第8回 「メタバース」PJインタビュー(後編) ~ 仮想空間から関係人口増加を狙う
前回の記事では、「デジマ式plus」において提示された、「長崎市・雲仙市」が抱える地域課題「コロナ禍で加速する新しい働き方を企業向けに定着させ、地方への関係人口流入を増加するためには何ができるか」を解決するために、株式会社シーエーシー(以下、CAC)の平山氏が「メタバース」に着目したところまでをお伝えした。
ところがそこからすんなりと事が進まなかった、というところから話は始まる。
呉越同舟で地域課題解決に挑む!
地域課題解決にメタバースを活用しようとした平山氏は壁にぶち当たる。「メタバースのプラットフォームを探し、無料のものを選んで土台となる場所は決まりました。しかし、そこから何をどう作るかを考える必要がありました」
つまり、土地はある、その土地に建物を建ててこういうことをしたいという構想はある、だが平山氏のチームの誰も建築スキルを持っていないのでその土地の前で呆然としている状態、ということだ。
その窮地を救うために手を差し伸べたのが、構造計画研究所の本多 健一氏である。本多氏は「デジマ式plus」に平山氏とは違うチームで参加していた。もちろん平山氏とは異なるアプローチで、地域課題を解決しようとしていたのだが、本多氏のチームもまた暗礁に乗り上げていた。
構造計画研究所という社名からも察せられるように、本多氏は建築のプロである。さらにメタバース空間などで用いられるデータ構造などにも詳しく、かつ、本人の個人的な興味もあり、メタバース活用について探求していた。加えて、本多氏自身、長崎出身ということでこの取り組みへの思い入れも強かった。つまり平山氏のチームに足りないピースを全部埋められる人材だったのである。
そして必然だったかのように、長崎でオープンイノベーションを応援する支援チーム「NAIGAI CREW」の仲介で、平山氏と本多氏は運命の出会いを果たす。以後、平山氏のチームは本多氏からメタバース内の建築についてレクチャーを受けながら、アイデアの具現化に向けて大きく前進する。
リアルを巻き込んだメタバースへ
メタバースという仮想空間を活用するにせよ、地域課題解決がテーマである以上、地元も巻き込んでいかないといけない。そこでハブとして機能したのが地域課題を提示した長崎市役所や雲仙市役所の面々だ。
「長崎市役所・雲仙市役所が協力しているという安心感もあり、地元のスタートアップ企業の社長さんが若手を集める飲み会に誘ってくれたりしました。そこで直接会って話をすることで、協力の輪を広げていった感じですね」と平山氏。飲み会で地元の若者が興味を持って面白がってくれたことが平山氏の原動力になっているという。
そして2024年2月16日、メタバースを活用したイベントが実現した。「サイバーイドバタ」と銘打たれ、長崎市内のワーキングスペースを再現した空間で、地域内外の交流会を開催されたのだ。
イベントには、メタバースを体験してみたい人が予想以上に集まったという。テキストや画像だけではなく、各参加者が自由に動かせるアバターならではのコミュニケーションが好評を博し、「ちょっとしたインタラクションでも体験が変わるんだなと感じました」と平山氏は手応えを口にする。
「サイバーイドバタ」は今後、定期的に実施される予定で、実際に現地を訪れる前段階として、メタバースで事前体験してもらうことで関係人口の増加を目指していく。
「デジマ式plus」での気付き
「デジマ式plus」を通して得た気付きについて、平山さんは2つ挙げる。
「1つは、地域課題解決に県外の人間が関わる、いわゆる越境というものの意義です。このプロジェクトを通して様々な人とつながった。これは東京のIT企業という立場だけでは難しかったと思います。越境したからこそ、人とつながり、新たな事業の種を見つけられるんだと実感しました」
「もう1つは、デジマ式plusの進め方についてです。お題が当日発表されるのは、既存のアイデアに囚われないためだと分かりました。また、最初のアイデアをそのまま進めるのではなく、フォローアップで議論を重ねて面白いアイデアを作り上げていくスタイルに魅力を感じています」
現在、「サイバーイドバタ」は事業化への道半ばだが、こうしたチャレンジを継続することの大切さを感じているという。「まだまだ課題も多いですが、ひとつひとつ乗り越えながらサービスを発展させていくことにやりがいを感じています」と平山氏。
今回のプロジェクトは、企業が持つ技術で地域課題解決に導く、というデジマ式plusのコンセプトに最も体現していると言ってもいい。今後の展開に期待が膨らむところである。
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