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幸せについての学問 「ウェルビーイング学」とは!? 武蔵野大学ウェルビーイング講演会レポート&前野教授インタビュー(中編)

公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美

こんにちは。中編では、前野教授のご講演の後半について、2024年4月に設立された、世界初のウェルビーイング学部の設立の目的や詳しいカリキュラムの内容、育成したい人材像などをご紹介します。

※前編はこちら👇


講演:幸せについての学問 「ウェルビーイング学」とは!?

武蔵野大学・慶應義塾大学 教授 前野 隆司 氏

世界初 武蔵野大学ウェルビーイング学部 2024年4月発足!

資料出所:前野 隆司教授 講演資料

 ウェルビーイングを高めるための学問に取り組む人たちには、まず自分自身が幸せであることが必要です。だからこそ、私たちの学部では4年間をかけて、自分の幸せについて真剣に向き合うことを大切にしています。これって本当にお得な学部だと思うのです。なぜなら、ここで学べば、自分が世界一幸せになれるし、他の学校よりも幸せについて詳しくなれるわけです。自分の幸せを見つけることができる学部です。
 さらに、3年生や4年生になると、イノベーションや幸せな世界を作るための学問も学びます。この学びを通じて、世界の幸せに貢献できる人材になることができるのです。自分の幸せを追求しながら、同時に世界の幸せをも作り出せるというのは、とても素晴らしいことですよね。自分で言うのもなんですが、この学部のコンセプトは本当に良いものができたと感じています。
私たちのキャッチフレーズである「あなたにしかつくれない、しあわせがある。」は、二つの意味を持っています。一つは、自分の幸せを自分らしく、ありのままで見つけていくという意味。そしてもう一つは、世界のさまざまな問題、例えば環境問題や貧困問題、少子化問題に対して、あなたが解決策を見つけ、幸せな世界を作り出していくという意味です。
 この考え方は、武蔵野大学全体のビジョンでもある「世界の幸せをカタチにする。」という理念と深く結びついています。私たちのウェルビーイング学部では、具体的にこのビジョンを実現できる人材を育てていこうとしています。

 今1年生の90人と一緒に授業をやっているところなのですよね。彼らが本当に可愛らしくて、純粋で。ウェルビーイング学部を志して集まってきた学生たちなのですが、驚かされることばかりです。中には「世界平和のために働きたい」なんて大きな志を持っている学生もいれば、「まずは自分が幸せになりたい」という学生もいます。でも、共通しているのは、みんなが「ウェルビーイングについて徹底的に学びたい」という強い意志を持っていることです。全国から、そういった意識の高い学生たちが90人集まっているのです。
 今朝も、彼らの純粋さに本当に驚かされました。こちらはウェルビーイングの専門家として、「ウェルビーイングってこうだよ、こうすると幸せだよ」と教えようとしているのですが、教えるどころか、彼らの純粋さにこちらが教えられることばかりです。彼らが持っている無垢な情熱や、幸せに対する真剣な姿勢に、日々驚かされ、感動しています
 授業が始まったのが4月ですから、今でちょうど3ヶ月半ぐらい経ちました。正直に言って、ここまで学生たちから多くを学ぶことになるとは思っていませんでした。最初は、私がウェルビーイングの専門家として、彼らに多くのことを教えていくと思っていました。でも、教員全員が同じことを感じていて、実際には私たちが学んでいることが多いのです。

「ウェルビーイング」を中心に据えたカリキュラム

資料出所:前野 隆司教授 講演資料

 カリキュラムには4つの柱があります。1つ目は、今日お話ししてきたように、科学としてのウェルビーイング学を徹底的に学ぶことです。たとえば、利他的な人は幸せであることや、視野が広いと幸せ、前向きで楽観的な考えを持つと幸せ、こういったことを科学的な視点から理解していきます。今日は簡単に触れましたが、実はもっとたくさんの要素があるのです。
 私たちが大切にしているのは、これらを一つ一つ丁寧に学ぶことです。ただ「利他的だと幸せになる」ということを頭で知るだけでは、本当に幸せにはなれません。頭では理解しても、それを実際の行動に移すことが大切です。たとえば、さっきの「噴水を掃除したい」と言った学生たちのように、自然に心から行動を起こすことが重要です。利他的な行動を取ると、実際に幸せになれるということを、学びながら実践していく人材を育てたいと思っています。
 やるべきことは、シンプルなのです。利他的な人は幸せ、視野の広い人は幸せという、こうしたシンプルな事実を、皆で話し合いながら深く学んでいきます。心理学や社会学、その他の科学的知見を基に、幸せとは何かということを基礎から学んでいく。これが1つ目の柱です。

