
【取材】「つなぐアルビス」アルビスのサステナビリティ経営(前編)
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
今回は北陸エリアでトップシェアを誇る、地域密着型食品スーパー・株式会社アルビスのサステナビリティの取り組みについて、詳しく取材した内容をご紹介します。株式会社アルビスの池田さん、森さんにお話をうかがいました。

ブランド推進部を中心に、継続性を重視したサステナビリティ推進体制
――貴社のサステナビリティの取り組みの位置づけや推進体制について教えてください。
池田さん:当社では、「食を通じて 地域の皆様の健康で豊かな生活に貢献します」という企業理念に基づき、3年ごとに中期経営計画を策定しています。第三次中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)では、企業理念の実現のために、「地域一番のお客さま満足の実現」を経営方針に掲げ、その中で「事業を通じた地域社会の課題解決」を重要施策の一つと位置付けました。
そして、今年の4月に発表した第四次中期経営計画(2025年3月期〜2027年3月期)では、今後3年間の経営方針として「私のお店と言ってもらえるアルビスファンを増やす」を掲げています。これには5つの重点施策があり、その中にも「事業を通じた地域社会の課題解決」が含まれています。今後も、この取り組みに力を入れていく予定です。

(出所:アルビス 第三次・第四次中期経営計画)
池田さん:当社は、スーパーマーケットが地域コミュニティの中心的役割を果たす必要があると考えています。生産者から消費者へ商品を届けるだけでなく、行政の情報などさまざまなものを地域の方々に提供し、つなぐ役割が求められていると思っており、当社は地域でこのような役割をしっかりと果たしていかなければならないと考えています。
逆に、地域社会に貢献できるスーパーマーケットでなければ、地域の方々から見放されてしまうのではないかとも思います。
そのため、当社では環境問題への対応、食品ロス削減、食育や減塩などの健康への貢献、移動販売による買い物手段の提供など、さまざまな地域貢献の取り組みを行っています。これらを通じて、当社が地域に役立つ存在になれば、アルビスのファンが増え、結果的に「地域の方々の健康で豊かな暮らし」という当社の目標の実現に近づいていけると考えています。

