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大人の「現代文」129……『檸檬』20主人公の「反撃」
檸檬とは何じゃ
さて、勇躍訪れた丸善で、改めて、「ちょっといけない」「焦燥とも嫌悪」ともつかない、「えたいの知れない不吉な塊」ー要は「西洋美」に翻弄されている、自分の「憂鬱な」現状を思い知らされた主人公、今回は、なんとも心強い「味方」を引き連れていたことを思い出します。
レモンならぬ「檸檬」です。引用しましょう。
「あ、そうだそうだ。」そのとき私は袂の中の檸檬を憶い出した。本
の色彩をゴチャゴチャに積み上げて、一度この檸檬で試してみたら。
「そうだ。」
私にまた先ほどの軽やかな興奮が帰ってきた。私は手当たり次第に積
み上げ、また慌ただしく潰し、また慌ただしく築き上げた。新しく引
き抜いてつけ加えたり、取り去ったりした。奇怪な幻想的な城が、そ
のたびに赤くなったり青くなったりした。
やっとそれはでき上がった。そして軽く跳り上がる心を制しながら、
その城壁に恐る恐る檸檬を据えつけた。そしてそれは上出来だった。
「上出来」とは何でしょうか?
見渡すと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の諧調をひっそりと
紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。
私は埃っぽい丸善の中の空気が、その檸檬の周囲だけ変に緊張してい
るような気がした。私はしばらくそれを眺めていた。
檸檬の「レモンイエロウの」色彩が、いま彼が目の前に「ゴチャゴチャ」に積み上げた、日頃彼を魅了していた橙色のアングルの重い本をはじめとする西洋絵画の「ガチャガチャ」した色彩、を紡錘形の身体に「吸収」してしまったのです。
レモンイエロウの「単純な色」が、「ゴチャゴチャ」積み上げられた西洋美術の画本の「ガチャガチャ」した色彩を「吸収」しちゃったのです。
すごいじゃないですか。これは勝利じゃないですか?「吸収」すなわち「呑み込んでしまった」わけですから。ーでもそうするとレモンイエロウの檸檬の正体って何なんですかね。
「日本」じゃないですか?
で、この結末はどうなるか。本文の最終章を次回に確かめましょう。