見出し画像

アメリカで圧倒された寄付文化を日本にも 医療チーム・桜庭喜行さん

アメリカで圧倒された寄付文化を日本でも。そんな未来を思い描く研究者のストーリー。留学先の「セントジュード小児病院」は治療費・滞在費など全てが寄付金で運営されていた。そこで感じたのは、寄付でしか成り立たない医療もあるということ。日本にいまだ根付いていない寄付文化を、deleteCを通じて当たり前へ、がんを治せる病気にするため桜庭さんは奮闘する。 

 ポジティブな感情で満たされた空間に惹かれ

 集まった寄付金と、がん治療研究を結びつける医療チームで活躍する桜庭喜行さん。以前は研究者としてがんに関わる基礎研究などを行い、現在は遺伝子検査会社を設立してその代表を務めている。

 deleteCでは寄付を希望するがん治療研究テーマの公募、応募されたテーマを選考委員の先生方とコンタクトを取りながら絞り込む作業などを行う。がんは部位や種類がかなり多く、1つ1つに専門的な知識を必要とするため、全てのがんの知識を持つ専門家はいない。そのため、難しさもある。

 「とんでもない研究に寄付をしてしまうと、何てことをしているんだとなるし、先生方からの信用も落ちてしまいます。それは避けないといけないですし、がんを治せる病気にするという目標にどれだけ合致した研究を選べるか。外から見ても一歩ずつ前進している、凄いよねと言われる研究を選ばないといけない。」プロジェクトの肝となる部分だけに強い責任感と慎重さも必要とされる。

 そんな桜庭さんとdeleteCとの出会いは昨年の5月。ビジネスパートナーの長井陽子さんが、理事として創設時から携わっており、2019年5月11日のイベントに会社で協賛したのがきっかけだった。

 「すごい人たちがすごいことをやっている」、それが第一印象だった。同時に今までにない感情も湧いた。

 「伝え聞いていたコンセプトも素晴らしいと思ったけど、実際にはさらに良く見えました。会場にたくさんの人がいて言葉では言い表せないけど、ポジティブな感情で満たされたというか。今までに感じたことのない、不思議な体験でした。」

 その雰囲気に惹かれ、deleteCへと加わることになった。

 アメリカでの経験が原点

 deleteCの趣旨に共感できたのはアメリカでの体験が何よりも大きかった。

 桜庭さんはdeleteCに対して「日本の社会の課題だと思っていたものを突破できるのではないだろうか」、そんな思いを抱いている。

 2008年にアメリカのセントジュード小児病院に研究者として留学した。そこは研究施設のついた小児がんの研究で有名な病院。その運営は全て寄付金で成り立っている。そして、全米から集まってくる患者の治療費、家族の滞在費も無料だった。

 「そんな世界があるのかと思いました。カルチャーショックというか。町のレストランに行くと壁には、いくら寄付したというボードが誇らしげに飾ってあったり。色んなスポーツイベント、セントジュードマラソンなんかもあり、寄付が身近、日常なのだと思います。」

 桜庭さんは文化の違いに圧倒された。
 また、がんの場合、治療法や治療薬があってもそれが保険適用外で高額のため受けられないこともある。「寄付でしか成り立たない医療というのも確かにあるんだな」、それも痛感させられた部分だった。

 deleteCの活動は”C”の消えた商品を買うことで寄付ができる。「いつでも、誰でも、気軽に」という点で今までの仕組みとは違っている。

 「日本は寄付といえば高尚で、堅いイメージがあり根付いていないかなと思います。それを突破できるきかっけになるのでは。”C”が消えた商品を買うのは、”C”が消えてない商品を買うのと同じ感覚でできる。それが、がんの治療研究を応援することになる。すごく新しく、気軽さがいい。」と期待を込めて語る。

桜庭さん

 やりがいを感じられる喜び

 桜庭さんにとってdeleteCの最大の魅力、強みは、この組織を作り出す多種多様な分野の人たちだという。

 「関わっている人が、すごい人ばかり。こういうメンバーがいれば世の中も変えられるんだろうなと。人が大事なんだなというのは意識しました。」

 さらに、代表理事の中島ナオさん、小国士朗さんが「言葉」を大切にしていることで、「言葉」への意識も変わってきた。

 「コミュニケーションをどう取るかで、僕はガチガチ、ドライにしてきたんですけど、もう少し考えて柔らかく取らないと、と日々反省をしながらやっています」と微笑む。

 2020年2月には、初めてdeleteCとしてがん治療研究に寄付金を送ることができた。基礎研究をしていた時は成果が出るまで早くても10年、20年。そのため手応えや実感が遠いところにあった。しかし、deleteCでは公募から寄付金を渡すまで、約半年。

 「世の中への貢献に実感が持てるのがやりがいですね。deleteCメンバーは皆さん、ボランティアとして、給料ももらわずに活動していますが、やっぱりやりがいが大きいですよね。」と口ぶりにも充実感がこもっている。

スクリーンショット 2020-09-08 22.18.14

 医療の視点からの発信も重要な役割

 休日には息子さんのサッカーの練習に付き合う、父親でもある桜庭さん。deleteCの輪が広がれば、寄付を希望するがん治療研究も、前年の17件を大幅に更新していく可能性が高い。現在は、より良い寄付先を選ぶため、透明性を持ち、deleteCらしい選考ができるよう医療チームの体制を充実されるため様々なプランを練っている。

 「ただ寄付先を選ぶだけではなく、選んだ課題について啓蒙できる、こんな研究があるよとか、こんな先生がいるよ、まで伝えられるのが、deleteCの強み。そこも医療チームの大事な役割だと思います。一般の方に対して、難しい話を、魅力ある発信に変化させて、先生方の役にも立てるような。見ている方も、『こんなに素晴らしい研究をしている先生がいるんだ』と分かるようにしたい。」

 桜庭さんは、医療の現場を伝える役割も担っていくつもりだ。アメリカでの体験をもとに、社会を変えたいという強い信念を持っている。

 「メンバーも徐々に増えて、2年目を回していくという実感はあります。足りないところは多くても、それでも前に進むことが大事。スタートアップベンチャーと同じで、”準備万端”で進むことはありえないので、進みながら考えて。それをみんなできているのがすごいと思います。」

 「もし夢を語れるなら、セントジュード並みに寄付を集めて、deleteC病院なんかを作れたらなというのはありますね。」究極の目標を描きながら、仲間とともにがんを治せる病気にする日を追い続ける。

協力(企画 山口恵子 文 酒谷裕 編集 中島ナオ、徳井柚夏)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?