【取材】ハウス食品グループの「3つの責任」を中核とするサステナビリティ推進 - 考え方・体制・事例の紹介(後編)
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
こんにちは。後編では、脱炭素、廃棄物削減、資源循環などのサステナビリティの取り組み事例について、前編に引き続きハウス食品グループ株式会社コーポレートコミュニケーション本部サステナビリティ推進部の南さん、出口さん、田中さんにうかがったお話を紹介します。
※前編はこちら👇
サステナビリティの取り組み事例①:脱炭素 - 多拠点一括エネルギーネットワークサービスの取り組み
――グループCSR委員会や人権推進チーム、イシューマネジメントなどの体制や仕組みが、「3つの責任」を具体化し、貴社の持続可能な成長を追求するためのガバナンスと監視を提供し、グループ全体のサステナビリティ戦略が効果的に実行されているのですね。
次に、気候変動への対応について、現在様々な取り組みが進められていると思いますが、理想的な状態を10点とした場合、現状では何点くらいだと評価されていますか?
南さん:現状どれくらい進んでいるのかは簡単に言えません。第八次中期計画ではスコープ1・2で27%削減(2013年度比)の達成としています。カーボンニュートラルを目指すことを考えると、まだまだ達成には程遠く、かなり高い目標であると感じています。
――現在の状況を改善するために今後どのような戦略や施策を実施していく予定ですか?
南さん:直近では、2024年4月からハウス食品の静岡工場で発電した電力を、ハウス食品グループの国内関係会社・事業所に供給する多拠点一括エネルギーネットワークサービスの導入を開始しました。具体的には、JFEエンジニアリング株式会社が静岡工場内にガスコージェネレーションシステムを建設・運営し、「電力」と「熱(蒸気、温水)」を供給するサービスを提供しています。この発電施設で発電した電力は静岡工場内で使用し、発電と同時に発生する副産物の熱を「蒸気」と「温水」に変換して工場の生産活動に利用しています。また、静岡工場の余剰電力とJFEエンジニアリンググループが保有する低CO2電力を、送電ネットワークを活用して、ハウス食品グループの大阪本社、東京本社、千葉研究センターやグループ会社事業所など8社18拠点に供給しています。
南さん:本サービスの導入は、CO2削減効果が大きく、2050年カーボンニュートラルを目指す中で重要な施策であり、グループ各社が一丸となって実現した取り組みです。
これにより5,300トンのCO2削減を達成しましたが、それでも全体の4パーセント程度です。ただ、次世代エネルギー活用を見越した取り組みでもありますので、脱炭素社会の未来に向けてのステップとして重要な施策と考えています。今後も力を緩めず、JFEエンジニアリング様をはじめとするステークホルダーの皆様と共創しながら、次世代エネルギーの導入を視野に入れ、「社会への責任」として気候変動への対応を加速してまいります。
――多拠点一括エネルギーネットワークサービスの導入に際して、特にどのような点が大変だったと感じましたか?
出口さん:この多拠点一括エネルギーネットワークサービスについてですが、8社という同じグループ会社でも基本的に別会社であるため、メリットの按分など多くの課題がありました。また、コロナ禍・ウクライナ侵攻の影響を受けた物価高騰への対応や、既存の地元企業との取引の調整など一つ一つ丁寧にクリアしていきました。
そういった課題を乗り越えて、グループ全体でこの1本の契約に集約することができました。グループ全体でメリットを共有すること、そしてグループ全体が一丸となることができたのは非常に大きな成果でした。JFEエンジニアリング様からも、この点をご評価頂き、「グループ全体が一丸となっているのがハウス食品グループの強みですね」というお言葉をいただいています。
サステナビリティの取り組み事例②:脱炭素 -レトルトカレーのレンジ対応によるCO2削減の推進
南さん:気候変動への取り組みはサプライチェーン全体で取り組むとしており、スコープ1,2だけでなく、スコープ3削減の取り組みも進めています。スコープ3には15のカテゴリーがあり、その中にはお客様による製品使用に関する項目も含まれています。
具体的には、私たちのレトルトカレー製品を、湯せんではなくレンジ加熱が可能なパウチにほぼ全製品切り替えました。これにより、レンジ加熱することで加熱時間が格段に短縮され、CO2排出量を約8割削減することが可能となりました。この取り組みは、2022年秋までにレトルトカレーのほぼ全製品で実施しました。
サステナビリティの取り組み事例③:廃棄物削減 - 微生物を使った油分解による汚泥の削減
――他にも、これまでのサステナビリティに関する取り組みで成果を上げたものがあれば教えていただけますか?
