大人の「現代文」22……『舞姫』あらすじ6 恋の行方
始まり
要するに、この『舞姫』という小説の大きな骨格は、この豊太郞の超感動的でドラマチックな一目惚れが、どう成就し、どういう悲劇的結末に至るかを読み進めるということになるのですが、その過程で読者は、ただ単に、結末に至る過程を味わうのみならず、「なぜ、破局するのか」を深く考えさせられるわけなのです。これがこの教材が『こころ』とともに、高校文学教材で不動の王座を維持し続けてきた根本的な理由です。
でもまずは、恋の行方を「時系列的に」追ってみましょう。
豊太郞、まずは、寺門でのエリスの欷歔(すすり泣き)の理由を知ることになります。エリスは今窮地に陥っているということです。……ですが、この窮状を引き出す豊太郞の発言もなかなかです。
「どうして泣いているの?僕は、この国に誰も知り合いなんていないよ。だから、あなたが困っている理由を僕に言ってくれて、それであなたが困ることなんてないよ。だから、あなたの力になれるかもしれないから(訳を言ってみて)ね」
初対面の第一声にしては、ぐっと乗り込んでいますよね。たしかに、豊太郞の言うように「我ながら我が大胆なるにあきれたり」でしょう。でも、真実のことばですね。豊太郞の真心はエリスのこころに鋭く響きます。エリスは豊太郞の眼差しを一瞬にして捉えながら
「あなたは、きっといい人。あの人やお母さんのようにひどい人じゃないわ」と、豊太郞に反応すると同時に、彼女の窮状の「ひどい人」(原文では「むごい」です)を示唆します。もうすでに、二人の心はつながり始めます。
「お願い、私を助けて。お父さんは死んじゃったの。明日お葬式をしなければならないのにうちには全くお金がないの。なので、お母さんは、私があの人の言いなりになれと言って、いやがる私をぶつの。でも私そんな人間にになりたくない……」
察しの良い読者の皆さんには、豊太郞とともに「窮状」はほぼあきらかですよね。
しかもしかもこれ「会った瞬間の」会話だから驚きですね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?