 2つ目の柱は「思想・宗教的なウェルビーイング学」を、建学の精神に基づいて学ぶということです。正直、この発想は私自身には元々ありませんでした。私は科学者として、幸せを科学的に研究してきた人間ですから。しかし、武蔵野大学の西本学長が僧侶であり、お坊さんとしての仏教の基本精神を持っていることが、この柱を形作る重要な要素になりました。
 仏教の基本精神というのは、「世界の生きとし生けるものが幸せでありますように」という考え方です。また、この大学を始めた高楠先生は、100年前に女子教育の重要性を唱えて、この学校を創立しました。仏教は単なる宗教ではなく、人格形成を重視する思想でもあります。人格を磨くというのは、視野を広く持ち、チャレンジ精神を持って、正しいことを勇気を持って実行する。これは、まさにウェルビーイングな人間像です。
 「ウェルビーイングな人を育てる」という理念は学校法人武蔵野大学の前身である武蔵野女子学院が誕生した100年前から根付いているものであり、生きとし生けるもの全ての幸せを願う人材を育てるという点で、ウェルビーイング学部の設立にも深い意味があります。この考え方が、西本学長と私が意気投合した理由の一つでもあります。
 この2つ目の柱では、仏教をはじめとした東洋の哲学だけでなく、西洋の哲学も学びます。例えば、アリストテレスの時代から「幸せとは何か」というテーマは長い歴史を持つ学問です。仏教やアリストテレスの教えなど、人類の何千年にもわたる知恵や英知を通じて、幸せの本質を学びます。

 3つ目の柱は「感性的ウェルビーイング学」です。これは、ウェルビーイングの専門家は、ウェルビーイングを自ら体現することが求められる、という考えに基づいています。法律の専門家が法律そのものになる必要はありませんが、ウェルビーイングの専門家は、ウェルビーイングそのものになる必要があると私は思います。
 たとえば、もし利他的だと幸せと言いながら、実際には自分勝手な人がいたら、その人から「利他性」や「幸せ」を学びたいとは思わないですよね。やはり、ウェルビーイングの専門家は、利他的で視野が広く、実際に行動できる人であるべきです。汚れた噴水があれば、自ら進んで掃除するような人こそが、真のウェルビーイングの専門家と言えるでしょう。
 今年の1年生の1学期には、畑の授業を行いました。今後は、畑作業に限らず、対話や地方への訪問、企業や福祉施設への訪問、さらにはスウェーデンやハワイといった海外への研修も予定しています。世界中には、ウェルビーイングを実現するために尽力している人々がいます。彼らと直接触れ合いながら、ウェルビーイングの世界を作るためにはどうすればいいかを感性的に学ぶことが、この3つ目の柱の目的です。

 4つ目の柱であり、最後に重要なのは、やはりイノベーションなのです。ウェルビーイングな人間になること自体は素晴らしいことですが、それだけでは世の中を変えることはできません。例えば、地域づくりを考えるときに、どうやったら地域全体がもっと利他的になれるのか、図書館と病院をどう連携させるかといった新しいアイデアが必要です。つまり、私たちには、世の中をより良くするための新しいアイデアを生み出し、それを実現していくことが求められているのです。
 そのために、イノベーションを生み出す教育をウェルビーイング学部では重視しています。例えば、学生が企業に入れば、ウェルビーイングな製品やサービスを開発したり、職場環境を改善したりすることができるでしょう。また、自治体で地域づくりに取り組むことで、住民全体のウェルビーイングを高める政策を提案することができます。さらには、起業家となり、新しいウェルビーイングのための製品やサービスを提供することで、社会に貢献できる場面も増えていくでしょう。
 このような新しい仕事の創出は、まさに今がタイミングとしても絶好の時期だと感じます。AIの進化によって、今後世界中の仕事の半分がAIに置き換わると言われていますが、その一方で、同じくらい新しい仕事が生まれるとも予測されています。その新しい仕事というのは、これまでのような自分勝手な資本主義型ではなく、世界全体に貢献し、ウェルビーイングを促進する仕事になると考えています。
 私たちの学生たちは、これからの時代に求められるウェルビーイングを支えるビジネスモデルやサービスを提案し、起業していくでしょう。もしこの学びを通じて、GAFAのような巨大企業に負けないくらいの新しいビジネスやサービスが次々と生まれれば、素晴らしい未来が待っていると思います。もちろん、簡単なことではないですが、ウェルビーイングのアイデアから生まれるイノベーションが、これからの社会にどれだけの影響を与えるかは、計り知れません。

💡後編では、前野教授への直接インタビューでうかがった内容について、ウェルビーイング学部設立の経緯や今後の展望、前野教授ご自身の研究や企業との取り組みについての最新動向などをご紹介します。

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