自由に生きていくためには③
オーストラリアに住む会計士が
『自由に生きていくためにどうしていけばよいか』
について書いていきます。
前回までは自由に生きていくためには、自身で事業を行うことが近道で、
そのためにはファイナンシャルリテラシーを身につけることが重要、
というお話を自身の体験も含めてお伝えしました。
今回はもう少し内容を突っ込んで、
事業においてファイナンシャルリテラシーを
具体的にどういうところに着目すべきか
についてお話ししようと思います。
事業を進めていく初期段階でファイナンシャルリテラシーを身につけるには2つの重要なポイントがあります。
それは資金繰りと納税です。
1.資金繰り
自分の事業の資金繰りをコントロールできないと、
あっという間に生活できなくなるだけでなく、
最悪の場合は自己破産まで追い込まれてしまう可能性すらあります。
もちろん支出を上回る収入が入ってくれば
全く問題ないのかもしれませんが、
以下のような原因があると
キャッシュフローが一気に悪くなることもあります。
1)独立時に設備投資に資金をかけ過ぎて回収できない。
例えばアナログの店舗をいきなり出す場合、
出店費用は保証金、前家賃、内装費、機械設備、商品在庫などだけでなく、従業員を雇う場合の採用費、広告費用など多岐の費用が必要です。
2)独立時に自己資金が足りずに借入金で設備投資をしてスタートし、
利益が出ても自身の生活費、借入金返済まで資金が回らない
3)独立時に自分のところに来てくれるはずのクライアントが来てくれない
4)売れると思って仕入れた大量の在庫が売れない
5)売れても着金のタイミングが遅い場合、資金ショートする
6)儲かっているからとビジネスに直接関係のない
飲食代や高級車両などに資金をまわしてしまい、
資金が回らなくなってしまう
7)突然現れた競争相手にごっそり顧客を持っていかれる
8)技術やコロナなど環境変化に対して対応できずにじり貧になる
9)社員が独立して自分の顧客を持っていく
10)クレーム対応がうまくいかず、商品やサービスが売れなくなる。
11)大口の売掛先が倒産し回収できない。
12) 期が終わり締めてみたら思った以上に利益が上がり、
納税でごっそり持っていかれる。
13)突然の税務調査で指摘を受け本税だけでなく
附帯税も含めて相応の納税をすることになる
14)決算前の節税のためにかなりのキャッシュアウトを伴う
節税商品に手を出してしまう。
事業を進めていくと必ず問題が発生します。
上に上げた例以外にもいろんなケースが発生する可能性があります。
あらかじめ資金繰りをしっかりコントロールできていれば、
一時的に資金繰りが落ち込んでも復活は可能かもしれません。
また事前に資金繰りの悪化を察知できれば、
早めに動いて資金手当てをすることも可能でしょう。
しかし、資金繰りがザルの状態になっていると、
どこかのタイミングで必ず資金繰りでトラブルを起こす可能性が高いです。
資金繰りが悪くなると経営者の仕事の半分以上が資金繰り対応になります。それまで月次で見ていた資金繰りを日次で見なければいけなくなったりするので、クリエイティブな仕事をやる時間もないしネガティブになり
考える気力も無くなります。
また金融機関からの借入金によって事業を拡大して成長しようとする場合、最終的には借入金を返済していかなければいけません。
借入金の返済資金は基本的には利益です
(正確には利益+減価償却費です)。
利益が出ていないと借入金を返済することはできません。
借入実行当初は据え置き期間があり金利の支払いのみで一定期間無事にすごすことができても、元本部分の返済が始まるとかなりしんどいという企業が多いのではないでしょうか?
