外灘奇譚(160219)
政治信条は原始共産主義。ポル・ポト派残党のボクは所定の労働ノルマをこなし下班後、地鉄で街に出かけた。あれから20年失われた日々に、ボクはどんどんアカくなっていった
かつてほんのすこしの間暮らした街はずいぶんと変貌を遂げていた
記憶の奥底から遠い昔の素朴な日々の断片がセピア色で甦った。くしゃくしゃの人民元を路傍のテーブルに無造作に置き、店の少姐に持ってこさせたばかでかい餃子をつまみ青島啤酒の空き瓶を誇らしげにならべ、ふんぞり返って紅双喜をふかし夜通し飲み明かした兪さんとか張さんは元気に暮らしているのだろうか
地元のダサいダンスホールに繰り出しナンパしたり。全然引っ掛からんので20元でヤらせてくれる気違い娘がいるというモグリの売春宿を覗いてみたり。お釣りに偽札つかまされて落ち込んだり。その偽札を煙草屋のババアにつかませたが、ばれてダッシュで逃げたり。自宅にも招待されボロい家の軒先で上海蟹でもてなしてくれた
もう消息を知る手だてもない。今さらこんなこと思い出してもどうしようもない。 ふらふらと向かった旧外国祖界の外灘は、相変わらず絵になる素敵な街並みがライトアップされ家族連れや恋人達で賑わっていた
黄浦江の対岸で寂れた漁村とか倉庫街で殺風景だった浦東新区は今や摩天楼が建ち並び世界有数の金融特区となっていた。その新しい街は拝金主義の雨に濡れ、ギラギラと黄金色に輝きを放っていた。