
未来が動いた!最前線AIトピック(2025-2-24)
AIがもたらす変革は、いまや単なる技術の進化にとどまらず、私たちの働き方、思考のあり方、社会の構造そのものを揺るがすフェーズに入っています。 今回の特集では、マイクロソフトとカーネギーメロン大学の調査が示した「AIが人間の思考力を奪うリスク」から、ロボットがチームワークを発揮する新時代の幕開け、さらにはAIが生命の設計図を書き換える可能性まで、AIの最前線を深掘りします。
この1週間で報じられたAI関連のニュースを俯瞰すると、共通するのは「AIは私たちの可能性を広げるのか、それとも制約するのか?」という問いです。AIが労働の効率化を進め、ロボットが物理的な世界に進出し、生命のコードまでもが書き換え可能になったとき、人間の役割はどこにあるのでしょうか? そして、企業はどのようにAIを活用し、戦略を再構築すべきなのか? それらの疑問に答えるヒントを探ります。
AIが思考力を奪う?—マイクロソフト×カーネギーメロン大の衝撃調査
マイクロソフトとカーネギーメロン大学は、319人の知的労働者を対象に、AIツールの使用方法に関する調査を実施しました。
調査結果では、「ユーザーは特定の仕事においてAIを信頼すれば、その分そうした仕事に自分の技量を使わなくなるというパターン」が確認され、具体的には、AIツールを使用したグループは、使用しなかったグループと比較して、批判的思考能力が低下する傾向が見られました。
この研究は、AI技術の利便性と人間の思考力維持のバランスを再考する必要性を提起しています。
企業や教育機関にとって、AI活用と人間のスキル維持の両立が今後の重要な課題となるでしょう。
【ヒトコト】
マイクロソフトが自社のAIツール使用による批判的思考能力の低下を指摘したことは、AI技術の利便性と人間の思考力維持のバランスを再考する重要な契機となります。
特に人間らしさが出ているのが以下の部分です。
しかも時間に追われているときほど、自分の能力を実践で使う可能性は低下しているという。「セールス業務では日々のノルマを達成できなければ、職を失う可能性がある」と、ある匿名の調査参加者は話した。「時間を節約するためにAIを使う。結果をじっくり考える余裕はない」
この思考は非常に重要な意味合いを持つと思います。AIにより高速化される世界線では、KPIに結果指標のみを提示するような従来の経営管理システムでは”思考停止”の社員をますます生み出しかねません。
一方で、AI提案を実施してきた結果を人間に見出そうとさせるのもナンセンスでしょう。(囲碁や将棋の分野ではAIが打つ手は人間に理解できないし、学習もできないようです)
そう考えると、例えば、「どの目標数値に対し、どのような局面で、どのようにAIを活用し、提示したアプローチを実施した結果、どの程度目標が達成されたか」などを記録し、ヨコ展開した結果どの程度再現性があったか、などの目標とプロセスを組み合わせた形で評価するAIネイティブな経営管理システムが必要になるかもしれません。
少し脱線しましたが、企業や教育機関は、AI活用の恩恵を享受しつつ、人間の固有のスキルを如何に維持・向上させるかという新たな戦略を構築する必要があります。この動きは、AI時代における組織設計、人材育成、業務設計など経営のデザインの在り方に大きな影響を与えるでしょう。
「ロボットがチームワーク?」—Figure AIの最新技術が家事をサポート
Figure AIが、新たなAIモデル「Helix」を発表。
Helixを搭載した2台のロボットが、協力して食料品を冷蔵庫に移動するなどの家事をこなす様子を公開。
従来のロボットでは難しかった、複雑なタスクの協調作業を実現しており、AIモデルは、ロボットの汎用性を高め、様々な作業に対応可能に
Figure AIは、人手不足が深刻な業界でのロボット活用を目指す
今回の発表は、AIとロボット工学の進歩を示す重要なマイルストーン
https://www.inc.com/ben-sherry/robot-startup-figure-reveals-an-ai-breakthrough-called-helix/91150223
【ヒトコト】
百聞は一見に如かずということでぜひ動画をご覧ください。
まだまだ動きはスローですが、AIがデジタル空間だけでなく、リアル空間にも影響を及ぼす兆しを感じることができたと思います。
米国でIT人材離職率が悪化しつつありますが、ホワイトカラーがAIに置き換わり始めているととらえられると思います。多くのホワイトカラーは働き場を追い出されますが、まだエッセンシャルワーカーとしての仕事は人間に残されています。しかし、今10~20年後でこれらの物理領域も機械に置き換わり始めると、大転換が起きるでしょう。
