漉き機ニッピ機械NP-1の性能検証終了
よい時代の日本で設計製造された印象がプンプンする機械ですがFortuna並みの精度を狙うと調律するのが手間。
丸刃とフランジ凸のはめあいが他メーカーの漉き機では経験ないほどキッチリ、きつ過ぎないか?
押え軸のラジアルガタは0.05mmでFortuna並み、というかむしろそこが新品購入でガバガバ0.18mmだったTA KING TK-802BLが際立つわけで、それを生産しているどこかでのクリアランス管理が論外とも。押さえ軸ラジアルガタのうち左右の振れはガイドで規制する構造なのですけど、手前奥方向のガタを詰める機構を持つ漉き機は無く、機械加工時の寸法管理の考え方の差がモロに出ます
主軸のスラストガタはダイヤルゲージをあてなくてもカタカタを手に感じるくらいなのはすぐ調整可能なはずですが、ラジアルガタがヤバい1/10mm、あかんこれ。ニッピ機械の漉き機を使ってる動画を見て(聴いて)の印象と同じ。このガタはうちのFortunaやTK-802BLには構造的に存在しないので、動画にでてくるニッピはどれも調整が悪いのかなと見ていたんですが、購入した中古ニッピでも同様のガタ。このラジアルガタをつめることが可能なのかを調査するのがこの記事での最優先事項
結果から言うと調整で主軸のガタをアンギュラボールベアリング仕様の漉き機と同等精度まで持っていけました。ガタを調整可能な構造にしたのはFortunaでそこはリスペクトすべき、もし昔の日本の誰かがFortunaを模倣することなく独自に発明した機械として生まれたならばボール盤主軸と同等にしかしなかったはず…ニッピではせっかくの調整機構についてはなにも工夫せず模倣しただけ、ボール盤と同レベルの精度でしか使われてない感はあります。
主軸ガタ調整を軽視してるのはニッピの説明書でも明らかで、説明が不備だらけ、図中と文中の数字記号に齟齬がありまくり。304-Aナットの仕様がうちのNP-1と違っていて説明どおりの調整は不可能ですし、図中305-Aベアリングナットの説明がない。ミシン屋さんたちこのマニュアルを参考に調整してガタ取ってるわけないな、行間を読める能力が異様に高いなら別だが。高額な研究機器を納入しにきたのが理屈をわかってない営業で、手元資料の操作法説明をしどろもどろに読みあげてる場面に出くわしたときの感じに似てる。もとはFortunaのマニュアルを参考にして作ったあと何十年も経ち伝言ゲームでこうなったんだと思いますが、Fortunaのブロンズブッシュ主軸(非アンギュラボールベアリング)仕様のマニュアルは見たことありません。
左右方向、スラストガタは主軸が抵抗が少なくまわるほうを優先するしかなく、ダイヤルゲージをあてる意味はないですが、微調整に時間がとられる、図とは違いラジアル方向の3本留めネジの先に円形の真ちゅう敷板を挟むことでネジ部を押えるというダメな構造。かといって図の説明どおりの構造だとしても嫌な予感しかない(笑
「旧説明書のダメなとこをちゃちゃっと直せ」という指示と共に出荷前製品を置かれた場合、新品丸刃が付いている状態のままではナット305-Bは全く視認できないから↓のようになる。責任の所在のあいまいさよ…
このぶんだとニッピ工場でも昔ながらのブロンズブッシュ系の機種は出荷前にダイヤルゲージを当てたりせず感覚だけで組んでるか、「端から何ミリとなるようにナットを締める」のような新品時だけに通用する指示書があるのだと想像できます。
説明書がでたらめなので自分のやり方でやりますよ。マグネットベースにつけたダイヤルゲージを使うのが真っ当な取り組み方ですよね。ラジアルガタを1/50mmくらいにできました。具体的には305-Aナットをちょっと回す微調整程度ではガタ量がまったく変化しなかったので、丸刃フランジのすぐ隣にある左側のリングナットをまず十分すぎるくらい何回転も回して緩めてから右端のリングナットを締めていき、真ちゅうスリーブを5ミリ程度右に移動した位置で落ち着きました。最後に305-Bを締めます。説明書1の305-B説明はとんでもなくデタラメで「ベアリングスリーブ(306)の端面に接触しないよう調節してください」ってのは、「調整前にまず緩め、調節後にスリーブに当てて締めます」って書いてほしいところだし、改訂説明書からは図部番も記述も削除されてます。