池田さん:そのような地域貢献の取り組みはもともと、総務や人事、営業企画などの各部署がバラバラに担当していました。しかし、これらの取り組みを継続して進めていくためには、専任の部署が必要だと考え、2021年にブランド推進部を設置しました。アルビスのブランド価値を社外だけでなく、社内の従業員にも浸透させ、向上させていきたいという思いから、「ブランド推進部」と命名しました。
森さん:前期はサステナビリティやSDGsの取り組みに力を入れてきましたが、今期はこれらの活動についての情報発信に、より力を入れていこうと考えています。前期は多くの種をまき、現在それが芽を出し始めたところで、今後の3年間は、これらの芽をどのように大きく育てていくかが取り組みの中心になると思います。
――取り組みを進めるうえで意識していることはありますか?
池田さん:当社はサステナビリティの取り組みを行う際、「継続して行う」ということを大前提にしています。
例えば、行政と連携協定を結ぶ場合、協定を結んだだけで実際の取り組みが進まないのでは意味がありません。そのため、例えば、地元の射水市などとも毎年計画を立てて、継続して取り組みを行っています。これを担当する専門の部署があるおかげで、ほとんどすべての協定締結先と毎年計画を立てて、継続して新しいことにチャレンジすることができています。
もし1回しかできない取り組みであれば、それは現時点で当社の力ではできないということです。もちろん、単発的なイベントもありますが、私たちは協定を結んだら、それをしっかりと継続して実行します。その中で、経験を踏まえて改善し、持続可能な取り組みにしていくことが大切です。一度限りの取り組みは避けるべきだと思います。
コロナ禍でスーパーの地域での役割の大きさを再認識、サステナビリティに本気で取り組むきっかけに
――サステナビリティに本格的に取り組むようになったきっかけはなんですか?
森さん:一つは、2020年に富山県で開催された食品ロス削減全国大会で、池田社長がトークセッションに参加したことです。これを機に、当社は食品ロス削減の取り組みを本格的に始めることになりました。
池田さん:もう一つのきっかけはコロナです。コロナの時期に、地域の方々からも、「スーパーが開いていてよかった。もしなかったら大変だった」といった声が寄せられ、スーパーマーケットが地域で重要な役割を果たしていることを改めて実感しました。「エッセンシャルワーカー」という言葉も話題になり、医療従事者の次に私たちスーパーマーケットで働く人々の大変さが認識され、改めて激励や感謝の言葉をいただくこともありました。
大きな契機となったのは、当時、富山市民病院でクラスターが発生したことでした。病院の職員の間でクラスターが発生したため、病院内は大変なことになっており、その病院の院長が、もう何日も寝てないような顔で記者会見をしている様子を見て、当社の従業員から「こんな時こそ、会社として何かできるのではないか。」という声が上がりました。
病院の職員は、家に帰れず、ご飯も十分に食べられない中、患者の手当ても行わなければならない状況であるということをニュースで知り、当社の工場で作ったおにぎりとお茶を届けることにしました。
さらに、「病院の看護師さんには女性が多いので、おにぎりよりも甘いものの方が喜ばれるのでは」という声から、おはぎを個包装にして届けることにしました。そうしたら、「男性は甘いものよりもバナナの方がいいんじゃないか。バナナだったらいつでも食べられるし、栄養補給になるし。」という意見が出て、バナナも提供することにしました。それで、すぐに富山市の秘書課に直接電話して確認したところ、駐車場での食品の受け渡しが許可されました。
そして、その次の日曜日に約500人分の食料を病院に届けました。
実はその時、当社の従業員の家族が何人かその病院に勤めており、届ける前日に「明日、アルビスが食料をたくさん持ってきてくれるらしい」ということが病院内で話題になりました。すると、その病院で働く家族がいる従業員からは「そういうことができる会社に勤めていることを誇りに思う」という声が上がりました。
この出来事をきっかけに、地域社会の課題解決に取り組むことが重要だという認識が広がり、従業員の間でもその機運が高まっていると感じました。
そこで、会社として、これを方針として打ち出す必要があると考え、その時実施していた第二次中期経営計画を2年で打ち切り、新たに第三次中期経営計画を策定することにしました。
第三次中計を改めて発表する際に、地域社会の課題解決の取り組みをまとめる専任の部署が必要と判断し、先に申し上げたように経営企画部の中に現在のブランド推進部を設置しました。専門部署を設置することで、今までさまざまな部署でバラバラに行っていた活動が集約され、継続的に活動を行うことができるようになり、さらに多様な展開を進めるための社内体制が整いました。
――コロナ禍での経験が大きな転換点になったのですね。
「つなぐアルビス」をキーワードに全員参加型で推進するサステナビリティの取り組み
――取り組みの目標設定についてはどのようにされていますか?
森さん:当社は「食を通じて地域の皆様の健康で豊かな生活に貢献します」という会社の理念に基づき、健康・地域・環境の3つの柱で取り組みを進めています。
また、第三次中期計画では、サステナビリティの目標として「つなぐアルビス」を掲げ、9のテーマに取り組むことを宣言しました。これが現在の取り組みの骨格となっており、第四次中期経営計画でさらに1項目が追加され、現在は10のテーマになっています。
それぞれのテーマは、SDGsの17の目標に関連付けられており、その内容を全店舗に掲示し、お客様にもご覧いただけるようにしています。

森さん:第三次中期計画で「事業を通じた地域社会の課題解決」が重点項目として取り上げられた時、私たちの部署では「つなぐアルビス」というコミュニケーションメッセージを基に、対外的にも社内にもさまざまな取り組みを展開していこうと決めました。
例えば、お客様や従業員に会社の活動を知ってもらうために、お店に上述の目標を示したボードを設置しました。
同時に、この「つなぐアルビス」というワードを掲げることで、社員一人ひとりが何をすべきかを考える仕組みを作りたいと考えました。そこで、第三次中期計画の取り組みとして、全社員が地域とのつながりを豊かにする「つなぐアルビス」活動に取り組むことを宣言し、その内容を名札に記載して身に着けました。全員が同じことをする必要はなく、それぞれができることを考え、それをお客様や同僚に見てもらうことで、自分の目標を明確にすることを目指しました。