南さん:私たちはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を通して、株式会社フレンドマイクローブという会社に出資しています。フレンドマイクローブは微生物を使った油分解技術を持っており、この技術を活用して私たちの工場で発生する汚泥などの廃棄物を減らす取り組みを進めています。この取り組みも今後、グループ横断で進めていきたいと考えています。
南さん:廃棄物の削減については、各工場で地道に取り組んでおり、継続的に進めていくことが最も重要だと思います。
サステナビリティの取り組み事例④:資源循環 - スパイス残渣のプラスチック代替製品への活用や廃棄物の堆肥化
南さん:また、私たちは株式会社アミカテラという会社にも出資しています。アミカテラは、植物繊維(セルロース)、でんぷん、植物由来の天然油脂、水などの植物由来の原料を使用し、既存の成型設備をそのまま使って、熱硬化性と熱可塑性の両面の性質を持つプラスチック代替の容器(日用食器類やカトラリー類、ストローなど)を開発する技術(mode-cell®)を持っています。私たちは自社で出るスパイスの残渣を提供し、それをプラスチック代替物に練り込んで製品を作り、弊社の社食で使用しています。
南さん:資源循環の取り組みとして、廃棄物を堆肥化する活動も進めています。例えば、グループ内の一部の会社では、微生物を活用して廃棄物を堆肥に変える取り組みを行っています。国内では、野菜の残渣をコンポストで一次発酵させた後、その物質を引き取ってもらい、二次発酵させて肥料にするというプロセスを実践しています。この肥料は廃棄物ではなく、有価物として取引されています。
また、インドネシアのグループ会社では、冷凍野菜や冷凍果実の事業から出る植物の残渣を発酵させて堆肥にし、それを自社が保有するわさび畑に戻して再利用する循環型の取り組みを行っています。
――廃棄物削減や資源循環など、幅広い取り組みが非常に興味深かったです。特に、レトルトカレーのレンジ対応によるCO2削減の推進は、スコープ3削減や消費者のエシカル意識向上の観点からも非常に意義深いと感じました。
最後に、食品の流通業や小売業などの企業に向けて、サステナビリティへの取り組みを促進するためのメッセージをお願いできますか?
南さん:サステナビリティの取組みは、私たち1社だけではできないことが多く、特にプラスチック削減については、バリューチェーン全体で取り組むことが重要だと考えています。こちらから要望を出すだけではなく、一緒に進めていくための取り組みやアイデアを私たち自身が提供しながら、共に取り組む姿勢を大切にしたいと考えています。
また、商品や売場作りにおいてもSDGsの観点を取り入れるケースが増えてきており、私たちも商品提案や販促物などでこれを活用することを重視しています。方向性が一致する企業との共同プロジェクトなども積極的に進めていきたいと思っています。
まとめ
今回はハウス食品グループのサステナビリティ推進について、「3つの責任」、サステナビリティ推進を支える体制、サステナビリティの取り組み事例などについてご紹介しました。その中で、特に重要なポイントとして、以下の3点が示唆されました。
1 明確な方針と中計への落とし込みで実現する現場浸透:サステナビリティを社会と企業の持続性の両立と捉え、「3つの責任」というコンパクトな表現で、自社の責任範囲と目的をお客様、社会、社員とその家族に対する責任として明確にしている。また、この方針を中期計画に組み込み、継続的に伝え続けることで、現場への浸透を進めている。
2 持続可能な成長を目指すグループ全体のCSRと人権推進の体制構築:サステナビリティに特化した全社的な特別な体制はないものの、サステナビリティ推進部を中心に、グループCSR委員会や人権推進チーム、イシューマネジメントなどの体制が有機的に組み上げられている。これにより、『3つの責任』が具体化されている。また、持続可能な成長を追求するためのガバナンスと監視が提供され、グループ全体のサステナビリティ戦略が効果的に実行されている。これらの取り組みの中で、グループCSR委員会はCSR関連活動を監督・指導し、グループ全体のCSR連携を強化する役割を果たしている。また、人権推進チームはサプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンスを進め、イシューマネジメントにより潜在的課題に対処している。
3 商品改良でスコープ3削減と消費者のエシカル意識向上を目指す:レトルトカレーのレンジ対応によるCO2削減の推進は、非常に意義深い取り組みである。なぜなら、スコープ3排出量の削減は複雑な課題であるが、持続可能な未来を築くためには不可欠であり、レトルトカレーのレンジ対応はこの課題に正面から取り組んでいるからである。また、このような製品の普及は、消費者に環境に優しい選択肢を提供し、エシカルな消費行動を促進する。総じて、レトルトカレーのレンジ対応は社会全体の持続可能な未来の実現に大きく寄与する意義ある取り組みと言える。
今回は、ハウス食品グループにおけるサステナビリティ推進の事例をご紹介しました。明確な方針の設定や中期計画を通じた現場への実施、スコープ3削減への取り組みなど、多くの参考になる点がありました。
特に「3つの責任」というコンセプトはシンプルかつ包括的で、多岐にわたるグループ各社を統一する上で非常に重要な役割を果たしていると感じました。また、サステナビリティ推進体制も、組織がサステナビリティ推進に向けてどのような機能を持つべきかという点で示唆に富んでおり、これからサステナビリティの推進強化を図る企業にとって多くのヒントが含まれていると思います。
――南さん、出口さん、田中さん、ありがとうございました!
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