「デジマ式 plus」の成り立ちと歴史
様々な課題を抱える自治体と、新規事情の芽を探している企業、両者をマッチングさせるワークショップ「デジマ式 plus」の大枠については、前回の記事を参照いただくとして、今回は「デジマ式 plus」の成り立ちや歴史について押さえていこう。
地域活性プロジェクト「さぶみっと!ヨクスル」
「Webのチカラで地域と地元のみなさんを元気に!」を掲げ、「さぶみっと!ヨクスル」が開始されたのが2016年。
株式会社イー・エージェンシーは、以前よりWeb制作者向け交流会イベントを全国各地で主催していたが、そこで醸成されたコミュニティや熱気を地域活性の起爆剤として活かせないか、と考えたのである。
「さぶみっと!ヨクスル」を通じて、悩みを抱える個人や団体に対して、その地域のWeb関係者が解決案を提示、その解決を通じて地域活性化に繋げていこうとしたのだ。
その試みも50回を数える内に、徐々に規模が大きくなり、地方自治体からの後援を受けるまでに成長したが、ここでふたつの課題が出てくる。
まずひとつめとして規模感。地域の課題を解決するのはあくまでもその地域の人々である。しかも悩める主体が個人や地元企業では、新規事業というより互助会的な規模感になってしまうのは否めず、大々的なビジネスとしては成立しにくい。
そしてふたつめの課題が、「さぶみっと!ヨクスル」がWeb制作者向け交流会イベントを出発点としているため、参加者はWeb関係者が主である点。つまり、課題に対しての解決案は、Web寄りとなってしまい、Web以外の業種を巻き込んでの解決案が出にくいという側面が出てきたのだ。
「Innovation Space DEJIMA」との出会い
Webを活用して地域創生に繋げたいが、Webだけでは全方位的な施策が打てないというジレンマを抱えていた「さぶみっと!ヨクスル」は、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が運営する「Innovation Space DEJIMA」(以下、DEJIMA)と出会う。
「DEJIMA」は、企業の新規事業開拓を託された人たちが集う、イノベーションスペースである。多くの企業から集まった企業内起業家達(※)が、お互いに情報交換しながら、新規事業の芽を探している。もちろん、ここに参加している企業はWeb系だけではない。
(※:2021年1月下旬時点で、大企業の新規事業担当者や五反田周辺のITベンチャーなど700~800人が会員登録していた)
「さぶみっと!ヨクスル」が全国各地を回って培ってきた地方自治体へのパイプとコミュニティ運営のノウハウ、「DEJIMA」に集う多種多様な企業から派遣されてきた企業内起業家、両者が出会うとき、より実践的な地域創生のワークショップが誕生した。
それが2019年10月より始まった「デジマ式 plus」だ。ここに来れば、悩みを抱える地方自治体と、新規事業の芽を模索している企業のマッチングが叶うのである。そして実際に、地域の課題解決を果たしながら今に至る。
事業化指向の「デジマ式plus エンタープライズ」
「デジマ式 plus」から派生した「デジマ式plus エンタープライズ」についても触れておこう。「デジマ式 plus」は地方自治体を課題に対して、各企業が解決案をプレゼンし、それを選んでもらうところから始まる。
対して「デジマ式plus エンタープライズ」は、手を挙げる企業は一社だけである。ただこの一社はただの一社ではなく、多様なアセットとリソースをもつ大手企業である。
地方自治体の課題に対して、自社グループの総力をもって応える、という並々ならぬ決意を持った巨大企業が参加するのが「デジマ式plus エンタープライズ」なのだ。デジマ式plus エンタープライズが、企業向けに有償で実施されていることからも、参加企業の並々ならぬ覚悟が伺えよう。
「デジマ式 plus」が複数の中からパートナーを探す婚活パーティだとすると、「デジマ式 plus エンタープライズ」はきちんとした仲人を立てた一対一のお見合いと言えるだろう。
もっとも「デジマ式 plus」と「デジマ式 plus エンタープライズ」、実施形態に差異はあれ、悩める地方自治体と企業が手を携えて課題解決に乗り出す構図に変わりはない。
「デジマ式 plus」は2023年11月までに計7回開催されており、様々な地域課題をテーマに解決策を考えてきた。だが、そこは新規事業立ち上げの難しさ、全てが全て大成功とはいかなかったのもまた事実である。
ただし、当初の期待値を越えたプロジェクトには共通項があることが見えてきた。次回では、「デジマ式 plus」のツボとも言うべき、その成功の要因を探ってみよう。