大人の「現代文]21……『舞姫』豊太郞の一目惚れ
あらすじ4
さて豊太郞のホントのドラマが始まります。「僕って今までの僕でいいのか?」という「自我の目覚め」に悶々とする豊太郞の前に、一人の美しい踊り子が登場します。エリスです。
といっても、普通の男女の出会いといったものではありません。物語ですから、それはそれなりに、劇的な出会いではありました。まあ当時としては十分あり得るシチュエーションかとは思うのですが。
豊太郞のアパートは、大通りからちょっと裏通りに入ったところにありましたが、すぐそばに古刹(教会)があり、彼はそのたたずまいにうっとりと見入ることを日課としていたのです。ですが、その日はそんな彼の日課も吹っ飛んでしまったのでした。
その寺門にもたれて声を呑みつつすすりないている少女が彼の目に飛び込んできたのです。思わず立ち止まった彼の気配が相手にも伝わったのでしょう。彼女もまたハッとして豊太郞を見上げました。その瞬間……。
その彼女の「面」を見た瞬間、豊太郞はガーンと(脳天をぶち抜かれたような)一目惚れをするわけです。いいところなので原文を掲げますね。
余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。(第一学習社 現代文よ
り 以下同)
(私は詩人ではないので、それを表現することはできないんだが……)
この青く清らにて物問いたげに愁ひを含める目の、半ば露を宿せる長き
睫毛に覆われたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深き我が心の底
まで徹したるか。(同)
(彼女の青く清らかな、しかも何か物問いたげに愁いを含んだ瞳が、涙を宿した長いまつげに覆われ、私を見つめたその瞬間、なぜいつもは用心深いわたしのこころが、なぜあんなに容易に、鋭くブチ抜かれてしまったのか)
私トミも詩人ではないので、直訳調でスイマセン。ともかく彼の心は彼女の眼差しに、一瞬にして貫かれたのです。
一目惚れですね。