大人の「現代文」75……『こころ』孤独からの救い
実は、私は、先生が奥さんお嬢さんに依頼した、このKへの「あたたかい面倒(治療)」は、それ自体が日本人の「思想」を考える上で、非常に重要な示唆をはらんでいると考えています。それは何かというと、Kの「道の思想」の理解しがたさはとりあえず横に置いても、Kは「思想」に埋没することで、「孤独という病」に陥っていると先生は考えているということです。その世話(治療)が、奥さんとお嬢さんの、Kに対する「あなたを見ていますよ」というあたたかい「孤独からの救済」の提示、つまり「寄り添い」ということです。人が本当に孤独を感じているとき、私は、あなたの前にいるという、あたたかい寄添いの感情に救われるということです。
で、このKの思い詰めた「思想埋没状態」を単純に「何かを思い詰めること」と言い換えると、現代のいわゆるメンタルヘルスの問題と治療の関係に広がってゆくと思いませんか?
と、一言お断りして、次回、先生の嫉妬のドラマに移りましょう。