ゲーテ通り・パリ(191203)
世話になった方々に感謝と別れを告げた。シメに上等のコニャックで最後の杯を交わしお互いの幸運を祈った
眠れぬ夜を諦め早々に荷造りを終え気分転換に少し通りを歩いた。 夜明け前、初冬のモンパルナスの裏通りは凍てつく空気がピンと張り詰め薄氷が覆っていた。僕は残り少なくなってきたタバコに火をつけ景気良く吹かした
夢焦がれていたものがあとちょっとのところで手から滑り落ち、そして二度と手に入ることはなくなったという、日々少しずつ受け入れようとしてきた現実がヒタヒタと忍び寄ってきた
今じゃ逆風が吹き荒れ意にそわず冴えない日々をただ淡々と耐え忍び冷飯を食らうだけだ。しかし今に始まった話でもなし、こんなの屁でもないぜ。 僕はビシッとダークスーツに身を固め余裕かまし肩で風を切りパリ東駅へ向かった
ストラスブール行き始発のTGVは定刻通りにガタゴトと国境へ向かって走り始めた。 夜明けまであと一時間、流れゆく車窓から漆黒の空を見上げてもなにも見えない
まぁでもこんなのには慣れっこだ。今までなんとか切り抜けてきたように、これからもなんとかなるだろう。不確かな未来に新たな人生を切り開くのだ。 僕の乗る高速鉄道はうっすらと視界が広がり始めた濃い霧が立ち込めるシャンパーニュの大地を時速320kmで陽の昇る方角に向かって走り続けた。この霧の向こうにはきっと青空が広がるはずだ