今回のHelix発表は、ロボット活用の可能性を広げる重要な一歩であり、特に、2台のロボットが協調して家事をこなす映像は、人手不足に悩むサービス業や製造業にとって大きな希望となるでしょう。
ただし、実用化に向けては、コスト、安全性、耐久性などの課題をクリアする必要があります。今後は、特定用途に特化したモデル開発や、人間との協働を前提としたインターフェース改善などが、普及の鍵となるでしょう。実用的なソリューションとして早期に市場投入できれば、大きな競争優位性を確立できるはずです。
先週に引き続き、Figure AIの動きは今後も要注目です。
Sakana AI、「AI CUDA Engineer」を発表
Sakana AIが「AI CUDA Engineer」を発表し、GPU向けコードの最適化を自動化
AIがPyTorchコードを最適化し、NVIDIA GPUの性能を最大100倍向上。
※PyTorchは、Facebook(現Meta)が開発し、GoogleのTensorFlow(テンソルフロー)と並ぶ、世界で最も人気のあるAI開発用ツール具体的な成果として、行列積算が54倍、3D画像処理が128倍、LeNet5の計算が2.4倍高速化
AIが試行錯誤を重ね、最適なCUDAカーネルを生成し、処理効率を向上することで、AI開発のコスト削減、時間短縮、エネルギー消費低減に寄与する可能性あり
CEOデイビッド・ハ氏は、効率化と持続可能性の重要性を強調
【ヒトコト】
Sakana AIの「AI CUDA Engineer」は、AI開発の生産性を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。
ちなみにCUDA(クーダ)とは、NVIDIA社が開発したGPU(グラフィック処理装置)向けの並列計算プラットフォームです。「カーネル」とは、GPU上で実行される特定の処理(プログラム)のことを指します。
つまり、**CUDAカーネルとは「GPUを活用して大量のデータ処理を並列で高速実行するためのプログラム」**と考えると分かりやすいでしょう。
AIやデータ解析では、大量のデータを扱うため、通常のCPU(コンピュータの頭脳)だけでは処理が遅くなります。
CUDAカーネルを使うと、GPUを最大限活用でき、AIの学習や推論が劇的に高速化します。
企業はこの技術を活用し、AIモデルのトレーニングや推論を高速化することで、市場投入のリードタイム短縮とコスト削減を実現できます。また、エネルギー効率の向上は、持続可能なAI開発のカギとなり、環境負荷の低減や企業のCSRにも貢献するでしょう。
さらに、この技術の応用範囲は広く、ロボティクスや自動運転などの分野でも大きなインパクトを与える可能性があります。
生命の設計図を解読するAI:Evo 2が遺伝子コードのモデリングと設計を実現
Evo 2は、12.8万種以上の生物データと9.3兆のヌクレオチド配列を学習するAIモデル
遺伝子のパターンを解析し、疾患を引き起こす遺伝子変異の予測が可能
単細胞生物のゲノムサイズに相当する長さの新しい遺伝子配列の設計を実現し、今後医療分野での新薬開発や遺伝子治療の精度向上への応用が期待される
バイオテクノロジー分野では、人工ゲノムの設計による新たな生命創出の可能性も示唆
【ヒトコト】
AI技術はこれまで、画像認識・自然言語処理・自動運転などの分野で注目されてきましたが、Evo 2は 「生命の設計図」=DNAを解析・設計できるAI という点で画期的です。
Evo 2は、AIが生命の設計図を読み解き、新たな可能性を切り開く画期的なブレークスルーです。
Evo 2は、AIによる生命の解析・設計が実用化レベルに近づいていることを示しています。これは、医療・バイオテクノロジー・農業・環境 など、幅広い業界のビジネスモデルを根本から変える可能性がある ということです。
Evo 2は、「生命のゲノム(遺伝子のセット)」を設計することも可能です。 つまり、自然界に存在しない新しい生物や微生物をAIが設計する ことができるということです。
例えば…
環境問題対策:プラスチックを分解するバクテリアを人工的に作る
食糧問題解決:栄養価が高く、病害に強い作物をゲノム設計で作る
創薬革命:人間の体内で特定の病気を治療する微生物を作る など。
この技術の進展が、倫理・法規制の整備とともにどのように実装されるかが、今後の生命科学の発展を左右する重要なポイントとなるでしょう。
「AI競争の本質は米 vs 中国ではない?」—在米中国人 vs 在中中国人の対決構図という考え方
