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ビットコインETFは実現するのか

昨今、分離課税の議論と合わせて、暗号資産ETFの解禁の可能性が話題になっています。
そこで、本稿では、①暗号資産ETFの現状、②日本における暗号資産ETFの購入の可否、③日本における暗号資産ETF組成の可否について、それぞれ検討します。

暗号資産ETFの現状

米国においては、2024年1月にビットコイン現物ETFの、同年5月にイーサ現物ETFの上場がそれぞれ承認されました。
また、欧州、オーストラリア、香港等においてもビットコイン現物ETFの上場が承認されています。

このような中、後述のとおり、日本においては法的に暗号資産ETFの組成が認められておらず、また、証券会社において外国籍の暗号資産ETFを取り扱うことも認められていないため、本稿執筆時点においては、日本国内において暗号資産ETFを購入することはできません。

以下、国内市場における外国籍暗号資産ETFの購入の可否、国内における暗号資産ETFの組成の可否について、法的観点から検討します。

国内市場における外国籍暗号資産ETFの購入の可否

まず、国内においてETFを購入する場合には、東京証券取引所に当該ETFが上場している必要があります。
東証に上場することができる外国籍のETFは、東証が定める有価証券上場規程において「外国ETF」と定義されるところ、「外国ETF」とは、「金商法第2条第1項第10号に規定する外国投資信託の受益証券であって、投資信託財産等の一口あたりの純資産額の変動率を特定の指標の変動率に一致させるよう運用する外国投資信託に係るもの」をいいます(有価証券上場規程1001条2号)。

そして、「金融商品取引法第2条第1項第10号に規定する外国投資信託の受益証券」とは、投資信託及び投資法人に関する法律に規定する外国投資信託の受益証券」(金商法2条1項10号)をいい、これは「外国において外国の法令に基づいて設定された信託で、投資信託に類するもの」を意味します(投信法2条24項)。

ここまでの条文操作を整理すると、東証への上場が認められている「外国ETF」として組成するためには、「投資信託に類するもの」(投信法2条24項)に該当する必要があるといえます。

この点、いかなるものが「投資信託に類するもの」に該当するかについては、投信法上は必ずしも明らかではありませんが、投信法上の「投資信託」は、主として特定資産に対する投資として運用することを目的とする信託をいうことから(投信法2条1項から3項)、「投資信託に類するもの」の該当性については、行政実務上は、投資対象が主として「特定資産」であるかどうかが一つの判断要素となります。

そして、現行法上「特定資産」には有価証券、不動産、金現物等が含まれますが、「暗号資産」はまれていません(投信法2条1項、投信法施行令3条)。
外国籍暗号資産ETFは、当然ながら主として非特定資産である暗号資産を投資対象とするものですので、「投資信託に類するもの」とはいえず、「外国ETF」にも該当しない結果、東証への上場は認められないものと考えられます。
したがって、国内の取引所においては暗号資産ETFを購入することはできないものと考えられます。

国内における暗号資産ETFの組成の可否

次に、日本国内における暗号資産ETFの組成の可否について検討します。
日本国内において暗号資産ETFを組成する上では、①投信法上の投資信託として組成する方法、又は②信託法に基づく受益証券発行信託として組成する方法が考えられますので、それぞれ検討します。

(1)投信法に基づく「投資信託」として組成する方法

投信法上の「投資信託」とは、委託者指図型投資信託及び委託者非指図型投資信託をいい、これらのスキームについての詳細は割愛しますが、いずれにおいても、主として特定資産を投資対象とする必要があります。

そして、上述のとおり、暗号資産は特定資産には含まれませんので、暗号資産ETFは投信法上の「投資信託」として組成することはできません。

なお、「主として」とは、具体的には、信託財産の総額の50%超をいうものと解されているところ、信託資産のうち、特定資産を50%超とし、暗号資産が占める割合を50%以下とすれば、投信法に適合した形で暗号資産をポートフォリオに組んで投資信託を組成することも可能と考えられます。

