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大人の「現代文」16……『舞姫』について、スタートです。


豊太郎という人物


 いきなり、『舞姫』のポイントについて言っても思い出せませんよね。失礼しました。もうお忘れになってしまった大人の方にむけてちょっと最初からあらすじをお話ししましょう。

 まず主人公は太田豊太郎という若者です。一人っ子で父を早く亡くしたため、母親は亡き夫の遺訓を胸にこの少年に厳しい家庭教育を施しますが、少年豊太郞は母の期待に応えるべく、一心不乱に勉学に励みます。そして常に一番、東大でもトップを維持し、空前の秀才の誉れ高く、なんと19歳で大学を卒業してしまいます。え??学校制度がいまとは違うので、「超飛び級」可能だったわけですが、これ実際の鷗外の人生そのままです。

 自信満々の彼は、予定通り国家に尽くすべく、某省に入省し(末は博士か大臣かというやつです)、母親を故郷より呼び迎え、得意の日々を送ります。そして三年ほどたったある日のこと、上司の覚えめでたい彼に、晴れて洋行、すなわちドイツ留学の官命が下ります。まさに順風満帆たる人生を歩み始めたのですが、この僥倖が皮肉にも彼の運命を大きく変えることになりました。留学の地ベルリンで、彼の運命は暗転いたします。

 お話自体は、ベルリンで大きな挫折を経た豊太郞が、帰国の途サイゴンの港に寄港したときに、ふとベルリンの生活と挫折を振り返って、このお話を書き始めたという体裁をとっており、書き出しが有名な「石炭をばはや積み果てつ」という重々しい書き出しなので、覚えている方もいらっしゃるのではないですか?

 実際22歳でベルリンに行った時は、「よーし一丁やったる」と意気込んでいたわけですが、その意気込みとは裏腹に、彼は、自分の在り方に根本的な反省を強いられることになります。いわゆる「自我の目覚め」というやつです。いままでの自分の生き方が、本当に自分のありかたとして良かったのかという大根本的な疑問に囚われたわけです。  

 といっても、こんな心境の変化がすぐ訪れたわけではありません。ベルリンの地で「自由」なる学風に触れたためか、三年間の間に彼の心は徐々に徐々に、学問の根本に触れ、合わせて、自己の根本に目を向けるようになったというわけです。

続く

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