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deleteCのブレーンとして 事業推進・稲垣慶典さん

 ふとしたきっかけでdeleteCに強烈に惹かれた「課題解決役」のストーリー。多種多様な分野のプロ集団の中で稲垣さんは、仲間たちの出す様々な意見を融合させながら目標を実現させるための戦略を練り、活動を進めるために何でもやる。

 戦略面で欠かせない存在

 「僕は、課題解決役。」稲垣慶典さんは笑顔で自身をそう表現する。2019年6月にdeleteCへ加入し、現在は主に事業推進の部分を任されつつ、様々な領域で活動している。

 deleteCはバックグラウンドの違う、多種多様な分野のプロフェッショナルが集まっている。そのメンバーが考えることは、どれも魅力的で、斬新な視点やアイデアが多い。一方で、実現させること、あるいは融合させることが難しい場合もある。そんな時こそ稲垣さんの出番だ。

 「みんなが、フワッとした意見を出して、それを言語化して、だとするとdeleteCはこうなるべきじゃないかなみたいなところに落としどころを作ったり、そういう話を発展させるために、ファクトとしてこういうのは世の中に何パーセント存在しているとか。こういうものをやるためにはこのくらいお金が必要で、じゃあどうしようかみたいな。そういう関わり方で戦略を整えていく感じが一番正確な表現ですかね。僕はみんなの意見を聞きながら着地点を探しています。」

 仲間たちの出した意見を実行可能な形へと整えていく。稲垣さんはいわばdeleteCのブレーンのような存在である。

 小国さん、ナオさんに会って変わった考え方

 稲垣さんは、本業で所属するIT企業で、ヘルスケアやがんに関わるプロジェクトを担当している。その同僚だったdeleteC医療チーム・澤井さんからdeleteCの話を聞いていた。何度か手伝いも依頼されていたが、「そんなに興味はなかった」という。

 「仕事としてがんという領域に関わってはいるけど、そこまで前向きに関わるつもりはなかったです。それ以上は、初めて聞いた時は『患者団体かな?』というイメージで、正直どこか他人ごとに受け止めていました。」

 しかし、deleteC代表理事・小国士朗さんが以前NHKに所属し、ある有名番組のディレクターをしていた人物と知り、「NHKの番組がスーパー大好き」という稲垣さんは、それをきっかけに話を聞きに行くことに。

 小国さんと中島ナオさんの2人と初めて会い、会話をするうちに考え方が変わり、deleteCに強烈に引き込まれ、本格的にdeleteCに携わるようになった。

 「ただ寄付を集めるのではなく、”C”を消した商品の売り上げの一部を寄付するという、”ビジネスモデル”で解決しようとする視点が、NPOっぽくなくて良かった。がんを治せる病気にするために、世の中を動かす姿勢に共感できたし、がんに関わりのないはずの小国さんがそういう話をしているのもあって僕自身も、関われるかも・できそうだなと思いました。また、2人に1人はがんになるという時代で、僕にそんなに関係のない話でもない。自分も関与しうると思ったのがグイっと興味が寄ってきたタイミングでした。」

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 最初に直面した課題は、deleteCのNPO法人化

 2019年6月。加入してすぐに直面した課題は、deleteCのNPO法人化の手続きだった。同年10月20日に、既に法人設立のイベント開催が決まっていることを知った稲垣さん。まず書類申請してから、設立までどのくらいの時間がかかるのか、過去の事例を調べた。すると審査期間を含めて約3ヶ月。7月中には法人登記をしないと間に合わない。

 さすがにNPO法人設立の知識はなく、すぐ本屋に走った。法人設立のガイドブック、NPOに関わる法律の解説本、NPOの会計経理の3冊を何軒か回って手に入れ、ネットも使いながら澤井さんと協力して進めていく。

 「本業でもそうなんですが、”よく分からないけどやる”というのが僕の得意なところです。よく分かんないなと思いながら、よく分かんない団体の法人設立をした経験は、今考えても、面白かったなと思います。」