しかしながら、金商業者等向けの監督指針において、暗号資産のようなボラティリティの高い非特定資産を投資対象とする投資信託の組成・販売は禁止されているため(VI-2-3-1(3))、暗号資産を投資対象とする投資信託の組成は、信託財産における暗号資産の占める割合にかかわらず認められないものと考えられます。

(2)信託法に基づく「受益証券発行信託」として組成する方法

「受益証券発行信託」とは、受益権を有価証券化した「受益証券」を発行する信託をいいます(信託法185条1項)。

受益証券発行信託を用いる場合、投資対象は限定されませんので、受託者は委託者から現物暗号資産又は金銭の信託を受けて、当該信託財産を用いてビットコイン等の暗号資産に投資することになります(内国商品現物型ETFと同じスキームです。)。

このように、投資信託ではなく受益証券発行信託によれば、暗号資産ETFの組成自体は可能ではあります。

もっとも、以下のとおり、別途税務上の問題があるため、実際に組成がなされていないものと思われます。

分かりやすくするため、投信法に基づく投資信託のETFと比較してみます。

投資信託の場合、税法上「集団投資信託」として取り扱われます。集団投資信託の場合、信託資産等の運用中は、当該信託資産等は受益者にも受託者たる法人にも帰属しないものとされるため、課税関係は発生せず、投資信託から収益の分配を受けた場合、配当所得として20%の所得税が課されます。また、償還した場合には、譲渡所得と同様に、申告分離課税として20%の所得税が課されます。

このように、投資信託はいわゆるパススルー型のため、受益権の償還時等にのみ課税がされます。

他方で、受益証券発行信託を用いた場合、税法上は法人課税信託として取り扱われ、受託者に対して、信託財産から生ずる所得について、当該受託者の固有財産から生ずる所得とは区別して法人税が課され、これに加えて受益者段階でも所得税が課されます。

このように、受益証券発行信託は導管性がないため、受託者段階と受益者段階で二重に課税されるものであり、この点がボトルネックのため組成されていないものと思われます。

なお、特定受益証券発行信託(法人税法2条1項29号ハ)として組成すれば、集団投資信託として扱われるため、導管性を維持した状態での組成も可能です。

もっとも、この場合であっても、東証の有価証券上場規程に反し、上場が認められないものと考えられます。

すなわち、受益証券発行信託は、有価証券上場規程における「内国商品現物型ETF」に該当するところ(=「金商法第2条第1項第14号に規定する受益証券発行信託の受益証券であって、特定の商品の価格に連動することを目的として、主として当該特定の商品をその信託財産とするもの」(有価証券上場規程1001条31号))、内国商品現物型ETFについては、上場基準として、投資対象となる資産が換価が容易であると認められることが必要とされています(有価証券上場規程1104条第2号cの2)。そして、換価が容易であると認められる資産については、「東証・内国指標連動型ETFの上場の手引き(第27版)」19頁に例示があるところ、一部の有価証券及び商品のみが例示され、暗号資産は含まれていません。

したがって、特定受益証券発行信託により暗号資産ETFを組成したとしても、少なくとも東証の有価証券上場規程の改正が必要となると考えられます。

 まとめ

以上の検討をまとめます。

  1. 国内市場においては外国籍暗号資産ETFを購入することはできない。

  2. 国内において暗号資産ETFを組成する方法は、①投信法上の投資信託として組成する方法、②信託法上の受益証券発行信託として組成する方法の2つが考えられるが、①については暗号資産が「特定資産」に該当しないため組成ができず、②については東証の有価証券上場規程によりETFとして上場することが認められない。

暗号資産ETFを解禁するためには、少なくとも、投信法の改正(暗号資産の特定資産への組み入れ)、監督指針の改正、及び東証の有価証券上場規程の改正が必要になるものと考えられます。

今後の議論・当局の動きを注視したいと思います。

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