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大人の「現代文」59……『こころ』全体のあらすじ 教科書から

一応『こころ』全体を踏まえます。


  私は、上中下 の三部構成になっている『こころ』という小説の 、「下 先生と遺書」に注目してこの小説を読解する立場ですが、これに関しては「上 先生と私」「中 先生と両親」 を焦点化する議論もあります。そこで上・中のおおよその概要については、簡単に触れておきます。皆さんの参考のために、伝統的教科書でどう説明されているか、それをそのまま引用してみましょう。(第一学習社 「現代文」からです。私の本文と紛らわしいので、「引用」と書いておきます)

  『こころ』は、「私」と名乗る青年が、「先生」と心をこめて呼ぶ人物 
  との出会いから、「先生」の自殺に至るまでの「記憶」を回想的に語る
  形式の小説で、「上 先生と私」「中 両親と私」「下 先生と遺書」
  の三部から成っている。 (引用)

  「上 先生と私」では、学生であった「私」が、鎌倉の海岸で偶然知り   
  合った「先生」の人柄と見識に心引かれ、「先生」の家に出入りし、そ 
  の奥さんとも言葉を交わすようになるいきさつが語られる。毎月ただ一   
  人で雑司ヶ谷の友人の墓に詣でることを欠かさない「先生」。恋や財産
  について感慨を込めて語りかける「先生」。その言動に潜む陰影を解き
  明かしたいと思い立った「私」は「先生の過去」に関心を向けて「先
  生」に肉薄する。「先生」は、とまどいのすえに時機が来たら話そうと
  約束する。(引用)

  「中 両親と私」では、大学を卒業して帰省した夏の「私」と「両親」 
  との交渉が語られる。病に倒れた父親が、明治天皇の崩御、乃木将軍殉
  死と相次ぐ報知に激しい動揺を見せて重体に陥ってゆくさなか、東京か
  ら「先生」の長文の手紙が届く。手紙で「先生」の自殺を知った「私」
  は父親を気遣いつつも東京に向かう。(引用)

 なお、ついでに「下 先生と遺書」の部分についてはこう書かれています。

  「下 先生と遺書」は、「先生」が綴った手紙―遺書―の全文でその青  
  春の事件の委細と、今日の自殺に至る心境が語られてある。ここに採っ
  たのは、その後半の一部である。(引用)

 で、さらに「下 先生と遺書」の省略部分が一ページ分まとめられていますが、それは長いので省略します。教科書に採られているのは「下 三十五」のKのお嬢さんへの思いを先生に告白する部分からになります。なお、教科書には私が前回解説した「倫理的教訓」は全く触れられていません。

 まあ上記のあらすじだけ読んでも、不自然な点はいろいろありますよね。そもそも出会いの「不自然性」から同性愛ではないかとか、重病の実の親爺をおきざりにして東京に行ってしまうこの人ってなんなのとか……。いろいろ突っ込み「論理」は可能と思いますが、私は、「下 先生と遺書」こそポイントという伝統的な読み方で、全く問題ないという考えです。なぜなら、そこに普遍の(不変の)日本人の倫理的な感性が語られている、と考えるからです。そして、ピュアーな生徒も正にそこに注目するからです。


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