ワクチン接種、できるかな? 1
ワクチンさえできれば、元の生活に戻れる。それまでの辛抱。もう少し、みんなで頑張ろう。
皆が皆、そう思っていたわけはないだろう。思っていなかった人の方が大半かもしれない。
「インフルエンザも予想の型が外れれば、効かないというし。ウイルスは、常に形を変えていくし。一筋縄じゃいかないんじゃない?」 そんなことを言ってみたところで、気が滅入るだけ。
あれよあれよという間に感染者数が爆発的に増加し、病院は文字通りパンク。テントがずらりと並べられ野戦病院化したセントラルパーク。遺体を収納するために到着した冷蔵コンテナ車。絶望的な現状ばかりがメディアから伝えられていた、パンデミック初期。ワクチンへの希望以外に、社交辞令として交わせる言葉があっただろうか。
そのうち市場に出てくるんだろうなぁ程度の認識で、具体的な進歩状況は把握していなかったのだけれど。年末のある夕暮れ時、通りでキョロキョロしている高齢の女性がいたので、てっきり道に迷ったか、落とし物でもしたのだろうと声をかけてみたところ、予想しなかった言葉がかえってきた。来週ワクチンを接種する会場を下見に来たのだと、うれしそうに教えてくれたのだ。
しばらくメディア断ちをしている間に、そんな段階まで到達したのかと驚いた。それと同時い、目の前でニコニコしている、この上品なご婦人の健康は担保されているのだろうかと、一抹の不安を覚えながら、「それは安心ですね」と言ってセントニコラスアベニューを後にした。
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