。ナオさんにとっての未来、ナオさんにとっての今の価値って、僕と比較していいのか分からないけど、全然、違うと感じた。価値というか、濃度というか。だからこそdeleteCのメンバーも一緒。今この瞬間にかけるエネルギー量というのは何だろうと考えた時にそこだなと思った。ナオさんとともにいるこの時間に全力集中みたいな。誰も手を抜いていないし。それがエネルギー量の集まっているポイントなのかなと感じた。」
ナオさんの言葉から自分を見つめ直す機会を得られたことが、上井さんにとっては何よりも価値があることだった。
直前まで考えた舞台に立つ意味
そして、2月1日に「deleteCの今後を考える」をテーマに舞台に立った上井さん。だが、出番前に突然、「自分にとってのdeleteCって、なに…って」、そんな思いがこみ上げてきたそうだ。
「忘れていたというか、僕の中で閉ざしていた思いがあった。僕はじいちゃん、ばあちゃんっ子で、すごく愛情を持って育ててもらった。そのばあちゃんが高校2年生の時にがんで亡くなった。実は僕はそこからがんというものを全部、閉ざしていて、なかったことにしていた。がんって聞くと目を背けていた。今でもその時の病院のことも思い出すというか。本番前に僕の中でそれが少しずつ沸き起こってきて。当時は何もできなかった。けど、この機会は、ばあちゃんに対して、今はこういう形で(がん治療研究の発展へ)貢献できていると言える機会だなと思った。」
祖母への想いも胸にイベントをやり遂げた。
「機会を与えてくれたナオさん、小国さんへ感謝しています。がんに対して何かやりたいけど、接点がないから、僕は怖くてずっと閉ざしていた。だけど、こういうタイミングで、こういうご縁をいただいて。当時は何もできなかったけど、今、苦しんでいる人、これから起こってしまう人のために僕なりのかかわり方で貢献できるんだなと。deleteCに関わる意味というのが、2月1日に見えたと思いました。」
この組織で活動していく意味を見出した瞬間でもあった。
悔しい過去を晴らせる場所として
上井さんはdeleteCでの活動をかさね、仲間への感謝の気持ちも大きくなっていった。
「ナオさんのおかげで、おばあちゃんへの恩返しが少しできている感が僕の中になるのかなと思った。最後に何もできなかったんですよ。その悔しさがずっと残っているから閉ざしていたんだな、そう思った時、ナオさんと出会って、こういう機会を、希望を与えてくれた。自分のやりたい仕事で機会を与えてくれているナオさんに感謝だなと改めて思います。」自然と熱い思いがあふれてくる。
上井さんの活動を、テレビ番組を通じて知った祖父からは「いいことやってるな」と言われ、母親を始め、親族からも声をかけられた。「家族、親戚とのやり取りも通じて、自分にdeleteCがより深いものになった」と実感がこもる。
がんを治せる病気にする日を手繰り寄せることがdeleteCの目指す場所。だが、上井さんにとっては過去を取り戻すという意味も含んでいる。
「deleteCは今とか未来だけじゃないんだなって思います。愛する人の悲しい過去や悔しい過去とか、喪失感をもう一度、いいものに変えていく。過去の出来事を、今や未来へつなぐ役割も、もしかしたらあるのかも。僕がそういう人間で、同じような人たちがdeleteCへ、自然と仲間になってくれれば、すごいモデルになるというか、すごい革命だと思う。アフターデリCみたいになるんじゃないかなと思います。」
祖母が亡くなった時、何もできなかった無念さは今でも忘れられない。しかし、自身が体験した後悔や同じような思いをする人がいなくなることを願い、上井さんは活動を続けていく。
協力(企画 山口恵子 文 酒谷裕 編集 中島ナオ、徳井柚夏)
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