「浪人、再考。浪人、最高!part3 」
【前回までのあらすじ】
これは、大学受験に破れ、目指す志望校に向けて、血の出るような努力をした女の一代記である。根拠のない、現役高校生ならではの自信がたたり、見事、受験校すべてに落ちたdekonekoは、都心にある予備校に通う。浪人にふさわしい地味な生き方をしよう、と思うものの、教室の一面のオシャレ男子にうつつを抜かす。勉強が一番大事なこの時期に、恋だの恋愛だの騒ぐ、この浮かれポンチな娘はどこに終着駅を見出すのか・・・。それはこの先、誰もわからない。
@@@@@
現役高校生が、残念ながら受験に破れ、「浪人」という中途半端な身分になって通う「予備校」のシステム。通ったことがある人ならご存知でしょうが、「学校で教えきれない勉強を徹底的に叩き込む」。この一点に尽きる。
公務員という、いかにも素晴らしい、安定した&憧れる立場(私には到底無理です。ただただ、尊敬するばかり)を捨て予備校教師になった方も多々。
それだけ、高給を提示されて不安定な身分の予備校教師になる、ということは、だ。(やや集中力の足りない)野猿のような生徒を90分間、飽きさせない、集中させる話ができる講師陣が揃うワケです(お笑いの要素も含めて)。
河合塾に通って、日本史が苦手だった私が、一瞬で日本史好きになった田中先生(これまでの授業は何だったのかと思うほど、目からウロコだった。あれ以降、私は日本史にゾッコンLOVEである)、
英語のイディオムをメインに教えてくれた執行先生。
執行先生は、見た目は今でいう「おネェ系」だったが、当時は知る由もなく。大阪のオバちゃんみたいにヒョウ柄のセーターを来て、背丈は私ほど。髪型はセシルカット、ならぬ、おかっぱ。語尾に「なのよ~」「よね~」と、いささか間延びしたオネェ言葉が鼻についたが浪人生に、先生がどんなセクシャリティであろうと関係はない。授業が面白ければ、それでいいのだ。
たくさん在籍した英語の先生の中でも、教え方は抜群だった。教室の生徒を連れて、授業後、神宮球場にヤクルトvs広島戦を見に行ったことも。
(みんな関東圏なので、もれなくヤクルト側スタンドに入った。あの初夏の日はヤクルトが勝ったので、雨降るなか、「東京音頭」を豪快に唄いながら、ビニール傘を振りかざしたもんだ)。
この執行先生、後々、当時は珍しかった性同一性障害を告白し、週刊誌を賑わせた。河合塾もその先生の「カミングアウト」を受け入れ、引き続き、河合塾の講師として雇う、という大々的な発表があった。(あの時は河合塾の懐の深さに、大人だな、なかなかやるな、と感心したものだった。だってものすごい実力のある先生だもの。LGBTうんぬんよりも、この先生を手放すことの方が塾にしたら「おおいなる損失」。こういう自由さも、民間ならでは、ですよね)
予備校生という、社会から認められていない、宙ぶらりんな身分であっても、「小さな予備校」という社会で、それなりの「人間関係」ができるもの。
神宮球場でのヤクルト戦をきっかけに、一人の男子と急接近する。ジーンズの「つなぎ」がトレードマークの内田くんだ。彼は予備校初日、教室で私の左隣に座った。ちなみに、右隣は、前回にも登場した金原くん(通称:金ちゃん)だ。内田くんは、YMOの高橋幸宏を若くしたようなメガネ男子で、
趣味は、「休日、ヤクルト戦を見ながら、じいちゃんとビールを飲む」を何よりも楽しみにする、19歳にして少し枯れた「若年寄」のような青年だった。
(続く)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?