なぜうちに来たこの中古機の調整がそんな大外れ(大きく外れてる状態でもガタは1/10mmです)になってたのか考察したんですが、さっき書いたような工場組み立てのときからそのレベルのガタ管理している可能性については新品を購入しないとわかりません。メンテで誰かが全バラしたあと、ラジアルガタをどう検知し調整するのか?をわからないまま組んだのでしょう、もし説明書に目を通したとしても神社のおみくじに書いてあること以下ですから。
整備を生業としてる方のなかには経験を頼りにうまく調整する方法にたどり着いた人ももちろん居るでしょう。
【更新】「レザークラフター…」というタイトルの革漉き機を説明している本が出版されてるんですね、さっき図書館に行って目を通してきました。ニッピ説明書と比べると月とスッポンくらいは詳しいものの、305-Bナットを緩めてからでないとガタ調整ができない旨の解説が欠落しており、ニッピ説明書のとっ散らかった記述に引っ張られてる感がありました。シャフトとスリーブ全バラ写真を掲載してるものの「バラさないほうが…」との注意喚起はあります。(更新追記ここまで)
ダイヤルゲージを当てないで検知する方法は、砥石をちょっとだけ当てて研ぎつつ漉いたとき、砥石の当たり音が変わったらラジアルガタがあります。研ぎながら回転している丸刃の胴部分を砥石側に押してみるのもいいですね。やるときは刃に巻き込まれないよう注意。後で本を見たら同じことがかいてありました。が、ダイヤルゲージを当ててガタを数値化したほうが楽、わたしはダイヤルゲージ無しでラジアルガタの調整はしたくない、調整→試運転を何度も繰り返すことに時間かかりすぎるだろうし。
刃を研ぎながら漉いてる動画を拝見することがありますが、上記の研ぎ音の変化で漉き機の調整ができてないな、あるいはもはや調整限度を超えて摩滅したニッピや西山を使ってるなとかまで視聴者にバレてますよ。
このへんの意識はこれから変わるかもしれないです。調整不要で主軸ガタがないTK-802BLが世に出て5年以上経ち、西山ニッピ極右の方、もっというとニッピのなかのひとがあれに触れると「なにがすごいのかわからないけどなにかがカッチリしてる」と感じるはず。しかしあれはアンギュラボールベアリング採用構造のFortunaをパクっているからこそのカッチリなので、いまの日本の企業はそういうのをカジュアルにパクったりはしない。そのうちFortuna模倣の国産機は無くなりそうな気が… 模倣成分がない新型機に置き換えていくつもりなのでは。
漉きテストするため、主軸と送り間のVベルトをアマゾンで調達していたが、寸法違っていて付かず。NP-1/NP-2は最後の頃モデルチェンジしてますからそのときにプーリー径もしくは主軸・送り軸間距離が変わりそれに伴いベルト長が変わったんでしょうかね?モデルチェンジのひと目でわかる変化は押さえの板バネが長いもの(下画像)に変わったこと。
それのVベルトはK20、短い押え板バネがついてる初期型のはK19ってことなのか… このあと中国K-20タルタルで漉いてみたんですがベルトが滑りました。
下画像はK-20の日中比較で日本ブランドが長い。結論はなかなか入手できない日本ブランドのK19ならばNP-1にちょうど良い。
まあでも台からFortunaを降ろして入れ替えればうちの環境は2モーター、注文したVベルトが届くのを待たずとも2つのモーターで2つの軸を独立して駆動すれば済むんだったってことでテスト開始。主軸ベルトは写ってませんが本来の場所でなく中のプーリーに掛けました。後からは入りませんから組み立てのときから主軸ベルトを入れてます。