(出所:アルビス提供)
森さん:社員の中には、毎年目標を達成したら次の目標に変える人や、本社からお店に異動した際には、新しくお店でどう「つなぐ」取り組みを進めていくかを考える社員もいます。また、わかりやすいように黒ではなくカラーの名札を使ったりと、それぞれが自分なりに表現をアレンジしながら継続して活用してくれており、私たちも嬉しいです。
――「つなぐアルビス」というキーワードを通して、会社がどのような取り組みをしているのかを知ってもらう機会を提供しつつ、社員一人ひとりにも自分が取り組むことを宣言してもらうということですね。
森さん:そうですね。中計で掲げた目標の中で、「事業を通じた地域社会の課題解決」だけが全く新しいテーマであり、多くの社員が具体的に何をするのか分からなかったと思います。そのため、身近なところからスタートすることで、みんなが関わりやすくなるのではないかと考え、名札に書いて宣言するという形で進めることにしました。店舗の社員を担当する販売部のスタッフと相談し、お客様にとって見やすく、私たち自身にとっても表現しやすい形を模索した結果、この形式に至りました。
さらに、昨年からは、店長が従業員と共に地域に貢献する取り組みを考え実行しています。具体的には、店舗の目標に「毎年何か必ず一つ地域に役立つことを行う」という項目を追加しました。
すると、例えば、地域の草むしりに参加したり、店舗のイートインスペースを利用してセミナーを開催したり、地域のゴミ拾いをするなどの活動が行われるようになりました。このような活動に従業員が直接関わることで理解が深まり、地域の人たちから「ありがとう」や「助かった」と感謝されることが励みにもなります。今年も引き続き取り組みを続けています。
SDGsやサステナビリティについては、何をすればよいのか分かりづらい部分もあります。しかし、具体的な取り組みを進める過程で、みんなが少しずつ理解を深めたり、積極的に参加しようという意識が高まったりするなど、意識改革につながっていると感じています。最初の1年間は、担当部署が中心となって取り組みを仕掛けていく導入期でしたが、それ以降、お客様に直接関わるお店のスタッフ自身が自主的に行動しようとする意識や行動の改善にも繋がってきていると感じています。
例えば、当社のフードドライブ活動は本社と店舗のスタッフが連携して行っています。レジ担当者が業務の合間に2時間だけ参加するなど、少しずつ関わってくれています。また、逆に、お店の方から私たちに対して「この団体と一緒にやりたい」という提案が出ることもありました。
池田さん:また、お店に常設のフードドライブを設置する際には、行政やフードドライブを受け取る団体の責任者とともに、必ず店長も参加させています。本社だけで取り組んでいても限界があるため、こうしたイベントを通じて、店舗の店長や関係者が一緒に参加し、フードドライブに対する認識を深め、地域の人たちと会話をすることが重要です。細かいことですが、こうした取り組みが、自分も参加しているという意識の醸成につながっています。
森さん:フードドライブは、店長や店舗の従業員と地域の方々が関わるきっかけになっていると思います。そこでの会話を通して、地域の悩みや「こんなことができる」「こんなことをやりたい」といった、「地域の声」が聞こえてくるようになりました。そこから新しい取り組みが始まったという事例もあります。
――考えるきっかけや何かを始める機会があると、それが次の行動へのインセンティブになりますね。その最初のきっかけを意図的に作っているということでしょうか。
森さん:そうですね。結果的にそうなったという感じですが、私たちがいろいろな場所に蒔いてきた種が、さまざまな形で芽を出してきたことに嬉しさを感じています。
――取り組みが自走し始めたのですね。いい流れですね。
💡中編では、フードドライブ活動や、3R+Renewableを推進する環境の取り組み、お客様とともに環境について考える取り組みなどについてご紹介します。
サステナビリティ取り組み企業の紹介 その他の記事はこちら
#サステナビリティ #事例 #食品スーパー #アルビス #サステナビリティ推進体制 #つなぐアルビス #SDGs #地域貢献 #社会課題解決 #流通 #サステナビリティ経営 #流通経済研究所