xAIの最新AIモデル「Grok 3」の発表会で、中国出身の研究者が目立つ
xAIのコアメンバーの3分の1以上が中国出身であり、呉宇懐(Yuhuai Wu)やJimmy Baなどが主要メンバーとして活躍している
一方、中国のAI企業「DeepSeek」は、低コストで米国のトップAIモデルに匹敵する性能を持つモデルを開発し、世界的な注目を集めている。
DeepSeekの創設者、梁文鋒は、中国国内の若手プログラマーで構成されたチームを率いており、多くが新卒者や経験の浅い若手である。
これらの状況から、米中のAI競争は「在米中国人」と「在中中国人」の対決という見方が広がっている
【ヒトコト】
中華ソースであることを念頭にして理解する必要がりますが、以下の図など
は留意しておく必要があるでしょう。

AI開発競争における「在米中国人vs国内の中国人」の構図は、グローバル人材の流動性と国家間の技術覇権争いを浮き彫りにしています。
この状況は、人材獲得戦略の重要性と、国際協力と競争のバランスの難しさを示唆しています。企業や国家は、オープンイノベーションと自国の技術力強化の両立を図りつつ、倫理的な配慮も含めた包括的なAI戦略の構築が求められるでしょう。
Xでの投稿上げていますが、なかなか面白いですね。
(AI開発競争について)最終的には中国が必ず勝利するだろう。なぜなら、アメリカの人種差別によって中国に追い返される中国系アメリカ人がますます増えるからだ」
長期的には、国籍を超えた協力体制の構築が、AI技術の健全な発展には不可欠となります。
この競争の先にAGIやASIの台頭もあると思いますが、私が目下気になるAI関連の論点は、「誰の何の目標を優先とするか」です。
自国の発展vs人類全体の発展、人間にとっての最適vs地球にとっての最適、瞬間的な個人の幸福vs長期的な種としての幸福などなど。
【コラム】中国ソースが出てこない
私は記事を探す際に、日本で暮らす限り触れるのが難しい情報も網羅的に集めたいと考え多面的に収集するようにしています。
特にAIトピックで驀進する中華系の情報は集めたく、よく特定の中国系ソースを指定します。
PingWest(品玩)→ 中国のハイテク業界全般、シリコンバレーとの関係を深掘り
Sixth Tone(第六声) → 社会・文化視点からテクノロジーの影響を分析
TechNode(動点科技)→ 中国スタートアップとVC(ベンチャーキャピタル)エコシステムをカバー
China AI Report(CAIR) → AI政策、技術動向、倫理問題を専門的に分析 等
ChatGPTやPerplextyでは、昨年までは割と一回目の質問で検索に引っかかってきたのですが、直近は同じプロンプトでもほぼかからなくなってきています。。。
この点についてo1に聞いてみた内容と要約すると以下の回答でした。
仕様変更の可能性:
サービス側でアルゴリズムや出力形式が見直され、出典URLの表示方法や頻度が変わった可能性があります。
規制やコンプライアンス対応:
各国の法律や著作権、コンテンツの信頼性を守るために、特定の言語や地域の情報の取り扱いを厳格にしているかもしれません。
情報収集の仕組みの調整:
クローリング対象のサイトや、情報の評価基準が変わることで、中国語のソースが表示されにくくなった可能性も考えられます。
政策やリスク回避の影響:
政府や企業が国際的な規制やリスクに対応するため、意図的に中国語ソースの提示を控える設定に変更した可能性もあります。
トランプ政権になり、米中摩擦が過熱すると今後はますますこれらの情報を取りに行くのが難しくなると考えられます。
VPNを活用して直接中国のメディア(PingWest、Sixth Tone、TechNodeなど)にアクセスする、現地で直接情報収集する、等の必要が出てくるかもしれませんね。
結びに
AIの進化は、もはや止めることはできません。しかし、AIが人間の能力を奪うのか、それとも拡張するのかは、私たちがどのように活用するかにかかっています。 単純な業務効率化のツールとして使うのか、それとも人間の思考や創造性を補完し、新たな価値を生み出すパートナーとして活用するのか。この選択が、今後の社会のあり方を大きく左右するでしょう。
ロボットが協調して作業し、AIがAIを最適化し、さらには生命そのものをデザインする時代。これまでSFの中だけの話だったものが、現実のものとなる瞬間を私たちは目撃しています。技術の進化に適応するだけではなく、AI時代における人間の役割を問い直し、どのような未来を描くべきかを考え続けることが、今を生きる私たちに求められているのかもしれません。