普通に漉けます、うちでの普通は比較対象のFortuna並みということです。ニッピの丸刃西山ブランド丸刃の感触も良い*、押え軸のガタはTA KINGより断然少なくFortunaと同等、結果Fortuna並、そうでしょうねとしか。*西山の刃は切れますが、薄くて内径がFortunaより大きいのはあかん
ただし、主軸ガタ詰め調整が面倒なのと精度や回転抵抗を考慮すると対向アンギュラボールベアリング仕様の漉き機にはかないません。たまの注油ルーチンも必要ですし。
一つの心配事は大量の漉き仕事に使う場合はガタ詰めしてると発熱→膨張→焼き付き とまではいかないまでも、すぐにまたガタが出るんではないかという。その場合「そういう精度での運用を想定している機械じゃない」ってこと。ガタありのままだと漉いた革の仕上がりは当然としてそれ以前の丸刃研ぎ効率と刃の仕上げ精度にも影響してくる事態だから見逃しておけないと思うんですけど革業界一般そうでもなさげなことはYouTubeみてても伝わってくる。
丸刃の左右移動ギア比がつらい、ガタというか左に移動させて引き返すためノブを逆転させようとしたら1回転以上不応域、大嫌いです。アンギュラボールベアリング仕様のFortunaとTK-802BLだとツマミ1回転で1ミリ動きます。
それ以外の感じた良さ。筐体の違うせいでTA KING、というかヤクモNLS-7506クローン801/802系の漉き機は前側の壁と丸刃の隙間が大きすぎて作業しにくく感じますがNP-1はそんなことないし、作動板かまぼこ板と送り樽あたりの隙間管理がFortuna以上。
この機械、音は出てない主軸駆動軸プーリーベアリング等を交換してからそのうちヤフオク行きです。ベルトカバー等の欠品してる部品は作るか。
ニッピ革漉き機性能検証、数回のシリーズ化予定が1回でおわっちゃいました。機械のデキは良い、ただし性能発揮には社の不十分な説明書内容を超える調律スキルか計測器具が必要ってことで。
本職アマチュア問わず革系YouTuberによる自分よりできない人たちを対象に語り掛けドヤる革漉き機動画がここ数年アップされなくなったのは「レザークラフター…」というタイトルの革漉き機を説明している本が出版されたから、よかったですね。
まとめ
「丸刃を取換える時は、必ず主軸調整を行ってください。」とニッピ説明書にありますが、調整法の記載がずさんすぎて説明に従っても調整できない。それを何十年も放置…
主軸調整が決まればFortunaと肩を並べれるくらいになりますが、ちまたでベルト交換が難しいと言われているニッピ旧型漉き機をそんな運用してる人はあまりいないと思う。動画でも主軸がゆるいニッピばかり見せられます。説明書の主軸ラジアルガタ調整の説明がひどすぎて、むしろ説明がまったくないベルト交換手順より難易度が困難な状態に陥ってるので察してください。「レザークラフター…」の本もその箇所は筆圧が低い記述。著者はいろいろわかってそうな人なので意外ですが、たぶんラジアルガタ調整がほぼ必要ない機械しか触ったことがない時点で執筆したのでしょう。もしくはほんとのやり方を書くとニッピ説明書が間違いと言ってることになるから業界のつながり的に過激すぎる…ニッピ革漉き機攻略本として出版するんだし、という深慮があったか
主軸調整では上記のように手順が煩雑ながら砥石で研ぐ音で検知可能ではあるんですが、新品丸刃の状態での調整時はフックレンチが丸刃のすぐ右に入らないため丸刃は外してしまう必要があります。当然研ぐ音を聞くことはできないからマグネットベースとダイヤルゲージを使ってください、もう21世紀も1/4が終わろうとしてるんですよ。ニッピでもNP-S1だけは主軸支持がボールベアリング、スラストガタだけの調整のはず、みたことないですが。
この機械の気難しいところとして上げた主軸ラジアルガタとその調整だけに絞ると、うちにあるFortunaと同じくアンギュラボールベアリング仕様になっているTA KING TK802BLもたいへん優れていて、そこはなんも気にしなくていいです。ガタが無い状態に調整した上でネジロック剤で組まれてます。