 忙しい中に、楽しさを感じながら1か月で書類を完成させ、期限までにNPO法人化することができた。稲垣さんは、その後もホームページの刷新、あるいはイベントや企画実現に向けた費用面の調整、クラウドファンディングの案件の推進、SNSチームの運用など、さまなまな領域でチームの基盤を支える部分を担っていった。

 仲間に触れて見えた新たな感覚

 稲垣さんにとってのdeleteCの魅力とは、普段の仕事では考えられないほどの多様性と、誰もが常にポジティブに考え、物事を進めることだという。

「みんなびっくりするくらいポジティブで前向きで。だからこそ、こんなに多様なメンバーがいても愚直に前を見続けられているのだという気がします。スキル、バックグラウンド、得意なことは違うけど、みんなに共通しているのは前向きで、建設的ということ。その姿勢がみんな一貫しているからこそ、こんなバラバラな人でもまとまるのだろうなと思います。」

 様々な意見が出る、その強みを生かすために、稲垣さんは、あらかじめ戦略を作らず、トップダウンの形も取らない。みんなの意見を汲み取って、”四方八方から飛んできた火が落ちる中央点を見出していく”そうだ。そんな方法が取れるのも、いろんなメンバーのいるdeleteCの特色だろう。

 deleteCの活動を通じて、稲垣さんへ大きな変化が訪れた。これまでは「サラリーマンとして直線的にキャリアを重ねていく」感覚が強かったという。しかし、deleteCのメンバーは、本業も個人で独立して活躍している人が多い。

 「他のメンバーが個人として、自分の好きなこと・やりたいことを、さまざまな働き方を通じて、熱中しながらやっているのを見ると、いいなと。そして、自分もプロボノという形でdeleteCで働きながら、本業では経験できないことを積み重ねられている。自分のやりたいことはいろんな形でできてるんだと、僕がdeleteCに関わり始めて思ったことでもあります。小さい変化ではあるけど、僕の中では意味のある変化だと思います。」

 人生において新たな道が見えたのも、deleteCに関わったからこそだった。

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 今後、求められるのは自分たちの”商品”

 deleteCの活動の中で最も印象に残っているのは、2020年1月18日に行われたラグビートップリーグでの「deleteCマッチ」で雪の降る中、声を張り上げて募金を呼び掛けたこと。稲垣さんは、この活動のあらゆる場所でやりがいを感じているという。

 「deleteCはNPOというよりは小さいベンチャー企業のようなものだと思っていて、生まれたばかりだから、何も枠組みもない中で一つ一つ自分たちで作っていくフェーズになる。自分が行動したことが、ちゃんと組織に反映されていくことが、やりがいや進捗感があって、楽しいと思う部分です。夢があって、さらに自分が考えたことが、ちゃんと、そしてしっかり前に進んでいく感覚はいいですよね。」

 組織の成長を肌で感じられるのも新鮮だ。deleteCが目的を果たすためには今後、組織の規模を大きくして成熟させること、そして、自分たちの”商品”を生み出すことが重要だと稲垣さんは熱く、その思いを語る。

 「いずれ、一つの企業のように、”メンバー、職員にお給料を払って、そして優秀な人が集まってきて、NPOという今までの基準では考えられないような変化を起こして、世の中に価値を提供できる”、そんな組織になっていきたいなというのが僕個人の思うこと。そのくらいしないとがんを治せる病気にはならないと思う。がんを治せる病気にしたいというのを愚直に目指していきたいと僕は思っています。」

 「それを実現するためには、いかにお金を集めるかだと思います。お金を集めるために、我々が価値を提供できる”商品”。それは形がある商品だけで半なく、”体験”や”付加価値”といった売るものを作らないと。『”C”を消した商品を世の中に出して、一部を寄付にしていただく』方法はあるけれど、2020年のこの状況下では、企業さんもやりにくい状態になっているかと。我々がお金をいただくために、付加価値の中心である”商品”をどんどん発明しないといけない。今は”解”がないので、模索しています。」

 deleteCが掲げる「がんを治せる病気にする」、その日を手繰り寄せたいという目標。それをかなえるために稲垣さんは、仲間の意見を聞きながら、最高の「解」を探し続けていく。

協力(企画 山口恵子 文 酒谷裕 編集 中島ナオ、徳井柚夏)


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