しかもこの元本部分の返済は負債の返済に過ぎないので
お金の支出があっても経費にはなりません。
ですので例えばキャッシュフローがマイナスでも税金はしっかりかかる、
ということもありますので要注意です。
もし返済が厳しくなれば、一時的に返済を金利のみにしていただいたり、
借換えを実行することも可能かもしれませんが、
これも事業の状況次第という側面もあります。
現在は金利は上昇局面にあり、
特に変動金利で借り入れている場合は注意が必要かと思います。
また個人保証の問題があります。
ほとんどの金融機関からの借入において、
個人保証を付けていることが多いと思います。
もし法人が支払えない場合、個人の財産を押さえられたりするわけです。
法人の資金繰りが厳しい場合、
個人の預貯金は法人に貸付しているような場合も多いとは思いますが、
それでも回らなければ自宅の差し押さえまで行く可能性もあります。
特に事業が一定規模になり安定するまでは、資金繰りは非常に重要です。
ご自身の事業のキャッシュフローがどうなっているのかを分析し、
今後どうなっていくのかを予測することは、
特に中小企業の経営にとっては外せないポイントではないかと思います。
経営者や事業家はここから逃げずに
しっかりコントロールしてほしいと思います。
2.納税
資金繰りに大きな影響を及ぼすのが納税です。
納税は毎月発生するものもありますが、1年に1回あるいは半年や3カ月ごとに1回と不定期なキャッシュアウトとなるので、予め計画しておかないと納税で一気にキャッシュポジションが悪くなることもあります。
納税額は利益額に影響を受けますので、納税予測を資金繰りに反映するためには利益をある程度予測することが大事です。結果、資金繰りと納税は密接な関係があるということになります。
1)納税に関しては、まず最低限の知識を持つことが必要です。
① どういった税金の種類があり、ご自身の事業にどういう税金がかかわ
ってくるのか
② いつ納税しなければいけないのか
③ それぞれの税金は、概略としてどうやって計算するのか
④ 自身で申告できない場合、会計事務所にお願いすることになりまが、
何をいくらでお願いするのか?どういうサービスを期待できるのか?
これらをある程度は知っておかないと経営判断ができなくなります。
例えば納税予測ができれば、
いつ事業投資をすべきか?
どの程度までリスクを負えるのか?
など判断できるかもしれません。
納税予測という守りの部分がわからず攻めだけで動いてしまうと、
花が咲く前に資金が枯渇する可能性もあります。
2)税務調査
ちなみに税務調査によって、想定外のキャッシュアウトを負うこともあります。税務調査は突然来ますのでそれこそ予測することはできません。
しかし税務署から調査の電話があった場合、延期することはできても拒否することはできません。よほど普段からしっかりやっていない限りは、何らかの税金を負担することになります。
また本税とは別に附帯税と呼ばれる罰金的な意味合いのものも課され、
その金額は本税の半分くらいにまで達することもあるでしょう。
しかも支払っても経費にもなりません。
踏んだり蹴ったりですが、こういったことも事業では起こりうることであり、結果として資金繰りが悪化することもありますので注意が必要です。
附帯税は本来払わなくてもよかった税金ですから、
リスキーな節税に手を出して否認されるより、しっかり払うべきものを払うという考え方で内部留保を高めた方がよいのではと考えます。
私は1つ目の会社のあと外資系の監査法人に入ったのですが、
監査法人が相手にするクライアントは規模が大きく、
資金繰りや納税などを気にする規模の会社はなかったと思います。
中には12桁の電卓ではたたけない会社もありました。
クライアント先にうかがうと、経理の人の中に自分よりも大先輩の会計士がいたりしましたし、マニアックな技法で数字をおもちゃのように扱かっていくことに、少し違和感も覚えました。
しっかり仕事をするとかえってクライアントからは嫌われるようにも感じ、自分が仕事をすればするほどクライアントから喜ばれるような仕事がしたいと思っていました。
結果、3つ目の会社で中小企業のクライアントさんと向かい合うことになりましたが、これは本当にいい経験をさせていただいたと思います。
ここでは実業の実態がよく見えましたし、社長さんや現場の方とダイレクトにたくさんお話をさせていただいた結果、数字がしっかり見えるようになっていろんな提案もできるようになったと思います。
中小企業の課題は、個別にはいろいろありますが、
どんな企業であってもまず資金繰りと納税をしっかりコントロールしていくことが非常に大事、と思うようになったはこの時の経験からです。
この守りの部分を身につけた上で、それぞれの事業領域においてマーケティング、仕組み化などを進めていただければと強く願っています。